人的資源マネジメント:チーム体制作りとは(その1)

更新日

投稿日

  
 前回は、技術者は自律性、創意工夫、挑戦意欲、変化対応力などを期待されているにもかかわらず、開発現場はそのような技術者に育てる環境や仕組みになっていない。そして、製品開発を成功させるための開発プロセスやプロジェクト管理の仕組みだけでなく、必要なスキルを持つ技術者に育てる仕組みが必要だ、という内容でした。
 
 その中で、求められている技術者を育てる仕組みとして、「チーム体制」「経験学習プロセス」「エンゲージメント」という3つのキーワードを紹介しましたが、今回は、この中の「チーム体制」について解説したいと思います。
 
 人的資源マネジメント:ポジティブ感情
 

1. チームとグループの違い

 
 「チーム」という単語は普段から使うので、特別なことには思えないかもしれません。チームによく似た単語に、グループがあります。チームの意味を明確にするために、この二つの定義を比較してみましょう。ある辞書では、次のように説明されています。
 
グループ:共通の性質で分類した人や物の一団、群。
チーム :ある目的のために協力して行動するグループ。
 
 たとえば、会社でサッカーが好きな人が集まって昼休みに楽しむのはグループで、地区大会優勝などの目標に向かって協力して前進しているのはチームということになります。チームとは、特定の目的に対して達成すべき目標をすべてのメンバーが共有し、お互いが連帯責任を果たす補完的な関係からなる集合体、といえるでしょう。
 
 では、製品開発現場にチームは存在するのでしょうか? プロジェクト・チームで製品開発に取り組んでいるところも多いと思いますが、本当の「チーム」はないのではないかと感じます。チームとグループの境目は実は曖昧です。目標達成への思いや、メンバー間の協力関係などの程度によって、グループと考えることもできるし、チームと考えることもできるでしょう。
 
 「チーム」をもっと具体的に定義する必要がありますが、「チーム」をわかりやすく説明している書籍があるので紹介しておきたいと思います。その名も「ザ・チーム」です。ザ・チーム(日本の一番大きな問題を解く)齋藤ウィリアム浩幸:日経BP社 (2012/10/4)著者の齋藤氏は、アメリカ生まれ、アメリカ育ちの日系二世の起業家で、高校時代に友人と始めた自社をマイクロソフトに売却した後、日米で幾つもの企業経営に関わる生粋の起業家です。日本でも、国家戦略会議フロンティア部会など、いくつもの政府会議にも名を連ねて、その経験から「チーム不在の状況こそ、日本の最大の課題だ」といっています。
 
 この本の中で、グループとチームのそれぞれの特徴について次のように言っています。
 

◆ グループ

 
・共通の性質で集められた集団
・指示されたゴールに向かって、決められた作業を規則正しく実行する形態
・改善や漸進的進歩に適した形態
 

◆ チーム

 
・ある目標を情熱を持って達成するための集団
・多種多様な人材がいて目的や目標を共有している
・メンバーが互いに助け合い、補うことで目標を達成する
・イノベーションや変化対応に適した形態
 
 チームとは、イノベーションや変化対応に適した形態であり、多様な人材が目標を共有し、お互いに助け合ってその達成に情熱を傾けているという特徴を持っているものなのです。
 

2. 製品開発における「チーム」の必然性

 
 さらに、「チーム」とは次のような特徴を持つものだと言っています。
 
・信頼関係の上に成り立っている(自分の弱みを見せている)
・多様な個性や特性を持つメンバーからなる
・失敗を許容する、リスクをとる
・メンバーは自由に意見を言い合い、コンフリクトを怖れない
・リーダーはいるがメンバーに階層的な上下関係はない
・メンバーは自分が主体的に行動しようというオーナーシップを持つ
 
 これまでいくつもの製品開発現場を見てきましたが、プロジェクト・チームを組んで製品開発を進めていても、このような「チーム」になっているところはほとんどありませんでした。
 
