海外工場支援者のための「物流指導7つ道具」(その8)

更新日

投稿日

第8回 道具5「物流評価シート」(下)

前回のその7に続いて解説します。

1.海外工場の物流設計評価シート

 
 海外で工場を建設する際には、これから経費として日々発生する物流費が極力少なくなるように物流設計をする必要があります。図1のように、この評価シートは工場の物流設計を行う際に活用すべき評価シートという位置づけになります。物流設計のポイントは「物流を発生させない」「物流が発生してもそれが極小化されている」の2点と考えられます。そこで次のような評価項目を入れることが必要になります。2つほど例を挙げます。
 
                                              物流
図1.物流設計評価項目(例)
 

(1)工程間運搬ゼロ部品比率

 
 この項目では工程間を運搬しなければならない部品をゼロにするために設定するものです。工程間は直結することで運搬を無くすことができ、一方、工程間運搬があることが前提の場合、物流費が延々と発生し続けるので注意が必要です。
 

(2)手押し台車運搬部品比率

 
 工程間運搬が発生してしまう場合でも、それが極小化されていれば物流費は小さくて済むでしょう。そこでフォークリフトや連結牽引台車による「大きな運搬」ではなく、手押し台車で運搬できる程度の「小さな運搬」にとどめたいものです。距離のイメージは10m以内と考えましょう。
 

2.日々の物流業務評価シート

 
 工場が無事立ち上がりオペレーションがスタートした後は、図2の例のように、日々発生する物流業務を評価できる項目を設定してチェックしてきます。ここでも2つほど例を挙げます。
 
                                            物流
    図2.日々の物流業務評価項目(例)
 

(1)容器レス供給比率

 
 構内物流の重要機能に「供給作業」があります。供給作業のポイントは生産ライン作業者に部品だけをタイムリーに渡すことです。つまり輸送や運搬のために容器に入れられている部品は物流側で容器から取り出し、使う順番でラインサイドに並べて供給することが求められます。これが実現できている部品比率がどれくらいかを示すための指標を設定し、この比率を高めることで生産ライン作業者の効率と品質向上に寄与していきます。
 

(2)生産統制実施工程比率

 
 構内物流は工程で使う部品と完成品を入れる容器、そして生産指示情報を生産ラインに届けることで工場の生産統制を行うことが可能です。部品も容器も生産計画に見合った必要数だけをタイムリーに生産ラインに届けることがどこまでできているかを把握します。そしてこの比率を高めていくことで、つくりすぎのムダを排除し、工場の秩序ある生産に寄与することを目指していきましょう。
 

3、物流会社の評価シート

 
 海外では構内物流や輸送業務をアウトソースすることが一般的だと考えられます。物流会社がしっかりと物流をマネジメントできない場合には工場の生産にも悪影響を及ぼす可能性があります。そこで、図3の例のように物流会社を評価し、是正すべき点は指導していくことが海外支援者のタスクです。物流会社評価についても2つほど例を挙げます。
 
                                                 物流設計
   図3.物流会社評価項目(例)
 

(1)トラック定時運行比率

 
 輸送会社にトラック輸送を委託する場合、そのトラックが指定された時刻通りに運行することが重要になります。この時刻が守られない場合、得意先に迷惑をかけることも想定されるため支援者は、現地スタッフにトラック定時発車・定時到着を評価させるよう指導して下さい。
 

(2)物流改善提案件数

 
 物流業務委託は物流のプロである物流会社にその会社が持つノウハウを提供してもらうという側面があります。つまり単なる業務委託にとどまらず、物流改善につながる提案を物流会社に求めていることになるのです。業務委託費にはこのような提案も含まれているということになるため、常にプロの視点からの改善提案をしてもらい物流効率化に貢献して欲しいところです。そこで物流会社が契約時に約束した改善提案を実施してくれているか否かについてチェックして下さい。
 

4.物流設計評価シートのまとめ

 
 物流評価シートを作成することの成果として各スタッフが物流のポイントを認識する機会になるとともに、改善の糸口も見えてくるようになります。この評価シートはぜひ海外に行かれる前に作成し、工場設計の段階でより良い物流の構築に役立てて下さい。また日常の運用については定期的に評価することで改善点をあぶり出し、よりレベルの高い物流につなげて下さい。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
 
 
...

第8回 道具5「物流評価シート」(下)

前回のその7に続いて解説します。

1.海外工場の物流設計評価シート

 
 海外で工場を建設する際には、これから経費として日々発生する物流費が極力少なくなるように物流設計をする必要があります。図1のように、この評価シートは工場の物流設計を行う際に活用すべき評価シートという位置づけになります。物流設計のポイントは「物流を発生させない」「物流が発生してもそれが極小化されている」の2点と考えられます。そこで次のような評価項目を入れることが必要になります。2つほど例を挙げます。
 
                                              物流
図1.物流設計評価項目(例)
 

(1)工程間運搬ゼロ部品比率

 
 この項目では工程間を運搬しなければならない部品をゼロにするために設定するものです。工程間は直結することで運搬を無くすことができ、一方、工程間運搬があることが前提の場合、物流費が延々と発生し続けるので注意が必要です。
 

(2)手押し台車運搬部品比率

 
 工程間運搬が発生してしまう場合でも、それが極小化されていれば物流費は小さくて済むでしょう。そこでフォークリフトや連結牽引台車による「大きな運搬」ではなく、手押し台車で運搬できる程度の「小さな運搬」にとどめたいものです。距離のイメージは10m以内と考えましょう。
 

