DSM 設計構造マトリックス(その2) プロセス構造DSM

 

 前回の記事「解説: 設計構造マトリックス」では、設計構造マトリックス(DSM: Design Structure Matrix) の概要について解説しました。今回はいくつか種類のあるDSMの中でも、特にプロセスを改善する際に用いられるプロセス構造DSMについて解説したいと思います。

1. プロセス構造DSMとは

 プロセス構造DSMは現在では特にソフトウェア開発で多く用いられています。ソフトウェアはプロセスの塊なので当然といえば当然です。しかしソフトウェア開発で用いられる前から、プロセス構造DSMは業務プロセスの改善や製造プロセスの改善、プロジェクト管理などで用いられてきました。なぜなら業務・運用管理やプロジェクト管理ではプロセスの流れを管理することが極めて重要だからです。プロセスの流れを管理するツールとして、一般的には以下のようなものが用いられています。

  •  プロセス・フロー・ダイヤグラム
  •  フロー・チャート
  •  ガント・チャート
  •  バリュー・ストリーム・マップ

 しかしプロセスが複雑で各ステップが相互に依存関係がある場合、一般的なプロセス管理ツールは「流れ」を上手く管理できません。各ステップに依存関係がある場合、後のステップからのフィードバック次第で、一旦終わった前のステップをやり直したりすることがあるからです。典型的なプロセス管理ツールは、理想的なプロセスの流れしか表しておらず、実際に起こっている後工程からのフィードバックによる前工程のやり直しはほとんど考慮されていません。

  •  典型的なプロセス管理ツールの問題点をまとめると、
  •  各ステップの依存関係を考慮していない
  •  各ステップを最低限の矢印だけで結んでる
  •  情報の流れや生成物を示していない
  •  プロセスのやり直しが明示的に示されない

 などがあります。そこでDSMはそれらの問題点を補完するものとし、各ステップの依存関係を明示し、プロセスに潜むリスクを見つけ出し、各ステップの順序を最適化し、プロセスを改善するために使われます。

 またDSMは単に依存関係を表すだけでなく、連続処理、並行処理、結合処理、条件処理なども表すことができます。またここでは取り上げませんが、依存関係を示すマークを変えることとで、依存関係の種類や優先順位を表すこともできます。

DSM

図1. プロセス構造DSM

2. プロセス構造DSMの例

 例えば「電子回路を組み込んだ機械製品を開発し、それを組立て、テストし、要求仕様を満たしていることを確認したら、様々な製造準備を経てから製造を開始する」というようなプロセスを例にとって、プロセス構造DSMを説明します。

 以下のフロー・チャートは「理想的」なプロセスの流れを太線で示しています。電子回路基板の開発と機械の開発が平行して進められ、両方の開発が完了するとそれらを組み立て、テストします。テストに合格すると、製品化のために様々な製造準備が行われ、最終的に製品として製造が開始されます。しかしこのような「理想的」なプロセスの流れ(太線)が実際に起こるでしょうか。

 実際に起きていることは点線で示したフィードバック・ループ、つまり「やり直し」です。後工程で発見された問題を解決するために、前工程にさかのぼってやり直すことが実際の製品開発の現場では頻繁に起きており、それが製品開発プロジェクト管理を困難にしています。

 ガント・チャートでは実際に起こっている「やり直し作業」を赤色で示しました。これが製品開発プロジェクト管理のリスクとなっています。プロセスの各ステップはそれぞれ依存関係を持っています。前工程からの生成物や情報が主なものですが、後工程からの生成物や情報に依存することもあります。例えばテスト結果レポートや品質検査情報などです。後工程で行われるテスト結果が前工程の設計段階にフィードバックされるからです。

 DSMはプロセスの各ステップをその順序で行と列に配列します。そして依存関係を行と列が交わるセルに印として置いていきます(その行は印のある列からの入力がある)。DSMで依存関係を表現すると、対角線よりも下の印はフィード・フォワード、つまり前工程から後工程への入力を表します。前工程の生成物や情報を後工程で使うことになるので、依存関係としては全く問題ありません。

