現場リーダーが作業から離れてみると見えることとは

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1.現場リーダーと作業効率

 数名の部下を持つ「現場リーダー」(主任、班長、など呼び方は会社によって様々)が、現場の作業に入っている工場は少なくありません。一日中、上級作業者として、一般作業者と同じ作業に従事している現場リーダーもいます。

 西部劇の幌馬車を例にとると、幌馬車を引く馬が作業者、現場リーダーが御者です。御者は、手綱を引いて、幌馬車を目的地まで安全に届けることが使命です。管理(Management)という言葉は、手綱を引くという言葉からきているそうです。

 なぜ現場リーダーは作業に入ってしまうのでしょう?それには2つの理由があります。

  • ①自分が作業に入らないと納期遅れになってしまう
  • ②自分にしかできない作業がある

 しかしこれは錯覚です。現場リーダーが作業に入らなければならないという状況は、現場リーダーが作業に入るから起きる現象なのです。現場リーダーが作業に入らなくてはならない問題は、逆に作業から離れることで解決できます。パラドックスのようですが、ここをしっかり理解しましょう。

 

2.現場リーダーが作業に入ってしまう2つの理由

2.1 現場リーダーが作業に入らないと納期遅れになる

  具体的な例を挙げましょう。あるプレス工場では、現場リーダーが、顧客から支給された図面を、自分と部下である5名の作業者に朝礼で割り振ります。図面には納期が書いてあるので、現場リーダーと作業者達は自分が担当する物件の納期に間に合うように、各自調整しながらプレス作業を進めます。

 そこへ急ぎの仕事が入ってきたり予定が変更されると、現場リーダーは作業者5名の作業状況を確認しようとしますが、自分も朝から作業に入っているので、実は作業者の進捗を把握できていません。だから、経験と勘で優先度を決め、その場しのぎの対応をしています。

 こう説明すると、現場リーダーは決まって「すべて頭に入っているから大丈夫」といいます。しかし、人間の記憶ほどあいまいなものはありません。エビングハウスの忘却曲線によると、人は1時間後に56%、1日経つと74%忘れます。結局、納期遅れが切迫してから、その対応に追われることになります。自分が作業に入らないと納期遅れになる、という状況に陥るわけです。

2.2 現場リーダーにしかできない作業がある

 製造工程では、ベテラン作業者が現場リーダーになるケースが多く見られます。ですから、現場リーダーは作業者よりも作業が速く、正確にできます。これは悪いことではありません。本来リーダーとは、山本五十六氏の言葉にあるように、「やってみせる」ことができなければならないからです。けれども、作業者より仕事ができるからこそ、現場リーダーが難易度の高い仕事を担当するようになってしまいます。そうなると、いつまで経っても作業者の力量は上がりません。

 具体的な例を見てみましょう。ある金属部品加工メーカーの工場では、加工する機械のセットを、現場リーダーと4名の作業者が行っています。比較的簡単な繰り返し生産品は、主に4名の作業者が担当し、これまで生産したことがない新規品は、現場リーダーが担当します。プログラムの新規作成や寸法出しの調整が難しいからです。現場リーダーは言います、「作業者の能力が低くて、結局自分がやらないといけない・・・」「作業者に教えようとしても時間がない・・・」。負のスパイラルです。

 

3.現場リーダーに必要な能力

 現場リーダーに必要な能力には2種類あります。1つ目は、固有技術、技能の習熟度です。作業者よりも速く、正確に作業ができることです。2つ目は管理能力、つまり部下を管理していくための考え方やコミュニケーション能力、仕組みを構築する能力です。言い換えると、部下の成果を最大限に引き出す能力です。

 現場リーダーは、日々の仕事をこなしながら、固有技術が高くなります。しかし、管理技術を学び、高める場はほとんどありません。だから、固有技術こそが現場リーダーとしての重要な仕事だと錯覚しがちです。

 結果として、「自分がやらなければ」という責任感が強くなり、現場作業から離れられなくなってしまうのです。

 

4.現場リーダーの力量

 「自分が作業に入らないと納期遅れになる」という状況を変えるには、現場リーダーが、常に作業者の進捗が分かる仕組みづくりが必要です。それも、作業者に確認しなくても、予定より進んでいるのか、遅れているのかが一目で分かる仕組みです。

 空港では、管制塔が滑走路にどの飛行機を離発着させるかをコントロールしています。飛行機は、天候や整備などに、ちょっとの問題でもあると遅れます。「滑走路が混んでいるので、着陸許可が出るまで飛行を続けます」という機内アナウンスを誰でも耳にしたことがあるでしょう。常に管制塔が空港を集中コントロールしているのです。

 現場リーダーは、管制塔が空港をコントロールするように、日々の仕事を集中コントロールしなくてはいけません。優秀なパイロットになってはいけないのです。そのためには作業から離れて、仕組みを運用するための時間を投入しなくてはなりません。それが、結果として納期遅れを予防することになります。

 「現場リーダーにしかできない作業がある」なら、手順を標準化し、必要ならマニュアル化して、誰でもできるための...

