
1.はじめに
前回の記事では、「但し書きに頼った寸法記入」がなぜ問題なのか、そして正しい寸法記入の基本についてお話ししました。今回はその続きとして、もう一歩踏み込んでみましょう。実際の図面をイメージしながら、「悪い図面」と「良い図面」を具体的に比べていきます。
新人設計者の方と話していると、よくこんな声を聞きます。
「ダメな図面なのは分かるんですが…どう直せばいいのか分からないんです」
とても大事な気づきです。そして、そこを乗り越えることが、設計者として一段成長するポイントでもあります。
この記事では、「なぜそれが良いのか」「なぜそれがダメなのか」を、できるだけ実務に近い形でお伝えしていきます。
2.悪い図面の典型例①:但し書きに頼った寸法記入
まずは、多くの新人がやってしまう代表例です。あるブラケットの取付穴について、こんな記述があったとします。
- 穴中心間距離:100 ±0.5
- 但し、相手部品により現物合わせとする
一見すると、寸法も公差も書かれていて、それなりに整っているように見えます。でも、この図面には大きな問題があります。
それは、「結局どこが正解なのかが分からない」という点です。
- 加工する人は、どこまで加工すればよいのか迷います。
- 検査する人も、どこまでが合格なのか判断できません。
つまりこの図面は、最終判断を現場に丸投げしている状態です。
設計者として一番避けるべきなのは、「誰が見ても同じ判断にならない図面」です。この時点で、その図面は“使える図面”とは言えません。
3.良い図面の例①:基準を明確にした寸法記入
では、同じ部品をどのように表現すればよいのでしょうか。
例えば、こう書き換えます。
- 基準面Aから穴①中心まで:50 ±0.1
- 穴①中心から穴②中心まで:100 ±0.1
ここでは、「どこから測るのか」という基準がはっきりしています。
さらに、相手部品との関係は設計段階で検討し、寸法と公差として図面に落とし込んでいます。この違いはとても大きいです。
- 加工者は迷わず加工できます。
- 検査者も同じ基準で合否判定ができます。
つまり、「誰がやっても同じ結果になる」状態です。これこそが、良い図面の基本です。設計者が責任を持って決めた内容が、そのまま図面に表れて...

1.はじめに
前回の記事では、「但し書きに頼った寸法記入」がなぜ問題なのか、そして正しい寸法記入の基本についてお話ししました。今回はその続きとして、もう一歩踏み込んでみましょう。実際の図面をイメージしながら、「悪い図面」と「良い図面」を具体的に比べていきます。
新人設計者の方と話していると、よくこんな声を聞きます。
「ダメな図面なのは分かるんですが…どう直せばいいのか分からないんです」
とても大事な気づきです。そして、そこを乗り越えることが、設計者として一段成長するポイントでもあります。
この記事では、「なぜそれが良いのか」「なぜそれがダメなのか」を、できるだけ実務に近い形でお伝えしていきます。
2.悪い図面の典型例①:但し書きに頼った寸法記入
まずは、多くの新人がやってしまう代表例です。あるブラケットの取付穴について、こんな記述があったとします。
- 穴中心間距離:100 ±0.5
- 但し、相手部品により現物合わせとする
一見すると、寸法も公差も書かれていて、それなりに整っているように見えます。でも、この図面には大きな問題があります。
それは、「結局どこが正解なのかが分からない」という点です。
- 加工する人は、どこまで加工すればよいのか迷います。
- 検査する人も、どこまでが合格なのか判断できません。
つまりこの図面は、最終判断を現場に丸投げしている状態です。
設計者として一番避けるべきなのは、「誰が見ても同じ判断にならない図面」です。この時点で、その図面は“使える図面”とは言えません。
3.良い図面の例①:基準を明確にした寸法記入
では、同じ部品をどのように表現すればよいのでしょうか。
例えば、こう書き換えます。
- 基準面Aから穴①中心まで:50 ±0.1
- 穴①中心から穴②中心まで:100 ±0.1
ここでは、「どこから測るのか」という基準がはっきりしています。
さらに、相手部品との関係は設計段階で検討し、寸法と公差として図面に落とし込んでいます。この違いはとても大きいです。
- 加工者は迷わず加工できます。
- 検査者も同じ基準で合否判定ができます。
つまり、「誰がやっても同じ結果になる」状態です。これこそが、良い図面の基本です。設計者が責任を持って決めた内容が、そのまま図面に表れているのです。
