業務プロセスのモデル化(DOE)とシミュレーション

更新日

投稿日

 
  品質工学
 
 業務プロセスや製造プロセスを、フローチャートやVSM(Value Stream Map)を使ってモデル化することは、プロセス改善の現場では普通に行われています。それはフローチャートやVSMが、視覚的にプロセスを捉えるうえで大変優れているだけではなく、フローチャートではループ(やり直し)や分岐(判断)、合流(待ち)を容易に見つけることができたり、VSMでは作業時間(サイクルタイム)や待ち時間などを容易に洗い出すことができるためで、それらの削減が実際のプロセス改善に役立つからです。
 
 しかしフローチャートやVSMは静的なモデルのため、動的な問題を考えるときには不便を感じます。不便なところの一つ目は、シミュレーションが難しいこと、二つ目はプロセスがイベント(入力)の変化にどう対応するのか、動的に掴めないことです。そのため時々、また必要に応じて、プロセスをソフトウェアを使ってモデル化することがあります。
 
 代表的なソフトウェアは MATLAB/Simulink のライブラリである SimEvents、または RockwellAutomation の Arena です。僕の同僚は Arena のファンですが、僕は SimEvents が好きです。両ソフトウェアとも大体同じことができるので、ここでは両ソフトウェアの違いについて論じることはせず、単にソフトウェアとしておきます。
 
 業務や製造のプロセスをソフトウェアで表現することの利点は何といっても、プロセスの属性となるパラメータを変えた時、プロセスがどのように変化するのかをシミュレーションできることです。つまりプロセスの実験ができることが最大の利点です。実際の業務や製造プロセスを実験で用いることはほぼ不可能ですし、仮にできたとしても、時間やコストが莫大にかかることでしょう。シミュレーションを使えば、安く、一瞬のうちに実験が行えます。僕はこれをプロセスのDOE(Design of Experiments)と呼んでいます。
 
 リーンシックスシグマで一般に使われるDOEと同じように、小さなプロセスならシミュレーションを使うことでDOEができます。まずパラメータのスクリーニング(スクリーニングDOE)を行い、多数のパラメータの中から、プロセスに最も影響を及ぼすパラメータだけを選びます。次に選択したパラメータの値や組み合わせを統計的に変化させて、数値モデルを作ります(モデリングDOE)。プロセスを数値モデルに置き換えることができれば、後の最適化は簡単です。
 
 数値モデルがあれば、パラメータ値が変化したときの、プロセスの動作が予想できるようにもなりますし、モンテカルロ・シミュレーションを使えば、確率分布も把握できます。
 
 何らかの入力があった時に始めてプロセスは動き出します。どのくらいの頻度の入力をそのプロセスが処理できるかは、プロセスの処理能力で違ってきます。もし入力の頻度がプロセスの処理能力を超えると、プロセスの内部で待ち時間が増えたり、WIP(Work in Process)が増えたりします。シミュレーションを用いれば、TOC (Theory of Constraints) のテクニックを使って、業務や製造プロセスの処理能力を測ったり、許容量を超えた場合の問題個所の洗い出しを行うことができます。
 
 業務や製造プロセスの改善は、早く改善策を実施することが目的であって、シミュレーションを行うことが目的ではないと思われるかもしれません。またシミュレーションが現実を正しく...
 
  品質工学
 
 業務プロセスや製造プロセスを、フローチャートやVSM(Value Stream Map)を使ってモデル化することは、プロセス改善の現場では普通に行われています。それはフローチャートやVSMが、視覚的にプロセスを捉えるうえで大変優れているだけではなく、フローチャートではループ(やり直し)や分岐(判断)、合流(待ち)を容易に見つけることができたり、VSMでは作業時間(サイクルタイム)や待ち時間などを容易に洗い出すことができるためで、それらの削減が実際のプロセス改善に役立つからです。
 
 しかしフローチャートやVSMは静的なモデルのため、動的な問題を考えるときには不便を感じます。不便なところの一つ目は、シミュレーションが難しいこと、二つ目はプロセスがイベント(入力)の変化にどう対応するのか、動的に掴めないことです。そのため時々、また必要に応じて、プロセスをソフトウェアを使ってモデル化することがあります。
 
 代表的なソフトウェアは MATLAB/Simulink のライブラリである SimEvents、または RockwellAutomation の Arena です。僕の同僚は Arena のファンですが、僕は SimEvents が好きです。両ソフトウェアとも大体同じことができるので、ここでは両ソフトウェアの違いについて論じることはせず、単にソフトウェアとしておきます。
 
 業務や製造のプロセスをソフトウェアで表現することの利点は何といっても、プロセスの属性となるパラメータを変えた時、プロセスがどのように変化するのかをシミュレーションできることです。つまりプロセスの実験ができることが最大の利点です。実際の業務や製造プロセスを実験で用いることはほぼ不可能ですし、仮にできたとしても、時間やコストが莫大にかかることでしょう。シミュレーションを使えば、安く、一瞬のうちに実験が行えます。僕はこれをプロセスのDOE(Design of Experiments)と呼んでいます。
 
