職場が技術・技能伝承を支えるという誤解 モノづくりと人材育成(その6)

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【ものづくりの人材育成とは 連載目次】

6.技術技能伝承に関する五つの誤解 誤解⑤職場は、技術・技能伝承の取り組みを理解しサポートしてくれる

 通常、企業は中長期経営計画などで技術・技能伝承を取り上げていますが、組織によりその取り組みも様々です。技術・技能伝承に対する想いが共有化されていない職場の場合、熟練者や部門管理者は伝承作業をサポートしてくれるというような誤解を生みやすいようです。また、成果主義として一方では個人ベースで競争させ、一方ではチーム作業として情報共有させるなど矛盾した行動になっていることも背景にあります。
 
 部門管理者にとっては、目先の業務遂行が最優先事項であり技術・技能伝承は後回しになり、部門管理者が一番の抵抗勢力となっているケースがあります。能力主義による保身が働くのです。特に、定期的に職場を変わる中間管理職や退職間近の管理者に多いようです。そのような場合、技術・技能伝承は進まないばかりか、同じようなやり取りが数年毎に繰り返されることになり、仕事や伝承へのモラルダウンも甚だしい場合があります。
 
 最近の若者はパソコンやタブレット端末などの媒体を通した資料は読むが、紙ベースの資料は読もうとしません。また、声を掛け合う距離にいてもメールでコミュニケーションを行うとする傾向があります。業務効率化などでチーム作業が少なくなり、職場内や職場間でコミュニケーションが不足しているのです。コミュニケーションが不足している職場の技術・技能伝承は進みが悪くなることもあり、職場内活性化のためにも何らかの対応策が必要となります。このような状態では、職場のサポートを得られないばかりか、伝承の弊害となっているケースも考えられます。
 
 このような状態に対応するには、会社・各部門・個人が技術・技能伝承に関する共通認識を持ち、技術・技能伝承の取り組みを通常業務の中に盛り込むことが重要です。
 
(1)個人別目標管理による伝承
 同じ仕事をしている職場内といえども技術・技能伝承に限らず、各人の置かれている状況は様々であり、その想いも一様ではありません。従って、アンケートなどで職場や会社の実態や各人の想いを把握し、その調査結果を踏まえ、取り組むことが必要です。さらに、組織全体で取り組むための方向性を見定めたうえで、ペアリングなど個人別に対応することなどを明確にします。会社や職場目標と個人目標とのベクトルを、如何にして合わせるかが重要です。
 
 次に、会社や工場での中長期目標に技術・技能伝承の達成レベルを設定し、個人が進めるうえでのサポートの仕組みを組み込む必要があります。例えば、ベテランと若手の混成チームで作業をさせ、半年ごとの個人別目標管理の中で、ベテランと若手・管理者が合意の元で技術・技能伝承の具体的な内容を取り決めさせ、半年ごとに伝承者と継承者、管理者で取り組み状況をレビューしていくのです。また、半年や一年毎に全社で技術・技能伝承の取り組み事例を発表し、情報共有とモチベーション向上を図ることが望ましいでしょう。このような取り組みを行うことで、通常業務の中で実施することを明確に位置づけるのです。
 
(2)ワイガヤによるコミュニケーション
 世代間のゼネレーションギャップは、技術・技能伝承に取り組んでいる企業でも、課題の一つに挙げられています。多くの企業では、朝礼や終礼などが行われているが、一方的な情報伝達が多く組織内のコミュニケーション活性化には有効ではありません。技術・技能伝承を活性化するようなコミュニケーションとは、日常会話の中で新しい気付きや創意工夫のアイデアを得られることであり、特別な仕掛けや仕組みは必要ありません。
 
 このような課題を解決する一つの方法として、コミュニケーションの活性化とあたらしい気付きを得る機会を創出する場づくりを行う方法があります。例えば、職場やグループ単位での「ワイガヤ」などが考えられます。「ワイガヤ」は、社員同士が役職や年齢、性別に関係なく自由に議論することで、共通認識と相互理解を深めるためのもので、職場内のコミュニケーションを深めるのに有効です。テーマは個人攻撃や待遇面の不満以外なら何でも有りといったルールを決めるのが普通です。トラブルや悩みを先輩や熟練者などからサポートを受ける機会が増え効果は大きいでしょう。まずは、開始することが重要です。
 
(3)振り返り会(AAR)で気付きを得る
 熟練者と若手、また可能であれば第三者のアドバイザーなどを含めた振り返り会を定期的に実施しましょう。振り返り会は、AAR(After Action Review)という手法が有効と考えています(図1) 
     技術伝承
図1.AAR:振り返り会のイメージ
 
 AARは、作業が終わった段階で、短い時間でもいいので全員が集まり、経...

