あなたには部下からの提案があるか?~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その25)

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あなたには部下からの提案があるか?~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その25)

今日の記事は「部下からアイデアが上がってこないな」とお悩みの皆さんにお役に立つ内容です。「提案して欲しいと言っているのに提案がないな」「アイデアが小粒だな」と思ったことはないでしょうか?今日の記事はそういう問題を解決する内容です。例えば、皆さんの会社では「テーマ提案制度」とか「10%ルール」という制度がないでしょうか?テーマ創出が必要な会社には、どこでも似たような制度があるものです。というのは、こういう制度は取り入れやすいからです。経営者が「そうしろ」と言えば導入できます。

 

ただ、こうした制度があるからと言ってテーマ提案が多い訳ではない、というのを実感している人も多いのではないかと思います。具体的には、現場のマネージャーには提案が上がってこない(部下から提案されない)、ということになります。「テーマ提案」というと少し大げさに聞こえますが、身近な感じで言えば部下から課題解決のアイデアが寄せられないということです。業務上の課題があったとします。それを解決をしなければならないのに、部下に言っても上司にはアイデアは集まらない、言ってくれない。そんな状況ありますよね。

 

今日はそんなお悩みをどのように解決できるのか、その緒(いとぐち)をご紹介します。今日の主人公は技術者のAさんです。Aさんの所属するにX社はテーマ提案制度や10%ルールなどのテーマ提案を促進する制度があります。Aさんは上司からテーマを提案するように言われているのですが、あまり前向きになれませんでした。今日の記事では、Aさんの心の内を手がかりにして、X社や上司の方の学びをご紹介したいと思います。

 

1. テーマ創出:Aさんのお悩みとは?

「いや、(上司に提案を)言っても仕方がないんですよ」と言ったのは、技術者のAさんでした。

 

もう何年か前のことですが、私とAさんはX社会議室で打ち合わせをしていました。内容は研修の進め方に関する個別相談です。私はX社でテーマ創出のための研修をしていたのですが、私とAさんは講師と受講生の関係。打ち合わせでは、その研修でAさんに実施していただく宿題について相談をしていたのです。

 

X社の経営環境について説明します。X社の研究開発スタイルは、いわゆる顧客要望対応型です。事業部が強く声が大きく、事業部が顧客から聞いてきたことを開発にさせるようになっています。研究には、開発に比べると若干の独立性はあるものの、事業部依頼のテーマをすることになっていました。

 

AさんはX社研究所にご所属です。研究所としての独立性を生かしてテーマを創出しなければなりません。独立性を活かすということになると「既存の事業や技術からは離れて自由に検討をする」というイメージになるのですが、そうは行かない現実があります。

 

Aさんもそんな現実に縛られる一人でした。前述の通り、X社には10%ルールなどのテーマ提案促進制度がある一方で、Aさんはその自由を感じていなかったのです。

 

X社の上層部には、おそらく「うちの会社では10%ルールも導入したんだから社員は自由にできるはず」という思いがあっただろうと思います。一般的に制度ってそういうもので、為政者が良かれと思って作るのですが、動いていなくても為政者はそれに気づかないところがあります。ハコモノ行政と似たところがありますね。X社でも同様に制度が機能していなかったのでしょう。Aさんの冒頭の発言につながるのです。

 

2. テーマ創出:Aさんの発言の背景は?

「どういうことですか?」と私が問いかけるとAさんは「色々と提案しても重箱の隅をつつくように色々と言われまして、、、」と言いにくそうに話されました。

 

ここまで聞いて私はAさんの状況が理解できました。Aさんの悩みを一言で言えば説明責任の問題なのです。説明責任とは、何かを実施しようとする時の投資対効果の説明をする責任のことです。実直なAさんは、説明責任を徹底的に果たさなければ新しい提案が通らないと思っていました。

 

しかし、私にはAさんとは異なるイメージが浮かびました。どういうイメージかと言えば、リスクのある投資に慣れていない上司が責任を取らされるのを恐れてしまい「本...

あなたには部下からの提案があるか?~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その25)

今日の記事は「部下からアイデアが上がってこないな」とお悩みの皆さんにお役に立つ内容です。「提案して欲しいと言っているのに提案がないな」「アイデアが小粒だな」と思ったことはないでしょうか?今日の記事はそういう問題を解決する内容です。例えば、皆さんの会社では「テーマ提案制度」とか「10%ルール」という制度がないでしょうか?テーマ創出が必要な会社には、どこでも似たような制度があるものです。というのは、こういう制度は取り入れやすいからです。経営者が「そうしろ」と言えば導入できます。

 

ただ、こうした制度があるからと言ってテーマ提案が多い訳ではない、というのを実感している人も多いのではないかと思います。具体的には、現場のマネージャーには提案が上がってこない(部下から提案されない)、ということになります。「テーマ提案」というと少し大げさに聞こえますが、身近な感じで言えば部下から課題解決のアイデアが寄せられないということです。業務上の課題があったとします。それを解決をしなければならないのに、部下に言っても上司にはアイデアは集まらない、言ってくれない。そんな状況ありますよね。

 

今日はそんなお悩みをどのように解決できるのか、その緒(いとぐち)をご紹介します。今日の主人公は技術者のAさんです。Aさんの所属するにX社はテーマ提案制度や10%ルールなどのテーマ提案を促進する制度があります。Aさんは上司からテーマを提案するように言われているのですが、あまり前向きになれませんでした。今日の記事では、Aさんの心の内を手がかりにして、X社や上司の方の学びをご紹介したいと思います。

 

1. テーマ創出:Aさんのお悩みとは?

