関係性の種類、並列とは 普通の組織をイノベーティブにする処方箋(その96)

更新日

投稿日

技術マネジメント

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。今回は、下記(5)の並列について解説します。

1. 関係性の種類

 それでは、要素の間にはどのような関係性の種類があるのでしょうか?

(1) 原因と結果

 関係性で誰でもすぐ気が付くものに、原因と結果があります。ある要素が他の要素を生み出すという関係です。

(2) 影響を与える

 原因と結果のようにある要素が他の要素を生み出すというまでの強い関係ではなく、前者が後者になんらかの影響を当える関係も存在します。

(3) 包含

 ある要素が他のより大きな要素の一部になっている、すなわち包含されているという関係です。

(4) 重複(一部を共有)

 ある要素とある要素が完全に独立しておらず、一部を共有しているような関係です。

(5) 並列

 なんらかの関係性の全体の構造の中で、同じ位置付けであり、かつ両者間には重複はなく独立している関係です。

 

2.「並列」とは、相関関係はあるが因果関係がない関係

 「並列」という言葉だけでは分かりづらいと思いますが、ここでは「相関関係はあるが因果関係がない」関係を意味するものとしています。つまり、2つのことは、相関関係があるので一つが変わると、もう一つも変わることが観察されますが、お互いは原因と結果の関係にはない状態をいっています。

 

●「並列」の問題点

 この「並列」の関係において重要なことは、相関関係があるがために、因果関係があると誤って認識してしまうことがあります。

 2020年から世界中で新型コロナが蔓延(まんえん)し、日本でも大きな社会問題となっています。その結果、外食が控えられ、家で食事をとる生活環境になっています。また、多くの人たちが運動不足からコロナ太りになっています。

 仮に家で食事をするようになっていることと、皆が太ったという結果だけが観察されると、仮に新型コロナが原因なのかどうか分かっていないとした場合、家で食事をするようになった「ので」、皆が太ったと理解されてしまうことは十分あり得ます。すなわち、両者には因果関係があると誤って認識してしまうということです。 

●「並列」の問題の原因:人間の脳のシステム1

 このような問題は人間の頭脳では、起こりやすいことが、心理学の研究などで分かっています。

 人間の頭脳は情報が不足している状況では、無意識のうちに自分の推測能力や過去の経験をフルに活用して、勝手に一見つじつまが合っているようなストーリー、すなわち仮想の因果関係を作り上げてしまうようにできています。これは行動経済学でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンの言う「脳のシステム1」の機能によるものです。

 「システム1」は生存のための機能で、人間だけではなく、動物一般にみられる機能です。それは、瞬時に状況の把握を行い、原因を認定し、それに即座に対応し生き残る行動をとるためのものです。

 しかし「システム1」は、生存のために即時性を重視するがゆえに、時に状況を見誤るという問題を起こします。その問題の一つ...

技術マネジメント

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。今回は、下記(5)の並列について解説します。

1. 関係性の種類

 それでは、要素の間にはどのような関係性の種類があるのでしょうか?

(1) 原因と結果

 関係性で誰でもすぐ気が付くものに、原因と結果があります。ある要素が他の要素を生み出すという関係です。

(2) 影響を与える

 原因と結果のようにある要素が他の要素を生み出すというまでの強い関係ではなく、前者が後者になんらかの影響を当える関係も存在します。

(3) 包含

 ある要素が他のより大きな要素の一部になっている、すなわち包含されているという関係です。

(4) 重複(一部を共有)

 ある要素とある要素が完全に独立しておらず、一部を共有しているような関係です。

(5) 並列

 なんらかの関係性の全体の構造の中で、同じ位置付けであり、かつ両者間には重複はなく独立している関係です。

 

2.「並列」とは、相関関係はあるが因果関係がない関係

 「並列」という言葉だけでは分かりづらいと思いますが、ここでは「相関関係はあるが因果関係がない」関係を意味するものとしています。つまり、2つのことは、相関関係があるので一つが変わると、もう一つも変わることが観察されますが、お互いは原因と結果の関係にはない状態をいっています。

 

●「並列」の問題点

 この「並列」の関係において重要なことは、相関関係があるがために、因果関係があると誤って認識してしまうことがあります。

 2020年から世界中で新型コロナが蔓延(まんえん)し、日本でも大きな社会問題となっています。その結果、外食が控えられ、家で食事をとる生活環境になっています。また、多くの人たちが運動不足からコロナ太りになっています。