4.悪い図面の典型例②:すべてに厳しい公差を付ける
次に、これも非常によく見かける例です。
すべての寸法に一律で「±0.1」が付いている図面です。
- 全長:200 ±0.1
- 段差位置:50 ±0.1
- 穴位置:±0.1
一見すると、「しっかり管理している図面」に見えるかもしれません。ですが、実は逆です。この図面では、何が重要なのかが全く分かりません。さらに問題なのは、加工コストです。必要のない箇所まで精度を求めることで、加工時間が増え、コストも上がります。
そして、本当に重要な部分が埋もれてしまいます。「全部を厳しくすれば安心」そう思ってしまう気持ちは分かります。
でも、それは設計ではなく、“丸投げに近い状態”です。
5.良い図面の例②:重要度に応じた公差設定
では、どうすればよいのでしょうか。
ポイントは、「重要なところだけを厳しくする」ことです。
例えばこうです。
- 機能に関係する穴位置:±0.05
- 外形寸法:±0.5
- 外観だけの部分:一般公差
このように整理すると、図面から設計者の意図が伝わります。
- 「ここは大事だから注意してほしい」
- 「ここはそこまでシビアじゃなくていい」
こうしたメッセージが、自然と読み取れるようになります。
良い図面とは、単に情報が多い図面ではありません。意図が伝わる図面です。
6.悪い図面の典型例③:測れない寸法
もう一つ、重要なポイントがあります。それは「測れるかどうか」です。
例えば、斜め方向の長さや、組立後でないと測れない寸法に対して、厳しい公差が指定されているケースです。
この場合、何が起こるでしょうか。
検査できない寸法は、品質保証できないということです。どんなに立派な公差を書いても、測れなければ意味がありません。
7.良い図面の例③:測定できる寸法構成
では、どう考えればよいのでしょうか。
基本はシンプルです。
こういった「誰でも測れる寸法」で構成することです。これだけで、図面は一気に現場に優しくなります。加工者も無理なく作業でき、検査者も確実に測定できます。その結果、品質も安定します。
図面とは、現場で使われて初めて価値が出るものです。その視点を忘れないことが大切です。
8.良い図面と悪い図面の本質的な違い
ここまでの内容を、ひとことでまとめるとこうなります。
- 悪い図面は、「どう作るか」を現場に任せています。
- 良い図面は、「どう作るか」を設計者が決めています。
この違いはとてもシンプルですが、非常に本質的です。そしてこの差が、そのまま設計力の差として表れます。
9.おわりに
新人のうちは、「図面を描くこと」そのものが目的になりがちです。ですが、本当に大切なのは、図面の中で判断を完結させることです。
良い図面には共通点があります。
この3つが揃っている図面は、必ず現場で信頼されます。もし図面を描いていて迷ったときは、こう自分に問いかけてみてください。
- 「この寸法は本当に必要だろうか」
- 「この判断を現場に押し付けていないだろうか」
その一つひとつの積み重ねが、確実に設計力を高めてくれます。焦る必要はありません。一つずつ、確実に積み上げていきましょう。それが、信頼される設計者への一番の近道です。
このテーマについては、今後noteでもシリーズとして少しずつ書いていく予定です。ご興味のある方は、ぜひnoteの記事も読んでいただけるとうれしいです。

① 上段(穴位置の寸法)
NG:基準が曖昧で、穴位置がどこから決まるのか不明。現場任せになる。
OK:基準面から一方向で寸法が整理されており、位置が一意に決まる。
設計者の一言:「基準が見えない図面は、現場で迷いを生む」
② 2段目(段付き軸)
NG:全長基準や中間寸法が混在し、加工順序や基準が読み取れない。
OK:一方向の基準で整理され、段ごとの関係が明確。
設計者の一言:「寸法は“つなぐ”のではなく、“流す”」
③ 3段目(斜め形状+断面)
NG:立体イメージ頼りで、寸法と構造の関係が分かりにくい。
OK:正投影+断面で構造が明確に伝わる。
設計者の一言:「立体感よりも“伝わる構成”が優先」
④ 下段(形状+穴)
NG:斜め寸法や中途半端な指示で、位置決めが曖昧。
OK:直交基準で整理され、穴位置が確実に決まる。
設計者の一言:「斜め寸法は最後の手段。まず直交で考える」
【まとめ】
良い図面とは、“誰が見ても同じ答えになる図面”
※本記事を執筆した専門家「森内 眞」が講師のセミナー 一覧