時間基準保全(TBM)とバスタブ曲線

投稿日

TPM

 

◆定期整備で故障削減が期待できない理由とは

「工場の設備は、定期的なオーバーホールを行っているから、故障なんてしない!」本当にそうでしょうか?結論から言いますが、定期的なオーバーホールでは、故障の削減は、期待できません。「なんで、定期整備だけではダメなの?」「どういうタイミングで整備すればいいの?」もし、このような疑問があれば、この記事で解決できます。今回は「定期整備でなく、故障するちょっと前に整備するのが経済的である」理由を説明します。

 

◆【特集】 連載記事紹介連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

 

1.定期整備の考え方

予防的に部品を交換したり、整備する考えが始まったころは、時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)が採用されました。時間基準で整備を行うことで、故障する前に部品を交換するという考え方です。この考え方は、以下の図にある「バスタブ曲線」に基づく考え方です。多くの設備管理の本などでも紹介されていますが、この考え方は、間違っています。

 

2.バスタブ曲線とは

バスタブ曲線とは、設備の運転時間と故障率を表したグラフです。

 

【バスタブ曲線の思想】

  •  設備を設置した当初は、初期故障が多く発生するため、トラブルが多い
  •  その後、設備は安定する
  •  ある程度時間が経過すると、老朽化による摩耗故障が増える
  •  そのため、故障が増え始める前に、整備が必要となる

 

TPM

 

この考え方は、人間の健康状態とも似ており、理解しやすいです。生まれたばかりの赤ちゃんは死亡率が高く、成人になると死亡率が下がります。そして高齢になると、死亡率が上がります。ですが、このメンテナンス方法は、オーバーメンテナンスになりやすいです。コスト高になる割には、故障の削減効果は期待できません。

 

3.定期整備では故障削減が期待できない理由

次に、事例を紹介しながら、定期整備では故障削減が期待できない理由を説明します。1960年代に、アメリカにて機器の劣化損傷パターンを研究が行われました。1968年にユナイテッド航空で調査した結果では、故障データは以下の通りでした。

 

TPM

 

研究結果では、バスタブ曲線のデータを示した部品は、4%でした。時間の経過とともに故障率が上がる劣化損傷パターンを示す部品は、全体の11%でした。定期整備により故障を減らすことができる部品は、11%であったとも言い換えられます。反対に、時間が経過しても故障率が変わらない部品は、89%でした。つまり、これらの部品は、定期整備が有効ではないということです。同様の研究結果は、他にもあります。

 

【研究結果の事例】

  •  航空機(1968年):ユナイテッド航空の航空機の故障データ
  •  航空機(1973年):米国NASAがとりまとめたジェット機の故障データ
  •  船舶(1982年) :米海軍の船舶の故障データ
  •  潜水艦(2001年):米海軍の潜水艦の故障データ

 

TPM

 

結果は、全て同様でした。時間の経過とともに故障率が上がる劣化損傷パターン(定期整備や有効な部品)は、8~29%でした。4つの研究結果の単純平均だと18%であり、定期整備が有効とは言えない結果でした。以上の理由により、定期整備をいくら行っても、故障を減らす効果は期待できません。

 

4.故障を予知することが最も経済的

部品の劣化損傷パターンを理解すると、経済的なメンテナンス方法が見えてきます。結論を言いますが、「設備が壊れるちょっと前に整備すること」が最も経済的です。理由は、時間基準では、故障を予測できないためです。「設備が壊れるちょっと前に整備する」方法としては、以下の通りです。

 

【経済的なメンテナンスの方法】

  1. 設備が壊れる状態を部品ごと推測する(例えば、ベアリングの損傷)
  2. 壊れる状態の予兆を検査する(例えば、振動測定、オイル分析)
  3. 壊れる予兆を見つけた後に、整備を計画する
  4. これらの方法を徹底するために、保全の戦略を立てて実行する

 

5.設備の状態監視の重要性

時間基準で整備を点検を行っても、故障の削減効果は期待できません。最も経済的にメンテナンスを行うためには、故障の予兆を検知し、設備が壊れるちょっと前に整備することです。そのため、日常点検を行い、設備の状態を監視するのがよい方法です。とはいえ、定期整備が必要な場面も多いです。例えば、法的に(高圧ガス、危険物、ボイラー、クレーン、エレベー...