【ものづくりの人材育成とは 連載目次】

6.技術技能伝承に関する五つの誤解 誤解⑤職場は、技術・技能伝承の取り組みを理解しサポートしてくれる

 通常、企業は中長期経営計画などで技術・技能伝承を取り上げていますが、組織によりその取り組みも様々です。技術・技能伝承に対する想いが共有化されていない職場の場合、熟練者や部門管理者は伝承作業をサポートしてくれるというような誤解を生みやすいようです。また、成果主義として一方では個人ベースで競争させ、一方ではチーム作業として情報共有させるなど矛盾した行動になっていることも背景にあります。
 
 部門管理者にとっては、目先の業務遂行が最優先事項であり技術・技能伝承は後回しになり、部門管理者が一番の抵抗勢力となっているケースがあります。能力主義による保身が働くのです。特に、定期的に職場を変わる中間管理職や退職間近の管理者に多いようです。そのような場合、技術・技能伝承は進まないばかりか、同じようなやり取りが数年毎に繰り返されることになり、仕事や伝承へのモラルダウンも甚だしい場合があります。
 
 最近の若者はパソコンやタブレット端末などの媒体を通した資料は読むが、紙ベースの資料は読もうとしません。また、声を掛け合う距離にいてもメールでコミュニケーションを行うとする傾向があります。業務効率化などでチーム作業が少なくなり、職場内や職場間でコミュニケーションが不足しているのです。コミュニケーションが不足している職場の技術・技能伝承は進みが悪くなることもあり、職場内活性化のためにも何らかの対応策が必要となります。このような状態では、職場のサポートを得られないばかりか、伝承の弊害となっているケースも考えられます。
 
 このような状態に対応するには、会社・各部門・個人が技術・技能伝承に関する共通認識を持ち、技術・技能伝承の取り組みを通常業務の中に盛り込むことが重要です。
 
(1)個人別目標管理による伝承
 同じ仕事をしている職場内といえども技術・技能伝承に限らず、各人の置かれている状況は様々であり、その想いも一様ではありません。従って、アンケートなどで職場や会社の実態や各人の想いを把握し、その調査結果を踏まえ、取り組むことが必要です。さらに、組織全体で取り組むための方向性を見定めたうえで、ペアリングなど個人別に対応することなどを明確にします。会社や職場目標と個人目標とのベクトルを、如何にして合わせるかが重要です。
 
 次に、会社や工場での中長期目標に技術・技能伝承の達成レベルを設定し、個人が進めるうえでのサポートの仕組みを組み込む必要があります。例えば、ベテランと若手の混成チームで作業をさせ、半年ごとの個人別目標管理の中で、ベテランと若手・管理者が合意の元で技術・技能伝承の具体的な内容を取り決めさせ、半年ごとに伝承者と継承者、管理者で取り組み状況をレビューしていくのです。また、半年や一年毎に全社で技術・技能伝承の取り組み事例を発表し、情報共有とモチベーション向上を図ることが望ましいでしょう。このような取り組みを行うことで、通常業務の中で実施することを明確に位置づけるのです。
 
(2)ワイガヤによるコミュニケーション
 世代間のゼネレーションギャップは、技術・技能伝承に取り組んでいる企業でも、課題の一つに挙げられています。多くの企業では、朝礼や終礼などが行われているが、一方的な情報伝達が多く組織内のコミュニケーション活性化には有効ではありません。技術・技能伝承を活性化するようなコミュニケーションとは、日常会話の中で新しい気付きや創意工夫のアイデアを得られることであり、特別な仕掛けや仕組みは必要ありません。
 
 このような課題を解決する一つの方法として、コミュニケーションの活性化とあたらしい気付きを得る機会を創出する場づくりを行う方法があります。例えば、職場やグループ単位での「ワイガヤ」などが考えられます。「ワイガヤ」は、社員同士が役職や年齢、性別に関係なく自由に議論することで、共通認識と相互理解を深めるためのもので、職場内のコミュニケーションを深めるのに有効です。テーマは個人攻撃や待遇面の不満以外なら何でも有りといったルールを決めるのが普通です。トラブルや悩みを先輩や熟練者などからサポートを受ける機会が増え効果は大きいでしょう。まずは、開始することが重要です。
 
(3)振り返り会(AAR)で気付きを得る
 熟練者と若手、また可能であれば第三者のアドバイザーなどを含めた振り返り会を定期的に実施しましょう。振り返り会は、AAR(After Action Review)という手法が有効と考えています(図1) 
     技術伝承
図1.AAR:振り返り会のイメージ
 
 AARは、作業が終わった段階で、短い時間でもいいので全員が集まり、経験したことや成功したこと、失敗したことのプロセスと原因を探り、新しい気づきを得る場を設けるのです。そして、その気付きを全員で共有するため作業マニュアルや技術・技能伝承ナレッジに登録し、後に続く若手も活用できるようにしておくのです。
 
 具体的には、未経験作業の終了後やトラブルが発生した段階などで、関係者が全員集まり、他チームや部門のアドバイザーが司会役になり、振り返り会を進めます。この場合は、「ワイガヤ」と同様に、反省会などではなく誰でも自由に発言し、新しい気付きを得ることを主目的とします。そのため、「その時に何が起きたか」「どのようにすればよかったのか」「なぜそうなったのか」などを作業のプロセスに合わせて全員で議論し、新しい気付きやノウハウを抽出し、共通財産として蓄積していくものです。このように、日常での取り組みが応用力を生み出していくのです。
 
 この文書は、日刊工業新聞社発行、月刊「工場管理」掲載の記事を筆者により改変したものです。

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この記事の著者

野中 帝二

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