 リーンシックスシグマで一般に使われるDOEと同じように、小さなプロセスならシミュレーションを使うことでDOEができます。まずパラメータのスクリーニング(スクリーニングDOE)を行い、多数のパラメータの中から、プロセスに最も影響を及ぼすパラメータだけを選びます。次に選択したパラメータの値や組み合わせを統計的に変化させて、数値モデルを作ります(モデリングDOE)。プロセスを数値モデルに置き換えることができれば、後の最適化は簡単です。
 
 数値モデルがあれば、パラメータ値が変化したときの、プロセスの動作が予想できるようにもなりますし、モンテカルロ・シミュレーションを使えば、確率分布も把握できます。
 
 何らかの入力があった時に始めてプロセスは動き出します。どのくらいの頻度の入力をそのプロセスが処理できるかは、プロセスの処理能力で違ってきます。もし入力の頻度がプロセスの処理能力を超えると、プロセスの内部で待ち時間が増えたり、WIP(Work in Process)が増えたりします。シミュレーションを用いれば、TOC (Theory of Constraints) のテクニックを使って、業務や製造プロセスの処理能力を測ったり、許容量を超えた場合の問題個所の洗い出しを行うことができます。
 
 業務や製造プロセスの改善は、早く改善策を実施することが目的であって、シミュレーションを行うことが目的ではないと思われるかもしれません。またシミュレーションが現実を正しく反映しているかどうかは分からない、とも思われるでしょう。それは正しい意見ですが、時にはシミュレーションが重要な役割を果たす時があります。
 
 それは、改善策を提案する時です。仮にとても良い改善策があったとしても、上司や関係部署が承諾しなければ、実行には移せません。改善策をプレゼンテーションする際に、統計的グラフを用いて、「95パーセントの確信間隔(confidence interval)で、平均12パーセントの処理時間を短縮することができ、その標準偏差は15分」と説明することで、かなり説得力が高まります。シミュレーションを使って初めて、数値を用いた提案がが行えるようになります。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

津吉 政広

リーンやシックスシグマ、DFSSなど、問題解決のためのフレームワークを使った新製品の開発や品質の向上、プロセスの改善を得意としています。「ものづくり」に関する問題を一緒に解決してみませんか?

リーンやシックスシグマ、DFSSなど、問題解決のためのフレームワークを使った新製品の開発や品質の向上、プロセスの改善を得意としています。「ものづくり」に関...


「シックスシグマ」の他のキーワード解説記事

もっと見る
製品開発業務が価値を生み出している時間とは

        製品開発部の複雑な開発業務の流れ整理し、迅速化し、可視化するために、リーンを製品開発部に導入...

        製品開発部の複雑な開発業務の流れ整理し、迅速化し、可視化するために、リーンを製品開発部に導入...


診断 スマートファクトリとリーンシックスシグマ (その2)

   前回のその1に続いて解説します。   【 第 2 段階:診断(故障や異常の検出や、センサーの診断などを行う)】 &nbs...

   前回のその1に続いて解説します。   【 第 2 段階:診断(故障や異常の検出や、センサーの診断などを行う)】 &nbs...


レッスンズ・ラーンドの進め方 学んだ教訓をまとめる(その1)

   いくつかのサブ・プロジェクトから構成される大きなブログラムが終了しました。そこでいつものようにレッスンズ・ラーンド(Lessons-Le...

   いくつかのサブ・プロジェクトから構成される大きなブログラムが終了しました。そこでいつものようにレッスンズ・ラーンド(Lessons-Le...


「シックスシグマ」の活用事例

もっと見る
コスト重視のシックスシグマ

 シックスシグマとは品質管理での対日本戦略として生み出され、顧客にほぼ欠陥の無いサービスを提供するというビジョンに基づいた経営管理体系です。シグマ(=σ)...

 シックスシグマとは品質管理での対日本戦略として生み出され、顧客にほぼ欠陥の無いサービスを提供するというビジョンに基づいた経営管理体系です。シグマ(=σ)...


スケールド・アジャイル・フレームワーク (SAFe) 初めての PI プランニング

        僕が勤める部門で導入を進めている スケールド・アジャイル・フレームワーク(SAFe)の初めて...

        僕が勤める部門で導入を進めている スケールド・アジャイル・フレームワーク(SAFe)の初めて...


TRIZ を使用した DfSS事例 (その2)

   前回のその1に続いて解説します。   5. D/O(Design and Optimize/設計と最適化)フェーズ &n...

   前回のその1に続いて解説します。   5. D/O(Design and Optimize/設計と最適化)フェーズ &n...