デザインによる知的資産経営(その2)

 

◆グローバル化とデザイン

 現在の社会は、経済に国境がなくなり、商品や情報も国境を意識することなく流通しています。これは真正面から受け止めなければなりません。しかし、この事実と日本の市場規模の縮小を前に、「これからの市場は海外だ」と考えている経営者も多いように思いますが、「海外」とはどこなのでしょう。
 
 本稿の主題とは少しずれますが、海外市場に目を向けた経営戦略というテーマについて「デザイン=課題を設定し、解決手段を見いだす手法」という観点から若干のコメントをしたいと思います。
 

(1)海外は一つではない

 「これからは海外だ!」というとき、経営者たちは「海外」をどのように把握しているのでしょうか。ひと口に海外といっても、欧州、北米、南米、アジア、アフリカ、オセアニアという五大陸で、すべて社会環境は異なります。中小企業の場合、アジアを意識していることが多いと思いますが、アジアであっても国ごとに違い、中国と特定したとしても地域ごとに異なります。「中国は人口が多いからこれから有望な市場だ」というのは経済学的に正しい評価だと思いますが、企業経営にそのまま当てはめていいものでしょうか。
 
 同じ商品でも、売れる地域があれば売れない地域もあります。原因は、社会環境や需要者動向の違いです。有名な失敗例が自動車の米国ビッグ3の日本への対応です。ゼネラルモーターズ(GM)、フォード・モーター、クライスラーの3社が日本市場のシェアを獲得できずにいます。その原因は、日本市場で需要の多い小型車の開発に消極的であったことに加え、米国での仕様に若干の変更をしただけでそのまま展開し、近年まで右ハンドル車も販売していなかったことが挙げられています。もともと小型車の多い欧州車が右ハンドル車を投入して日本市場でシェアを拡大していったのと好対照です。
 

(2)課題も異なる

 米国にIDEOという著名なデザインコンサルティング会社があります。IDEOのコンサル事業の成功例として、日本の自転車部品メーカー「シマノ」の事例がしばしば取り上げられています。読者の中には「SHIMANO」のロゴが刻印されたギア変換装置を搭載した自転車を愛用している方も多いと思います。
 
 そのシマノが米国での市場不振を解決しようとIDEOに協力を求めました。米国の成人の90%は、子どものころは自転車に乗っていたが、今では乗っていないという事実(社会環境)に行き当たりました『デザイン思考が世界を変える』ティム・ブラウン著 千葉敏生訳 早川書房)。この事実を前にして、90%の人が自転車に戻ってくるようにする、という米国独自の「課題」が発見されるのです。
 

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(3)需要者の意識の共通化

 グローバル化を前提としたとき、需要者の意識が共通化していることを忘れてはなりません。情報はインターネットを通じ、国境を越えて流通しています。アジアの主要都市において、携帯電話またはスマートフォンの個人保有率は90%を超えています。そして、ネットを通じて取得した情報も、リアルの世界で取得した情報も、FacebookやTwitterを通じて一人の情報が数百人単位で拡散します。
 
 中国をはじめとする東アジアの人たちの生活感や商品への感性が共通化しつつあることは、日本の若い女性向けのファッションが受け入れられたり、「無印良品」や「ユニクロ」の成功に顕著に表れています。また、日本においても、外国企業が展開する事業が成功を収めるなど、日常生活のレベルにおいて、欧州や米国と生活感や感性が近づいているということができます。
 
 先に述べたように、社会環境が違うということを念頭に置きつつも、需要者の意識が近寄っていることを忘れてはなりません。
 
        
意匠法
図3.アジア主要都市のスマートフォン普及率
 

この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

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