擦り合わせ型と組み合わせ型 目指すべき開発体制とは(その1)

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【目指すべき開発体制 連載目次】

 新製品開発体制には、企業規模の大小を問わず、プロジェクト型組織が向いていると考えます。日程管理には、プロジェクトマネジメントを採用すべきです。ただし、企業規模が小さい場合には、フルスペックのプロジェクトマネジメントではなく、要点を抑えた簡易型のもので良いと思います。

 開発日程の遅れは、企画段階の課題の抜け漏れ、開発テーマの一本釣りでの実行等のケースが大半でした。例えば、プロジェクトマネジメントの主要プロセスを、分かり易い言葉で列記すると次のようになります。目的と目標の明確化、WBSを用いたテーマの抜け漏れのないブレークダウン、コストと工数の見積、各実施項目どうしの連関性をチェックできるスケジュール管理、リスク対応策の立案、進捗管理、完了レビューで蓄積ノウハウを整理すること。抜け漏れに対しては、課題がメンバー同士で可視化され共有化できるチェックリストを作成することです。

 それに対しては、企画段階で、企画趣旨、現状分析、仕様、プロジェクト組織、リスク管理、スケジュール管理、投資効果とコスト管理等に対して、検討内容や手法等をリストアップしておくことです。開発テーマの一本釣りに対しては、代替案を用意して、その技術のテストピース評価ぐらいは併行して実行する仕組をつくることです。では、擦り合わせ型開発と組み合わせ型開発、目指すべきはどちらでしょうか?

 日本の多くの開発現場で、「組み合わせ型」アーキテクチャの製品を「擦り合わせ型」の仕組み(組織能力や環境)で開発するという「ねじれ」の問題を抱えています。どうやったら「ねじれ」解消ができるのかという思考になりやすいものですが、コンサルタントとして開発現場を見てきた経験から、擦り合わせ能力は日本の技術者が本来持っている能力であり、擦り合わせ能力を活かすことこそが、製品開発における他国に対する競争優位性を高める手段だと信じています。

 ただ、擦り合わせ型開発は、文字通り様々な擦り合わせが発生するため非効率な開発になりがちです。したがって、組み合わせ型開発においても、擦り合わせ能力を活かした高次元の製品開発を実現するためには、擦り合わせの非効率性を解消する仕組みが必要になります。

 ということで、今回は、擦り合わせ能力を活かしつつ、組み合わせ型開発においても効率的な開発を実現するための仕組みについて次の連載目次のように解説します。

 

【連載の目次】

1.  目指すべき開発体制とは(その1)擦り合わせ型と組み合わせ型、

2.  目指すべき開発体制とは(その2)日本企業文化を引きずっている「擦り合わせ型」

3.  目指すべき開発体制とは(その3)組み合わせ型に擦り合わせ型組織文化を適用する工夫

 

 開発における様々な業務が設計技術者に集中して、本来業務である新製品の開発に時間を割けない状況があり、解決のためには、プロフェッショナル化という考え方で開発全体の業務設計を行う必要があることをこれまでに、解説しました。製品開発業務における各々のプロフェッショナルは、自らの知識や経験を体系化してDFXツールとして設計技術者に提供することが、設計業務における協調体制構築につながります。
 
 しかしながら、実際にプロフェッショナル体制に移行するのは簡単なことではありません。 何らかの工夫が必要です。また、日本固有の組織文化を考慮することも大切なはずです。「擦り合わせ型開発」というキーワードは日本の開発スタイルが競争優位性を獲得し維持する強さの根源です。この「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」の視点で開発体制について考察します。それではまず、「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」について整理しておきましょう。「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」の違いを図1に整理しました。
 
開発体制
図1.擦り合わせ型開発と組み合わせ型開発の比較
 
 「擦り合わせ型」は垂直統合型の製品開発であり「インテグラル型」とも言います。代表的な製品は自動車です。その他にも、複写機や液晶ディスプレイなどがあります。「組み合わせ型」は水平分業型の製品開発で「モジュール型」とも言います。代表的な製品はパソコンや携帯電話です。この両者の違いを決めるのは「製品アーキテクチャ」「組織能力」「能力構築環境」の3つの要素です。次に、それぞれの要素について解説しましょう。
 
 「製品アーキテクチャ」とは開発する製品の基本設計思想です。製品の内部構造に反映されます。「擦り合わせ型」の場合は、部品や機能ブロックの仕様を相互に調整し、製品ごとに最適設計を行うことで高い性能を実現します。「組み合わせ型」の場合は、インタフェースが標準化された部品や機能ブロックを使い、これらの組み合わせ方法で製品としての魅力的な機能や性能を実現します。
 
 「組織能力」とは重視される技術者個人の能力で、その組織に所属していることで技術者が身...
 

