物流診断の勘所

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1. 保管状況は確実か

 
 物流現場を診断する。これは今の仕事の仕方を客観的に見て正しいのか、改善の余地があるのかを判断するための重要な行為であると考えられます。では皆さんが実際に診断する立場に立たれた時には何を重視されるでしょうか。この点について少し考えていきたいと思います。物流の仕事を大きな視点から見ると、在庫を保管する入庫・保管業務とそれをオーダーに基づき出庫する業務とに分かれます。つまりモノの入りと出を管理することが物流の重要業務であるということです。この時に大切なことは「間違いを起こさない」ということでしょう。
 
 保管する際には正しい場所で保管することになります。物流用語ではロケーションと呼びますが、そのモノが置かれる場所が明確になっていることが重要です。どこでも好き勝手に置いてよいということになりますと、同じものが複数の場所に置かれ、作業者も出庫する際に迷いが発生することになります。本来であれば倉庫の中の決められた場所にモノは保管され、そこにはそのモノが置かれていることが瞬時に判断できることが求められます。保管場所はロケーションであり、そのロケーションは倉庫のどこに位置しており、そこに特定のモノが保管されていることがすぐにわかる必要があるのです。そこでロケーションの「番地」が明確になっているとともに、そこに特定のモノを示す「表札」が添付されていることが判断基準となります。
 
 皆さんがその物流現場に詳しくなくとも、どこに何が置かれているかがすぐに判断できるようになっているかどうかがポイントになります。物流作業者の抱えるロスの中でも「迷い」はかなりのウエートを持ちます。これをほぼゼロにするしかけがあるかどうかを診断時に確認してみましょう。次にフォークリフトの荷扱いの様子について見てみましょう。大抵の物流現場ではフォークリフトを使っています。その理由は倉庫の高さを有効に使うため、高いところにモノを保管する必要があるからです。フォークリフトで高所のモノを出し入れすることがよくあります。ではそのフォークリフトを使った作業、どのように行われているでしょうか。少しフォークリフト作業者の操作状況を観察してみましょう。
 

2. フォークリフトの荷扱い

 
 フォークリフトでの荷扱いのポイントは「丁寧さ」だと思います。理由は2つあります。1つはフォークリフトが危険を伴う機械であるということです。フォークリフトはバランスを崩すと転倒する可能性があります。もし人がその下敷きになったら重大災害になることは間違いありません。また、爪の部分は凶器のようなもので、それで突かれたら人であれば重大災害、モノであれば損傷の危険があります。本来ならばこのような危険な機械は職場には入れたくないのですが、どうしても高所のモノの出し入れがある以上、使わざるを得ないと考えられます。そうであるならば確実にオペレーションすることで安全を確保する必要があるということになります。ですからキーワードとして「丁寧さ」を挙げておきたいと思うのです。 
 
 ではどのような操作であれば丁寧なのか?それを確認するために一つひとつの動作が着実に行われているかどうかをチェックしましょう。たとえばモノを持って上昇させる動作であれば、その動作だけを行っていることを確認します。よく2つの動作を同時に行っているケースを見かけることがあります。「モノを上昇させながら前進走行する」というような動作です。これは安全の観点から望ましくありません。なぜならモノを落下させる確率が高まるからです。上昇させるときは上昇のみ、前進させるときは前進のみといった、一つひとつの動作を着実に行っているかどうかを確認しましょう。
 
 フォークリフトの速度超過や急発進、急ブレーキも禁物です。危険なだけではなく、運搬しているモノの品質にも影響を与えるからです。このような操作は床に痕跡を残します。床にフォークリフトのタイヤ跡が目立つ現場は物流作業が粗いと判断できます。フォークリフト自体に傷が多い場合も同様です。丁寧な作業を行えばこのような状況にはならないはずです。ぜひ床とフォークリフトをじっくりと見てみましょう。次に作業者の動きに着目してみましょう。物流作業者の特徴として、作業者がマイペースで仕事をしているケースをよく見かけます。これは仕事のペースメーカーが無いことが要因です。結果的に作業生産性が低下し、作業者によるばらつきも多くなります。
 

