水素社会への潮流 水素エネルギー社会(その12)

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◆水素エネルギー社会 連載目次

 

 今回は、水素社会への潮流について韓国・現代自動車(ヒュンダイ)の燃料電池自動車(FCV)に対する動きを中心に解説します。

1. 水素での発電

2. 現代自動車の動向

3. 中国の動向

 

♦ 加速する日韓FCV開発

 日本では、菅義偉首相が所信表明演説で「2050年に温室効果ガス排出ゼロとする」方針を表明するなど、ここにきて、にわかに水素化社会への潮流が強まってきたようです。予想していた方向に大きく進み始めたとの所感を持っています。

 水素社会への潮流は日本国内にいるとなかなか情報が入ってこないのですが、世界をみると次のような興味深い情報にアクセスできます。

  • 水素燃料飛行機が試験飛行している
  • 水素燃料列車は複数国で実用化されている
  • 水素を燃料とした船舶のこと
  • 世界で一番FCVが普及した国はどこか

 

1. 水素での発電

 水素そのものでの発電ができないものかと思っていたところ、日本経済新聞の2020年3月12日の記事に「三菱重工業と日立製作所が共同出資する三菱日立パワーシステムズ(横浜市)は12日、水素を使う火力発電設備を初受注したと発表した。大型では世界初という。天然ガスを燃やしタービンを回して電気をつくるが、まず稼働開始の2025年に30%水素を混ぜる(記事から引用)」とありました。EUでは、2050年までに58兆円もの巨額を投資し、水素化社会を推進します。

 水素からの直接発電なのか、燃料電池を介しての発電なのか、長期的マクロ的視野ではまだまだ方向性は定まりませんが、日本の2050年温暖化ガス排出ゼロ宣言もあり、にわかに活況をみせ始めています。

 

2. 現代自動車の動向

 FCV技術の開発は、韓国が先行しているかもしれません。韓国では政府と民間が一体となった計画で開発スピードが上がります。サムスン内でもそのような動きを垣間みましたが、さすがにサムスンは本流には全く近づけませんでした。噂(うわさ)で聞いた程度です。政府は金を出すが、実態は企業主体で、特に自動車は実質現代自動車1社しかないことも、この計画を進めやすくしています。

 2020年9月に日本で試乗会が開催された同社のNEXO(ネクソ)は、スタイリッシュなスポーツ用多目的車(SUV)で、航続距離も5分充填で820kmと、トヨタのMIRAIが出るまでは世界最長航続距離です。日本販売予定はないとされてますが、報道写真を見ると右ハンドル、計器類も日本語表示と、かなり日本を意識しているようで時期を見計らい、日本での発売も視野に入れていることでしょう

 また、現代自動車は大型トラックXCIENT(エクシエント)をベースにしたXCIENT Fuel Cellを、初の商用販売(リース形式)として欧州に10台輸出しています。2025年までに1600台の販売予定です。2022年に北米への導入も計画しており、2021年カリフォルニアで導入試験に着手します。

 

 ①現代自動車FCV NEXOの秘密

 海外での評価は、NEXOがトヨタMIRAIを上回る販売台数と性能であるとされていますが、その秘密を探ってみましょう。NEXOは2018年のCES2018が世界デビューです。その後のわずか2年間で11000台が販売され、FCVとしては圧倒的な台数を誇っています。

 一方、2014年発売のMIRAIは6年間で世界累計約1万台(国内3300台)です(2020年4月の朝日新聞インタビューに対するMIRAI開発統括の田中チーフエンジニアコメント)。NEXOが突然出現して2年で1万台販売したわけではなく、 「Hyundai  ix35 FCV」 ⇒「NEXO」という歴史があります。

 NEXOは先代のFCVであるix35 Fuel Cellの後継モデルです。ix35 FCVはガソリン車のix35(北米名はTucson)をベースに開発されてます。ix35 FCVに関する日本語情報はほとんど見つかりません。

 ix35 FCVは2013年2月に韓国南部の現代自動車ウルサン工場で限定生産を開始しております。2014年のデンマーク導入後、同年にはアメリカ、翌年にはカナダで販売されています。70MPaの水素タンクを2本積載し、航続距離は594km(588kmとの情報もあり)です。なお、2014年7月の「AutoView Korea」によると、700kmを無補給で走破したことが報告さてれてます。ノルウェーのオスロからスウェーデンを経由し、デンマークのコペンハーゲンまでの高速道と市街地を平均時速76km、約10時間で走行しています。その後、その車両はコペンハーゲン市に納入しています。環境要求の高い北欧をターゲットとしたイベントと実用化です。

 このix35 FCVの実績を織り込んで開発した車両がNEXOです。こちらは、70MPaの水素タンクを3本積載しています。2代目のトヨタMIRAIも3本となっています。

 

 ②NEXOの水素タンク

 NEXOは新型MIRAIと同様に水素タンクが3本のため、長距離...

