マシニングのバイス段取りの樹脂ハンマーの使い方とは

更新日

投稿日

 今回は、マシニング加工のバイス段取りにおいて、普段当たり前のように使っている樹脂ハンマーについて解説します。まず良くない使い方とは、次のような状態です。
 
  • 狙った箇所に正確に当たらない、ばらつく。
  • 叩く力がばらつく。
  • ワークに当たると跳ねるような感触がある。
 
 これらはいずれも、迅速に精度良くワークを段取りするには悪影響を与える要素です。まずは、ワークを叩くことから見ていきます。そもそもなぜ叩く必要があるのかですが、下図にあるように、ワークをバイスで締め付ける際、バイスの締め付けネジの中心軸の高さよりも、ワークの下面が上にある場合、締め付け力は前後方向だけでなく、上方向にも働き、バイスを締めれば締めるほど、ワークは上にもズレて上がろうとします。
 
 生産マネジメント
 
 特に油圧式バイスは、これが顕著に起こるようです。そこで、この上がってきたワークを、ワークの下にあるパラレルブロックに押し当て、高さ方向の水平を確保するため、ワークの上面を下図のように叩きます。
 
 生産マネジメント
 
 今回テーマにしているのは、この時の樹脂ハンマーの叩きかたについてです。正しい叩きかたを下図に示します。
 
 生産マネジメント
 
 このように、正しいハンマーの軌跡は、円弧を描くのではなく、地面と真っ直ぐ水平になるように叩きます。したがって、ハンマーを持つ腕の肘は脇から若干開き、ハンマーから手、手から肘までが、真っ直ぐ伸びている状態の方が、真っ直ぐ水平に叩きやすいと思います。そして、ワークに樹脂ハンマーがヒットするときですが、ポイントは、当たったハンマーが跳ねないことです。跳ねてしまうと、ワークがパラレルブロックにきちんと着いているか判断しづらいうえ、叩いた荷重がワークにきちんと伝わりにくくなります。音のイメージとしては、「コーーーン」、という感じでしょうか。そうではなく、下図のように、「ビシッ」とハンマーがワークに当たったところで、ピタリと止めるように叩くのが正解です。
 
 生産マネジメント
 
 次にワーク上面のどこを叩くかですが、真ん中だけを叩くのではなく、下図のように左・右・真ん中の順に叩くことで、ワークの水平を維持させながらパラレルブロックに押し当てるよう叩きます。
 
 生産マネジメント
 
 このときの注意点としては、上図の①②の左右を叩く際、あまりワークの端っこを叩かないことです。ギリギリの端を叩くことで、次のような問題が起こり得ます。
 
  • ワークが下に落とされるよりも、横に倒れようとする力が働き、ワークが傾く。
  • ワークの下にあるパラレルブロックの上面に、局所的な荷重がかかり、パラレルブロックを痛める可能性がある。
 
 特にワークを傾けようとする力については、もっとも懸念すべきです。では、端がダメということであれば、どのあたりを叩いたらよいのでしょうか。バランスが良いのは下図のように、ワークの端から、ワーク幅の20%のあたりを叩くのが、傾きが起こりにくい位置の目安になります。
 
 生産マネジメント
 
 この2か所と真ん中を順番に正確に叩き、ヒットしたらピタッと止め、ハンマーの荷重をしっかりとワークに伝えられるよう意識しながら、叩く練習をします。コツとしては、思いっきり力を入れないことです。このことは、金型の磨き仕上げにも言えます。金型を磨いた表面の美しさを出すには、「いかに均等な力で磨き続けるか」にかかっています。
 
 磨きに関する文献には、4kgfほどの力で磨くと良いとされていますが、この力でいかに50回とか100回、均等に磨き続けていられるか、これがポイントです。そのためには、100%の力ではなく、余裕を残して力をかけることです。無理に力を入れれば、その力はとたんにばらつき、均等にはなりません。少し横道にそれましたが、この樹脂ハンマーの叩きも同様です。いかに3か所を正確に、跳ねないようビシッと止めるか、これは余力を残して、正確さを意識しながらでないとでき...
 今回は、マシニング加工のバイス段取りにおいて、普段当たり前のように使っている樹脂ハンマーについて解説します。まず良くない使い方とは、次のような状態です。
 
  • 狙った箇所に正確に当たらない、ばらつく。
  • 叩く力がばらつく。
  • ワークに当たると跳ねるような感触がある。
 
 これらはいずれも、迅速に精度良くワークを段取りするには悪影響を与える要素です。まずは、ワークを叩くことから見ていきます。そもそもなぜ叩く必要があるのかですが、下図にあるように、ワークをバイスで締め付ける際、バイスの締め付けネジの中心軸の高さよりも、ワークの下面が上にある場合、締め付け力は前後方向だけでなく、上方向にも働き、バイスを締めれば締めるほど、ワークは上にもズレて上がろうとします。
 
 生産マネジメント
 
 特に油圧式バイスは、これが顕著に起こるようです。そこで、この上がってきたワークを、ワークの下にあるパラレルブロックに押し当て、高さ方向の水平を確保するため、ワークの上面を下図のように叩きます。
 
