視点を変える 現場改善:発想の転換 (その5)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として、現場改善:発想の転換をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第5回目となります。

◆ 経営者の立場になって見直す

1. 職場ではどんな意識を持って働いているのか?

 生産現場の従業員の方がどんな気持ちで毎日働いているか、その作業意識を一人ひとりにお尋ねになった経営者や上司はどれくらいおられるでしょうか?

 やらなくてはと思ってみても、なかなか照れくさくてやっていないとか、あるいは彼らとは長く付き合っているので、あえて聞かなくても分かっているとも思っておられるかもしれません。本当はじっくり正面から話し合ったことがない場合が、ほとんどではないかと思います。

 従業員の多くからは「仕事をやらされている感じ」、「言われたことだけをやっていてその日のノルマのみを追いかけるだけで、精一杯。改善なんて考えたこともできない」というような消極的な答えが想像されます。

 「工場で目標としたことや掲げた成果が出ない」とか「意欲が感じられない」、「自主的な活動ができない」、「活動を開始したその時だけですぐに元に戻ってしまう」など、皆さんの盛り上がりが欠けてしまう元気の無さはなぜ起きてしますのでしょうか?

 「この製品や部品をいつまでに何個作れ!」という具体的な指示や命令は、日常茶飯事でしょう。しかし、将来われわれの工場をどうしたいとか、どのように工場を変えて行きたいのかなどのビジョンや夢を、従業員の皆さんに理解できる言葉で咀嚼(そしゃく)して、物語風に熱っぽく語ることが元気の源になります。

 でも工場を本当に変えて良くしていこうと思ったら、従業員の皆さんと正面から話し合って納得させ、ベクトルをお客様の方向に向けさせることが、これから組織や会社として競争力をつけていくことために必要不可欠なものとなってきます。

 

 ところで体重をいかに減量するかとか、血圧を低下させるなど努力はしてみるものの、なかなか結果が出ませんね。でもコスト吐けずにかけずに、割りと確実に結果を出す方法があります。それは特別なことをするのではなく、毎日体重計に乗って体重を計測したり、血圧計で朝晩数値を確認したりすることだそうです。しかもそれをグラフや表に書き込むと、さらに効果があるということです。

 つまり作業の意識も同様に、毎日書き込んだりみえるようにしたりして、少しずつでも毎日継続させることがヒントのようです。

 

2. 全員が経営者になったつもりで考えてみる

 会社や工場から帰宅すると、家庭を持っている従業員の皆さんは、その家庭における家長であり、いわば経営者そのものです。

 会社や工場では、トップにいる人はごく僅(わず)かで、実際にはトップや上司から多くの人が指示命令で仕事をしています。そのためなのか働いてはいるものの、働かされているという感覚に陥ってしまうのでしょう。その延長線で家庭でも、なんとなく意識をしないまま生活をしてしまうため、奥様や家族からもこき使われている感覚に陥ってしまうことになりそうです。

 しかし良く考えて見ますと、家庭では月末に支給される給料を基に、来月の家庭の生活設計を考えます。

 例えば来月の連休に計画した家族旅行はどこに行くのか、その費用はどれくらいか、さらには古くなった車はいつ買い替えしようか、そのためのローンはどのように組むか。もっといえば長期的なものとして、家の増改築はどうするか、子どもたちの学費や結婚資金はどう組み立てていくかなどの計画を立てることは、短期だけでなく中長期計画を立てるような、まるで会社経営そのものではないでしょうか。

 家計のお金の出入り管理は家計簿ですが、これも会社でいえば収支決算書、さらには損益計算書、貸借対照表になっていきます。

 経営者の視点は、工場全体の入り口から出口までを一貫して見渡すものです。自工程や自部門だけなどの狭い範囲の部分最適を見つめていては、上手く物や情報はつなげることはできません。全体の流れをいつも鑑(かんが)みながら、蟻(あり)ではなく鳥になった気持ちで、全体最適につないでいくことを考えておくべきです。


 ここで川柳を一句、『従業員 家に帰れば 経営者』 

 

