データ数による影響 エネルギー比型SN比とは (その2)

更新日

投稿日

 エネルギー比型SN比は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号値の大きさが異なる場合でも、公平な比較が可能です。実務者にとって従来のSN比の制約を気にしながらケースバイケースで使いこなすのは煩雑で、間違いの原因ともなります。本稿では、従来のSN比の課題を具体例でひも解きながら、エネルギー比型SN比の数理や利点を解説し、エネルギー比型SN比の計算例とともにその活用成果を解説しています。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

2. 技術評価におけるSN比

 
 今回は、前回の2.1項と2.2項に続いて解説します。
 
 

2.3. 従来のSN比の課題(2) ~データ数による影響~

 
 機能の入出力の理想的な関係が、ゼロ点比例式でない場合があります。このような場合に、前記のゼロ点比例式のSN比を用いると、入出力の非線形の成分(信号の影響による曲りの成分:たとえば2次の成分)が有害な成分として評価されてしまいます。これに対処したのが、田口玄一氏によって考案された標準SN比です6) (別途、デジタルの標準SN比もあるため、単に標準SN比という場合、この非線形の標準SN比を指すことにする)。これにより、出力の非線形の成分とノイズ因子の影響によるばらつきの成分を分離して、後者のみを評価できるようにしました。すなわち図2.3.1のようなデータを図2.3.2にようなゼロ点比例式モデルに置き換えて評価します。
 
SN比
図.2.3.1 動特性(非線形)のデータモデル
 
SN比
図.2.3.2 標準条件の出力を新しい信号とした場合のデータモデル
 
 標準SN比は式2.3.1で表されます(21世紀型SN比ともいわれることから、添字を21Cとする。またゼロ点比例式のSN比であることを明示する場合は、添字を20Cとする)。
 
 ここに、「’」がついた成分は非線形成分分離後であることを示します。またnはノイズ因子の水準数、kは信号因子の水準数
 
SN比は非線形成分分離後の信号M’の各水準値の2乗の平均値(平均的な信号の大きさ)です。
 
SN比は、有効除数r’ともいいます。
 
SN比
式2.3.1
 
 式2.3.1第4式の分子、分母は、それぞれ単位データ数(nk) 、単位入力量
 
SN比あたりの出力の変動(Sβ-Ve)と誤差分散(VN’)を示しています。
 
 -Veの部分については2.5節で述べます。さらに、標準SN比では式2.3.1第4式の分母の誤差分散VN’を変動/自由度の形で書くと以下のようになります。
 
SN比
式2.3.2
 
 式2.3.2第3式の第1項は、平均的な出力の大きさと出力のばらつきの大きさの比になっており、次元は、[y2]/[y2]=1、すなわち無次元です。第2項は、nkが全データ数なので次元をもたないのですが、標準SN比が(データ数-1:誤差分散の自由度)に比例することが分かります。したがって、データ数nkが2倍になると、SN比は約2倍大きく表示されることになります。機能の安定性...
 エネルギー比型SN比は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号値の大きさが異なる場合でも、公平な比較が可能です。実務者にとって従来のSN比の制約を気にしながらケースバイケースで使いこなすのは煩雑で、間違いの原因ともなります。本稿では、従来のSN比の課題を具体例でひも解きながら、エネルギー比型SN比の数理や利点を解説し、エネルギー比型SN比の計算例とともにその活用成果を解説しています。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

2. 技術評価におけるSN比

 
 今回は、前回の2.1項と2.2項に続いて解説します。
 
 

2.3. 従来のSN比の課題(2) ~データ数による影響~

 
 機能の入出力の理想的な関係が、ゼロ点比例式でない場合があります。このような場合に、前記のゼロ点比例式のSN比を用いると、入出力の非線形の成分(信号の影響による曲りの成分:たとえば2次の成分)が有害な成分として評価されてしまいます。これに対処したのが、田口玄一氏によって考案された標準SN比です6) (別途、デジタルの標準SN比もあるため、単に標準SN比という場合、この非線形の標準SN比を指すことにする)。これにより、出力の非線形の成分とノイズ因子の影響によるばらつきの成分を分離して、後者のみを評価できるようにしました。すなわち図2.3.1のようなデータを図2.3.2にようなゼロ点比例式モデルに置き換えて評価します。
 
