人的資源マネジメント:意味づけする脳 (その2)

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 前回の意味づけする脳 (その1)に続いて解説します。
 

3. ココロの状態は自分で決めることができる

 
 意識を作っている脳は、身体を通じて外部で起きている事実を知るわけですから、身体の状態を作り出すことで意識をコントロールすることが可能であることがわかります。このことを示す有名な心理実験があります。この実験は、2つのグループに同じマンガを見せてその面白さを計測するというものです。1つのグループは普通にその漫画を見ます。もうひとつのグループは、鉛筆を横にくわえて同じ漫画を見ます。鉛筆をくわえると口が横に広がって自然に笑っているような表情になるのがポイントです。実験の結果、鉛筆をくわえたグループの方が面白いと感じた人が明らかに多いことがわかりました。さらに脳の活動を調べてみると、鉛筆を横にくわえた方は、ドーパミン神経という快感とか心地よさとか幸せとかを司る神経に動きがあることがわかったのです。無理に作った笑顔でも脳は影響を受けるのです。
 
 これらのことから、意識は自分でコントロールすることができることがわかります。ココロの状態は自分で決めることができるのです。環境や他人といった外部状況によってココロの状態が左右されるのは事実ですが、それで嫌な気分になったとしても、自分で自分のココロを良い方向に向けることができるのです。自分でココロの状態を決めるためには、図にあるように、脳が観察している身体の状態をコントロールするか、意味づけのやり方をコントロールすればよいのです。具体的には、言葉、表情、態度、思考によりココロをコントロールすることができるのです。
 
人的資源マネジメント
図12. ココロの状態は自分で決める
 
 実際に、ココロをコントロールするにはどうすればいいのでしょうか。 一言でいうと、ココロが気持ちよくなるカラダの状態を再現すればいいのです。いろいろな方法がありますが、名言や格言として昔から言われていることの多くは、ココロを良い状態にする知恵なのです。だから、名言や格言なのでしょうけど、せっかくですから格言と一緒に、その方法をいくつか紹介します。
 
【笑顔で過ごす】
 先ほどの心理実験でも明らかです。実際、笑顔でイヤなことを考えるのは難しいですよね。笑顔は気分よく過ごすための最も効果的な方法です。格言にも、笑顔の大切さを説くものがいろいろあります。「絶望した人間に笑いを蘇らせることは、その人間を生き返らせることに他ならない」(P.F.ドラッガー)「勇気は笑いたいのだ」(ニーチェ)「一番無駄に過ごした日々は笑わなかった日である」(シャンフォール)
 
【今に生きる】
 人はいろいろな想像ができる生き物ですが、その想像力によって、過去の思いにとらわれたり、未来に惑わされたりすることも多いものです。「今」に集中するのは、とらわれたり、惑わされたりすることから目覚め、自分を取り戻すことも気分良く過ごすための秘訣です。今を大切にする格言もいろいろとあります。「過去の思い出に浸ったり、将来を待ち焦がれたりするのは心地よいことかもしれないが、今を生きることの代わりにはならない。」(トーマス・S・モンソン)「休息を求めて疲れる」(イギリスの格言)(いつか楽になろう、なろうと思っているうちに、歳をとってしまい、結局は何もできなくなるという意味)「一度だけの人生だ。だから今この時だけを考えろ。過去は及ばず、未来は知れず。死んでからのことは宗教にまかせろ。」(中村天風)
 
【感謝する】
 感謝されるとうれしいし、感謝するのもうれしいものです。どちらの場合も、幸せの感情と強く関係しているエンドルフィンという脳内物質が分泌されます。エンドルフィンはアルファ波が出るような癒しの時に脳内に分泌される物質です。感謝することは脳科学的に見ても理にかなっているのです。格言をいくつか紹介しておきましょう。「感謝は高潔な魂の証である」(イソップ)「感謝の心は最大の美徳のみならず、あらゆる他の美徳の両親なり」(キケロ)「ありがとうという言葉は、ポケットにしまってはいけません」(ユダヤの格言)
 
【信じる】
 自分を信じるのは自己肯定ということですし、他者を信じるというのは他者信頼ということです。どちらも、幸せを感じるための必須要素です。信じることで幸せを感じることができるのです。格言には次のようなものがあります。「信頼とは、一日一日のその人の履歴、人となりだと思う」(本田宗一郎)「真っ直ぐにしゃべれば光線のように心に届く」(アパッチの格言)「信じるんだ。こんなちっぽけな人間でも、やろうとする意志さえあれば、どんなことでもやれるということを。」(ゴーリキー)
 