3. ヒントは意外にも身の回りにあります

 従業員の皆さんは、自分は生きているのではなく、生かされているということを実感してもらうことが必要だと考えます。

 実際に自工程だけでなく、前工程や後工程とのやり取りをもっと頻繁に行って、お互いの関連を相互に理解することです。実際に足を運んでみて、お互いの顔をつき合わせてみることをやります。

 次には、全工程さらに全工場を一通り歩いて見て回ってみてください。

 トップの方は、お客様を連れて工場案内をされる機会があり、自社の現場を何度も見ることがありますが、従業員の多くは全工程や工場の隅から隅までを見る機会は、そう多くないと思いますのでぜひお勧めします。

 やり方は、お客様に一番近い出荷場から遡(さかのぼ)って、倉庫、生産現場、仕掛り置き場、資材倉庫さらには品質管理部門や営業などの間接部門まで物の流れる反対方向から歩いてみてください。

 通常、工場案内は情報の流れに従い、前工程から行われますが、普段とは違った方向から見ていくと、これまで見えていなかったことも発見しやすくなります。

 5Sや表示・標識、作業安全、作業環境、仕掛りの状態、従業員の表情などを念頭に入れて観察しながら歩いてみます。その時にこの会社の従業員という立場ではなく「この製品を買いたいなあ」というお客様の購買担当になったつもりで見てもらいたいのです。そこで、あなたが「本当に金が出せますか?」という自問自答をするのです。

 

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として、現場改善:発想の転換をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第5回目となります。

◆ 経営者の立場になって見直す

1. 職場ではどんな意識を持って働いているのか?

 生産現場の従業員の方がどんな気持ちで毎日働いているか、その作業意識を一人ひとりにお尋ねになった経営者や上司はどれくらいおられるでしょうか?

 やらなくてはと思ってみても、なかなか照れくさくてやっていないとか、あるいは彼らとは長く付き合っているので、あえて聞かなくても分かっているとも思っておられるかもしれません。本当はじっくり正面から話し合ったことがない場合が、ほとんどではないかと思います。

 従業員の多くからは「仕事をやらされている感じ」、「言われたことだけをやっていてその日のノルマのみを追いかけるだけで、精一杯。改善なんて考えたこともできない」というような消極的な答えが想像されます。

 「工場で目標としたことや掲げた成果が出ない」とか「意欲が感じられない」、「自主的な活動ができない」、「活動を開始したその時だけですぐに元に戻ってしまう」など、皆さんの盛り上がりが欠けてしまう元気の無さはなぜ起きてしますのでしょうか?

 「この製品や部品をいつまでに何個作れ!」という具体的な指示や命令は、日常茶飯事でしょう。しかし、将来われわれの工場をどうしたいとか、どのように工場を変えて行きたいのかなどのビジョンや夢を、従業員の皆さんに理解できる言葉で咀嚼(そしゃく)して、物語風に熱っぽく語ることが元気の源になります。

 でも工場を本当に変えて良くしていこうと思ったら、従業員の皆さんと正面から話し合って納得させ、ベクトルをお客様の方向に向けさせることが、これから組織や会社として競争力をつけていくことために必要不可欠なものとなってきます。

 

 ところで体重をいかに減量するかとか、血圧を低下させるなど努力はしてみるものの、なかなか結果が出ませんね。でもコスト吐けずにかけずに、割りと確実に結果を出す方法があります。それは特別なことをするのではなく、毎日体重計に乗って体重を計測したり、血圧計で朝晩数値を確認したりすることだそうです。しかもそれをグラフや表に書き込むと、さらに効果があるということです。

 つまり作業の意識も同様に、毎日書き込んだりみえるようにしたりして、少しずつでも毎日継続させることがヒントのようです。

 

2. 全員が経営者になったつもりで考えてみる

 会社や工場から帰宅すると、家庭を持っている従業員の皆さんは、その家庭における家長であり、いわば経営者そのものです。

 会社や工場では、トップにいる人はごく僅(わず)かで、実際にはトップや上司から多くの人が指示命令で仕事をしています。そのためなのか働いてはいるものの、働かされているという感覚に陥ってしまうのでしょう。その延長線で家庭でも、なんとなく意識をしないまま生活をしてしまうため、奥様や家族からもこき使われている感覚に陥ってしまうことになりそうです。

