技術高度化の5戦略

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【ものづくり企業のR&Dと経営機能 記事目次】

  MOT今回は、技術経営の3つの要件における第3の要件「企業成長の中軸である技術を高めるために継続的な投資を行っていること」をテーマに解説したいと思います。前回の「技術経営を考える」の中で、第3の要件の重要なキーワードである”技術を高める”には、以下の4つの意味があることを簡単に触れました。
 
    1.  技術機能を高度化すること
    2.  技術を共有化し、組織の知として伝える
               こと(技術の標準化や計画的継続的な人材育成) 
    3.技術を他の商品に積極的に応用すること
    4.技術機能を発現するメカニズムを研究・解明すること
 
  上記のなかの1番目にある「技術機能を高度化すること」にフォーカスして解説します。個々の技術は、何らかの目的(もしくは目的機能という場合もあります)を達成するために存在します。そして、目的を達成するために、インプットとなる何らかのエネルギーを、アウトプットに変換するための機能(製品の機能と区別するために、ここでは技術機能と呼びます)を有しています。
 

1.技術方式とは

 
 この技術機能を実現するためにいくつかの方法が存在します。これらを技術方式と呼びます。すなわち、技術の基本的構造は、「目的」-「技術機能」-「技術方式」の3階層で表現することができます。技術機能を実現するための技術方式は一つとは限りません。いつくかの方式が存在し、その都度目的に合わせて必要なものを選択することになります。
 
 電球を例に考えてみましょう。電球は、周囲を明るくする(目的)ために、電気エネルギー(インプット)を光エネルギー(アウトプット)に変換する機能(技術機能)を有しています。ちなみに、蛍光灯では、電気エネルギーを光エネルギーに変換するために、ガラス管内に高電圧をかけて電子を放出させ、水銀原子と衝突させることで発生させた紫外線を用いて蛍光物質を発光させています(蛍光灯の技術方式)。
 
 これに対して、最近省エネルギーの観点から急速に普及しているLEDは、PN接合により構成された半導体チップに、電流を流すことにより生じる電子と正孔の再結合による生じる光エネルギーを利用しています。(さらに、LED電球は、青色LEDから生じた光を蛍光物質に当てて白色光を取り出しています)すなわち、蛍光灯とLEDでは、電気エネルギーを光エネルギーに変換する機能を実現するための技術方式が全く異なるのです。
 

2.技術を高度化するための戦略

 
 技術の持つ基本的構造について簡単にお話ししましたので、次に「技術機能を高度化する」ための戦略について触れたいと思います。当然ですが、技術機能を高度化するために、どのような戦略を選択し実行するかは、それぞれの会社の事業戦略と整合していることが重要です。すなわち、技術機能の高度化は、最も重要な戦略的意思決定の一つであると言えます。では、技術機能の高度化するために、どのような戦略があるのでしょうか?ここでは、5つの考え方を紹介したいと思います。
 
    ① 新しい技術方式への転換
    ② 既存技術と新たな技術の融合
    ③ 周辺の技術方式の取り込み・拡大
    ④ 上位の目的と起点とした技術の取り込み
    ⑤ コアとなる技術の内製化
 

① 新たな技術方式への転換

 
  既存の技術方式に変えて、新しい技術方式を導入することで技術機能を飛躍的に高める戦略です。先ほどのLED方式は、電球において現在進んでいる技術方式の転換であると言えます。また、現在研究されているプリンテッド・エレクトロニクスも、新技術方式への転換の例だと言えるでしょう。プリンテッド・エネクトロニクスは、従来フォトリソグラフィを用いて作成していたLSI上の電子回路を印刷技術を用いて行うもので、LSIの低コスト化だけでなく、フレキシブルな基材の上にLSI回路を作ることを可能にするという挑戦的な技術方式です。新しい技術方式の導入は、多くの投資が必要であり、また実現に対するリスクも大きいことから、技術機能の飛躍的向上と同時に、新たな顧客価値の創造につながることが成果として求められます。
 