FCV

◆水素エネルギー社会 連載目次

 

 今回は、水素社会への潮流について韓国・現代自動車(ヒュンダイ)の燃料電池自動車(FCV)に対する動きを中心に解説します。

1. 水素での発電

2. 現代自動車の動向

3. 中国の動向

 

♦ 加速する日韓FCV開発

 日本では、菅義偉首相が所信表明演説で「2050年に温室効果ガス排出ゼロとする」方針を表明するなど、ここにきて、にわかに水素化社会への潮流が強まってきたようです。予想していた方向に大きく進み始めたとの所感を持っています。

 水素社会への潮流は日本国内にいるとなかなか情報が入ってこないのですが、世界をみると次のような興味深い情報にアクセスできます。

  • 水素燃料飛行機が試験飛行している
  • 水素燃料列車は複数国で実用化されている
  • 水素を燃料とした船舶のこと
  • 世界で一番FCVが普及した国はどこか

 

1. 水素での発電

 水素そのものでの発電ができないものかと思っていたところ、日本経済新聞の2020年3月12日の記事に「三菱重工業と日立製作所が共同出資する三菱日立パワーシステムズ(横浜市)は12日、水素を使う火力発電設備を初受注したと発表した。大型では世界初という。天然ガスを燃やしタービンを回して電気をつくるが、まず稼働開始の2025年に30%水素を混ぜる(記事から引用)」とありました。EUでは、2050年までに58兆円もの巨額を投資し、水素化社会を推進します。

 水素からの直接発電なのか、燃料電池を介しての発電なのか、長期的マクロ的視野ではまだまだ方向性は定まりませんが、日本の2050年温暖化ガス排出ゼロ宣言もあり、にわかに活況をみせ始めています。

 

2. 現代自動車の動向

 FCV技術の開発は、韓国が先行しているかもしれません。韓国では政府と民間が一体となった計画で開発スピードが上がります。サムスン内でもそのような動きを垣間みましたが、さすがにサムスンは本流には全く近づけませんでした。噂(うわさ)で聞いた程度です。政府は金を出すが、実態は企業主体で、特に自動車は実質現代自動車1社しかないことも、この計画を進めやすくしています。

 2020年9月に日本で試乗会が開催された同社のNEXO(ネクソ)は、スタイリッシュなスポーツ用多目的車(SUV)で、航続距離も5分充填で820kmと、トヨタのMIRAIが出るまでは世界最長航続距離です。日本販売予定はないとされてますが、報道写真を見ると右ハンドル、計器類も日本語表示と、かなり日本を意識しているようで時期を見計らい、日本での発売も視野に入れていることでしょう

 また、現代自動車は大型トラックXCIENT(エクシエント)をベースにしたXCIENT Fuel Cellを、初の商用販売(リース形式)として欧州に10台輸出しています。2025年までに1600台の販売予定です。2022年に北米への導入も計画しており、2021年カリフォルニアで導入試験に着手します。

 

 ①現代自動車FCV NEXOの秘密

 海外での評価は、NEXOがトヨタMIRAIを上回る販売台数と性能であるとされていますが、その秘密を探ってみましょう。NEXOは2018年のCES2018が世界デビューです。その後のわずか2年間で11000台が販売され、FCVとしては圧倒的な台数を誇っています。

 一方、2014年発売のMIRAIは6年間で世界累計約1万台(国内3300台)です(2020年4月の朝日新聞インタビューに対するMIRAI開発統括の田中チーフエンジニアコメント)。NEXOが突然出現して2年で1万台販売したわけではなく、 「Hyundai  ix35 FCV」 ⇒「NEXO」という歴史があります。

 NEXOは先代のFCVであるix35 Fuel Cellの後継モデルです。ix35 FCVはガソリン車のix35(北米名はTucson)をベースに開発されてます。ix35 FCVに関する日本語情報はほとんど見つかりません。

 ix35 FCVは2013年2月に韓国南部の現代自動車ウルサン工場で限定生産を開始しております。2014年のデンマーク導入後、同年にはアメリカ、翌年にはカナダで販売されています。70MPaの水素タンクを2本積載し、航続距離は594km(588kmとの情報もあり)です。なお、2014年7月の「AutoView Korea」によると、700kmを無補給で走破したことが報告さてれてます。ノルウェーのオスロからスウェーデンを経由し、デンマークのコペンハーゲンまでの高速道と市街地を平均時速76km、約10時間で走行しています。その後、その車両はコペンハーゲン市に納入しています。環境要求の高い北欧をターゲットとしたイベントと実用化です。

 このix35 FCVの実績を織り込んで開発した車両がNEXOです。こちらは、70MPaの水素タンクを3本積載しています。2代目のトヨタMIRAIも3本となっています。

 

 ②NEXOの水素タンク

 NEXOは新型MIRAIと同様に水素タンクが3本のため、長距離走行が可能となっています。新型MIRAI発売までは、世界最長走行可能なFCVでした。

 航続距離 WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)法

  NEXO   820km
  新MIRAI 850km

 タンク容量

  NEXO   156.6 litters
  新MIRAI 140 litters

 タンクメーカー

  NEXO   日進複合素材(イルジン、Iljin complex)
  新MIRAI 内製および豊田合成

 なお、2020年11月、イルジンのタンクが2022年からJR東日本が試験走行を開始する水素燃料列車に採用されることが報道されました。JR東日本はトヨタ自動車や日立製作所と共同で開発するとアナウンスしていますが、水素タンクをイルジン製にする理由は現時点では不明です。

 

3. 中国の動向

 私は中国の動きに注目しています。2020年のトヨタ自動車のFCV連携のニュースを皮切りに中国での拡大を予想していましたが、ここにきて普及促進策が具体化してきています。国家的にインフラ整備ができる中国では、普及速度は極めて速いと考えられます。

 次回に続きます。

◆関連解説『環境マネジメント』

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この記事の著者

高原 忠良

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