人的資源マネジメント:ビジョンは夢か理念か (その1)

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1. ビジョンの意味するところはわかりにくい

 
 ビジョンという言葉はよく聞ききます。企業においてもビジョンの必要性を説くトップが多くなりました。ビジョンが、社員への動機付けやコミュニケーション手段として重要視されているのは間違いありません。実際、リーダーシップや経営に関する話題には必ずといっていいほど「ビジョン」が登場します。「ビジョンを示すのがリーダーシップ」「ビジョンが社員の心をひとつにする」「ビジョンがない会社に未来はない」「明確なビジョンがぶれない経営をもたらす」などなど。こうやって書くと、ビジョンが会社における問題をすべて解決するような勢いです。では、改めてお聞きします。ビジョンとは何でしょうか。
 
 カタカナ表記のままであることからも想像できますが、欧米から輸入された概念ということもあり、ビジョンの意味は簡単ではありません。ビジョンと、経営(企業)理念、社是、ミッション、バリュー、方針などがどう違うのかもわかりづらいようです。実際、様々な会社のホームページを見ても、これらが混乱して使われていることがわかります。ただ、ビジョンが必要とされている背景は明らかです。刻一刻と変わり続ける環境の変化に追従することは、現代社会を生きる上で欠かせないことであり、そのためには、スピードを上げて変わり続ける環境に流されることのない、ぶれない確固とした芯を持つことが要求されます。その芯となるものがビジョンです。図7に、ビジョンを含めたいくつかの重要な概念について、その意味を載せます。
 
ビジョン
図7. ビジョンに関係する言葉たち
 
 関連する単語を並べてみても、ビジョンについての「将来のあるべき姿。将来の見通し」という説明では、実際にビジョンを文章にするときには戸惑ってしまいます。実は、私自身ピンとくる説明ができず、よく分かる説明には出会っていませんでした。
 

2. 見てきたかのように語れる未来

 
 ビジョンに関して、とてもわかりやすい説明に出会いました。ソフトバンクの孫正義氏の説明です。100年後の時代に人々はどんな姿・形のものを使っているのか。タイムマシンで未来に行って、まるでその世界を見て帰ってきたように語れるのがビジョンであり、映画、バック・トゥ・ザ・フューチャーのように未来に行って、戻ってきてその様子をありありと説明するような感じだとも言っていました。その時代は、どんな社会で、どんなライフスタイルで、それをどんなテクノロジーで実現させているのか。人々はどんな道具(ツール)を使っていてそれはどんな形をしているのか。それを、100年後はこうだったよ、こういう生活をしていたよと語ることができる。どうですか、わかりやすいですよね。
 
 100年後を(もちろん、10年後でも何年後でも構いませんが)、まるで見てきたかのようにありありと語れるくらいに具体的にイメージしている未来、それがビジョンなのです。そして、文章になっているビジョンとは、その実現したい未来のありありとしたイメージを切り取って表現したものです。いくつかの本では、この文章にする際のポイントをビジョンの解説としていることも多いようですが、それは違います。たとえば次のように説明しているのですが、これではビジョンを文章にすることはできないでしょう。
 
・わかりやすく伝えること
・聞いている側がワクワクするようなものであること
・目指しているものは何かを理解すべき人にとっての道標となること
 
 ビジョンとは、借りものではないのです。自分が実現したい未来なのです。その未来は、関係する人を魅了し、共感し、ともにその実現のためにエネルギーを注ぎたくなるような具体的なイメージとして伝えることができるものです。最初にやることは、あくまでも、このイメージを自分の中で醸成することです。文章にするのはいつでもできます。
 

3. ビジョンは誰もが持つもの、持てるもの

 
 孫正義氏は、米国留学でその当時最先端のパソコンやコンピュータ・ネットワークに触れ、情報革命で人々を幸せにすること、その未来イメージを彼は彼の内で具体化しました。それが、彼の事業家としてのビジョンとなっていて、そのビジョンを共有した人たちが一緒になってビジネスを推し進めている、それがソフトバンク・グループなのです。それでは、ビジョンは、孫正義氏のような経営者や、組織を任されているリーダーにだけ必要なものでしょうか。決してそんなことはありません。ビジョンという未来イメージは、自分自身を動かすための無限のエネルギー源です。その未来を現実のものにしたいと一番に思っているのは自分自身です。明確なビジョンがあれば、誰もが孫正義氏のように力強く前進することができるのです。そして、ビジョンを伝えることで、そのビジョンに共感した人が集まります。一人ひとりの個人でも、ひとりではビジョンを実現することができないので、共感してくれた仲間と行動をともにしたいと思うのです。
 
 ビジョンが、自分の進む道を明らかにし、一緒に歩きたいという思いを生み、あるいは、道を共にしたいという人を呼び寄せ、仲間を作り前進する。これは、経営者やリーダーにだけに必要なことではありません。ビジョンに、大きい...
 

