製品設計におけるトレードオフのコントロールとは

 
  
技術マネジメント
 
 今回は、次のような想定で、製品設計におけるトレードオフのコントロールをどう考えればよいかを解説します。
 

1. 家電メーカーの設計担当者の悩み

 私は、家電メーカーで製品設計に携わって18年になります。家電ですが、新興国企業の製品設計の優先順位はC>D>QまたはD>C>Qです。購買力の低い消費者には値段の高い製品は売れません。品質よりコストを優先することが設計段階から求められます。また、拡大する市場にいち早く製品を投入することが重要なケースでは、市場への製品投入スピードが優先されます。このような状況で、新興国市場で勝負する製品は、戦略に合わせて優先順位をしっかり考えて戦った方がよいと考えています。
 
 しかし、私が勤務している企業はQもCもDもすべて大事。どれにも優先順位は付けられないというところです。そういう方針のため、設計者である私は、すべての要求事項を満足させる方法を模索します。結果として得られる設計解は、角の取れた特徴のない製品だったり、他社との違いがほとんどない製品だったりします。この結果、当社の製品はどこも似たり寄ったりの製品になってしましいます。日本の技術者は技術力では新興国企業に負けないという言い方をする事がありますが、私は技術力というより、トレードオフに対する優先順位の違いという理解をすると、対応方法も変わって来るのではないかと考えています。
 

2. 製品設計におけるトレードオフのコントロール

 新興国の購買力の低い消費者には値段の高い製品は売れません。従って、日本の消費者の要求に基づいて設計した商品は新興国では売れないことになります。しかし、日本市場向けの商品から余分な機能を取り除いただけの低価格商品は、本当に新興国市場の消費者の関心を引くでしょうか?
 
 新興国企業の製品設計の優先順位はC>D>QまたはD>C>Qとはいかず、やはりQもCもDも重要だと考えます。
 
 新興国市場で勝負する製品は、戦略に合わせて優先順位をしっかり考えて戦うべきだと思いますが、それは必ずしも「C」が優先と言うことではなく、新興国市場に合わせた「Q」が優先するのだと考えます。
 
 一例を上げると、大気汚染の激しい中国において、空気清浄機は人気がありますが、では、日本メーかーの優れた空気清浄機の機能を落として値段を安くしたら売れるでしょうか?答えは否です。新興国向け商品では、あれもこれもと機能を盛りだくさんに取り入れるのではなく、その対象となる市場に合わせ、機能を特化した商品を開発すべきと考えます。
 
 北京や上海の富裕層は、10万円以上もするスイス製の空気清浄機を購入していて、家庭用というより工場用に近い大型のものが人気だそうです。中国人富裕層のリビングは何十畳と、とてつもなく広く、しかもドアや窓のすきまも多い為、狭い部屋を対象にした日本製では効果が得られず、子供をひときわ大事にする中国人は、どんなに高かろうが、子供の命には代えられないと考えるのです。
 
 一方で、庶民は、安い中国製を買います。携帯電話中国最大手の「小米」が発売した「699元(約1万円)空気清浄機」が、ネット通販で、最大のヒット商品になっています。ネットで買い物をする若者の生活シーンに合わせて、デザインの良さ、低価格、性能も日本製品並み、それに加えスマホと連動させたことがヒットの要因と考えられています。但し、小米は日本のメーカーと知財権問題を起こしており、開発費を掛けずに低価格に設定したとするなら、それは責められるべきです。
 
 インド市場向け自動車の開発は、低価格であるということは必要条件ですが、それに加えた品質・性能面で何を訴求するかが重要であると考えられます。なぜなら低価格を売りにしている現地自動車メーカーと競合を避けるため同じ訴求点で競争するよりも、日系自動車メーカーの強みである品質・性能面も訴求をしていくべきというのが日本メーカーの考え方です。
 
 「悪路に耐える耐久性を持ったタイヤ」「酷暑の気候に耐える強力な冷房装置」「多量のほこりを除去するエアーフィルター」など、低価格であるということは必要条件で、それに加えた品質・性能面で何を訴求するかが重要で あると考えられています。
 
 新興国と言っても、様々な消費者層が対象となるため、きめ細かな市場調査は欠かせません。日本の技術力は素晴らしいのですから、思い切って、その国の消費者が一番望んでいる機能に絞り込んだ特徴ある商品を開発することが新興国市場で勝負するための重要な戦略ではないでしょうか。
 

この記事の著者

濱田 金男

製造業の現場ですぐ使える独自の品質改善技法の開発と普及活動を行っています。 「ヒューマンエラー防止対策」「簡易FMEA/FTA」「しくみを対策するなぜなぜ2段階法」

1972年OKI高崎事業所入社、設計、製造、品質部門を経験、多くの品質問題に かかわり、失敗経験も豊富、 2014年独立「中小企業」で実務ですぐ使える技法とツール開に取り組む! ●事後対策主体の品質管理から脱却 発生した問題の原因解析…

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