海外事業進出とは、大きな可能性を秘める海外生産、わかりやすく解説
1. グローバル経済の本質とは
物理的距離の減少、情報技術の高度利用、文化的距離の減少、この3つの力によって世界的観点で産業を効率化しようとなると、各国が相互に得意なものを生産して、他国に輸出しようとするのは当然です。その起源はともあれ、結果的に技術、人、材料などのインフラが整っている場所が効率よく生産できるわけで、世界でも同じことが進むとみて良いでしょう。その自然な動きを関税で阻止しても、消費者に不合理を強いることが長く続くわけがありません。いずれ最も合理的な場所で生産するようになるのです。それが、グローバル経済の本質です。
2. 企業の海外進出とは
日本企業にとって、世界マーケットの重要性はますます高まるでしょう。一方で、日本企業側からすると、海外展開を検討する上で、自社技術・製品に対するニーズは本当にあるのか? あるとすればどこに?、どのように調査すればよいのか?、知財権は大丈夫か?、債権回収のリスクが高いのでは?などの疑問が生じます。 発展途上国では政治・経済体制の問題、インフラや企業向け金融、ビジネス関連法制度の未整備なども相俟って一層の注意を要します。このため、海外進出を頭に描きながらも、全てを自社で調べ上げて、その戦略を立てることは、困難です。
3. 海外進出支援のための補助金制度の活用
補助金制度は、企業にとって経営課題解決のための有効な施策です。これらの制度を活用して、リスクを抑えつつ海外進出の発展につなげることができれば、これほど素晴らしいことはありません。
一方で「申請書類の作成が複雑だ」「応募したが採択されなかった」といった声もよく聞かれます。制度を有効活用するためには、制度を正しく理解した上で、自社の規模や目的に適ったものを選択する必要があります。「お金をもらえるから新しい事を始める」のでは、支援の元々の目的と企業活動に乖離が生じ、後々トラブルにつながります。 これらの制度は、通常、毎年必ず実施されるとは限りませんし、募集期間も短いです。また、補助金制度は、他の応募企業との競争に勝たなければなりません。
4. グローバル化の潮流
世界経済の一体化が進む中で国際競争が厳しくなり、生き残りのために積極的にグローバル化を進めるようになりました。グローバル化は、生産性や効率を追求して他社に対する競争優位性を確保する必要があるということです。
グローバル化は大企業だけではなく、中小企業においても避けては通れない潮流です。取引先の大企業に引っ張られて海外に出る場合もあれば、自らがコスト低減やマーケット拡大を目指して海外に出る場合もありますが、いずれにしても、生産性や効率、つまり、利益を追求した攻めのグローバル化を目指さざるをえない状況です。
5. 海外事業進出がもたらす具体的メリット
海外進出は単なるコスト削減策に留まりません。企業の競争力を飛躍的に向上させる、複数のメリットをもたらします。第一に、市場の拡大です。国内市場の縮小が予測される中、海外に新たな顧客層を開拓することで、売上の基盤を強化できます。特に、成長著しい新興国市場は、大きなビジネスチャンスを秘めています。第二に、サプライチェーンの最適化です。安価な労働力や原材料を現地で調達できれば、生産コストを大幅に削減できます。また、主要な消費市場に近い場所に生産拠点を置くことで、物流コストを抑え、迅速な製品供給が可能になります。第三に、技術革新の促進です。海外のパートナー企業や研究機関と連携することで、自社にない技術やノウハウを獲得できます。異文化圏でのビジネスは、新たな視点や発想を生み出し、予期せぬイノベーションにつながることも珍しくありません。
6. 成功に向けた戦略と課題克服
海外進出を成功させるためには、事前の綿密な調査と計画が不可欠です。まずは、進出先の市場特性を深く理解することが求められます。ターゲットとする国の文化、商習慣、法制度、そして競合他社の動向を徹底的に分析し、自社の強みを活かせるニッチな市場を見つけることが重要です。その上で、現地の有力企業とのM&A(合併・買収)や、技術提携といったパートナーシップを積極的に検討すべきです。これにより、単独で進出するよりも、リスクを抑えつつ、迅速に事業を立ち上げることが可能になります。
しかし、海外進出には多くの課題も伴います。特に、言語や文化の壁、そして現地の法律や規制への対応は、企業が直面する大きなハードルです。これらを乗り越えるためには、現地の専門家やコンサルタントの協力を仰ぐことが有効です。彼らの知見を活用することで、不必要なトラブルを避け、円滑な事業運営を実現できます。さらに、現地の従業員を尊重し、彼らの能力を最大限に引き出すための組織体制を構築することも、成功の鍵となります。
7. グローバル化のその先へ
海外事業進出は、単なるビジネスの拡大に留まらず、企業のあり方そのものを変えていく壮大な挑戦です。グローバルな視点を持つことで、自社の技術や製品が世界でどのように受け入れられるかを知り、より普遍的な価値を創造できるようになります。そして、多様な文化を持つ人々と協働する中で、新たな価値観や視点を取り入れ、企業としての成長を加速させることができます。海外進出の成功は、単に利益を追求するだけでなく、地球規模での課題解決に貢献する可能性も秘めています。気候変動や貧困問題といった、一国だけでは解決できない課題に対し、グローバルな事業活動を通じて貢献していくことが、今後の企業に求められる役割となるでしょう。
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