物流商品力を高める

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物流改善  

1. 利益向上にながりにくい商品

 物流を生業としている会社も、社内で物流サービスを行っている会社も顧客に対して喜ばれる物流商品を提供する必要があります。物流事業者であればそのような物流商品があれば、利益率が高い価格で売ることが可能です。社内であれば物流に対する評価が高まり、より優秀な人材を投入してもらえることでしょう。物流に限った話ではありませんが、誰でもできる仕事を行っている限り、特別喜ばれることもなければ高いお金を払ってもらうこともないでしょう。
 
 このような話があります。ホームセンターはどこでもスコップを売っていますが、この価格は高くはありません。なぜならスコップを生産することに特殊な技術は必要ないからです。しかし大雪が降ったとしたらどうでしょうか。それがないと言えの前の雪かきができず、外出もできなくなるとしたら。大抵の人は多少そのスコップが高くても購入するでしょう。多くの人が購入しますので品薄にもなります。そうなるとホームセンターが普段の10倍の値段にしても売れると思われます。現実問題として日本ではそのようなことを好みませんので、急激な値上げは避けると思いますが、経済原則では10倍は合理的な価格設定かもしれないのです。
 
 では物流について考えてみるとどうでしょうか。輸送を例にとって考えてみましょう。日本には実に約6万3000社の運送事業者が存在します。この運送会社で輸送を行ってもらう場合、企業間でサービスに大きな差は出ますでしょうか。実際のところ輸送サービスに大きな差はありません。地点から地点へと運ぶだけのサービスでしたらどこの会社でもできます。つまりサービスに差がなく、日常生活で購入する物品と何ら変わりはありません。このような物流商品の場合、企業間競争の結果として価格は事業者が考えている以上に低いポイントに落ち着くことでしょう。つまり地点間運搬だけの輸送サービスは「コモディティ」に過ぎないということになります。結果的に会社の利益向上にはつながりにくい商品だということになります。もし売上だけを伸ばしたいのであればこのような商品だけを提供することもあると思います。しかし従業員の給与を上げ、より優秀な人材を確保したいのであればまだまだ商品力を上げなければなりません。
 

2. 今やっている仕事の前後を見る

 工場の中で部品や完成品を運搬するだけの物流サービスも同様でコモディティだと判断されます。よく「運び屋」と揶揄されることもありますが、それに近い状態です。工場で物流の地位が上がらないと悩んでいらっしゃる方は、どのような物流サービスを提供できているかについて考えてみる必要があります。
 
 顧客に喜ばれ、迷うことなく高いお金を払っていただくためには物流商品力を高めなければなりません。ポイントは「どこでもできる仕事」や「誰でもできる仕事」からの脱却です。もう一つのポイントは「他社がやっていない仕事」です。この中には比較的簡単にできる仕事もありますので、検討する価値は十分にあります。ではどこを見たらそのような物流サービスを見つけられるでしょうか。それは今やっている仕事の前後にあることを知っておいてください。たとえば今やっている仕事が輸送だったとしましょう。皆さんの会社が積み込みに行ったとしたら、そこで顧客はどのような仕事をしているでしょうか。
 
 積み込みのための「荷揃え」をやっていることでしょう。ではその前工程は?「梱包」をやっている可能性があります。さらに前工程は?「ピッキング」ではないでしょうか。これらはすべて物流業務です。皆さんがやれない仕事ではありません。しかも特殊な技能もほとんど不要です。自分たちは運送事業者だから「輸送」だけを行うのだ、と主張していたとしたらコモディティ化してしまい、高い利益を収受することは望み薄です。
 
 ですから、第一歩としてこのような今の仕事の前後にある業務から請け負うことが肝要です。無理なく開始することができるでしょう。不思議なことですが、このようなことすら着手していない会社が大多数なのです。ですから先にやったもの勝ちだと考えましょう。利益率では輸送よりは高いものと思われます。でもさらに顧客に喜ばれる物流商品を開発したいものです。そのためには「物流」の範疇に含まれるものと同時に「物流」から一歩外に出て商品開発をするものとを両建てで考えていく必要がありそうです。
 

3. VMIやMRO業務に取り組む

 一般的に物流とは輸送と保管を統合した概念だと言われています。輸送の途上には荷の積み替えや保管を行う必要性があり、運送事業者も倉庫を保有する必要があったのです。つまり物流とは輸送であり保管であるわけですが、この機能を生かして物流商品力を高めることができます。顧客は輸送はA社に発注し、保管はB社となると明らかに業務上のわずらわしさが発生します。これらの業務をワンストップで対応できる会社は有利であることは間違いありません。しかしそれ以上に自ら保有する機能で高サービス度の商品を提供できれば今まで以上の価格水準で取引することが可能となるはずです。
 
 たとえば自社の倉庫を使ってVMI(Vendor Managed Inventory)、つまりサプライヤーに成り代わって在庫管理を行い、顧客に対してジャストインタイム納入を行うことを考えてみてはいかがでしょうか。あるいは顧客に成り代わって部品や資材の発注行為を行うことも考えられます。発注や在庫管理は顧...
物流改善  

1. 利益向上にながりにくい商品

 物流を生業としている会社も、社内で物流サービスを行っている会社も顧客に対して喜ばれる物流商品を提供する必要があります。物流事業者であればそのような物流商品があれば、利益率が高い価格で売ることが可能です。社内であれば物流に対する評価が高まり、より優秀な人材を投入してもらえることでしょう。物流に限った話ではありませんが、誰でもできる仕事を行っている限り、特別喜ばれることもなければ高いお金を払ってもらうこともないでしょう。
 