SN比
図.2.3.1 動特性(非線形)のデータモデル
 
SN比
図.2.3.2 標準条件の出力を新しい信号とした場合のデータモデル
 
 標準SN比は式2.3.1で表されます(21世紀型SN比ともいわれることから、添字を21Cとする。またゼロ点比例式のSN比であることを明示する場合は、添字を20Cとする)。
 
 ここに、「’」がついた成分は非線形成分分離後であることを示します。またnはノイズ因子の水準数、kは信号因子の水準数
 
SN比は非線形成分分離後の信号M’の各水準値の2乗の平均値(平均的な信号の大きさ)です。
 
SN比は、有効除数r’ともいいます。
 
SN比
式2.3.1
 
 式2.3.1第4式の分子、分母は、それぞれ単位データ数(nk) 、単位入力量
 
SN比あたりの出力の変動(Sβ-Ve)と誤差分散(VN’)を示しています。
 
 -Veの部分については2.5節で述べます。さらに、標準SN比では式2.3.1第4式の分母の誤差分散VN’を変動/自由度の形で書くと以下のようになります。
 
SN比
式2.3.2
 
 式2.3.2第3式の第1項は、平均的な出力の大きさと出力のばらつきの大きさの比になっており、次元は、[y2]/[y2]=1、すなわち無次元です。第2項は、nkが全データ数なので次元をもたないのですが、標準SN比が(データ数-1:誤差分散の自由度)に比例することが分かります。したがって、データ数nkが2倍になると、SN比は約2倍大きく表示されることになります。機能の安定性の尺度となるばらつきσの変化率が同等でも、SN比の表示値が、全データ数nkによって変わってしまうことは、従来の標準SN比の使用上で留意しておく必要があります。
 
 次回は、従来のSN比の課題(3)個別的な計算方法から解説します。
 
【参考文献】
6) 田口, 横山:『ベーシックオフライン品質工学』, 日本規格協会, (2007), pp.77-82.
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

鶴田 明三

独自の設計品質評価・改善メソッド“超実践品質工学”で、技術者の 成長を重視して徹底支援。大手電機メーカで23年間培った豊富な指導経験 で、御社製品と仕事の進め方の品質・生産性向上をお手伝いします。

独自の設計品質評価・改善メソッド“超実践品質工学”で、技術者の 成長を重視して徹底支援。大手電機メーカで23年間培った豊富な指導経験 で、御社製品と仕事の...


「品質工学(タグチメソッド)総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
個別的な計算方法 エネルギー比型SN比とは (その3)

 エネルギー比型SN比は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号値の大きさが異なる場合でも、公平な比較が可能です。実務...

 エネルギー比型SN比は、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号値の大きさが異なる場合でも、公平な比較が可能です。実務...


【快年童子の豆鉄砲】(その125)タグチメソッドとは(1)

【目次】 1. タグチメソッド ここからは、表2-1にある「喫緊の課題」の10番目「新製品の市場品質問題が絶えない」の発生要因「開...

【目次】 1. タグチメソッド ここからは、表2-1にある「喫緊の課題」の10番目「新製品の市場品質問題が絶えない」の発生要因「開...


ほんまもんの技術者とは (その1)

1.はじめに  今回は、ものづくりCOMでの初めての発言です。皆さまからのご意見を頂ければ幸いです。  私が品質工学の道にはいって約20数年になります...

1.はじめに  今回は、ものづくりCOMでの初めての発言です。皆さまからのご意見を頂ければ幸いです。  私が品質工学の道にはいって約20数年になります...


「品質工学(タグチメソッド)総合」の活用事例

もっと見る
CS-T法を起点とした技術開発プロセスとは、乗用車用エンジンの技術開発事例

▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 機能を起点に形を考案するというプロセスの成功例として,品質工学会でも多くの方々に大きな...

▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 機能を起点に形を考案するというプロセスの成功例として,品質工学会でも多くの方々に大きな...


狩野モデルで説明する品質工学(その1)

【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 品質工学会の技術向上委員会で品質工学とその関連分野の用語を...

【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 品質工学会の技術向上委員会で品質工学とその関連分野の用語を...


狩野モデルで説明する品質工学(その2)

【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 品質工学会の技術向上委員会で品質工学とその関連分野の用語を...

【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「品質工学」に関するセミナーはこちら! 品質工学会の技術向上委員会で品質工学とその関連分野の用語を...