【2分でわかる】フレキシキュリティ(Flexicurity)

投稿日

フレキシキュリティ

 

日本において非正規雇用が増え、正規雇用との格差が社会問題化しているためフレキシキュリティが注目されています。従来のフルタイムの正規雇用労働者と非正規労働者の間の平等待遇が定着しているオランダでは、ワークシェアリングだけではなく、フレキシキュリティ政策に関心が寄せられています。

 

1970~80年代には会社が社員に福祉を保障する日本型モデルが注目されましたが、バブル崩壊で日本が失速し、長期不況に入ると、ワークシェアリングが注目されました。しかし、ワークシェアリングはその後の景気回復とともにワークライフバランスへ変遷しました。そして、現在は、フレキシキュリティに注目が集まるようになっています。


今回は、このフレキシキュリティの概要を解説します。

 

1. デンマークがモデルと言われるフレキシキュリティとは

柔軟性(flexibility)と安定性(security)を結合させた造語がフレキシキュリティです。基本的な考え方は、労働市場の柔軟性と、所得・雇用の安定性という一見、相反する概念を対立的でなく相互に促進するということです。この仕組みでは、企業が簡単に従業員を解雇できる一方で、失業者は最低限の生活が保障されるという社会システムが実現されます。

 

フレキシキュリティ政策とは、次の3つを相互連携した雇用政策です。

 

  • ①柔軟な労働市場:解雇や転職が容易
  • ②厚い失業保障 :失業手当は失業前の収入に比べてあまり減少しない
  • ③実践的な公的職業訓練:即業訓練と再就職の斡旋

 

これは1990年代にデンマークが先駆けて取り組んだ政策で、デンマーク・モデルと言われます。デンマークがこうした政策を可能としているのは、解雇規制が緩やかで、流動性の高い労働市場という特性から実現出来ています。背景には、正規・非正規雇用における格差も低い点が挙げられます。

 

日本で雇用の安全というと、長期雇用で同じ会社に長く勤務することとされてきました。デンマーク・モデルでは、同じ企業内の雇用保証ではなく、職業訓練と手厚い失業給付を基盤とした、切れ目のない雇用の確保を指していて、これは日本との大きな違いです。日本型雇用システムの労働市場から見ると、真逆とも言える政策です。

 

高福祉国家のデンマークは、国民負担も大きく、国民負担率は63%にものぼりますが、柔軟な労働市場が整備されて実践的な公的訓練を受けることができ、成長産業に労働力を移動することも実現しやすくなります。そこに、手厚い失業給付で生活が守られれば、経済的にも精神的にも安心できます。

 

2.なぜフレキシキュリティが重要視されているのか

フレキシキュリティが重要視されている背景は日本の少子高齢化です。近年では。長期的視点で個々のキャリアを意識して向き合い、同じ会社に生涯勤めるという考え方は変わってきており、長期的な視点でキャリアアップ、スキル向上を検討する方が増えていると考えます。生産年齢人口の減少による経済の縮小や人手不足を抑え、自分らしく働く社会を一人ひとりが実現するために重要視されているのがフレキシキュリティです。雇用流動化を促すフレィシキュリティで、一人ひとりの生産性を高めることが期待できるでしょう。

 

3.フレキシキュリティの効果

フレキシキュリティは、企業にとっても従業員にとっても多くのメリットをもたらします。

 

(1)自分らしく新たな働く環境を実現

地方へ移住して家事と仕事を両立させて働く人が増加しています。このような現状で、個々のプライベートな事情と照らして、新たな仕事環境を手に入れたいと考える人も多いでしょう。フレキシキュリティが浸透すれば、失業中も困ることはなく、転職活動を進めることができます。フレキシキュリティにより、個人が次のキャリアに踏み出しやすくなるのです。そして、自分らしく働く社会の実現するのです。

 

(2)個々のモチベーションアップから経済成長を促す

終身雇用制度は、入社してから定年まで同じ会社での安定雇用を保障してきました。しかしこの制度では、社内でのキャリアアップやスキル向上は見込めましたが、社外でも通用するキャリア/スキルの育成が困難で、転身への軌道修正を阻んでいました。高度成長期に確立した日本的雇用慣行ではそもそも、労働流動性を確保することを想定していません。現に終身雇用制度は崩壊しつつあり、誰もがキャリアアッ...

