商品力の強化と商品開発の方向性 (その5)

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【商品力の強化と商品開発の方向性 連載目次】

 

 前回の商品開発の方向性・着眼点に続いて、今回は、顧客満足を得る商品企画を解説します。
 

1. 顧客満足(CS)とは

 

1.1 顧客満足とその生い立ち

 
  「顧客満足」は、消費者は満足のいく物を購入するという考えに基づき、マーケティング分野において購買に関し、顧客が満足することを言います。 また、「顧客満足度」とは満足の度合いをある尺度や数値で示すことで、顧客満足度が高いとか、顧客満足度が85%などと表現します。 顧客満足は、1980 年代のアメリカで生まれた Customer satisfaction(CS)の訳語で、 マーケティングの世界で大きな変化となった象徴的な言葉です。 それまでのマーケティングのコンセプトは生産志向、製品志向が強くメーカーの立場で良いと考えるものを市場に出せば売れるとされていました。しかし、市場、顧客のニーズ(必要としているもの)やウォンツ(欲求)をつきとめ、それを 満たす商品、即ち顧客満足を得られる商品を市場に提供することに大きく変化したのです。
 

1.2 顧客満足の重要性

 
 市場や顧客のニーズをつきとめるマーケティングは、さらに潮流の変化があります。「顧客創造の重視」から「顧客維持の重視」への変化です。 広い市場や大勢の消費者から、新規の顧客に買ってもらうことは簡単と考えていた時期があり、それが顧客創造ですが、物や情報があふれる現在では、消費者のニーズも千差万別で、 購入いただく顧客(新規顧客)を開拓するのが非常に難しいのです。また、新規顧客を見出すためには、人手や資金が必要で、時間もかかります。 そのため、一度購入してもらった顧客または興味を示した顧客(既存・見込顧客)に、長く 自社の顧客となってもらった方が、新規顧客を開拓するより、はるかに効率が良く、楽なの です。 したがって現在は、顧客を維持することがマーケティングの主流となっており、そのために、 商品やサービスを改善し、既存顧客に満足いただくようにすることが重要ととらえているの です。
 

1.3 ISO9001における顧客満足

 
  ISO9001は品質マネジメントシステムに関する国際規格で、「品質保証を含む顧客満足度の向上」を目的としています。 ISO9001は、世界中の主要な国で、自国に適用する規格として採用されています。 ISO9001が規定する品質マネジメントシステムに適合していると認証登録する制度が あり、日本でも多くの企業が認証を受けています。 ISO9001では、顧客満足に関わる事項を、次のように示していて、顧客満足の重要性を 述べています。
 
① 経営者の責任として、顧客満足度の向上を目指し、顧客要求事項が満たされるようにすること。
② 運用においては、顧客の要求事項を明確にし、製品を計画、設計、製造し、ISO9001の 要求事項が盛り込まれ、実施されること。
③ 顧客とのコミュニケーションを図ること。
 
(注)①~③は本稿の説明として理解しやすいように規格の主旨を示したものであり、 規格の条項そのものではありません。
 

2. 商品企画

 
 顧客満足を得るための商品を創造し、実現するためにはどうすればよいでしょうか? マーケティングを行い、標的市場を選択し、そこに投入する製品のポジショニングを決め、 製品を開発するという流れになります。 この流れに沿って、商品を世に出すストーリーと計画が「商品企画」なのです。
 

2.1 マーケティングと製品開発

 
 商品化にあたり、マーケティングを行い、戦略をたてます。 マーケティングと戦略については、専門書を参考としていただきたいのですが、ここでは、概略を説明します。
 

① マーケティング

 

  自社の市場における機会と脅威を整理し、戦略課題を明確にすることが目的です。 実施事項としては、市場環境の分析(経済、地域、流行など)、環境に対する自社の機会と外部からの脅威(経済環境や競合動きなど)を明らかし、自社の強みを伸ばし弱みを強みに 変えるための課題を、商流、技術、経営資源(人、モノ、カネ、情報、しくみ)の観点から整理することです。
 

② 市場細分化と標的の選定

 

  例えば、自動車の市場を考えてみると、家族で利用する車、デートのドライブに使う車、 荷物を運ぶ車など様々な目的・用途があります。 これらの目的・用途(ここではニーズ)の全てに対応できる自動車を実現したり、万人に対しセールスすることはいずれも困難なので、自動車の市場を細分化し、狙いの標的市場を設定するのです。
 

③ 製品のポジショニングと製品開発

 