3. 物流作業者の動き

 
 物流は労働集約型産業ですから人の生産性はとても重要です。各作業者が目標通りのスピードで作業できれば言うことなしですが、実際にはそうはなっていないようです。そこで物流現場で診断する際には「作業速度の基準の有無」を確認します。つまりその仕事を実施する際の標準時間が定められているかどうかをチェックするのです。また仕事の納期も細かく定められているかどうかもポイントです。物流倉庫でよくあるパターンが「本日の夕方まで」という指示です。仕事の多少にかかわらず毎日「本日の夕方まで」に終わればよいという指示を見かけます。これだと作業者は夕方までに照準を合わせ、作業速度を調整します。ある時は3時間で、またある時は6時間でその仕事をこなします。仕事量が同じであっても、です。これは管理がなされていない典型でしょう。人は確実に多めに投入され、生産性が低いまま作業を行っているのです。
   
 工場でよくあるケースですが、生産工程作業者の作業速度と物流作業者の作業速度が大幅に異なることがあります。標準的な速度で仕事をするようになるだけで、生産性が30%以上改善することがあります。ですから物流作業者の作業速度については重視してチェックするとよいと思います。それ以外に診断時に見るべき項目は「ムダ」がどれくらいあるかではないでしょうか。モノを探す、長距離歩行がある、モノの仮置きが多発するなどといった、多...
SCM 

1. 保管状況は確実か

 
 物流現場を診断する。これは今の仕事の仕方を客観的に見て正しいのか、改善の余地があるのかを判断するための重要な行為であると考えられます。では皆さんが実際に診断する立場に立たれた時には何を重視されるでしょうか。この点について少し考えていきたいと思います。物流の仕事を大きな視点から見ると、在庫を保管する入庫・保管業務とそれをオーダーに基づき出庫する業務とに分かれます。つまりモノの入りと出を管理することが物流の重要業務であるということです。この時に大切なことは「間違いを起こさない」ということでしょう。
 
 保管する際には正しい場所で保管することになります。物流用語ではロケーションと呼びますが、そのモノが置かれる場所が明確になっていることが重要です。どこでも好き勝手に置いてよいということになりますと、同じものが複数の場所に置かれ、作業者も出庫する際に迷いが発生することになります。本来であれば倉庫の中の決められた場所にモノは保管され、そこにはそのモノが置かれていることが瞬時に判断できることが求められます。保管場所はロケーションであり、そのロケーションは倉庫のどこに位置しており、そこに特定のモノが保管されていることがすぐにわかる必要があるのです。そこでロケーションの「番地」が明確になっているとともに、そこに特定のモノを示す「表札」が添付されていることが判断基準となります。
 
 皆さんがその物流現場に詳しくなくとも、どこに何が置かれているかがすぐに判断できるようになっているかどうかがポイントになります。物流作業者の抱えるロスの中でも「迷い」はかなりのウエートを持ちます。これをほぼゼロにするしかけがあるかどうかを診断時に確認してみましょう。次にフォークリフトの荷扱いの様子について見てみましょう。大抵の物流現場ではフォークリフトを使っています。その理由は倉庫の高さを有効に使うため、高いところにモノを保管する必要があるからです。フォークリフトで高所のモノを出し入れすることがよくあります。ではそのフォークリフトを使った作業、どのように行われているでしょうか。少しフォークリフト作業者の操作状況を観察してみましょう。
 

2. フォークリフトの荷扱い

 
 フォークリフトでの荷扱いのポイントは「丁寧さ」だと思います。理由は2つあります。1つはフォークリフトが危険を伴う機械であるということです。フォークリフトはバランスを崩すと転倒する可能性があります。もし人がその下敷きになったら重大災害になることは間違いありません。また、爪の部分は凶器のようなもので、それで突かれたら人であれば重大災害、モノであれば損傷の危険があります。本来ならばこのような危険な機械は職場には入れたくないのですが、どうしても高所のモノの出し入れがある以上、使わざるを得ないと考えられます。そうであるならば確実にオペレーションすることで安全を確保する必要があるということになります。ですからキーワードとして「丁寧さ」を挙げておきたいと思うのです。 
 