 組織図上、エレキ、メカ、ソフトなどの技術軸でグループ分けされ、仕事のアサインや評価・査定などが、技術軸のマネジャーが主体となっていることで、技術軸のマネジャーの力が強くなり、プロジェクト・チームといいながらも、グループの延長にしかなっていないなど、原因はいくつかあるでしょう。
 
 しかし問題なのは、新しいことにチャレンジしたり、厳しい状況を打破するためのイノベーションを必要とするためにプロジェクト・チームを組んでいながら、チームがグループとしてしか機能せず、開発を定型業務として進めることや開発プロセスを遵守することが優先され、指示に従って、規則・ルールに外れることなく作業を進めることが目的化してしまっていることです。技術者がこういうマインドになっていることを看過することはできないはずです。
 
 今の製品開発に求められているもの、あるいは、トップが現場に対して求めているものは、変化の早い市場にクイックに対応することであり、従来の延長ではない革新的な製品であり、仕組みを生み出すことではないでしょうか。そのためには、本当の意味での「チ...
  
 前回は、技術者は自律性、創意工夫、挑戦意欲、変化対応力などを期待されているにもかかわらず、開発現場はそのような技術者に育てる環境や仕組みになっていない。そして、製品開発を成功させるための開発プロセスやプロジェクト管理の仕組みだけでなく、必要なスキルを持つ技術者に育てる仕組みが必要だ、という内容でした。
 
 その中で、求められている技術者を育てる仕組みとして、「チーム体制」「経験学習プロセス」「エンゲージメント」という3つのキーワードを紹介しましたが、今回は、この中の「チーム体制」について解説したいと思います。
 
 人的資源マネジメント:ポジティブ感情
 

1. チームとグループの違い

 
 「チーム」という単語は普段から使うので、特別なことには思えないかもしれません。チームによく似た単語に、グループがあります。チームの意味を明確にするために、この二つの定義を比較してみましょう。ある辞書では、次のように説明されています。
 
グループ:共通の性質で分類した人や物の一団、群。
チーム :ある目的のために協力して行動するグループ。
 
 たとえば、会社でサッカーが好きな人が集まって昼休みに楽しむのはグループで、地区大会優勝などの目標に向かって協力して前進しているのはチームということになります。チームとは、特定の目的に対して達成すべき目標をすべてのメンバーが共有し、お互いが連帯責任を果たす補完的な関係からなる集合体、といえるでしょう。
 
 では、製品開発現場にチームは存在するのでしょうか? プロジェクト・チームで製品開発に取り組んでいるところも多いと思いますが、本当の「チーム」はないのではないかと感じます。チームとグループの境目は実は曖昧です。目標達成への思いや、メンバー間の協力関係などの程度によって、グループと考えることもできるし、チームと考えることもできるでしょう。
 
 「チーム」をもっと具体的に定義する必要がありますが、「チーム」をわかりやすく説明している書籍があるので紹介しておきたいと思います。その名も「ザ・チーム」です。ザ・チーム(日本の一番大きな問題を解く)齋藤ウィリアム浩幸:日経BP社 (2012/10/4)著者の齋藤氏は、アメリカ生まれ、アメリカ育ちの日系二世の起業家で、高校時代に友人と始めた自社をマイクロソフトに売却した後、日米で幾つもの企業経営に関わる生粋の起業家です。日本でも、国家戦略会議フロンティア部会など、いくつもの政府会議にも名を連ねて、その経験から「チーム不在の状況こそ、日本の最大の課題だ」といっています。
 
 この本の中で、グループとチームのそれぞれの特徴について次のように言っています。
 

◆ グループ

 
・共通の性質で集められた集団
・指示されたゴールに向かって、決められた作業を規則正しく実行する形態
・改善や漸進的進歩に適した形態
 

◆ チーム

 
・ある目標を情熱を持って達成するための集団
・多種多様な人材がいて目的や目標を共有している
・メンバーが互いに助け合い、補うことで目標を達成する
・イノベーションや変化対応に適した形態
 