 顧客が購入時にその製品を選択した理由は、次の2つのいずれかです。1つは、類似製品の中で最も良いと判断し場合、もう1つは、市場にその製品しかないという場合です。 売り手からすると、前者は他製品との競争に勝ったと言えるし、後者は競争を回避したと言えます。自動車の車庫入れが不得意なドライバーさんは少なくないですが、そこを標的市場として、駐車場の前に止まってボタンを押すと自動誘導してくれる自動車を 製品化した車が購入されるようになってきています。 これが、製品のポジショニングです。(現在では、自動運転機能が付加されている車が主流になっています。)
 

④ 顧客満足と顧客要求事項

 

 標的市場における顧客の要求事項を明確にすることが、顧客満足への第1歩です。 なぜなら、顧客要求事項が、製品の機能や性能の目標や基準値になり、それらを実現できる製品を開発し製品化することになるからです。しかし、その要求事項を明らかにすることは、決して簡単なことではありませんが、以下に示す情報源の例から要求事項を得ることができます。問合せやクレームが大きなヒントになることも少なくないので、重要データとして所持して おくことをお薦めします。

 
1)市場情報 : 販売店、代理店、営業マン
2)製品情報 : 問合せ、クレーム、トラブル
3)顧客情報 : アンケート調査、サンプル調査 
 

2.2 品質機能展開

商品開発
 品質機能展開とは、図のように要求品質(要求事項)から製品の部品までを科学的に展開する手法です。 
 
 要求品質(要求事項)と製品の機能をマトリックス(マス目の縦軸、横軸に機能特性を表示 する)にし、展開した特性に対し規格値(=基準値)を設定し、製品の骨格を決めます。 特性とその基準値をもとに、製品を構成するユニットや部品の仕様を決定していくのです。 この手法を利用すると、要求事項を活かした製品開発を実行することができるのです。 詳細は市販の書籍...

 

【商品力の強化と商品開発の方向性 連載目次】

 

 前回の商品開発の方向性・着眼点に続いて、今回は、顧客満足を得る商品企画を解説します。
 

1. 顧客満足(CS)とは

 

1.1 顧客満足とその生い立ち

 
  「顧客満足」は、消費者は満足のいく物を購入するという考えに基づき、マーケティング分野において購買に関し、顧客が満足することを言います。 また、「顧客満足度」とは満足の度合いをある尺度や数値で示すことで、顧客満足度が高いとか、顧客満足度が85%などと表現します。 顧客満足は、1980 年代のアメリカで生まれた Customer satisfaction(CS)の訳語で、 マーケティングの世界で大きな変化となった象徴的な言葉です。 それまでのマーケティングのコンセプトは生産志向、製品志向が強くメーカーの立場で良いと考えるものを市場に出せば売れるとされていました。しかし、市場、顧客のニーズ(必要としているもの)やウォンツ(欲求)をつきとめ、それを 満たす商品、即ち顧客満足を得られる商品を市場に提供することに大きく変化したのです。
 

1.2 顧客満足の重要性

 
 市場や顧客のニーズをつきとめるマーケティングは、さらに潮流の変化があります。「顧客創造の重視」から「顧客維持の重視」への変化です。 広い市場や大勢の消費者から、新規の顧客に買ってもらうことは簡単と考えていた時期があり、それが顧客創造ですが、物や情報があふれる現在では、消費者のニーズも千差万別で、 購入いただく顧客(新規顧客)を開拓するのが非常に難しいのです。また、新規顧客を見出すためには、人手や資金が必要で、時間もかかります。 そのため、一度購入してもらった顧客または興味を示した顧客(既存・見込顧客)に、長く 自社の顧客となってもらった方が、新規顧客を開拓するより、はるかに効率が良く、楽なの です。 したがって現在は、顧客を維持することがマーケティングの主流となっており、そのために、 商品やサービスを改善し、既存顧客に満足いただくようにすることが重要ととらえているの です。
 

1.3 ISO9001における顧客満足

 
  ISO9001は品質マネジメントシステムに関する国際規格で、「品質保証を含む顧客満足度の向上」を目的としています。 ISO9001は、世界中の主要な国で、自国に適用する規格として採用されています。 ISO9001が規定する品質マネジメントシステムに適合していると認証登録する制度が あり、日本でも多くの企業が認証を受けています。 ISO9001では、顧客満足に関わる事項を、次のように示していて、顧客満足の重要性を 述べています。
 
① 経営者の責任として、顧客満足度の向上を目指し、顧客要求事項が満たされるようにすること。
② 運用においては、顧客の要求事項を明確にし、製品を計画、設計、製造し、ISO9001の 要求事項が盛り込まれ、実施されること。
③ 顧客とのコミュニケーションを図ること。
 