 しかし良く考えて見ますと、家庭では月末に支給される給料を基に、来月の家庭の生活設計を考えます。

 例えば来月の連休に計画した家族旅行はどこに行くのか、その費用はどれくらいか、さらには古くなった車はいつ買い替えしようか、そのためのローンはどのように組むか。もっといえば長期的なものとして、家の増改築はどうするか、子どもたちの学費や結婚資金はどう組み立てていくかなどの計画を立てることは、短期だけでなく中長期計画を立てるような、まるで会社経営そのものではないでしょうか。

 家計のお金の出入り管理は家計簿ですが、これも会社でいえば収支決算書、さらには損益計算書、貸借対照表になっていきます。

 経営者の視点は、工場全体の入り口から出口までを一貫して見渡すものです。自工程や自部門だけなどの狭い範囲の部分最適を見つめていては、上手く物や情報はつなげることはできません。全体の流れをいつも鑑(かんが)みながら、蟻(あり)ではなく鳥になった気持ちで、全体最適につないでいくことを考えておくべきです。


 ここで川柳を一句、『従業員 家に帰れば 経営者』 

 

3. ヒントは意外にも身の回りにあります

 従業員の皆さんは、自分は生きているのではなく、生かされているということを実感してもらうことが必要だと考えます。

 実際に自工程だけでなく、前工程や後工程とのやり取りをもっと頻繁に行って、お互いの関連を相互に理解することです。実際に足を運んでみて、お互いの顔をつき合わせてみることをやります。

 次には、全工程さらに全工場を一通り歩いて見て回ってみてください。

 トップの方は、お客様を連れて工場案内をされる機会があり、自社の現場を何度も見ることがありますが、従業員の多くは全工程や工場の隅から隅までを見る機会は、そう多くないと思いますのでぜひお勧めします。

 やり方は、お客様に一番近い出荷場から遡(さかのぼ)って、倉庫、生産現場、仕掛り置き場、資材倉庫さらには品質管理部門や営業などの間接部門まで物の流れる反対方向から歩いてみてください。

 通常、工場案内は情報の流れに従い、前工程から行われますが、普段とは違った方向から見ていくと、これまで見えていなかったことも発見しやすくなります。

 5Sや表示・標識、作業安全、作業環境、仕掛りの状態、従業員の表情などを念頭に入れて観察しながら歩いてみます。その時にこの会社の従業員という立場ではなく「この製品を買いたいなあ」というお客様の購買担当になったつもりで見てもらいたいのです。そこで、あなたが「本当に金が出せますか?」という自問自答をするのです。

 

 別な観点でいいますと、皆さんが初めて訪れたスーパーで買い物をするイメージです。

 どのスーパーもそれぞれの商品一つひとつに表示標識が付いています。何かを探そうとして顔を上げると、大きな看板で肉、野菜などの表示が取り付けてあります。

 どのスーパーでもすぐに目的の物を探し出すことができますが、それには不特定多数の人が訪れても、すぐに分かる仕組みが施されているのです。これが探しにくければ、お客様はすぐに別のスーパーに行ってしまいます。本当に良くないとお金は出せませんね。

 某家具工場では、加工部品や購入部品などの廃棄が多く、何とかならないかということで、スーパーのように面倒でも部品一点ずつに値札をつけることにしました。

 その付ける手間よりも意識向上の成果の方が断然ありました。その結果、何気なく取り扱っていた部品を非常に丁寧に使うようになった上、すぐに廃棄や手直しが十分の一以下になり、意外なほど意識改革に成功しました。

 

 このようにヒントは、私たちの身近でしかも日常的な中に潜んでいるようですが、視点を変えることで簡単に「みえて」くるものです。


 次回は、現場改善:「発想の転換(その6) 時には第三者の力も借りる」から解説を続けます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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