 チームとは、イノベーションや変化対応に適した形態であり、多様な人材が目標を共有し、お互いに助け合ってその達成に情熱を傾けているという特徴を持っているものなのです。
 

2. 製品開発における「チーム」の必然性

 
 さらに、「チーム」とは次のような特徴を持つものだと言っています。
 
・信頼関係の上に成り立っている(自分の弱みを見せている)
・多様な個性や特性を持つメンバーからなる
・失敗を許容する、リスクをとる
・メンバーは自由に意見を言い合い、コンフリクトを怖れない
・リーダーはいるがメンバーに階層的な上下関係はない
・メンバーは自分が主体的に行動しようというオーナーシップを持つ
 
 これまでいくつもの製品開発現場を見てきましたが、プロジェクト・チームを組んで製品開発を進めていても、このような「チーム」になっているところはほとんどありませんでした。
 
 組織図上、エレキ、メカ、ソフトなどの技術軸でグループ分けされ、仕事のアサインや評価・査定などが、技術軸のマネジャーが主体となっていることで、技術軸のマネジャーの力が強くなり、プロジェクト・チームといいながらも、グループの延長にしかなっていないなど、原因はいくつかあるでしょう。
 
 しかし問題なのは、新しいことにチャレンジしたり、厳しい状況を打破するためのイノベーションを必要とするためにプロジェクト・チームを組んでいながら、チームがグループとしてしか機能せず、開発を定型業務として進めることや開発プロセスを遵守することが優先され、指示に従って、規則・ルールに外れることなく作業を進めることが目的化してしまっていることです。技術者がこういうマインドになっていることを看過することはできないはずです。
 
 今の製品開発に求められているもの、あるいは、トップが現場に対して求めているものは、変化の早い市場にクイックに対応することであり、従来の延長ではない革新的な製品であり、仕組みを生み出すことではないでしょうか。そのためには、本当の意味での「チーム」を作ることが必要なのだと考えます。また、興味深かったのが次の記述です。
 
 アメリカは個人主義の国といわれるが、実は同時にチームの国でもある。いろんな国の移民が集まっているアメリカほど、チームの大切さがわかっている国はない。チームの中で力を発揮できるかどうかが、教育の基本となっている。アメリカは、子どもの時からチームを作り、チームの中で行動し、チームの大切さを体験する機会にあふれているということなのです。日本はチームワークを誰よりも発揮する資質を持っていると思うのですが、チームの大切さを信じて、チームで取り組もうという意識は低いのではないでしょうか。チームの良さを実感することができるような、チームで行動するための環境や仕組みを提供できていないことに原因があるのではないかと思います。
 
 次回も、チーム体制作りとはの解説を続けます。
 
  

   続きを読むには・・・


この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!


関連する他の活用事例

もっと見る
‐経営方針と顧客満足の関係‐ 製品・技術開発力強化策の事例(その42)

  顧客満足を実現するには、従業員が仕事のやり甲斐を感じていなければなりません。仮に、仕事に対して不満を感じている人達がいて、彼らが顧客と接して好感度を得...

  顧客満足を実現するには、従業員が仕事のやり甲斐を感じていなければなりません。仮に、仕事に対して不満を感じている人達がいて、彼らが顧客と接して好感度を得...


「石の上にも3年」の意味

1.若者が3年で会社を辞める理由  人材コンサルタント城繁幸氏のベストセラーに、「若者はなぜ3年で辞めるのか」があります。その論理は、次のようでした...

1.若者が3年で会社を辞める理由  人材コンサルタント城繁幸氏のベストセラーに、「若者はなぜ3年で辞めるのか」があります。その論理は、次のようでした...


キャリアパスの複線化とは (その2)

 副業を超えた「複業」は、従業員だけでなく企業にもメリットがあり、そして少子高齢化が進む日本の社会全体にも貢献するトリプルウィンです。近江商人のモットーで...

 副業を超えた「複業」は、従業員だけでなく企業にもメリットがあり、そして少子高齢化が進む日本の社会全体にも貢献するトリプルウィンです。近江商人のモットーで...