モチベーションの考察:モチベーション3.0 とは

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1. モチベーション3.0

 
 「モチベーション 3.0」は、ダニエル・ピンクの本で、紹介されました。今、ある会社と一緒に技術者のやる気を引き出すための仕組み作りを作っているのですが、モチベーションについて話をするときにはこの本の内容を知っていることを前提条件にしてもいいくらいだという話をしています。ということで、この本の紹介も含めて、改めてモチベーションについて考えたいと思います。
 
 この本の原題は「Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us」です。わかりづらいタイトルですが、これを「モチベーション3.0」としたのがさすがに大前研一さんです。「Web 2.0」で流行った表現を使って「モチベーション 3.0」とタイトルをつけたことで、わかりやすくて新しいキャッチーな印象になりました。このバージョンアップ風の表現は、Me 2.0,マーケティング 3.0,感動 3.0 などいろいろ続いています。
 
  モチベーション
 
 ただ、「1.0」「2.0」「3.0」というバージョンを OS と見立てて、「インストール」したり「互換性」を問題にしたりするような表現はちょっとやり過ぎで、単にモチベーションという概念の新しいバージョンということでいいのではないかと思うのですが、些細なことですね。
 
 モチベーションの各バージョンの定義は、冒頭の写真の中に書いているとおりです。モチベーション3.0 の定義の中にある「やる気!」の「!」は継続を意味しています。大前研一氏はまえがきで次のように言っています。『本書は今をときめくアメリカのベストセラー作家ダニエル・ピンクの最新作:DRIVEである。原題のドライブという語感は日本語ではクルマの運転、などという意味にも取れるし、何物かに駆り立てられる、という意味でも使われる。しかし持続してやる気を出す、という意味でよい訳語が見つからなかったので本書では「 やる気!」と!マークをつけている。』
 
 このモチベーションのバージョン定義で考えてみると、ほとんどの会社でやっていることはモチベーション 2.0 の域を出ていないといえます。
 
 たとえば、多くの組織で年度方針を作り、それを部や課、最後には個人の年度計画にブレークダウンすることが行われています。これは、組織方針と乖離することなく自分自身の成長につながるように年度計画を立てることが、一人ひとりが自分の成長計画を作ることでやる気につながるだろうというねらいだと思います。でもこれは、最終的に査定(評価)につながるわけですから、アメとムチの仕組み、つまりモチベーション 2.0 の動機づけです。
 
 また、改善提案を出すと賞金がもらえるとか、特許や発明を出すと表彰されるとか、そういうったキャンペーン的な仕組みもよく行われていますが、これも、当然、報酬をベースとしたモチベーション 2.0 の動機づけです。
 
 今行われているやる気を起こさせる方法は、何かとおカネなどの報酬と結びつけていることが多いと思います。何の報酬もなく「根性でとにかくやれ!」というのよりはいいのでしょうが、与えられた動機づけ(外発的動機づけ)である古いモチベーション 2.0 の仕組みが主流だといえるでしょう。
 

2. モチベーション 2.0 の問題

 
 このように普通に使われているモチベーション 2.0 ですが、実は、ルーチンワークのような機械的な作業の場合にしか有効ではないことが明らかになっています。もっと悪いことに、意欲を持ってやっていた仕事や創造性を必要とする仕事は、報酬を約束した時点で、つまらない退屈な仕事になってしまうこともわかっています。「モチベーション3.0」の中でも次のような経済学者や心理学者による様々な実験結果を紹介しています。
 
 モチベーション
 
 このように、アメ(報酬)とムチ(罰)が逆効果であることは様々な実験で明らかなのですね。自分のこれまでのことを考えても、思い当たることがいくつもあります。会社には表彰制度や賞品や賞金がもらえるような仕組みがありましたが、そういうイベントがある度に何だかダルい感じになったり、表彰される人やおカネをもらった人に対して嫌みなことを考えたりしていました。情けない話ですけど。でも、モチベーション2.0 が反対にやる気を失わせるというのはとても納得感があります。
 
 反対に、自分の内部から湧き出るやる気(内発的動機づけ)によって、やりたいからやっていたこともありました。先ほどの例とは違って、残業規制などで「やるな」と言われると不満になったり、仕事を途中でやめて家に帰るのが嫌になるような経験です。これはまさにモチベーション 3.0 ですね。新しいことをやる喜びを感じたり、自分の能力をさらに高めることができると思ってやっているわけです。やりがいを感じてたわけですね。
 
 このような自発的なやる気に対して、何らかの目標設定を...