 ではどのような操作であれば丁寧なのか?それを確認するために一つひとつの動作が着実に行われているかどうかをチェックしましょう。たとえばモノを持って上昇させる動作であれば、その動作だけを行っていることを確認します。よく2つの動作を同時に行っているケースを見かけることがあります。「モノを上昇させながら前進走行する」というような動作です。これは安全の観点から望ましくありません。なぜならモノを落下させる確率が高まるからです。上昇させるときは上昇のみ、前進させるときは前進のみといった、一つひとつの動作を着実に行っているかどうかを確認しましょう。
 
 フォークリフトの速度超過や急発進、急ブレーキも禁物です。危険なだけではなく、運搬しているモノの品質にも影響を与えるからです。このような操作は床に痕跡を残します。床にフォークリフトのタイヤ跡が目立つ現場は物流作業が粗いと判断できます。フォークリフト自体に傷が多い場合も同様です。丁寧な作業を行えばこのような状況にはならないはずです。ぜひ床とフォークリフトをじっくりと見てみましょう。次に作業者の動きに着目してみましょう。物流作業者の特徴として、作業者がマイペースで仕事をしているケースをよく見かけます。これは仕事のペースメーカーが無いことが要因です。結果的に作業生産性が低下し、作業者によるばらつきも多くなります。
 

3. 物流作業者の動き

 
 物流は労働集約型産業ですから人の生産性はとても重要です。各作業者が目標通りのスピードで作業できれば言うことなしですが、実際にはそうはなっていないようです。そこで物流現場で診断する際には「作業速度の基準の有無」を確認します。つまりその仕事を実施する際の標準時間が定められているかどうかをチェックするのです。また仕事の納期も細かく定められているかどうかもポイントです。物流倉庫でよくあるパターンが「本日の夕方まで」という指示です。仕事の多少にかかわらず毎日「本日の夕方まで」に終わればよいという指示を見かけます。これだと作業者は夕方までに照準を合わせ、作業速度を調整します。ある時は3時間で、またある時は6時間でその仕事をこなします。仕事量が同じであっても、です。これは管理がなされていない典型でしょう。人は確実に多めに投入され、生産性が低いまま作業を行っているのです。
   
 工場でよくあるケースですが、生産工程作業者の作業速度と物流作業者の作業速度が大幅に異なることがあります。標準的な速度で仕事をするようになるだけで、生産性が30%以上改善することがあります。ですから物流作業者の作業速度については重視してチェックするとよいと思います。それ以外に診断時に見るべき項目は「ムダ」がどれくらいあるかではないでしょうか。モノを探す、長距離歩行がある、モノの仮置きが多発するなどといった、多くのムダが物流現場には存在します。では診断時にどのようにしてムダを見つけたらよいでしょうか。一番簡単な方法はその作業における「付加価値作業」を定義することだと思います。それ以外がすべてムダだということになります。たとえば入庫作業であれば、モノを指定ロケーションに「置く」ということが付加価値作業です。
 
 これ以外にどのような動作を行っているかを見るのです。「オーダーシートとロケーション番号を何度も確認する」という動作が目に付くかもしれません。これはロケーション番号が小さくて見にくいのか、照度が不十分で見づらいのか、紛らわしい数字やアルファベットがあるからか、何かしらの要因があるはずです。入庫作業以外のすべての作業でも同様です。まず付加価値作業を定義し、それに当てはまらないムダをあぶり出す。この手順でムダを見つけましょう。そしてできればワークサンプリングで定量化します。診断結果には数値で示されることがベストだからです。
   
 いかがでしょうか。物流現場診断の勘所がご理解いただけたのではないでしょうか。ぜひ皆さんも物流現場を診断し、改善に寄与していきましょう。
  
   

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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