フレキシキュリティ

 

日本において非正規雇用が増え、正規雇用との格差が社会問題化しているためフレキシキュリティが注目されています。従来のフルタイムの正規雇用労働者と非正規労働者の間の平等待遇が定着しているオランダでは、ワークシェアリングだけではなく、フレキシキュリティ政策に関心が寄せられています。

 

1970~80年代には会社が社員に福祉を保障する日本型モデルが注目されましたが、バブル崩壊で日本が失速し、長期不況に入ると、ワークシェアリングが注目されました。しかし、ワークシェアリングはその後の景気回復とともにワークライフバランスへ変遷しました。そして、現在は、フレキシキュリティに注目が集まるようになっています。


今回は、このフレキシキュリティの概要を解説します。

 

1. デンマークがモデルと言われるフレキシキュリティとは

柔軟性(flexibility)と安定性(security)を結合させた造語がフレキシキュリティです。基本的な考え方は、労働市場の柔軟性と、所得・雇用の安定性という一見、相反する概念を対立的でなく相互に促進するということです。この仕組みでは、企業が簡単に従業員を解雇できる一方で、失業者は最低限の生活が保障されるという社会システムが実現されます。

 

フレキシキュリティ政策とは、次の3つを相互連携した雇用政策です。

 

  • ①柔軟な労働市場:解雇や転職が容易
  • ②厚い失業保障 :失業手当は失業前の収入に比べてあまり減少しない
  • ③実践的な公的職業訓練:即業訓練と再就職の斡旋

 

これは1990年代にデンマークが先駆けて取り組んだ政策で、デンマーク・モデルと言われます。デンマークがこうした政策を可能としているのは、解雇規制が緩やかで、流動性の高い労働市場という特性から実現出来ています。背景には、正規・非正規雇用における格差も低い点が挙げられます。

 

日本で雇用の安全というと、長期雇用で同じ会社に長く勤務することとされてきました。デンマーク・モデルでは、同じ企業内の雇用保証ではなく、職業訓練と手厚い失業給付を基盤とした、切れ目のない雇用の確保を指していて、これは日本との大きな違いです。日本型雇用システムの労働市場から見ると、真逆とも言える政策です。

 

高福祉国家のデンマークは、国民負担も大きく、国民負担率は63%にものぼりますが、柔軟な労働市場が整備されて実践的な公的訓練を受けることができ、成長産業に労働力を移動することも実現しやすくなります。そこに、手厚い失業給付で生活が守られれば、経済的にも精神的にも安心できます。

 

2.なぜフレキシキュリティが重要視されているのか

フレキシキュリティが重要視されている背景は日本の少子高齢化です。近年では。長期的視点で個々のキャリアを意識して向き合い、同じ会社に生涯勤めるという考え方は変わってきており、長期的な視点でキャリアアップ、スキル向上を検討する方が増えていると考えます。生産年齢人口の減少による経済の縮小や人手不足を抑え、自分らしく働く社会を一人ひとりが実現するために重要視されているのがフレキシキュリティです。雇用流動化を促すフレィシキュリティで、一人ひとりの生産性を高めることが期待できるでしょう。

 

3.フレキシキュリティの効果

フレキシキュリティは、企業にとっても従業員にとっても多くのメリットをもたらします。

 

(1)自分らしく新たな働く環境を実現

地方へ移住して家事と仕事を両立させて働く人が増加しています。このような現状で、個々のプライベートな事情と照らして、新たな仕事環境を手に入れたいと考える人も多いでしょう。フレキシキュリティが浸透すれば、失業中も困ることはなく、転職活動を進めることができます。フレキシキュリティにより、個人が次のキャリアに踏み出しやすくなるのです。そして、自分らしく働く社会の実現するのです。