 生産マネジメント
 
 今回テーマにしているのは、この時の樹脂ハンマーの叩きかたについてです。正しい叩きかたを下図に示します。
 
 生産マネジメント
 
 このように、正しいハンマーの軌跡は、円弧を描くのではなく、地面と真っ直ぐ水平になるように叩きます。したがって、ハンマーを持つ腕の肘は脇から若干開き、ハンマーから手、手から肘までが、真っ直ぐ伸びている状態の方が、真っ直ぐ水平に叩きやすいと思います。そして、ワークに樹脂ハンマーがヒットするときですが、ポイントは、当たったハンマーが跳ねないことです。跳ねてしまうと、ワークがパラレルブロックにきちんと着いているか判断しづらいうえ、叩いた荷重がワークにきちんと伝わりにくくなります。音のイメージとしては、「コーーーン」、という感じでしょうか。そうではなく、下図のように、「ビシッ」とハンマーがワークに当たったところで、ピタリと止めるように叩くのが正解です。
 
 生産マネジメント
 
 次にワーク上面のどこを叩くかですが、真ん中だけを叩くのではなく、下図のように左・右・真ん中の順に叩くことで、ワークの水平を維持させながらパラレルブロックに押し当てるよう叩きます。
 
 生産マネジメント
 
 このときの注意点としては、上図の①②の左右を叩く際、あまりワークの端っこを叩かないことです。ギリギリの端を叩くことで、次のような問題が起こり得ます。
 
  • ワークが下に落とされるよりも、横に倒れようとする力が働き、ワークが傾く。
  • ワークの下にあるパラレルブロックの上面に、局所的な荷重がかかり、パラレルブロックを痛める可能性がある。
 
 特にワークを傾けようとする力については、もっとも懸念すべきです。では、端がダメということであれば、どのあたりを叩いたらよいのでしょうか。バランスが良いのは下図のように、ワークの端から、ワーク幅の20%のあたりを叩くのが、傾きが起こりにくい位置の目安になります。
 
 生産マネジメント
 
 この2か所と真ん中を順番に正確に叩き、ヒットしたらピタッと止め、ハンマーの荷重をしっかりとワークに伝えられるよう意識しながら、叩く練習をします。コツとしては、思いっきり力を入れないことです。このことは、金型の磨き仕上げにも言えます。金型を磨いた表面の美しさを出すには、「いかに均等な力で磨き続けるか」にかかっています。
 
 磨きに関する文献には、4kgfほどの力で磨くと良いとされていますが、この力でいかに50回とか100回、均等に磨き続けていられるか、これがポイントです。そのためには、100%の力ではなく、余裕を残して力をかけることです。無理に力を入れれば、その力はとたんにばらつき、均等にはなりません。少し横道にそれましたが、この樹脂ハンマーの叩きも同様です。いかに3か所を正確に、跳ねないようビシッと止めるか、これは余力を残して、正確さを意識しながらでないとできません。このことからすれば、思いっきりハンマーを振り上げて叩く人を見かけますが、これが無駄で必要ない行為であるか、理解できると思います。
 
 昔から仕事のうまい人は、作業がスマートで服を汚さない、と言われますが(もちろん職種にもよりますが)、ある意味当たっていると思います。ぜひ「仕事がうまい」人を目指して、練習し、技術を習得してください。
 
 ※ 実際の加工においては、工具材種だけでなく、被削材の物性、機械剛性、工具の消耗状態、被削材のクランプ状態などの外的要因で、如何様にも状態は変化するため、実際の加工においては、自己責任のうえ、充分な確認・検証を行ったうえで、加工してください。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント


「生産工学」の他のキーワード解説記事

もっと見る
静電気の誤った常識 静電気の見える化とは (その1)

 静電気が問題になっている現場は日本中に多数ありますが、自分の工場で必要な『静電気除去レベル』が分からずに、除電が不十分だったり、逆に要求以上に高価な除電...

 静電気が問題になっている現場は日本中に多数ありますが、自分の工場で必要な『静電気除去レベル』が分からずに、除電が不十分だったり、逆に要求以上に高価な除電...


除電対策 静電気の見える化とは (その2)

 自分の工場で必要な『静電気除去レベル』が分からず、不十分な除電だったり、逆に、要求品質以上の高価な除電器を購入している所はないでしょうか。除電する為には...

 自分の工場で必要な『静電気除去レベル』が分からず、不十分な除電だったり、逆に、要求品質以上の高価な除電器を購入している所はないでしょうか。除電する為には...


レイアウトを改善するための分析法(DI分析)とは

  「現状レイアウトの問題点を、確認する方法がわからない」「工場内で歩く距離が長いけど、どうしてなんだろうか?」「工場内の運搬効率をよくし...

  「現状レイアウトの問題点を、確認する方法がわからない」「工場内で歩く距離が長いけど、どうしてなんだろうか?」「工場内の運搬効率をよくし...


「生産工学」の活用事例

もっと見る
動作分析における要素分けのポイントとは

 現場の「カイゼン」、特にムダ取りにお付き合いする中でとても多くご質問を頂くキーワードがあります。それは、ムダを見つける方法はなんですか? いったい何...

 現場の「カイゼン」、特にムダ取りにお付き合いする中でとても多くご質問を頂くキーワードがあります。それは、ムダを見つける方法はなんですか? いったい何...


エネルギー原単位の見える化とは

        今回は、エネルギー原単位の見える化について解説します。   1. エネルギー原単位の見える化について  エネルギー原単位を...

        今回は、エネルギー原単位の見える化について解説します。   1. エネルギー原単位の見える化について  エネルギー原単位を...


国際プラスチックフェアー(IPF JAPAN 2017)展示会レポート(その6)

 前回のその5に続いて解説します。   6. 繊維強化の2  東芝機械は、ガラス繊維とPA樹脂からなる熱可塑性プレプリグ(資料では繊維強化熱可塑...

 前回のその5に続いて解説します。   6. 繊維強化の2  東芝機械は、ガラス繊維とPA樹脂からなる熱可塑性プレプリグ(資料では繊維強化熱可塑...