1. ビジョンの意味するところはわかりにくい

 
 ビジョンという言葉はよく聞ききます。企業においてもビジョンの必要性を説くトップが多くなりました。ビジョンが、社員への動機付けやコミュニケーション手段として重要視されているのは間違いありません。実際、リーダーシップや経営に関する話題には必ずといっていいほど「ビジョン」が登場します。「ビジョンを示すのがリーダーシップ」「ビジョンが社員の心をひとつにする」「ビジョンがない会社に未来はない」「明確なビジョンがぶれない経営をもたらす」などなど。こうやって書くと、ビジョンが会社における問題をすべて解決するような勢いです。では、改めてお聞きします。ビジョンとは何でしょうか。
 
 カタカナ表記のままであることからも想像できますが、欧米から輸入された概念ということもあり、ビジョンの意味は簡単ではありません。ビジョンと、経営(企業)理念、社是、ミッション、バリュー、方針などがどう違うのかもわかりづらいようです。実際、様々な会社のホームページを見ても、これらが混乱して使われていることがわかります。ただ、ビジョンが必要とされている背景は明らかです。刻一刻と変わり続ける環境の変化に追従することは、現代社会を生きる上で欠かせないことであり、そのためには、スピードを上げて変わり続ける環境に流されることのない、ぶれない確固とした芯を持つことが要求されます。その芯となるものがビジョンです。図7に、ビジョンを含めたいくつかの重要な概念について、その意味を載せます。
 
ビジョン
図7. ビジョンに関係する言葉たち
 
 関連する単語を並べてみても、ビジョンについての「将来のあるべき姿。将来の見通し」という説明では、実際にビジョンを文章にするときには戸惑ってしまいます。実は、私自身ピンとくる説明ができず、よく分かる説明には出会っていませんでした。
 

2. 見てきたかのように語れる未来

 
 ビジョンに関して、とてもわかりやすい説明に出会いました。ソフトバンクの孫正義氏の説明です。100年後の時代に人々はどんな姿・形のものを使っているのか。タイムマシンで未来に行って、まるでその世界を見て帰ってきたように語れるのがビジョンであり、映画、バック・トゥ・ザ・フューチャーのように未来に行って、戻ってきてその様子をありありと説明するような感じだとも言っていました。その時代は、どんな社会で、どんなライフスタイルで、それをどんなテクノロジーで実現させているのか。人々はどんな道具(ツール)を使っていてそれはどんな形をしているのか。それを、100年後はこうだったよ、こういう生活をしていたよと語ることができる。どうですか、わかりやすいですよね。
 
 100年後を(もちろん、10年後でも何年後でも構いませんが)、まるで見てきたかのようにありありと語れるくらいに具体的にイメージしている未来、それがビジョンなのです。そして、文章になっているビジョンとは、その実現したい未来のありありとしたイメージを切り取って表現したものです。いくつかの本では、この文章にする際のポイントをビジョンの解説としていることも多いようですが、それは違います。たとえば次のように説明しているのですが、これではビジョンを文章にすることはできないでしょう。
 
・わかりやすく伝えること
・聞いている側がワクワクするようなものであること
・目指しているものは何かを理解すべき人にとっての道標となること
 
 ビジョンとは、借りものではないのです。自分が実現したい未来なのです。その未来は、関係する人を魅了し、共感し、ともにその実現のためにエネルギーを注ぎたくなるような具体的なイメージとして伝えることができるものです。最初にやることは、あくまでも、このイメージを自分の中で醸成することです。文章にするのはいつでもできます。
 

3. ビジョンは誰もが持つもの、持てるもの

 
 孫正義氏は、米国留学でその当時最先端のパソコンやコンピュータ・ネットワークに触れ、情報革命で人々を幸せにすること、その未来イメージを彼は彼の内で具体化しました。それが、彼の事業家としてのビジョンとなっていて、そのビジョンを共有した人たちが一緒になってビジネスを推し進めている、それがソフトバンク・グループなのです。それでは、ビジョンは、孫正義氏のような経営者や、組織を任されているリーダーにだけ必要なものでしょうか。決してそんなことはありません。ビジョンという未来イメージは、自分自身を動かすための無限のエネルギー源です。その未来を現実のものにしたいと一番に思っているのは自分自身です。明確なビジョンがあれば、誰もが孫正義氏のように力強く前進することができるのです。そして、ビジョンを伝えることで、そのビジョンに共感した人が集まります。一人ひとりの個人でも、ひとりではビジョンを実現することができないので、共感してくれた仲間と行動をともにしたいと思うのです。
 
 ビジョンが、自分の進む道を明らかにし、一緒に歩きたいという思いを生み、あるいは、道を共にしたいという人を呼び寄せ、仲間を作り前進する。これは、経営者やリーダーにだけに必要なことではありません。ビジョンに、大きい小さいも、優れている劣っているも、仲間の多い少ないも、まったく関係ありません。一人ひとりが自分のビジョンを持つこと、それが大切なことなのです。
 
 ビジョンという未来イメージは人によって様々です。ひとりでも多くの人と心から触れ合っていたいという思いから、おいしい食事を出すお店をやっているというビジョンの人もいれば、アーティストとして観客の前で作品づくりをしている自分がいて、見ている人に幸せを伝えているというビジョンの人もいます。
 
 このように、人はそれぞれのビジョンを持っていますが、会社、あるいは、組織に属しているということは、そのリーダーのビジョンと自分のビジョンとに共感できる部分があるということです。これを共有ゾーンと言います。強い組織は一人ひとりにとっての共有ゾーンが明確です。共有ゾーンを確認するためにも、リーダーはもちろん、一人ひとりがビジョンを持っていなければなりません。
 
 次回も、ビジョンは夢か理念かの解説を続けます。
 
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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