2.日々の物流業務評価シート

 
 工場が無事立ち上がりオペレーションがスタートした後は、図2の例のように、日々発生する物流業務を評価できる項目を設定してチェックしてきます。ここでも2つほど例を挙げます。
 
                                            物流
    図2.日々の物流業務評価項目(例)
 

(1)容器レス供給比率

 
 構内物流の重要機能に「供給作業」があります。供給作業のポイントは生産ライン作業者に部品だけをタイムリーに渡すことです。つまり輸送や運搬のために容器に入れられている部品は物流側で容器から取り出し、使う順番でラインサイドに並べて供給することが求められます。これが実現できている部品比率がどれくらいかを示すための指標を設定し、この比率を高めることで生産ライン作業者の効率と品質向上に寄与していきます。
 

(2)生産統制実施工程比率

 
 構内物流は工程で使う部品と完成品を入れる容器、そして生産指示情報を生産ラインに届けることで工場の生産統制を行うことが可能です。部品も容器も生産計画に見合った必要数だけをタイムリーに生産ラインに届けることがどこまでできているかを把握します。そしてこの比率を高めていくことで、つくりすぎのムダを排除し、工場の秩序ある生産に寄与することを目指していきましょう。
 

3、物流会社の評価シート

 
 海外では構内物流や輸送業務をアウトソースすることが一般的だと考えられます。物流会社がしっかりと物流をマネジメントできない場合には工場の生産にも悪影響を及ぼす可能性があります。そこで、図3の例のように物流会社を評価し、是正すべき点は指導していくことが海外支援者のタスクです。物流会社評価についても2つほど例を挙げます。
 
                                                 物流設計
   図3.物流会社評価項目(例)
 

(1)トラック定時運行比率

 
 輸送会社にトラック輸送を委託する場合、そのトラックが指定された時刻通りに運行することが重要になります。この時刻が守られない場合、得意先に迷惑をかけることも想定されるため支援者は、現地スタッフにトラック定時発車・定時到着を評価させるよう指導して下さい。
 

(2)物流改善提案件数

 
 物流業務委託は物流のプロである物流会社にその会社が持つノウハウを提供してもらうという側面があります。つまり単なる業務委託にとどまらず、物流改善につながる提案を物流会社に求めていることになるのです。業務委託費にはこのような提案も含まれているということになるため、常にプロの視点からの改善提案をしてもらい物流効率化に貢献して欲しいところです。そこで物流会社が契約時に約束した改善提案を実施してくれているか否かについてチェックして下さい。
 

4.物流設計評価シートのまとめ

 
 物流評価シートを作成することの成果として各スタッフが物流のポイントを認識する機会になるとともに、改善の糸口も見えてくるようになります。この評価シートはぜひ海外に行かれる前に作成し、工場設計の段階でより良い物流の構築に役立てて下さい。また日常の運用については定期的に評価することで改善点をあぶり出し、よりレベルの高い物流につなげて下さい。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人...


「サプライチェーンマネジメント」の他のキーワード解説記事

もっと見る
部品メーカーのサプライチェーン戦略

 どんな業界においても、マイクロソフトやインテルのようになる経営体は数社に限られるでしょう。  米国では完成品メーカーで直接サプライするモジュールメーカ...

 どんな業界においても、マイクロソフトやインテルのようになる経営体は数社に限られるでしょう。  米国では完成品メーカーで直接サプライするモジュールメーカ...


物流管理編 物流改善ネタ出し講座 (その11)

  【物流改善ネタ出し講座 連載目次】 1. なぜ物流は宝の山なのか 2. 宝の山の見つけ方 3. フォークリフトを考える 4. 荷姿...

  【物流改善ネタ出し講座 連載目次】 1. なぜ物流は宝の山なのか 2. 宝の山の見つけ方 3. フォークリフトを考える 4. 荷姿...


SCM構築の必要性・目的を明確にすることの重要性 SCM最前線 (その4)

 前回のその3に続いて解説します。    3. SCM構築が進まない最大の理由:SCM構築の必要性と目的が曖昧  ...

 前回のその3に続いて解説します。    3. SCM構築が進まない最大の理由:SCM構築の必要性と目的が曖昧  ...


「サプライチェーンマネジメント」の活用事例

もっと見る
人財育成と教育計画 物流職場での後輩育成(その2)

  ◆ 計画的な人財育成  物流業務を指導する際はその後輩に何をやらせたいのか、業務水準はどのレベルにあるのか、またその水準からどのよう...

  ◆ 計画的な人財育成  物流業務を指導する際はその後輩に何をやらせたいのか、業務水準はどのレベルにあるのか、またその水準からどのよう...


エリアと作業の効率とは:倉庫改善の勘所(その1)

  ◆エリア効率と作業効率 倉庫オペレーションは意外と人の目に触れない領域ではないかと思います。そうなると改善のメスが入っていないことが...

  ◆エリア効率と作業効率 倉庫オペレーションは意外と人の目に触れない領域ではないかと思います。そうなると改善のメスが入っていないことが...


改善力を高めるには:物流スタッフの効果的育成法(その2)

  ◆ 改善スキルの習得  物流スタッフに欲しいスキルの一つとして「改善力」があります。「改善は永遠」という言葉もありますが、継続的に取...

  ◆ 改善スキルの習得  物流スタッフに欲しいスキルの一つとして「改善力」があります。「改善は永遠」という言葉もありますが、継続的に取...