海外工場支援者のための「物流指導7つ道具」(その6)

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第6回 道具4「物流会社選定ツール」(下)

前回のその5に続いて解説します。

【選定ステップ6】回答書の評価と選定会社決定

 
 各候補会社から受領した回答書に基づき結果を評価していきましょう。この際に「価格評価」と「技術評価」の両面から評価することです。ともすると「最安値」の会社を選定したくなりますが、価格だけの評価は危険です。なぜなら最初の取引では、まず仕事を受注することが先決で、実際運用は、その後考えるという会社が多いからです。この時の提示価格は、他社に比べて非常に安くなっていますが、これは所謂「ハネムーン価格」と言われるものです。極端に安い価格を出してきている物流会社は選定から外すといったポリシーを持っている会社もあるくらいです。
 
 「価格評価」と「技術評価」はそれぞれウエイトをあらかじめ決めておきます。たとえば「価格評価」を60点、「技術評価」を40点というように両方を合計すると100点になるようにしておくとよいでしょう。できれば「価格評価」を実施する人と「技術評価」を実施する人は分けることが望ましいでしょう。公平な評価のためにも複数の人による評価を心がけましょう。「価格評価」は自社がベンチマークとしている価格をクリアしているか、あるいはそれにどれだけ近い価格になっているかを評価するのです。「技術評価」は自社の提示した仕様を満たしているか、自社にとって有益な提案があるかなどを評価するのです。こういった基準を自社なりに決めておくとよいでしょう。図1参照。
 
  物流改革  
 
 ここで「技術評価」における留意点を挙げておきます。海外での物流は日本で考えているほど容易なものではありません。その例として輸送距離が比べ物にならないほど長かったり、道路事情が劣悪だったりする点が挙げられます。また日本ではまずありえない輸送貨物の窃盗が多発したりする点、時間に対して大らかな点など日本との違いは大きいのです。つまりこのような想定される心配事を「技術評価」の中に織り込んでおくことが望ましいのです。その例として「今どこを走っているのかがわかる」とか「貨物の品質保証体制が整備されている」といった評価項目が挙げられるのです。
 

【選定ステップ7】契約の締結

 
 物流会社選定ステップの最後が契約書の締結です。ステップ6で最終的に選定された会社には選定通知を、残念ながら選定に至らなかった会社にはその旨を記した書面を発行します。選定から漏れた会社から理由を聞かれた場合は差し支えない範囲で説明してあげる方がよいでしょう。将来的に付き合いが出てくることもあるからです。
 
 海外である点を考慮すると契約書は必ず締結しておきましょう。国内では物流会社との間で契約書を取り交わさずに仕事を委託していくケースがありますが、これはあまり感心しません。なぜなら何かあった時の責任の所在があいまいになってしまう可能性があるからです。皆さんもよくご存じの通り海外は契約社会です。契約書に書いてないことはやらないことが当たり前です。そこでこの契約書の作成は入念に行います。できれば自社で契約している法律事務所があればそこに作成してもらうことを考えましょう。契約書にはどのタイミングで発注するのか、発注手段は電子データなのかFAXなのか、請負代金の支払方法はどうするのか、万一貨物に損傷があった場合の補償をどうするのか、等々実際運用を行うにあたり気になる点を網羅しておく必要があります。もし契約書に書いていない事項でもめ事が発生すると厄介なことになるので、時間をかけてじっくりと内容の吟味を行いましょう。
 
 契約書には実際運用に関わることに加え、お互いの改善活動についても記しておきましょう。輸送であれ構内物流であれ、あるいは梱包作業や倉庫管理であれ、常に改善を行っていく必要があります。そこで物流会社と自社とで共同改善を行っていくことを合意しておきます。自社の物流効率化に関することは...

