技術プラットフォームの重要性

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【ものづくり企業のR&Dと経営機能 記事目次】

1.経営戦略とMOT

 
 MOT技術経営(MOT)は、企業、とりわけ製造系企業において、欠かせない経営の考え方です。特に、グローバル経済の進展による競争の激化、新興国の台頭による市場の多極化など、ダイナミックな環境変化の中で、継続的な企業成長を実現していくためにイノベーションの重要性が益々高まっており、技術経営を経営の戦略課題として取り組む企業が増えています。しかし、トヨタやホンダ、花王、富士フィルムなどに代表される先端的な企業は別にして、「単に研究所長の肩書きがCTO(技術統括役員:Chief Technology Officer)になっただけ」「組織体制は変わったが仕事の中身はほとんど変わっていない」「現場のミドルマネジャー及び技術者、研究者は、技術経営についてほとんど理解していない」など、多くの企業において、技術経営が十分機能していないことも現実です。
 
 技術経営は、その定義や範囲が曖昧な部分も多くあります。そこで、改めて、定義や考え方を始めに解説していきます。(私は、それらの考え方を『技術イノベーションマネジメント(Technology Innovation Management)』と呼んでいまが、ここでは技術経営(MOT)として説明します。多少、一般的な技術経営(MOT)とは異なる部分があるかもしれません。)
 
  私は、技術経営(MOT)を、「企業の経営資源である“技術”を経営戦略の中核に位置づけ、その獲得・強化・活用を戦略的に行うことにより、継続的な企業の成長と進化を実現すること」と定義しています。この定義からもわかるように、技術経営は、決して技術部門や研究開発部門だけの課題ではなく、経営戦略としての課題です。
 
 技術戦略を実際に取り組んでいく上で、まず最初にぶつかる重要な課題は、”自社の強みとなる技術をどう定義するか”です。一般に技術というと、要素技術を思い浮かべがちです。要素技術とは、商品を構成する個々の科学技術のことであり、商品を設計する、評価・分析する、製造するといった、ものづくりに必要な技術的な方法や科学的な知識と理解できます。実際のコンサルティング現場において、「あなたの会社はどんな技術を持っていますか?」と問いかけると、「画像処理技術です」「圧力をセンシングする技術です」「金属表面の微細加工技術です」「有機化合物の物性分析の技術です」などといった答えが返ってくることがほとんどです。確かに、これらは会社の持つ重要な技術なのですが、技術経営を実践する上では、もう少し広く技術を捉えることが必要になります。
 

2.技術プラットフォームとは

 
 個々の要素技術に加えて、技術を用いて問題解決できるノウハウやスキル(技術活用スキル)、組織のメンバーが連携し合ってスピーディーに仕事を進める力、あるいは社外と連携したプロジェクトをうまく運営する力など(組織運営スキル)を含めて技術を捉えることが重要です。私は、要素技術、技術活用スキル、組織運営スキルをセットとして”技術プラットフォーム”と呼んでいます(もしくは、コア技術と呼ぶ場合もあります)。要素技術としては、他社と同等なものしか持っていなくても、それを使いこなすスキルや、組織運営力が優れていることで独自能力、すなわちコアコンピタンスとなっている例は数多くあります。
 
  例えば、ある化学素材メーカーA社は、要素技術としては、特に独自性はないのですが、要素技術を用いて顧客の要望を実現する問題解決力が圧倒的に優れていることで、市場において強いポジションを持っています。A社の強みは、顧客の要望を正確に理解し、さらにその先を提案できる技術提案力であり、新しい化学反応をデザインし、実験をとおして技術として確立できる開発力です。そして、A社は、この独自能力を継続的に高めるために、営業・研究開発・技術サービスの3者が一体となって顧客への問題解決に取り組む組織プロセスに磨きをかけると同時に、研究開発を含めてすべての社員が常に「顧客のメリットは何か」を...