② 既存の技術と新たな技術の融合

 
   これまで自社が培ってきた技術をベースとして、新たな技術を融合させることで、技術機能を向上・拡大させる戦略です。長年、鋳造・鍛造などの金属加工技術を磨いてきたA社は、その技術をベースにレーザー加工技術を組み合わせることで、「微細加工」をコンセプトにした技術機能の高度化を実現しています。
 

③ 周辺の技術方式の取り込み・拡大

 
  自社の持つ技術と同じ機能を持つ周辺の技術方式を取り込むことで、技術機能を高度化する戦略です。めっきを用いた表面加工を手掛けるB社は、従来電解めっきを中心に事業を行っていましたが、徐々にイオンプレーティングなどのほかの表面処理技術を取り込み、様々なニーズに応える総合的な表面加工技術を有する企業として事業の拡大を図っています。
 

 ④ より上位の目的を起点とした必要技術の取り込み

 
  既存の技術が実現してきた目的よりも、さらに上位の目的を設定し、それを基軸に必要な技術を取り込む戦略です。CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor )イメージャーを製造していたC社は、携帯電話にカメラを搭載するために、イメージャーとレンズが一体となったCMOSカメラモジュールを開発することで、それまでイメージャーとレンズを別々に製造し、組み合わせていたものに比べて大幅な小型化・軽量化を実現しました。そして、カメラモジュールを実現するためのインテグレーション技術(イメージャーやレンズなどカメラモジュールを構成する部品を調整し、目標性能や形を実現するためのすりあわせ技術)を取り込むことに成功しました。
 

 ⑤ コアになる技術の内製化

 
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【ものづくり企業のR&Dと経営機能 記事目次】

  MOT今回は、技術経営の3つの要件における第3の要件「企業成長の中軸である技術を高めるために継続的な投資を行っていること」をテーマに解説したいと思います。前回の「技術経営を考える」の中で、第3の要件の重要なキーワードである”技術を高める”には、以下の4つの意味があることを簡単に触れました。
 
    1.  技術機能を高度化すること
    2.  技術を共有化し、組織の知として伝える
               こと(技術の標準化や計画的継続的な人材育成) 
    3.技術を他の商品に積極的に応用すること
    4.技術機能を発現するメカニズムを研究・解明すること
 
  上記のなかの1番目にある「技術機能を高度化すること」にフォーカスして解説します。個々の技術は、何らかの目的(もしくは目的機能という場合もあります)を達成するために存在します。そして、目的を達成するために、インプットとなる何らかのエネルギーを、アウトプットに変換するための機能(製品の機能と区別するために、ここでは技術機能と呼びます)を有しています。
 

1.技術方式とは

 
 この技術機能を実現するためにいくつかの方法が存在します。これらを技術方式と呼びます。すなわち、技術の基本的構造は、「目的」-「技術機能」-「技術方式」の3階層で表現することができます。技術機能を実現するための技術方式は一つとは限りません。いつくかの方式が存在し、その都度目的に合わせて必要なものを選択することになります。
 
 電球を例に考えてみましょう。電球は、周囲を明るくする(目的)ために、電気エネルギー(インプット)を光エネルギー(アウトプット)に変換する機能(技術機能)を有しています。ちなみに、蛍光灯では、電気エネルギーを光エネルギーに変換するために、ガラス管内に高電圧をかけて電子を放出させ、水銀原子と衝突させることで発生させた紫外線を用いて蛍光物質を発光させています(蛍光灯の技術方式)。
 
 これに対して、最近省エネルギーの観点から急速に普及しているLEDは、PN接合により構成された半導体チップに、電流を流すことにより生じる電子と正孔の再結合による生じる光エネルギーを利用しています。(さらに、LED電球は、青色LEDから生じた光を蛍光物質に当てて白色光を取り出しています)すなわち、蛍光灯とLEDでは、電気エネルギーを光エネルギーに変換する機能を実現するための技術方式が全く異なるのです。
 