4. ココロのスイッチ

 
 この他にも、ココロを心地良くする方法には「一生懸命」「好きを大事にする」「暖かくする」などいろいろなことがあります。頭で考えるのではなく、身体で感じることが大切です。ここで注意をひとつ。残念ながらこういうことは男性は女性よりも苦手です。さらに、技術者はより苦手な傾向があるように思います。自分の意識や論理を過信せず、体感覚や身体知を信じることが大切です。ココロの状態は自分で決めることができるのですから、冒頭で話したように、生活している中で何かネガティブな意味づけをしてしまったときでも、その意味づけをリセットすることができます。ココロのスイッチを持つことができるのです。
 
 ココロのスイッチが何かは、調子が良かったとき、気持ちが良かったとき、気分が良かったときなどを思い出して、その時のカラダの様子や、頭に浮かんでいたコトバを知ることでわかります。どんな姿勢をしていたか、どんな動きをしていたか、声のトーン、表情、呼吸はどういう状態だったのかというカラダの状態、何を考えていたか、どんな言葉を口にしていたか、というコトバを思い出してください。
 
 ここでは、多くに人に共通のココロのスイッチについて紹介しておきましょう。
 
【笑う】
 声を出して笑う。前述の「笑顔で過ごす」と同じですね。朝起きたときに声を出して笑う、大切な会議がはじまる前に声を出して笑う、イヤなことがあったら声を出して笑う。誰にとっても有効なココロのスイッチのはずです。医学的にも、笑うのは、効率的な有酸素運動だとか、ストレスが軽減されるとか、免疫力が高まるというような報告があります。
 
【呼吸】
 自分の呼吸を感じる。一番簡単な方法は、目を閉じて、身体の中に空気が入って出ていく様子を感じます。呼吸をゆっくりにするなど、特別なことをする必要はありません。単純に、意識を呼吸の様子に向けます。十分に呼吸を感じることができたら、目を開けて周りを見渡します。落ち着きたいときに有効なココロのスイッチだと実感できるはずです。
 
【かけ声】
 「よっ...
 前回の意味づけする脳 (その1)に続いて解説します。
 

3. ココロの状態は自分で決めることができる

 
 意識を作っている脳は、身体を通じて外部で起きている事実を知るわけですから、身体の状態を作り出すことで意識をコントロールすることが可能であることがわかります。このことを示す有名な心理実験があります。この実験は、2つのグループに同じマンガを見せてその面白さを計測するというものです。1つのグループは普通にその漫画を見ます。もうひとつのグループは、鉛筆を横にくわえて同じ漫画を見ます。鉛筆をくわえると口が横に広がって自然に笑っているような表情になるのがポイントです。実験の結果、鉛筆をくわえたグループの方が面白いと感じた人が明らかに多いことがわかりました。さらに脳の活動を調べてみると、鉛筆を横にくわえた方は、ドーパミン神経という快感とか心地よさとか幸せとかを司る神経に動きがあることがわかったのです。無理に作った笑顔でも脳は影響を受けるのです。
 
 これらのことから、意識は自分でコントロールすることができることがわかります。ココロの状態は自分で決めることができるのです。環境や他人といった外部状況によってココロの状態が左右されるのは事実ですが、それで嫌な気分になったとしても、自分で自分のココロを良い方向に向けることができるのです。自分でココロの状態を決めるためには、図にあるように、脳が観察している身体の状態をコントロールするか、意味づけのやり方をコントロールすればよいのです。具体的には、言葉、表情、態度、思考によりココロをコントロールすることができるのです。
 
人的資源マネジメント
図12. ココロの状態は自分で決める
 
 実際に、ココロをコントロールするにはどうすればいいのでしょうか。 一言でいうと、ココロが気持ちよくなるカラダの状態を再現すればいいのです。いろいろな方法がありますが、名言や格言として昔から言われていることの多くは、ココロを良い状態にする知恵なのです。だから、名言や格言なのでしょうけど、せっかくですから格言と一緒に、その方法をいくつか紹介します。
 
【笑顔で過ごす】
 先ほどの心理実験でも明らかです。実際、笑顔でイヤなことを考えるのは難しいですよね。笑顔は気分よく過ごすための最も効果的な方法です。格言にも、笑顔の大切さを説くものがいろいろあります。「絶望した人間に笑いを蘇らせることは、その人間を生き返らせることに他ならない」(P.F.ドラッガー)「勇気は笑いたいのだ」(ニーチェ)「一番無駄に過ごした日々は笑わなかった日である」(シャンフォール)
 
【今に生きる】
 人はいろいろな想像ができる生き物ですが、その想像力によって、過去の思いにとらわれたり、未来に惑わされたりすることも多いものです。「今」に集中するのは、とらわれたり、惑わされたりすることから目覚め、自分を取り戻すことも気分良く過ごすための秘訣です。今を大切にする格言もいろいろとあります。「過去の思い出に浸ったり、将来を待ち焦がれたりするのは心地よいことかもしれないが、今を生きることの代わりにはならない。」(トーマス・S・モンソン)「休息を求めて疲れる」(イギリスの格言)(いつか楽になろう、なろうと思っているうちに、歳をとってしまい、結局は何もできなくなるという意味)「一度だけの人生だ。だから今この時だけを考えろ。過去は及ばず、未来は知れず。死んでからのことは宗教にまかせろ。」(中村天風)
 