【ものづくり企業のR&Dと経営機能 記事目次】

1.経営戦略とMOT

 
 MOT技術経営(MOT)は、企業、とりわけ製造系企業において、欠かせない経営の考え方です。特に、グローバル経済の進展による競争の激化、新興国の台頭による市場の多極化など、ダイナミックな環境変化の中で、継続的な企業成長を実現していくためにイノベーションの重要性が益々高まっており、技術経営を経営の戦略課題として取り組む企業が増えています。しかし、トヨタやホンダ、花王、富士フィルムなどに代表される先端的な企業は別にして、「単に研究所長の肩書きがCTO(技術統括役員:Chief Technology Officer)になっただけ」「組織体制は変わったが仕事の中身はほとんど変わっていない」「現場のミドルマネジャー及び技術者、研究者は、技術経営についてほとんど理解していない」など、多くの企業において、技術経営が十分機能していないことも現実です。
 
 技術経営は、その定義や範囲が曖昧な部分も多くあります。そこで、改めて、定義や考え方を始めに解説していきます。(私は、それらの考え方を『技術イノベーションマネジメント(Technology Innovation Management)』と呼んでいまが、ここでは技術経営(MOT)として説明します。多少、一般的な技術経営(MOT)とは異なる部分があるかもしれません。)
 
  私は、技術経営(MOT)を、「企業の経営資源である“技術”を経営戦略の中核に位置づけ、その獲得・強化・活用を戦略的に行うことにより、継続的な企業の成長と進化を実現すること」と定義しています。この定義からもわかるように、技術経営は、決して技術部門や研究開発部門だけの課題ではなく、経営戦略としての課題です。
 
 技術戦略を実際に取り組んでいく上で、まず最初にぶつかる重要な課題は、”自社の強みとなる技術をどう定義するか”です。一般に技術というと、要素技術を思い浮かべがちです。要素技術とは、商品を構成する個々の科学技術のことであり、商品を設計する、評価・分析する、製造するといった、ものづくりに必要な技術的な方法や科学的な知識と理解できます。実際のコンサルティング現場において、「あなたの会社はどんな技術を持っていますか?」と問いかけると、「画像処理技術です」「圧力をセンシングする技術です」「金属表面の微細加工技術です」「有機化合物の物性分析の技術です」などといった答えが返ってくることがほとんどです。確かに、これらは会社の持つ重要な技術なのですが、技術経営を実践する上では、もう少し広く技術を捉えることが必要になります。
 

2.技術プラットフォームとは

 
 個々の要素技術に加えて、技術を用いて問題解決できるノウハウやスキル(技術活用スキル)、組織のメンバーが連携し合ってスピーディーに仕事を進める力、あるいは社外と連携したプロジェクトをうまく運営する力など(組織運営スキル)を含めて技術を捉えることが重要です。私は、要素技術、技術活用スキル、組織運営スキルをセットとして”技術プラットフォーム”と呼んでいます(もしくは、コア技術と呼ぶ場合もあります)。要素技術としては、他社と同等なものしか持っていなくても、それを使いこなすスキルや、組織運営力が優れていることで独自能力、すなわちコアコンピタンスとなっている例は数多くあります。
 
  例えば、ある化学素材メーカーA社は、要素技術としては、特に独自性はないのですが、要素技術を用いて顧客の要望を実現する問題解決力が圧倒的に優れていることで、市場において強いポジションを持っています。A社の強みは、顧客の要望を正確に理解し、さらにその先を提案できる技術提案力であり、新しい化学反応をデザインし、実験をとおして技術として確立できる開発力です。そして、A社は、この独自能力を継続的に高めるために、営業・研究開発・技術サービスの3者が一体となって顧客への問題解決に取り組む組織プロセスに磨きをかけると同時に、研究開発を含めてすべての社員が常に「顧客のメリットは何か」を考えて仕事をすることに取り組んでいます。
 
  繰り返しになりますが、自社の強み技術を定義するためには、個々の要素技術だけに目を奪われず、技術プラットフォームという次元で考えることが重要です。いきなり「うちの会社はどんな要素技術を持っているのかな」と考えても、自社の真の強み技術は定義できません。「うちの事業や商品・サービスには、どのような優位性があるのだろうか」「どのように顧客に価値を提供しているのだろうか」と考え、その強みを技術プラットフォームとして定義すること。その上で、技術プラットフォームをさらに要素技術、技術活用スキル、組織運営スキルに分解し、どこに独自性の源泉があるのかを考察することにより、強み技術は何かを具体化することができます。
 
 

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この記事の著者

平木 肇

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。


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