 このような話があります。ホームセンターはどこでもスコップを売っていますが、この価格は高くはありません。なぜならスコップを生産することに特殊な技術は必要ないからです。しかし大雪が降ったとしたらどうでしょうか。それがないと言えの前の雪かきができず、外出もできなくなるとしたら。大抵の人は多少そのスコップが高くても購入するでしょう。多くの人が購入しますので品薄にもなります。そうなるとホームセンターが普段の10倍の値段にしても売れると思われます。現実問題として日本ではそのようなことを好みませんので、急激な値上げは避けると思いますが、経済原則では10倍は合理的な価格設定かもしれないのです。
 
 では物流について考えてみるとどうでしょうか。輸送を例にとって考えてみましょう。日本には実に約6万3000社の運送事業者が存在します。この運送会社で輸送を行ってもらう場合、企業間でサービスに大きな差は出ますでしょうか。実際のところ輸送サービスに大きな差はありません。地点から地点へと運ぶだけのサービスでしたらどこの会社でもできます。つまりサービスに差がなく、日常生活で購入する物品と何ら変わりはありません。このような物流商品の場合、企業間競争の結果として価格は事業者が考えている以上に低いポイントに落ち着くことでしょう。つまり地点間運搬だけの輸送サービスは「コモディティ」に過ぎないということになります。結果的に会社の利益向上にはつながりにくい商品だということになります。もし売上だけを伸ばしたいのであればこのような商品だけを提供することもあると思います。しかし従業員の給与を上げ、より優秀な人材を確保したいのであればまだまだ商品力を上げなければなりません。
 

2. 今やっている仕事の前後を見る

 工場の中で部品や完成品を運搬するだけの物流サービスも同様でコモディティだと判断されます。よく「運び屋」と揶揄されることもありますが、それに近い状態です。工場で物流の地位が上がらないと悩んでいらっしゃる方は、どのような物流サービスを提供できているかについて考えてみる必要があります。
 
 顧客に喜ばれ、迷うことなく高いお金を払っていただくためには物流商品力を高めなければなりません。ポイントは「どこでもできる仕事」や「誰でもできる仕事」からの脱却です。もう一つのポイントは「他社がやっていない仕事」です。この中には比較的簡単にできる仕事もありますので、検討する価値は十分にあります。ではどこを見たらそのような物流サービスを見つけられるでしょうか。それは今やっている仕事の前後にあることを知っておいてください。たとえば今やっている仕事が輸送だったとしましょう。皆さんの会社が積み込みに行ったとしたら、そこで顧客はどのような仕事をしているでしょうか。
 
 積み込みのための「荷揃え」をやっていることでしょう。ではその前工程は?「梱包」をやっている可能性があります。さらに前工程は?「ピッキング」ではないでしょうか。これらはすべて物流業務です。皆さんがやれない仕事ではありません。しかも特殊な技能もほとんど不要です。自分たちは運送事業者だから「輸送」だけを行うのだ、と主張していたとしたらコモディティ化してしまい、高い利益を収受することは望み薄です。
 
 ですから、第一歩としてこのような今の仕事の前後にある業務から請け負うことが肝要です。無理なく開始することができるでしょう。不思議なことですが、このようなことすら着手していない会社が大多数なのです。ですから先にやったもの勝ちだと考えましょう。利益率では輸送よりは高いものと思われます。でもさらに顧客に喜ばれる物流商品を開発したいものです。そのためには「物流」の範疇に含まれるものと同時に「物流」から一歩外に出て商品開発をするものとを両建てで考えていく必要がありそうです。
 

3. VMIやMRO業務に取り組む

 一般的に物流とは輸送と保管を統合した概念だと言われています。輸送の途上には荷の積み替えや保管を行う必要性があり、運送事業者も倉庫を保有する必要があったのです。つまり物流とは輸送であり保管であるわけですが、この機能を生かして物流商品力を高めることができます。顧客は輸送はA社に発注し、保管はB社となると明らかに業務上のわずらわしさが発生します。これらの業務をワンストップで対応できる会社は有利であることは間違いありません。しかしそれ以上に自ら保有する機能で高サービス度の商品を提供できれば今まで以上の価格水準で取引することが可能となるはずです。
 
 たとえば自社の倉庫を使ってVMI(Vendor Managed Inventory)、つまりサプライヤーに成り代わって在庫管理を行い、顧客に対してジャストインタイム納入を行うことを考えてみてはいかがでしょうか。あるいは顧客に成り代わって部品や資材の発注行為を行うことも考えられます。発注や在庫管理は顧客の仕事であり、物流事業者は保管を行うのが仕事、というような固い発想では低価格に甘んじなければなりません。
 
 物流関連では顧客の「容器管理」を代行することも良いのではないでしょうか。顧客は容器の管理に四苦八苦しています。これを助けてあげられるのであれば、心から喜んでもらえる仕事になるでしょう。工業団地の近くに物流センターを持っているのであれば、MRO* 業務もお勧めです。MROとは簡単に言うと機械の補修部品管理と考えればよいでしょう。メーカーは生産することが本業です。設備の補修部品管理はどちらかというとノンコア業務ですから、外注でやって欲しいと考えている会社は多いと思います。
 
 このMRO業務はかなり利益の取れる業務ですから、物流事業者の方は十分ご検討されることをお勧めします。その他に挙げればフォークリフトなどの物流機器管理、パレット管理、資材管理など、顧客がやって欲しいと考える業務は多数あります。このようなニーズに気づくためには常に顧客と話をすることです。自分たちの狭い領域に閉じこもっているようでは利益を増やすことは難しいでしょう。ぜひ物流商品力を高め、会社利益向上に寄与していきましょう。
 
*MRO:M(メンテナンス)R(リペアー)O(オペレーション)の意味。ものづくり企業では一般的に副資材と呼ばれています。
 
  

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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