 

(2)個々のモチベーションアップから経済成長を促す

終身雇用制度は、入社してから定年まで同じ会社での安定雇用を保障してきました。しかしこの制度では、社内でのキャリアアップやスキル向上は見込めましたが、社外でも通用するキャリア/スキルの育成が困難で、転身への軌道修正を阻んでいました。高度成長期に確立した日本的雇用慣行ではそもそも、労働流動性を確保することを想定していません。現に終身雇用制度は崩壊しつつあり、誰もがキャリアアップを長期的に考えた転職を前向きに考えるようになりました。雇用の流動性の高まりは、一人ひとりのモチベーションアップにつながり、それが経済成長に繋がることが期待できます。フレキシキュリティの浸透は経済の成長が促されます。

 

(3)効果的な職業訓練の実施で失業率の改善

フレキシキュリティでは失業手当や再就職などの労働者保護に力を入れています。失業中に失業手当を給付するだけでなく、時代が求める職業訓練の実施や転職するまでの支援を手厚く行うため、失業率を改善することができるのです。一方で失業者も教育に参加するという義務を負わされます。フレキシキュリティは、雇用の規制を緩和するため一時的に失業率を高めてしまう心配が生じるかもしれません。しかし、長期的にみればフレキシキュリティは失業率の改善に役立ちます。中長期的には個々が自分らしく働くことができる社会の形成につながります。

 

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

山寺 哲二

現場・担当者に密着した活動を旨とし、「ECRSによる改善活動」により、経営改善・人財育成をサポートします。

現場・担当者に密着した活動を旨とし、「ECRSによる改善活動」により、経営改善・人財育成をサポートします。


「人的資源マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
技術士第二次試験対策:解答を事前に考える 【連載記事紹介】

  連載記事「技術士第二次試験対策:解答を事前に考える」が無料でお読みいただけます!   ◆解答を事前に考えるとは 平成2...

  連載記事「技術士第二次試験対策:解答を事前に考える」が無料でお読みいただけます!   ◆解答を事前に考えるとは 平成2...


現場リーダーが作業から離れてみると見えることとは

1.現場リーダーと作業効率  数名の部下を持つ「現場リーダー」(主任、班長、など呼び方は会社によって様々)が、現場の作業に入っている工場は少なくありませ...

1.現場リーダーと作業効率  数名の部下を持つ「現場リーダー」(主任、班長、など呼び方は会社によって様々)が、現場の作業に入っている工場は少なくありませ...


中国工場の実状を知る、管理者について 中国工場の品質改善(その10)

  【第2章 中国工場の実状を知る】  前回のその9に続いて解説します。   【管理者】  ここで言う管理者とは、呼び方...

  【第2章 中国工場の実状を知る】  前回のその9に続いて解説します。   【管理者】  ここで言う管理者とは、呼び方...


「人的資源マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
人的資源マネジメント:実行力の鍛え方 (その1)

 やろうと思っているけどできないことって実はたくさんあります。私もそうですし、コーチングでもよくあるテーマのひとつです。今回は、こんなときどうしたらいいの...

 やろうと思っているけどできないことって実はたくさんあります。私もそうですし、コーチングでもよくあるテーマのひとつです。今回は、こんなときどうしたらいいの...


人的資源マネジメント:やる気の見える化(その2)

 技術者はもとより管理者も含めた現場のレベルアップが話題になることが多くなったと感じます。受注したい案件や契約はあるのに、現場がいっぱいいっぱいで受けるこ...

 技術者はもとより管理者も含めた現場のレベルアップが話題になることが多くなったと感じます。受注したい案件や契約はあるのに、現場がいっぱいいっぱいで受けるこ...


ものづくりの人材獲得について

        今回は、若くて優秀な人材を獲得する方法、そして採用した新人を早く戦力化する方法について解説し...

        今回は、若くて優秀な人材を獲得する方法、そして採用した新人を早く戦力化する方法について解説し...