「信頼性工学」とは、キーワードからわかりやすく解説

 

1.「信頼性工学」とは

信頼性工学は、製品の寿命を評価したり、延ばしたりする技法と考え方に対する呼称で、安全工学と似ている部分もあります。FMEAやFTA、デザインレビューなどが代表的な方策です。

 

2. FMEA

FMEA(Failure Mode and Effect Analysis:不良モード影響解析)とは、製品または部品が不具合を発生した場合の発生率と検出可能性、影響度を故障モード毎に評価し、またこの評価で重要と判定された故障モードについては、設計時に未然防止あるいは発生時の対策を盛り込むことで重大事故の発生を防ぐ信頼性工学的な手法です。 製品設計時に用いる設計FMEAと、工程設計時に用いるプロセスFMEAに分類され、特に自動車関連工業で積極的に利用されます。

 

3. FTA

FTA(Fault Tree Analysis)とは製品の故障、およびそれにより発生した事故の原因を分析する手法です。これは、機器の信頼性や安全性を高めるための目的として利用されます。また、故障発生頻度の定量的な分析のために、潜在危険を論理的にたどり原因の調査や、それぞれの危険の発生確率を評価する目的として使用されることもあります。製品の安全性や信頼性向上を行うため、また消費者や使用者が安全に使用するために製品の安全性改善にも利用されます。FTAでは、製品の悪い挙動を最初に想定します。その想定に基づいて起こりうる事故や故障に至った道すじを、発生する確率と一緒に、故障の木図(FT図)で表現して分析も行います。

 

4. デザインレビュー

DR(デザインレビュー:設計審査)とは、企画→基本設計→原理試作→詳細設計→一次試作→量産試作といった設計のプロセスで、ポイント毎に企画、開発、設計、製造、品質、購買などの関係者が一堂に集合し、満たすべき項目をそれぞれの観点から評価し、基準を超えている事を確認してから次のステップに進む方法であり、後工程からの手戻りを防止します。

 

5. 加速試験と寿命予測

信頼性工学において、製品がいつ壊れるかを予測することは極めて重要です。しかし、現代の工業製品は非常に長寿命であり、通常の使用環境で故障を待っていては開発期間が足りません。そこで用いられるのが「加速試験」です。

 

これは、温度、湿度、電圧、振動といったストレスを意図的に高めて負荷をかけ、故障を意図的に早く発生させる手法です。加速試験によって得られたデータは、物理的な故障メカニズムに基づいた「アレニウスの式」などの数式を用いて、実際の使用環境での寿命(期待寿命)に換算されます。これにより、短期間で製品の長期的な信頼性を担保することが可能になります。

 

6. ワイブル解析による故障データの整理

故障の発生パターンは、製品のライフサイクルによって異なります。これを統計的に分析するための強力なツールが「ワイブル解析」です。故障率の推移をグラフ化したものは、その形状から「バスタブ曲線」と呼ばれます。

  • 初期故障期: 製造上の欠陥などが原因で、使い始めに故障が多い時期。
  • 偶発故障期: 故障率が安定し、低い状態で一定に推移する時期。
  • 摩耗故障期: 寿命が近づき、老朽化によって故障が急増する時期。


ワイブル解析を用いることで、現在直面している故障が「初期欠陥」なのか「寿命による摩耗」なのかを判別でき、適切なリコール判断やメンテナンス周期の策定に役立てることができます。

 

7. 信頼性を高める設計思想~冗長性とフェイルセーフ~

設計段階で信頼性を高める考え方には、主に「冗長設計(レダンダンシー)」と「フェイルセーフ」があります。冗長設計とは、万が一ある部品が故障してもシステム全体が停止しないよう、予備の系統をあらかじめ用意しておく考え方です。航空機のエンジンや、銀行のサーバーシステムが多重化されているのはこのためです。一方、フェイルセーフとは、故障が発生した際に必ず「安全な状態」に移行するように設計することです。例えば、踏切の遮断機は電気信号が途切れた際、重力で自然に下がる構造になっています。

 

8. 信頼性工学がもたらす価値

信頼性工学は、単に「壊れないものを作る」ための学問ではありません。過剰な品質はコストを増大させ、逆に信頼性不足は企業のブランドを失墜させます。 FMEAやFTAによって潜在的なリスクを可視化し、加速試験やワイブル解析で科学的な根拠に基づいた寿命予測を行うことで、「コストと品質の最適なバランス」を見極めることが可能になります。

 

また、近年ではIoT技術の発展により、稼働中の製品からリアルタイムでデータを収集する「予知保全」も注目されています。これまでの統計的な予測に加え、個体ごとの状態を監視する現代的な信頼性工学は、持続可能なものづくりを支える根幹の技術として、その重要性をさらに増しています。

 


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