 仮に家で食事をするようになっていることと、皆が太ったという結果だけが観察されると、仮に新型コロナが原因なのかどうか分かっていないとした場合、家で食事をするようになった「ので」、皆が太ったと理解されてしまうことは十分あり得ます。すなわち、両者には因果関係があると誤って認識してしまうということです。 

●「並列」の問題の原因:人間の脳のシステム1

 このような問題は人間の頭脳では、起こりやすいことが、心理学の研究などで分かっています。

 人間の頭脳は情報が不足している状況では、無意識のうちに自分の推測能力や過去の経験をフルに活用して、勝手に一見つじつまが合っているようなストーリー、すなわち仮想の因果関係を作り上げてしまうようにできています。これは行動経済学でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンの言う「脳のシステム1」の機能によるものです。

 「システム1」は生存のための機能で、人間だけではなく、動物一般にみられる機能です。それは、瞬時に状況の把握を行い、原因を認定し、それに即座に対応し生き残る行動をとるためのものです。

 しかし「システム1」は、生存のために即時性を重視するがゆえに、時に状況を見誤るという問題を起こします。その問題の一つに、ここで議論をしている相関関係があるものを見るとそこに因果関係を見出してしまうという問題があります(一方で「システム2」は、理性脳ともいわれ、反応が遅いのですが論理的な思考をする人間固有の機能です)。

● 問題への対処策

 この問題への対処策は、人間の脳はこの問題を起こすようにできていることを理解した上で、できるだけ認識された因果関係を疑ってみるということです。

 根本的な対処策としては、一見因果関係があると思われることを「システム2」を使って考えてみたら違ったという経験を数多くする(つまり日頃からよく考えるということをする)ことで、それを「システム1」の前提となる経験に組み込むことがあります。

 次回に続きます。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
夢商品開発七つ道具の総括 【快年童子の豆鉄砲】(その55)

  1.夢商品開発七つ道具の総括 「夢商品開発七つ道具(Y7)」の説明をしてきましたが、開発理念が共通することから「創造的魅力商品開発七...

  1.夢商品開発七つ道具の総括 「夢商品開発七つ道具(Y7)」の説明をしてきましたが、開発理念が共通することから「創造的魅力商品開発七...


腹落ちする戦略への近道とは 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その58)

◆ ありたい姿は自分ごとにする 1. 腹落ちしない戦略  事業戦略や技術戦略のコンサルティングを行う中で次のようなケースに出会います。  時間を...

◆ ありたい姿は自分ごとにする 1. 腹落ちしない戦略  事業戦略や技術戦略のコンサルティングを行う中で次のようなケースに出会います。  時間を...


新しい挑戦はハードルを下げる 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その68)

1、モチベーションを失うケース  先日、開発リーダーをされている方からこんな相談を受けました。「自由な発想で新規事業の開発をしてくれ!というオーダー...

1、モチベーションを失うケース  先日、開発リーダーをされている方からこんな相談を受けました。「自由な発想で新規事業の開発をしてくれ!というオーダー...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
製品開発部へのカンバン導入記(その1)

        最近ビジネスの世界では、カンバンを使ってプロジェクトを管理しようとする動きがとても強いようで...

        最近ビジネスの世界では、カンバンを使ってプロジェクトを管理しようとする動きがとても強いようで...


新技術の特長活かした新規事業機会創出に向けて

※イメージ画像   1. 電子部品業界を牽引 ~ リバーエレテック社  今回は水晶振動子や水晶発振器を中心に業界のリーディングカンパニー...

※イメージ画像   1. 電子部品業界を牽引 ~ リバーエレテック社  今回は水晶振動子や水晶発振器を中心に業界のリーディングカンパニー...


羽のない扇風機が創られた時の目標設定、横並び競争と何が違うのか?

【目次】 1. 福原流QFDは技術者の創造性を引き出す技法 私も含めて我々技術者の思考は知らず知らずにうちに技術手段のHOWを考え...

【目次】 1. 福原流QFDは技術者の創造性を引き出す技法 私も含めて我々技術者の思考は知らず知らずにうちに技術手段のHOWを考え...