1. モチベーション3.0

 
 「モチベーション 3.0」は、ダニエル・ピンクの本で、紹介されました。今、ある会社と一緒に技術者のやる気を引き出すための仕組み作りを作っているのですが、モチベーションについて話をするときにはこの本の内容を知っていることを前提条件にしてもいいくらいだという話をしています。ということで、この本の紹介も含めて、改めてモチベーションについて考えたいと思います。
 
 この本の原題は「Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us」です。わかりづらいタイトルですが、これを「モチベーション3.0」としたのがさすがに大前研一さんです。「Web 2.0」で流行った表現を使って「モチベーション 3.0」とタイトルをつけたことで、わかりやすくて新しいキャッチーな印象になりました。このバージョンアップ風の表現は、Me 2.0,マーケティング 3.0,感動 3.0 などいろいろ続いています。
 
  モチベーション
 
 ただ、「1.0」「2.0」「3.0」というバージョンを OS と見立てて、「インストール」したり「互換性」を問題にしたりするような表現はちょっとやり過ぎで、単にモチベーションという概念の新しいバージョンということでいいのではないかと思うのですが、些細なことですね。
 
 モチベーションの各バージョンの定義は、冒頭の写真の中に書いているとおりです。モチベーション3.0 の定義の中にある「やる気!」の「!」は継続を意味しています。大前研一氏はまえがきで次のように言っています。『本書は今をときめくアメリカのベストセラー作家ダニエル・ピンクの最新作:DRIVEである。原題のドライブという語感は日本語ではクルマの運転、などという意味にも取れるし、何物かに駆り立てられる、という意味でも使われる。しかし持続してやる気を出す、という意味でよい訳語が見つからなかったので本書では「 やる気!」と!マークをつけている。』
 
 このモチベーションのバージョン定義で考えてみると、ほとんどの会社でやっていることはモチベーション 2.0 の域を出ていないといえます。
 
 たとえば、多くの組織で年度方針を作り、それを部や課、最後には個人の年度計画にブレークダウンすることが行われています。これは、組織方針と乖離することなく自分自身の成長につながるように年度計画を立てることが、一人ひとりが自分の成長計画を作ることでやる気につながるだろうというねらいだと思います。でもこれは、最終的に査定(評価)につながるわけですから、アメとムチの仕組み、つまりモチベーション 2.0 の動機づけです。
 
 また、改善提案を出すと賞金がもらえるとか、特許や発明を出すと表彰されるとか、そういうったキャンペーン的な仕組みもよく行われていますが、これも、当然、報酬をベースとしたモチベーション 2.0 の動機づけです。
 
 今行われているやる気を起こさせる方法は、何かとおカネなどの報酬と結びつけていることが多いと思います。何の報酬もなく「根性でとにかくやれ!」というのよりはいいのでしょうが、与えられた動機づけ(外発的動機づけ)である古いモチベーション 2.0 の仕組みが主流だといえるでしょう。
 

2. モチベーション 2.0 の問題

 
 このように普通に使われているモチベーション 2.0 ですが、実は、ルーチンワークのような機械的な作業の場合にしか有効ではないことが明らかになっています。もっと悪いことに、意欲を持ってやっていた仕事や創造性を必要とする仕事は、報酬を約束した時点で、つまらない退屈な仕事になってしまうこともわかっています。「モチベーション3.0」の中でも次のような経済学者や心理学者による様々な実験結果を紹介しています。
 
 モチベーション
 
 このように、アメ(報酬)とムチ(罰)が逆効果であることは様々な実験で明らかなのですね。自分のこれまでのことを考えても、思い当たることがいくつもあります。会社には表彰制度や賞品や賞金がもらえるような仕組みがありましたが、そういうイベントがある度に何だかダルい感じになったり、表彰される人やおカネをもらった人に対して嫌みなことを考えたりしていました。情けない話ですけど。でも、モチベーション2.0 が反対にやる気を失わせるというのはとても納得感があります。
 
 反対に、自分の内部から湧き出るやる気(内発的動機づけ)によって、やりたいからやっていたこともありました。先ほどの例とは違って、残業規制などで「やるな」と言われると不満になったり、仕事を途中でやめて家に帰るのが嫌になるような経験です。これはまさにモチベーション 3.0 ですね。新しいことをやる喜びを感じたり、自分の能力をさらに高めることができると思ってやっているわけです。やりがいを感じてたわけですね。
 
 このような自発的なやる気に対して、何らかの目標設定をしてその目標をクリアすると報酬を約束するという「交換条件つきの報酬(インセンティブ)」を設定すると、いろいろな悪影響を及ぼすことを会社などの組織ではもっと認識する必要があるでしょう。
 
 もともと持っていたやる気(内発的動機づけ)が失われるだけでなく、報酬の存在によって視野や思考が狭まってしまって問題解決のための柔軟な思考や創意工夫が生まれなくなることや、目標を達成することだけを重視してしまい倫理的に問題があったとしても手っ取り早い方法をとったりすることにもなります。
 
 さらに、この条件つきの報酬というのは、一度もらってしまうとそれが当たり前になってしまい、さらなる報酬を約束しないといけなくなるという依存性を持ちます。モチベーション 2.0 はやる気を引き出す効果がないばかりかマイナスの効果を持つというのは、これからモチベーションを考えたり議論したりするときの基本の知識としたいものです。
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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