 一方、対角線よりも上の印はフィードバック、つまり後工程から前工程への入力を表しています。実際のプロセスでは必ずしもフィードバックが起こるわけではありませんが、可能性として無視することができません。フィードバックが起こり、その内容次第では「やり直し」が起こるからです。つまり対角線上よりも上の印はプロセスの「リスク」を表しています。DSMを使うと、プロセスに潜む2つのリスクを把握することができます。

 フィードバック数:対角線上よりも上にある印の数がプロセスの潜在的なリスクの数

 対角線上からの距離:印と対角線上からの距離が長ければ長いほど、時間的に遅れたフィードバックになる。つまり「やり直し」の影響がそれだけ大きくなる

 つまりDSMを使えばプロセスの潜在的なリスクを明示的に表現できるだけではなく、リスク対策に優先順をつけることもできます。

DSM

図2. プロセス構造DSMの例

3. プロセス構造DSMを使った改善

 DSM上で、行と列に配列したプロセスの順序を同時に変えると、依存関係を示した印の位置が変わります(行と列の配列は常に同じに保つ)。以下の例ではいくつかの製造準備段階のステップを前工程に移しました。すると依存関係は変わっていないにも関わらず、印の位置が変わりました。

 このプロセス・ステップの順序を変えることがプロセス構造DSMを使ったプロセスの改善方法です(順序分析)。

 以下の例では、対角線上の印の数が減っただけでな...

 

 前回の記事「解説: 設計構造マトリックス」では、設計構造マトリックス(DSM: Design Structure Matrix) の概要について解説しました。今回はいくつか種類のあるDSMの中でも、特にプロセスを改善する際に用いられるプロセス構造DSMについて解説したいと思います。

1. プロセス構造DSMとは

 プロセス構造DSMは現在では特にソフトウェア開発で多く用いられています。ソフトウェアはプロセスの塊なので当然といえば当然です。しかしソフトウェア開発で用いられる前から、プロセス構造DSMは業務プロセスの改善や製造プロセスの改善、プロジェクト管理などで用いられてきました。なぜなら業務・運用管理やプロジェクト管理ではプロセスの流れを管理することが極めて重要だからです。プロセスの流れを管理するツールとして、一般的には以下のようなものが用いられています。

  •  プロセス・フロー・ダイヤグラム
  •  フロー・チャート
  •  ガント・チャート
  •  バリュー・ストリーム・マップ

 しかしプロセスが複雑で各ステップが相互に依存関係がある場合、一般的なプロセス管理ツールは「流れ」を上手く管理できません。各ステップに依存関係がある場合、後のステップからのフィードバック次第で、一旦終わった前のステップをやり直したりすることがあるからです。典型的なプロセス管理ツールは、理想的なプロセスの流れしか表しておらず、実際に起こっている後工程からのフィードバックによる前工程のやり直しはほとんど考慮されていません。

  •  典型的なプロセス管理ツールの問題点をまとめると、
  •  各ステップの依存関係を考慮していない
  •  各ステップを最低限の矢印だけで結んでる
  •  情報の流れや生成物を示していない
  •  プロセスのやり直しが明示的に示されない

 などがあります。そこでDSMはそれらの問題点を補完するものとし、各ステップの依存関係を明示し、プロセスに潜むリスクを見つけ出し、各ステップの順序を最適化し、プロセスを改善するために使われます。

 またDSMは単に依存関係を表すだけでなく、連続処理、並行処理、結合処理、条件処理なども表すことができます。またここでは取り上げませんが、依存関係を示すマークを変えることとで、依存関係の種類や優先順位を表すこともできます。

DSM

図1. プロセス構造DSM

2. プロセス構造DSMの例

 例えば「電子回路を組み込んだ機械製品を開発し、それを組立て、テストし、要求仕様を満たしていることを確認したら、様々な製造準備を経てから製造を開始する」というようなプロセスを例にとって、プロセス構造DSMを説明します。