(注)①~③は本稿の説明として理解しやすいように規格の主旨を示したものであり、 規格の条項そのものではありません。
 

2. 商品企画

 
 顧客満足を得るための商品を創造し、実現するためにはどうすればよいでしょうか? マーケティングを行い、標的市場を選択し、そこに投入する製品のポジショニングを決め、 製品を開発するという流れになります。 この流れに沿って、商品を世に出すストーリーと計画が「商品企画」なのです。
 

2.1 マーケティングと製品開発

 
 商品化にあたり、マーケティングを行い、戦略をたてます。 マーケティングと戦略については、専門書を参考としていただきたいのですが、ここでは、概略を説明します。
 

① マーケティング

 

  自社の市場における機会と脅威を整理し、戦略課題を明確にすることが目的です。 実施事項としては、市場環境の分析(経済、地域、流行など)、環境に対する自社の機会と外部からの脅威(経済環境や競合動きなど)を明らかし、自社の強みを伸ばし弱みを強みに 変えるための課題を、商流、技術、経営資源(人、モノ、カネ、情報、しくみ)の観点から整理することです。
 

② 市場細分化と標的の選定

 

  例えば、自動車の市場を考えてみると、家族で利用する車、デートのドライブに使う車、 荷物を運ぶ車など様々な目的・用途があります。 これらの目的・用途(ここではニーズ)の全てに対応できる自動車を実現したり、万人に対しセールスすることはいずれも困難なので、自動車の市場を細分化し、狙いの標的市場を設定するのです。
 

③ 製品のポジショニングと製品開発

 

 顧客が購入時にその製品を選択した理由は、次の2つのいずれかです。1つは、類似製品の中で最も良いと判断し場合、もう1つは、市場にその製品しかないという場合です。 売り手からすると、前者は他製品との競争に勝ったと言えるし、後者は競争を回避したと言えます。自動車の車庫入れが不得意なドライバーさんは少なくないですが、そこを標的市場として、駐車場の前に止まってボタンを押すと自動誘導してくれる自動車を 製品化した車が購入されるようになってきています。 これが、製品のポジショニングです。(現在では、自動運転機能が付加されている車が主流になっています。)
 

④ 顧客満足と顧客要求事項

 

 標的市場における顧客の要求事項を明確にすることが、顧客満足への第1歩です。 なぜなら、顧客要求事項が、製品の機能や性能の目標や基準値になり、それらを実現できる製品を開発し製品化することになるからです。しかし、その要求事項を明らかにすることは、決して簡単なことではありませんが、以下に示す情報源の例から要求事項を得ることができます。問合せやクレームが大きなヒントになることも少なくないので、重要データとして所持して おくことをお薦めします。

 
1)市場情報 : 販売店、代理店、営業マン
2)製品情報 : 問合せ、クレーム、トラブル
3)顧客情報 : アンケート調査、サンプル調査 
 

2.2 品質機能展開

商品開発
 品質機能展開とは、図のように要求品質(要求事項)から製品の部品までを科学的に展開する手法です。 
 
 要求品質(要求事項)と製品の機能をマトリックス(マス目の縦軸、横軸に機能特性を表示 する)にし、展開した特性に対し規格値(=基準値)を設定し、製品の骨格を決めます。 特性とその基準値をもとに、製品を構成するユニットや部品の仕様を決定していくのです。 この手法を利用すると、要求事項を活かした製品開発を実行することができるのです。 詳細は市販の書籍やセミナーを参考にしてください。
 

3. 顧客満足を得る商品の実現

 

 顧客満足と商品企画について説明してきましたが、実現に当たり重要なポイントを説明します。
 

3.1 顧客の立場、視点

 

 顧客の要求事項をまとめる際は、顧客の立場と視点で整理するとよいのです。 当たり前のことのようですが、顧客の視点でまとめるのは、結構難しいことなのです。 運転に自信のある者は、車庫入れが不得意である者を発見できなかったり、何故不得意なのかわからないものです。 某デパートでは売場のことを“買い場”と呼ぶそうです。そこまで徹底する努力と工夫が必要になります。
 

3.2 仮説と検証を繰り返す(テストマーケティングと PDCA)

 
 マーケティングの世界では、仮説を立て、それを検証するということを繰り返し行います。それを PDCAサイクルで回していくと良いのです。 仮説を立て(Plan)、それを実行し(Do)、結果を検証して(Check)、対策を立てる(Act)というサイクルです。 初めから100%を狙わず、タイミング良く繰り返し実行して 100%に近づけていくことをお薦めします。
 
 次回は、品質第一の商品企画を解説します。
 
 

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この記事の著者

石川  昌平

(株)I&C・HosBizセンターの連絡窓口です

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