第6回 道具4「物流会社選定ツール」(下)

前回のその5に続いて解説します。

【選定ステップ6】回答書の評価と選定会社決定

 
 各候補会社から受領した回答書に基づき結果を評価していきましょう。この際に「価格評価」と「技術評価」の両面から評価することです。ともすると「最安値」の会社を選定したくなりますが、価格だけの評価は危険です。なぜなら最初の取引では、まず仕事を受注することが先決で、実際運用は、その後考えるという会社が多いからです。この時の提示価格は、他社に比べて非常に安くなっていますが、これは所謂「ハネムーン価格」と言われるものです。極端に安い価格を出してきている物流会社は選定から外すといったポリシーを持っている会社もあるくらいです。
 
 「価格評価」と「技術評価」はそれぞれウエイトをあらかじめ決めておきます。たとえば「価格評価」を60点、「技術評価」を40点というように両方を合計すると100点になるようにしておくとよいでしょう。できれば「価格評価」を実施する人と「技術評価」を実施する人は分けることが望ましいでしょう。公平な評価のためにも複数の人による評価を心がけましょう。「価格評価」は自社がベンチマークとしている価格をクリアしているか、あるいはそれにどれだけ近い価格になっているかを評価するのです。「技術評価」は自社の提示した仕様を満たしているか、自社にとって有益な提案があるかなどを評価するのです。こういった基準を自社なりに決めておくとよいでしょう。図1参照。
 
  物流改革  
 
 ここで「技術評価」における留意点を挙げておきます。海外での物流は日本で考えているほど容易なものではありません。その例として輸送距離が比べ物にならないほど長かったり、道路事情が劣悪だったりする点が挙げられます。また日本ではまずありえない輸送貨物の窃盗が多発したりする点、時間に対して大らかな点など日本との違いは大きいのです。つまりこのような想定される心配事を「技術評価」の中に織り込んでおくことが望ましいのです。その例として「今どこを走っているのかがわかる」とか「貨物の品質保証体制が整備されている」といった評価項目が挙げられるのです。
 

【選定ステップ7】契約の締結

 
 物流会社選定ステップの最後が契約書の締結です。ステップ6で最終的に選定された会社には選定通知を、残念ながら選定に至らなかった会社にはその旨を記した書面を発行します。選定から漏れた会社から理由を聞かれた場合は差し支えない範囲で説明してあげる方がよいでしょう。将来的に付き合いが出てくることもあるからです。
 
 海外である点を考慮すると契約書は必ず締結しておきましょう。国内では物流会社との間で契約書を取り交わさずに仕事を委託していくケースがありますが、これはあまり感心しません。なぜなら何かあった時の責任の所在があいまいになってしまう可能性があるからです。皆さんもよくご存じの通り海外は契約社会です。契約書に書いてないことはやらないことが当たり前です。そこでこの契約書の作成は入念に行います。できれば自社で契約している法律事務所があればそこに作成してもらうことを考えましょう。契約書にはどのタイミングで発注するのか、発注手段は電子データなのかFAXなのか、請負代金の支払方法はどうするのか、万一貨物に損傷があった場合の補償をどうするのか、等々実際運用を行うにあたり気になる点を網羅しておく必要があります。もし契約書に書いていない事項でもめ事が発生すると厄介なことになるので、時間をかけてじっくりと内容の吟味を行いましょう。
 
 契約書には実際運用に関わることに加え、お互いの改善活動についても記しておきましょう。輸送であれ構内物流であれ、あるいは梱包作業や倉庫管理であれ、常に改善を行っていく必要があります。そこで物流会社と自社とで共同改善を行っていくことを合意しておきます。自社の物流効率化に関することは当然として、物流会社にとってもメリットになるような改善を心がけたいものです。この改善を確実に実行していくためにも「パフォーマンスレビュー・ミーティング」という両社による改善評価会を設定することをお勧めします。このミーティングは年に2回ほど、両社のトップマネジメントが出席して行われます。契約時に合意した改善ができているか、遅れているとすればいつまでに挽回するのか、今抱えている困りごとは何か、等を論議し改善を推進していく組織です。物流は自社だけではやりきれない性質の仕事であるため、このような物流会社とのコミュニケーションをとる場を設けておくことは大変効果的です。図2参照。
 
         物流改革
 
  この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
 
 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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