【目指すべき開発体制 連載目次】

 新製品開発体制には、企業規模の大小を問わず、プロジェクト型組織が向いていると考えます。日程管理には、プロジェクトマネジメントを採用すべきです。ただし、企業規模が小さい場合には、フルスペックのプロジェクトマネジメントではなく、要点を抑えた簡易型のもので良いと思います。

 開発日程の遅れは、企画段階の課題の抜け漏れ、開発テーマの一本釣りでの実行等のケースが大半でした。例えば、プロジェクトマネジメントの主要プロセスを、分かり易い言葉で列記すると次のようになります。目的と目標の明確化、WBSを用いたテーマの抜け漏れのないブレークダウン、コストと工数の見積、各実施項目どうしの連関性をチェックできるスケジュール管理、リスク対応策の立案、進捗管理、完了レビューで蓄積ノウハウを整理すること。抜け漏れに対しては、課題がメンバー同士で可視化され共有化できるチェックリストを作成することです。

 それに対しては、企画段階で、企画趣旨、現状分析、仕様、プロジェクト組織、リスク管理、スケジュール管理、投資効果とコスト管理等に対して、検討内容や手法等をリストアップしておくことです。開発テーマの一本釣りに対しては、代替案を用意して、その技術のテストピース評価ぐらいは併行して実行する仕組をつくることです。では、擦り合わせ型開発と組み合わせ型開発、目指すべきはどちらでしょうか?

 日本の多くの開発現場で、「組み合わせ型」アーキテクチャの製品を「擦り合わせ型」の仕組み(組織能力や環境)で開発するという「ねじれ」の問題を抱えています。どうやったら「ねじれ」解消ができるのかという思考になりやすいものですが、コンサルタントとして開発現場を見てきた経験から、擦り合わせ能力は日本の技術者が本来持っている能力であり、擦り合わせ能力を活かすことこそが、製品開発における他国に対する競争優位性を高める手段だと信じています。

 ただ、擦り合わせ型開発は、文字通り様々な擦り合わせが発生するため非効率な開発になりがちです。したがって、組み合わせ型開発においても、擦り合わせ能力を活かした高次元の製品開発を実現するためには、擦り合わせの非効率性を解消する仕組みが必要になります。

 ということで、今回は、擦り合わせ能力を活かしつつ、組み合わせ型開発においても効率的な開発を実現するための仕組みについて次の連載目次のように解説します。

 

【連載の目次】

1.  目指すべき開発体制とは(その1)擦り合わせ型と組み合わせ型、

2.  目指すべき開発体制とは(その2)日本企業文化を引きずっている「擦り合わせ型」

3.  目指すべき開発体制とは(その3)組み合わせ型に擦り合わせ型組織文化を適用する工夫

 

 開発における様々な業務が設計技術者に集中して、本来業務である新製品の開発に時間を割けない状況があり、解決のためには、プロフェッショナル化という考え方で開発全体の業務設計を行う必要があることをこれまでに、解説しました。製品開発業務における各々のプロフェッショナルは、自らの知識や経験を体系化してDFXツールとして設計技術者に提供することが、設計業務における協調体制構築につながります。
 
 しかしながら、実際にプロフェッショナル体制に移行するのは簡単なことではありません。 何らかの工夫が必要です。また、日本固有の組織文化を考慮することも大切なはずです。「擦り合わせ型開発」というキーワードは日本の開発スタイルが競争優位性を獲得し維持する強さの根源です。この「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」の視点で開発体制について考察します。それではまず、「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」について整理しておきましょう。「擦り合わせ型開発」と「組み合わせ型開発」の違いを図1に整理しました。
 
開発体制
図1.擦り合わせ型開発と組み合わせ型開発の比較
 
 「擦り合わせ型」は垂直統合型の製品開発であり「インテグラル型」とも言います。代表的な製品は自動車です。その他にも、複写機や液晶ディスプレイなどがあります。「組み合わせ型」は水平分業型の製品開発で「モジュール型」とも言います。代表的な製品はパソコンや携帯電話です。この両者の違いを決めるのは「製品アーキテクチャ」「組織能力」「能力構築環境」の3つの要素です。次に、それぞれの要素について解説しましょう。
 
 「製品アーキテクチャ」とは開発する製品の基本設計思想です。製品の内部構造に反映されます。「擦り合わせ型」の場合は、部品や機能ブロックの仕様を相互に調整し、製品ごとに最適設計を行うことで高い性能を実現します。「組み合わせ型」の場合は、インタフェースが標準化された部品や機能ブロックを使い、これらの組み合わせ方法で製品としての魅力的な機能や性能を実現します。
 
 「組織能力」とは重視される技術者個人の能力で、その組織に所属していることで技術者が身につけた能力と考えます。組織全体が重視しているスキルと言ってもよいでしょう。「擦り合わせ型」の場合は調整能力が重要で、そのためにコミュニケーション能力や関連領域における幅広い基礎知識も重要スキルになります。一方「組み合わせ型」の場合は、分業化された開発の各業務における専門知識や経験が重要視されます。
 
 「能力構築環境」とは前述の組織能力を作っている制度や仕組みのことです。国として企業に対してどのような制度を提供するのかが大きな要因となります。「擦り合わせ型」に必要な調整能力やコミュニケーション能力は、年功序列や終身雇用の仕組み、ローテーションによる関連部署での業務経験蓄積などにより育成されています。「組み合わせ型」の場合は、成果主義を基本とする明確な目標設定と報酬制度が、専門性向上や機動的な専門能力獲得に役立っています。
 
 このように、「擦り合わせ型」と「組み合わせ型」それぞれの開発は、製品や組織、制度などの統合的な観点から明確な違いを生じているのです。次回、その2:日本企業文化を引きずっている「擦り合わせ型」に続きます。
 
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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