TPM

 

◆定期整備で故障削減が期待できない理由とは

「工場の設備は、定期的なオーバーホールを行っているから、故障なんてしない!」本当にそうでしょうか?結論から言いますが、定期的なオーバーホールでは、故障の削減は、期待できません。「なんで、定期整備だけではダメなの?」「どういうタイミングで整備すればいいの?」もし、このような疑問があれば、この記事で解決できます。今回は「定期整備でなく、故障するちょっと前に整備するのが経済的である」理由を説明します。

 

◆【特集】 連載記事紹介連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

 

1.定期整備の考え方

予防的に部品を交換したり、整備する考えが始まったころは、時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)が採用されました。時間基準で整備を行うことで、故障する前に部品を交換するという考え方です。この考え方は、以下の図にある「バスタブ曲線」に基づく考え方です。多くの設備管理の本などでも紹介されていますが、この考え方は、間違っています。

 

2.バスタブ曲線とは

バスタブ曲線とは、設備の運転時間と故障率を表したグラフです。

 

【バスタブ曲線の思想】

  •  設備を設置した当初は、初期故障が多く発生するため、トラブルが多い
  •  その後、設備は安定する
  •  ある程度時間が経過すると、老朽化による摩耗故障が増える
  •  そのため、故障が増え始める前に、整備が必要となる

 

TPM

 

この考え方は、人間の健康状態とも似ており、理解しやすいです。生まれたばかりの赤ちゃんは死亡率が高く、成人になると死亡率が下がります。そして高齢になると、死亡率が上がります。ですが、このメンテナンス方法は、オーバーメンテナンスになりやすいです。コスト高になる割には、故障の削減効果は期待できません。

 

3.定期整備では故障削減が期待できない理由

次に、事例を紹介しながら、定期整備では故障削減が期待できない理由を説明します。1960年代に、アメリカにて機器の劣化損傷パターンを研究が行われました。1968年にユナイテッド航空で調査した結果では、故障データは以下の通りでした。

 

TPM

 

研究結果では、バスタブ曲線のデータを示した部品は、4%でした。時間の経過とともに故障率が上がる劣化損傷パターンを示す部品は、全体の11%でした。定期整備により故障を減らすことができる部品は、11%であったとも言い換えられます。反対に、時間が経過しても故障率が変わらない部品は、89%でした。つまり、これらの部品は、定期整備が有効ではないということです。同様の研究結果は、他にもあります。

 

【研究結果の事例】

  •  航空機(1968年):ユナイテッド航空の航空機の故障データ
  •  航空機(1973年):米国NASAがとりまとめたジェット機の故障データ
  •  船舶(1982年) :米海軍の船舶の故障データ
  •  潜水艦(2001年):米海軍の潜水艦の故障データ

 

TPM

 

結果は、全て同様でした。時間の経過とともに故障率が上がる劣化損傷パターン(定期整備や有効な部品)は、8~29%でした。4つの研究結果の単純平均だと18%であり、定期整備が有効とは言えない結果でした。以上の理由により、定期整備をいくら行っても、故障を減らす効果は期待できません。

 

4.故障を予知することが最も経済的

部品の劣化損傷パターンを理解すると、経済的なメンテナンス方法が見えてきます。結論を言いますが、「設備が壊れるちょっと前に整備すること」が最も経済的です。理由は、時間基準では、故障を予測できないためです。「設備が壊れるちょっと前に整備する」方法としては、以下の通りです。

 

【経済的なメンテナンスの方法】

  1. 設備が壊れる状態を部品ごと推測する(例えば、ベアリングの損傷)
  2. 壊れる状態の予兆を検査する(例えば、振動測定、オイル分析)
  3. 壊れる予兆を見つけた後に、整備を計画する
  4. これらの方法を徹底するために、保全の戦略を立てて実行する