2.技術を高度化するための戦略

 
 技術の持つ基本的構造について簡単にお話ししましたので、次に「技術機能を高度化する」ための戦略について触れたいと思います。当然ですが、技術機能を高度化するために、どのような戦略を選択し実行するかは、それぞれの会社の事業戦略と整合していることが重要です。すなわち、技術機能の高度化は、最も重要な戦略的意思決定の一つであると言えます。では、技術機能の高度化するために、どのような戦略があるのでしょうか?ここでは、5つの考え方を紹介したいと思います。
 
    ① 新しい技術方式への転換
    ② 既存技術と新たな技術の融合
    ③ 周辺の技術方式の取り込み・拡大
    ④ 上位の目的と起点とした技術の取り込み
    ⑤ コアとなる技術の内製化
 

① 新たな技術方式への転換

 
  既存の技術方式に変えて、新しい技術方式を導入することで技術機能を飛躍的に高める戦略です。先ほどのLED方式は、電球において現在進んでいる技術方式の転換であると言えます。また、現在研究されているプリンテッド・エレクトロニクスも、新技術方式への転換の例だと言えるでしょう。プリンテッド・エネクトロニクスは、従来フォトリソグラフィを用いて作成していたLSI上の電子回路を印刷技術を用いて行うもので、LSIの低コスト化だけでなく、フレキシブルな基材の上にLSI回路を作ることを可能にするという挑戦的な技術方式です。新しい技術方式の導入は、多くの投資が必要であり、また実現に対するリスクも大きいことから、技術機能の飛躍的向上と同時に、新たな顧客価値の創造につながることが成果として求められます。
 

② 既存の技術と新たな技術の融合

 
   これまで自社が培ってきた技術をベースとして、新たな技術を融合させることで、技術機能を向上・拡大させる戦略です。長年、鋳造・鍛造などの金属加工技術を磨いてきたA社は、その技術をベースにレーザー加工技術を組み合わせることで、「微細加工」をコンセプトにした技術機能の高度化を実現しています。
 

③ 周辺の技術方式の取り込み・拡大

 
  自社の持つ技術と同じ機能を持つ周辺の技術方式を取り込むことで、技術機能を高度化する戦略です。めっきを用いた表面加工を手掛けるB社は、従来電解めっきを中心に事業を行っていましたが、徐々にイオンプレーティングなどのほかの表面処理技術を取り込み、様々なニーズに応える総合的な表面加工技術を有する企業として事業の拡大を図っています。
 

 ④ より上位の目的を起点とした必要技術の取り込み

 
  既存の技術が実現してきた目的よりも、さらに上位の目的を設定し、それを基軸に必要な技術を取り込む戦略です。CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor )イメージャーを製造していたC社は、携帯電話にカメラを搭載するために、イメージャーとレンズが一体となったCMOSカメラモジュールを開発することで、それまでイメージャーとレンズを別々に製造し、組み合わせていたものに比べて大幅な小型化・軽量化を実現しました。そして、カメラモジュールを実現するためのインテグレーション技術(イメージャーやレンズなどカメラモジュールを構成する部品を調整し、目標性能や形を実現するためのすりあわせ技術)を取り込むことに成功しました。
 

 ⑤ コアになる技術の内製化

 
  自社の技術方式のコアとなる技術を内製化する戦略です。先ほど取り上げた表面加工を手掛けているB社は、電解めっきに使用するめっき液を自社で開発しています。めっき液を自社開発することで、顧客のニーズにきめ細かく対応できることと同時に、トラブル時の迅速な対応を可能にしています。さらには、めっき液の外販と併せて、めっき技術のノウハウを提供する技術コンサルティングにも事業を拡大しています。
 
  技術機能の高度化は、自社の事業を成長させるための戦略的な課題であると同時に、技術人材の育成という視点においても大きな意味を持ちます。すなわち、技術機能の高度化は、技術者が新たな技術へ挑戦し、試行錯誤をしながら技術を獲得する経験ができる、最高の人材育成の場を生み出すことに繋がるのです。
 
 

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この記事の著者

平木 肇

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。


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