【感謝する】
 感謝されるとうれしいし、感謝するのもうれしいものです。どちらの場合も、幸せの感情と強く関係しているエンドルフィンという脳内物質が分泌されます。エンドルフィンはアルファ波が出るような癒しの時に脳内に分泌される物質です。感謝することは脳科学的に見ても理にかなっているのです。格言をいくつか紹介しておきましょう。「感謝は高潔な魂の証である」(イソップ)「感謝の心は最大の美徳のみならず、あらゆる他の美徳の両親なり」(キケロ)「ありがとうという言葉は、ポケットにしまってはいけません」(ユダヤの格言)
 
【信じる】
 自分を信じるのは自己肯定ということですし、他者を信じるというのは他者信頼ということです。どちらも、幸せを感じるための必須要素です。信じることで幸せを感じることができるのです。格言には次のようなものがあります。「信頼とは、一日一日のその人の履歴、人となりだと思う」(本田宗一郎)「真っ直ぐにしゃべれば光線のように心に届く」(アパッチの格言)「信じるんだ。こんなちっぽけな人間でも、やろうとする意志さえあれば、どんなことでもやれるということを。」(ゴーリキー)
 

4. ココロのスイッチ

 
 この他にも、ココロを心地良くする方法には「一生懸命」「好きを大事にする」「暖かくする」などいろいろなことがあります。頭で考えるのではなく、身体で感じることが大切です。ここで注意をひとつ。残念ながらこういうことは男性は女性よりも苦手です。さらに、技術者はより苦手な傾向があるように思います。自分の意識や論理を過信せず、体感覚や身体知を信じることが大切です。ココロの状態は自分で決めることができるのですから、冒頭で話したように、生活している中で何かネガティブな意味づけをしてしまったときでも、その意味づけをリセットすることができます。ココロのスイッチを持つことができるのです。
 
 ココロのスイッチが何かは、調子が良かったとき、気持ちが良かったとき、気分が良かったときなどを思い出して、その時のカラダの様子や、頭に浮かんでいたコトバを知ることでわかります。どんな姿勢をしていたか、どんな動きをしていたか、声のトーン、表情、呼吸はどういう状態だったのかというカラダの状態、何を考えていたか、どんな言葉を口にしていたか、というコトバを思い出してください。
 
 ここでは、多くに人に共通のココロのスイッチについて紹介しておきましょう。
 
【笑う】
 声を出して笑う。前述の「笑顔で過ごす」と同じですね。朝起きたときに声を出して笑う、大切な会議がはじまる前に声を出して笑う、イヤなことがあったら声を出して笑う。誰にとっても有効なココロのスイッチのはずです。医学的にも、笑うのは、効率的な有酸素運動だとか、ストレスが軽減されるとか、免疫力が高まるというような報告があります。
 
【呼吸】
 自分の呼吸を感じる。一番簡単な方法は、目を閉じて、身体の中に空気が入って出ていく様子を感じます。呼吸をゆっくりにするなど、特別なことをする必要はありません。単純に、意識を呼吸の様子に向けます。十分に呼吸を感じることができたら、目を開けて周りを見渡します。落ち着きたいときに有効なココロのスイッチだと実感できるはずです。
 
【かけ声】
 「よっしゃ!」「よし!」などのかけ声を身体を動かしながら繰り返す。実際に気合いを入れて、握り拳を作るなど身体を動かし、声を出します。声を出すだけという中途半端なものでは効果がありません。アニマル浜口の「気合いだ! 気合いだ! 気合いだ!」というのがかけ声だというとわかりやすいでしょうか。
 
【口癖】
 耳に入る言葉を選ぶ。「大変」「忙しい」「きつい」などが口癖になっていると、心が影響を受けて悪い状態になるのは、これまでの話から当たり前です。そもそも、状況は変わらないのですから、口に出す言葉は「大丈夫」「余裕」「やれる」などの前向きな方がいいに決まっています。しかし、口癖は自分ではわからないものです。大切なのはまず自分の口癖に気づくこと。身近な人に聞いてみてください。予想外のことをいわれても怒ってはダメですよ。笑顔を忘れずに。
 
 さて、今回はココロの状態を外部の状況任せにするのではなく、自分自身で決めることができる話でした。いかがだったでしょうか、 日常的に心がけること、良くない気分になったときに気をつけることについても紹介しましたが、すでに実行していることも多いかと思います。もっと気分良く過ごすために、さらに1つでもいいのでやっていなかったことを実行してみてください。周りの反応が変わってくることに、そして、自分の気分が変わることに気づくと思います。
 
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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