1.現場リーダーと作業効率

 数名の部下を持つ「現場リーダー」(主任、班長、など呼び方は会社によって様々)が、現場の作業に入っている工場は少なくありません。一日中、上級作業者として、一般作業者と同じ作業に従事している現場リーダーもいます。

 西部劇の幌馬車を例にとると、幌馬車を引く馬が作業者、現場リーダーが御者です。御者は、手綱を引いて、幌馬車を目的地まで安全に届けることが使命です。管理(Management)という言葉は、手綱を引くという言葉からきているそうです。

 なぜ現場リーダーは作業に入ってしまうのでしょう?それには2つの理由があります。

  • ①自分が作業に入らないと納期遅れになってしまう
  • ②自分にしかできない作業がある

 しかしこれは錯覚です。現場リーダーが作業に入らなければならないという状況は、現場リーダーが作業に入るから起きる現象なのです。現場リーダーが作業に入らなくてはならない問題は、逆に作業から離れることで解決できます。パラドックスのようですが、ここをしっかり理解しましょう。

 

2.現場リーダーが作業に入ってしまう2つの理由

2.1 現場リーダーが作業に入らないと納期遅れになる

  具体的な例を挙げましょう。あるプレス工場では、現場リーダーが、顧客から支給された図面を、自分と部下である5名の作業者に朝礼で割り振ります。図面には納期が書いてあるので、現場リーダーと作業者達は自分が担当する物件の納期に間に合うように、各自調整しながらプレス作業を進めます。

 そこへ急ぎの仕事が入ってきたり予定が変更されると、現場リーダーは作業者5名の作業状況を確認しようとしますが、自分も朝から作業に入っているので、実は作業者の進捗を把握できていません。だから、経験と勘で優先度を決め、その場しのぎの対応をしています。

 こう説明すると、現場リーダーは決まって「すべて頭に入っているから大丈夫」といいます。しかし、人間の記憶ほどあいまいなものはありません。エビングハウスの忘却曲線によると、人は1時間後に56%、1日経つと74%忘れます。結局、納期遅れが切迫してから、その対応に追われることになります。自分が作業に入らないと納期遅れになる、という状況に陥るわけです。

2.2 現場リーダーにしかできない作業がある

 製造工程では、ベテラン作業者が現場リーダーになるケースが多く見られます。ですから、現場リーダーは作業者よりも作業が速く、正確にできます。これは悪いことではありません。本来リーダーとは、山本五十六氏の言葉にあるように、「やってみせる」ことができなければならないからです。けれども、作業者より仕事ができるからこそ、現場リーダーが難易度の高い仕事を担当するようになってしまいます。そうなると、いつまで経っても作業者の力量は上がりません。

 具体的な例を見てみましょう。ある金属部品加工メーカーの工場では、加工する機械のセットを、現場リーダーと4名の作業者が行っています。比較的簡単な繰り返し生産品は、主に4名の作業者が担当し、これまで生産したことがない新規品は、現場リーダーが担当します。プログラムの新規作成や寸法出しの調整が難しいからです。現場リーダーは言います、「作業者の能力が低くて、結局自分がやらないといけない・・・」「作業者に教えようとしても時間がない・・・」。負のスパイラルです。

 

3.現場リーダーに必要な能力

 現場リーダーに必要な能力には2種類あります。1つ目は、固有技術、技能の習熟度です。作業者よりも速く、正確に作業ができることです。2つ目は管理能力、つまり部下を管理していくための考え方やコミュニケーション能力、仕組みを構築する能力です。言い換えると、部下の成果を最大限に引き出す能力です。

 現場リーダーは、日々の仕事をこなしながら、固有技術が高くなります。しかし、管理技術を学び、高める場はほとんどありません。だから、固有技術こそが現場リーダーとしての重要な仕事だと錯覚しがちです。

 結果として、「自分がやらなければ」という責任感が強くなり、現場作業から離れられなくなってしまうのです。

 

4.現場リーダーの力量

 「自分が作業に入らないと納期遅れになる」という状況を変えるには、現場リーダーが、常に作業者の進捗が分かる仕組みづくりが必要です。それも、作業者に確認しなくても、予定より進んでいるのか、遅れているのかが一目で分かる仕組みです。

 空港では、管制塔が滑走路にどの飛行機を離発着させるかをコントロールしています。飛行機は、天候や整備などに、ちょっとの問題でもあると遅れます。「滑走路が混んでいるので、着陸許可が出るまで飛行を続けます」という機内アナウンスを誰でも耳にしたことがあるでしょう。常に管制塔が空港を集中コントロールしているのです。

 現場リーダーは、管制塔が空港をコントロールするように、日々の仕事を集中コントロールしなくてはいけません。優秀なパイロットになってはいけないのです。そのためには作業から離れて、仕組みを運用するための時間を投入しなくてはなりません。それが、結果として納期遅れを予防することになります。

 「現場リーダーにしかできない作業がある」なら、手順を標準化し、必要ならマニュアル化して、誰でもできるための仕組みづくりが必要です。しかし、すべてを標準化・マニュアル化することはできません。暗黙知になっているノウハウは、作業者にやらせてみせることです。特に、難しい調整作業などは、何度も何度もやらせてみせることです。現場リーダーの力量とは、自分の作業品質を高めることではなくて、作業者の作業品質を高めることです。

 そのためにも、現場リーダーは、作業者にやらせてみせ、作業者の力量アップを図るための時間を創らなくてはなりません。つまり、自分が作業から離れて、教える時間を創り出すことで、自分にしかできない作業が減ってくるのです。

 レストランでは、料理長が新米料理人に料理を教えるとき、料理の味見をして、その味から料理手順の不備を見抜き、どこを変えればよいかを指摘します。それが、料理長のリーダーとしての力量と言えるでしょう。

  

5.作業者の観察から始める

 現場リーダーは、理屈よりも先にまず作業から離れてみることです。人は同じ景色を見ても、意識を変えると得られる情報が変わります。新聞記事は同じでも、見る人によって得られる情報は変わります。見慣れた製造現場も、意識を変えると、今まで見えなかったことが見えるようになってきます。まず15分でも、じっくりと作業者の動きを観察することを明日から試してみてはいかがでしょう。

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この記事の著者

近江 良和

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