「いや、(上司に提案を)言っても仕方がないんですよ」と言ったのは、技術者のAさんでした。

 

もう何年か前のことですが、私とAさんはX社会議室で打ち合わせをしていました。内容は研修の進め方に関する個別相談です。私はX社でテーマ創出のための研修をしていたのですが、私とAさんは講師と受講生の関係。打ち合わせでは、その研修でAさんに実施していただく宿題について相談をしていたのです。

 

X社の経営環境について説明します。X社の研究開発スタイルは、いわゆる顧客要望対応型です。事業部が強く声が大きく、事業部が顧客から聞いてきたことを開発にさせるようになっています。研究には、開発に比べると若干の独立性はあるものの、事業部依頼のテーマをすることになっていました。

 

AさんはX社研究所にご所属です。研究所としての独立性を生かしてテーマを創出しなければなりません。独立性を活かすということになると「既存の事業や技術からは離れて自由に検討をする」というイメージになるのですが、そうは行かない現実があります。

 

Aさんもそんな現実に縛られる一人でした。前述の通り、X社には10%ルールなどのテーマ提案促進制度がある一方で、Aさんはその自由を感じていなかったのです。

 

X社の上層部には、おそらく「うちの会社では10%ルールも導入したんだから社員は自由にできるはず」という思いがあっただろうと思います。一般的に制度ってそういうもので、為政者が良かれと思って作るのですが、動いていなくても為政者はそれに気づかないところがあります。ハコモノ行政と似たところがありますね。X社でも同様に制度が機能していなかったのでしょう。Aさんの冒頭の発言につながるのです。

 

2. テーマ創出:Aさんの発言の背景は?

「どういうことですか?」と私が問いかけるとAさんは「色々と提案しても重箱の隅をつつくように色々と言われまして、、、」と言いにくそうに話されました。

 

ここまで聞いて私はAさんの状況が理解できました。Aさんの悩みを一言で言えば説明責任の問題なのです。説明責任とは、何かを実施しようとする時の投資対効果の説明をする責任のことです。実直なAさんは、説明責任を徹底的に果たさなければ新しい提案が通らないと思っていました。

 

しかし、私にはAさんとは異なるイメージが浮かびました。どういうイメージかと言えば、リスクのある投資に慣れていない上司が責任を取らされるのを恐れてしまい「本当に儲かるのか?」などと部下のAさんに詰問しているイメージです。

 

一般的な事例で説明すれば、普通預金しかしたことがない人が初めて株を買う時、という感じでしょうか。「元本が目減りするのでは?」と恐れて買えない人は多いでしょう。それと同じような光景です。

 

私はAさんに質問しました。「それって説明責任をAさんに押し付けていて、Aさんがスタンプラリー(※)しなきゃいけないってことですかね?」と。Aさんは「そうそう、説明責任とスタンプラリー(笑)。それです」と膝を打ったのです。スタンプラリー…稟議申請のハンコを得るために役員行脚すること

 

そう聞いて私は「なるほどな」と思いました、というのも、こういう話は本当によくあるのです。

 

普通預金と株の話に戻ります。お金を増やすという目的に対して、手段は株式投資での運用があります。普通預金は増えないですから手段たり得ないです。あくまでも手段は株式投資なのですが、その検討をするのに預金同様に「元本割れのリスクがないか?」と言っていてはどうでしょうか?買える株などありませんよね?

 

既存事業はリスクも低いですがリターンも低い、まるで普通預金のようです。一方、新規事業は株式投資のようにリスクがつきもの。新規事業への投資を判断するときに「リスクがないか?」と探せばあるに決まっています。リスクの存在を理由に投資しないのであれば、そもそも新規事業などしなければ良いのです。

 

3. テーマ創出:説明責任を求める上司への対処は?

Aさんの立場を考えてみましょう。Aさんはテーマを提案するので、言い換えればリスクのある投資を提案しなければならないのです。それに対して、提案を聞く承認者が「リスクはないのか?」と重箱の隅をつつくのです。

 

おかしいですよね?リスクのない投資などあるはずはないのに、承認者がリスクを嫌うわけですから。

 

話はお金に戻りますが、一般論として普通預金しかしてこなかった人が株を平気で買えるようになるには時間がかかります。同様に、既存事業の判断しかしてこなかった人が新規事業の判断をするには時間がかかるのです。性格的な向き不向きもあるでしょう。

 

Aさんの環境は、承認者が不慣れな状態だったのです。あるいは承認者の性格が新規事業に向かない方だったのかも知れません。そんな承認者に対する対応策が求められた打ち合わせでしたが、正直言って私には解はありませんでした。

 

時間が許すならば承認者が慣れてくれるまで待つことができますが、時間が許さないならば承認者を(人を)替えることことしか思いつきません。

 

私はAさんに言いました「説明責任とスタンプラリーが下に押し付けられた構図は人が替わらないと変わりません。待つしかないですね」と。そうすると、Aさんは溜飲を下げたようでした「ですよね」と返事をされました。

 

さて、Aさんの状況を読んでどのように思われたでしょうか?私が言いたいのは、リスクのある判断ができる人を承認者にするべきである、というものです。リスクのある判断が出来る人とは「部下に期待される人」と言いかえることもできます。

 

Aさんは明らかに上司に期待していませんでした。反対解釈して、Aさんに期待されるような人は「リスクのある判断ができる人」とも言えるでしょう。説明責任を下に押し付けスタンプラリーに奔走させることは、部下に期待されない人です。そんな人は、説明責任を押し付けたままであることに気づかないでしょう。ひどい場合には「部下が提案しないのが悪い」と居直ってしまうと思います。

 

新規事業を試みる皆さん、テーマ提案が起こらないと思っておられるとすれば、どうぞ多角的に分析してください。10%ルールのように、新規事業を促進する制度があったとしても、必ずしも仕組みが回っていかないことがあります。それはAさんの事例から見て明らかです。

 

次回に続きます。

【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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