 

5.設備の状態監視の重要性

時間基準で整備を点検を行っても、故障の削減効果は期待できません。最も経済的にメンテナンスを行うためには、故障の予兆を検知し、設備が壊れるちょっと前に整備することです。そのため、日常点検を行い、設備の状態を監視するのがよい方法です。とはいえ、定期整備が必要な場面も多いです。例えば、法的に(高圧ガス、危険物、ボイラー、クレーン、エレベーターなど)定期点検や定期整備を行う設備などです。整備に長期的な計画が必要な設備も、定期点検を行います。

 

例えば、整備するのに、1ヶ月以上停止しないといけない設備や、部品の納期が6ヶ月必要な設備などです。これらの設備は、状態が悪くなってから、対応することが難しいためです。また、今まで説明した事例は機械部品のデータであり、寿命予測が難しい電気設備など(突然壊れる)では、定期整備を行うことも多いです。

 

6.まとめ

故障を削減するためには、定期整備でなく、設備の状態を監視し、故障を早期に発見するのがよい方法です。もし「日常点検は、していないなぁ」と思ったら、異音や異常振動、異常電流がないかを日々チェックするようにしては、いかがでしょうか?

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

清岡 大輔

工場の保全業務をアシストします。弊社保全ラボは、あなたの工場の保全パーソンです。①設備管理の設計・計画を支援します。 ➁トラブルの原因を調査します。 ③地球環境と調和する設備管理のあり方を創造します。

工場の保全業務をアシストします。弊社保全ラボは、あなたの工場の保全パーソンです。①設備管理の設計・計画を支援します。 ➁トラブルの原因を調査します。 ③地...


「安全工学一般」の他のキーワード解説記事

もっと見る
設計者の意識 リスクアセスメント(その9)

 今回は4つのポイントのうちの3つ目、「ポイント③ 設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する」について解説します。    1.なぜ設計者の意識を...

 今回は4つのポイントのうちの3つ目、「ポイント③ 設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する」について解説します。    1.なぜ設計者の意識を...


アメリカの安全規制 機能安全(その4)

       【安全設計手法 連載目次】 1. 機能安全(その1)機能安全とは何か 2. 機能安全(...

       【安全設計手法 連載目次】 1. 機能安全(その1)機能安全とは何か 2. 機能安全(...


設計プロセスの中に組み込む  リスクアセスメント(その6)

 前回のその5に続いて解説します。今回からは実務においてリスクアセスメントを進める際のポイントを解説します。リスクアセスメントを形骸化させずに、いかに効果...

 前回のその5に続いて解説します。今回からは実務においてリスクアセスメントを進める際のポイントを解説します。リスクアセスメントを形骸化させずに、いかに効果...


「安全工学一般」の活用事例

もっと見る
製品安全で急浮上の課題『サイレントチェンジ』の事例

 ◆ サイレントチェンジ多発の背景  2017年10月経産省・製品安全課から次のような文章が公開されました。「製造事業者は電気用品安全やRoHS規制等の...

 ◆ サイレントチェンジ多発の背景  2017年10月経産省・製品安全課から次のような文章が公開されました。「製造事業者は電気用品安全やRoHS規制等の...


プラスチック製品の不具合事例 (その1)

 不具合事例を見る前に、設計者が担保すべき製品の安全性について説明したいと思います。製造物責任法においては、「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係...

 不具合事例を見る前に、設計者が担保すべき製品の安全性について説明したいと思います。製造物責任法においては、「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係...


化学物質による事故・汚染、化学物質の危険性、有害性、取扱い事例

 私の所属している化学物質管理士協会が行う化学物質管理試験科目の一つである化学物質による事故・汚染、化学物質の危険性、有害性、取扱い方について取り上げ...

 私の所属している化学物質管理士協会が行う化学物質管理試験科目の一つである化学物質による事故・汚染、化学物質の危険性、有害性、取扱い方について取り上げ...