 以下のフロー・チャートは「理想的」なプロセスの流れを太線で示しています。電子回路基板の開発と機械の開発が平行して進められ、両方の開発が完了するとそれらを組み立て、テストします。テストに合格すると、製品化のために様々な製造準備が行われ、最終的に製品として製造が開始されます。しかしこのような「理想的」なプロセスの流れ(太線)が実際に起こるでしょうか。

 実際に起きていることは点線で示したフィードバック・ループ、つまり「やり直し」です。後工程で発見された問題を解決するために、前工程にさかのぼってやり直すことが実際の製品開発の現場では頻繁に起きており、それが製品開発プロジェクト管理を困難にしています。

 ガント・チャートでは実際に起こっている「やり直し作業」を赤色で示しました。これが製品開発プロジェクト管理のリスクとなっています。プロセスの各ステップはそれぞれ依存関係を持っています。前工程からの生成物や情報が主なものですが、後工程からの生成物や情報に依存することもあります。例えばテスト結果レポートや品質検査情報などです。後工程で行われるテスト結果が前工程の設計段階にフィードバックされるからです。

 DSMはプロセスの各ステップをその順序で行と列に配列します。そして依存関係を行と列が交わるセルに印として置いていきます(その行は印のある列からの入力がある)。DSMで依存関係を表現すると、対角線よりも下の印はフィード・フォワード、つまり前工程から後工程への入力を表します。前工程の生成物や情報を後工程で使うことになるので、依存関係としては全く問題ありません。

 一方、対角線よりも上の印はフィードバック、つまり後工程から前工程への入力を表しています。実際のプロセスでは必ずしもフィードバックが起こるわけではありませんが、可能性として無視することができません。フィードバックが起こり、その内容次第では「やり直し」が起こるからです。つまり対角線上よりも上の印はプロセスの「リスク」を表しています。DSMを使うと、プロセスに潜む2つのリスクを把握することができます。

 フィードバック数:対角線上よりも上にある印の数がプロセスの潜在的なリスクの数

 対角線上からの距離:印と対角線上からの距離が長ければ長いほど、時間的に遅れたフィードバックになる。つまり「やり直し」の影響がそれだけ大きくなる

 つまりDSMを使えばプロセスの潜在的なリスクを明示的に表現できるだけではなく、リスク対策に優先順をつけることもできます。

DSM

図2. プロセス構造DSMの例

3. プロセス構造DSMを使った改善

 DSM上で、行と列に配列したプロセスの順序を同時に変えると、依存関係を示した印の位置が変わります(行と列の配列は常に同じに保つ)。以下の例ではいくつかの製造準備段階のステップを前工程に移しました。すると依存関係は変わっていないにも関わらず、印の位置が変わりました。

 このプロセス・ステップの順序を変えることがプロセス構造DSMを使ったプロセスの改善方法です(順序分析)。

 以下の例では、対角線上の印の数が減っただけでなく、対角線上から遠い印の数も減りました。それだけプロセスの潜在的リスクを減らすことができたわけです。

 改善後のプロセスにはいくつかの依存関係の集合ができました。この依存関係の集合には緊密した早いループ・プロセスが必要になります。例えば暫定的にチームを組んでアジャイル開発などを行えば、プロセス全体のリスクを減らすことができます。

 一方、DSMを使っても解決できなかった遅い (対角線上よりも遠い) フィードバックがいくつか残りました。これらには個別でリスク防止対策が必要になります。リスクが顕在化しないように、タスクフォース・チームなどを作って対策に当たる必要があるでしょう。

DSM

図3. プロセス構造DSMを使った改善

 

4. プロセス構造DSMを使った分析の目的

 以上、プロセス構造DSMを使ったプロセス改善の目的と効果をまとめると、

分析の目的

  •  対角線から上の依存関係を減らす
  •  対角線から上の依存関係の対角線までの距離を縮める
  •  依存関係が固まった集合を作る

分析の効果

  •  プロセスの改善と最適化ができる
  •  遅いフィードバックによるやり直し処理の削減ができる
  •  リスクを把握しその優先順位付けができる
  •  リスク対策の方法が把握できる

   となります。

DSM

 図4.プロセス構造DSMを使った分析の目的

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この記事の著者

津吉 政広

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