研究所主導の新商品開発プロセスとは

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 高収益な商品開発をするためには、顧客の困り事:課題を把握する必要があります。顧客の困り事には、様々なものがあります。「◯◯できない」などのネガティブな感想がヒントになることが多いです。そこで、今回は、研究所主導の新商品開発プロセスについて考えます。
 

1、「◯◯できない」の例

 
 分かりやすくコンシューマー向けの商品を考えてみましょう。自動車を例に考えてみると、「◯◯できない」は、「移動できない」「早く移動できない」「快適に移動できない」などの不満があります。フライパンで言えば、「重い」、「焦げ付く」、「美味しく出来ない」、「なかなか火が通らない」などの不満があります。BtoB商品を考えてみましょう。ここでも不満が実は大きな困り事なのです。
 

2.トラック架装メーカーの例

 
 困り事に「均質に温度管理ができないため、運搬中に一部が腐って/凍ってしまう」というものがありました。これを解決するために、「冷風吹き出し口の変更を加えたトラック荷台」を考えだし、コンプレッサーメーカー等との共同開発で実現した商品があります。
 

3.業務用イカ釣り機の例

 
 困り事に「イカが効率よく釣れない」という課題がありました。これを解決するために、漁師がエサを生きたように見せる「シャクリ」を再現する機能を設けて、「シャクリ再現機能付きのイカ釣り機」が開発されました。
 

4.クレームをどう捉えるか

 
 このように考えると、クレームは宝の山であることが分かります。クレームは重要なアンテナなのです。顧客は商品にクレームを唱えているのではなく、「◯◯できない」ことに不満を唱えているのです。 商品開発のヒントになるクレームには、重要なヒントが隠されているケースが多くあります。商品開発プロセスのマネージャーは、クレームから重要なヒントを拾い上げる必要があります。クレームから重要なヒントを拾い上げ、解決可能な課題かどうかを考えるのです。
 

5.【商品開発の普段】〜顧客の困り事に関する一次情報を得る〜

 
 顧客の困り事にある程度把握することができたら、一次情報を得るための活動をする必要があります。一次情報とは直接目で見たり、耳で聞いたりすることで得られる情報です。
一次情報で、得られる情報は膨大です。背景は何か、何が起こっているのか、何が課題なのか、課題は顧客特有の課題なのか一般的な課題なのか、顧客はどうやって解決しているのか、問題の根本的な課題はなんなのか、等々です。
 
 商品開発プロセスのマネージャーは、営業と同行したり、直接顧客にアポイントをとって行くことによって一次情報を得るようにする必要があります。顧客の現地、現物、現場が大事です。一次情報を得るために必要なのは、実は行動力です。また、複数人で解決する場合には、顧客の困り事を文章化する必要があります。顧客の困り事が商品開発につながる例について、こちらでも書いてあります。
 

6.【商品開発の準備】〜解決手段と代替手段を調査する〜

 
 困り事に関する一次情報を得た場合、顧客の解決手段(やりかた)がよく分かります。顧客の解決手段とは、例えば、自動車で言えば、「馬に乗って移動している」ということです。フライパンで言えば、「(ひきたくもない油を)大量に使用して焦げ付かないようにしている」ということです。
 
 顧客は顧客のやり方で解決しているわけです。その解決策はベストでしょうか?世の中にある技術を使って課題解決できないでしょうか?課題を定義出来た場合、解決手段をあらゆる情報を駆使して考えるのです。
 

7.【商品開発の要】〜商品コンセプトを考える〜

 
 技術開発を伴う商品開発プロセスの場合、コンセプトを文章化することが大切です。コンセプトは、技術的には相反するキーワードで構成されます。商品コンセプト例「焦げ付かないけどよく焼ける」 → フライパンは、テフロン加工がされています。よく焼けるためには、熱伝導率がある程度高い必要がありますが、熱伝導率が高い金属を使えば容易に焦げ付いてしまうという課題がありました。「よく焼ける」と「焦げ付かない」というのは技術的には矛盾する要求だったのです。「よく焼けるのに焦げ付かない」というのは、料理をする人には一般的な要求だったとしても、技術的には難しい課題と言えます。テフロンはデュポンの技術ですが、デュポンはテフロンによって焦げ付きという課題を克服しようとしました。他にもあります。
 
  ・商品コンセプト例  「丈夫で長持ち」 → 物干し竿は、ステンレスでできています。
  ・商品コンセプト例 「錆びないし軽い」 → 釣り竿はカーボンでできています。
 

8.商品コンセプトを実現するための技術を開発する

 
 商品コンセプトができたら、 商品コンセプトを実現するための技術を開発する必要があります。商品コンセプトを具現化した商品は顧客課題が解決することができます。技術開発の方向性には2つあります。
 

9.ソーシングすること(オープン・イノベーション)

 
 自ら開発すること調達する(ソーシング)手段を考えることです。オープン・イノベーションを選択する場合に難しいのは、共同で研究開発する相手の発掘です。また、自らと異なる領域の技術をマネジメントすることが必要となりますので、既存の人材では難しい場合も多く、採用活動が重要な業務プロセスとなります。
 

10.コア技術を深堀りすること

 
 自らの持っている技術にこだわる場合、コア技術を深化させることが出来ます。コア技術を深化させる場...
 
 
 高収益な商品開発をするためには、顧客の困り事:課題を把握する必要があります。顧客の困り事には、様々なものがあります。「◯◯できない」などのネガティブな感想がヒントになることが多いです。そこで、今回は、研究所主導の新商品開発プロセスについて考えます。
 

1、「◯◯できない」の例

 
 分かりやすくコンシューマー向けの商品を考えてみましょう。自動車を例に考えてみると、「◯◯できない」は、「移動できない」「早く移動できない」「快適に移動できない」などの不満があります。フライパンで言えば、「重い」、「焦げ付く」、「美味しく出来ない」、「なかなか火が通らない」などの不満があります。BtoB商品を考えてみましょう。ここでも不満が実は大きな困り事なのです。
 

2.トラック架装メーカーの例

 
 困り事に「均質に温度管理ができないため、運搬中に一部が腐って/凍ってしまう」というものがありました。これを解決するために、「冷風吹き出し口の変更を加えたトラック荷台」を考えだし、コンプレッサーメーカー等との共同開発で実現した商品があります。
 

3.業務用イカ釣り機の例

 
 困り事に「イカが効率よく釣れない」という課題がありました。これを解決するために、漁師がエサを生きたように見せる「シャクリ」を再現する機能を設けて、「シャクリ再現機能付きのイカ釣り機」が開発されました。
 

4.クレームをどう捉えるか

 
 このように考えると、クレームは宝の山であることが分かります。クレームは重要なアンテナなのです。顧客は商品にクレームを唱えているのではなく、「◯◯できない」ことに不満を唱えているのです。 商品開発のヒントになるクレームには、重要なヒントが隠されているケースが多くあります。商品開発プロセスのマネージャーは、クレームから重要なヒントを拾い上げる必要があります。クレームから重要なヒントを拾い上げ、解決可能な課題かどうかを考えるのです。
 

5.【商品開発の普段】〜顧客の困り事に関する一次情報を得る〜

 
 顧客の困り事にある程度把握することができたら、一次情報を得るための活動をする必要があります。一次情報とは直接目で見たり、耳で聞いたりすることで得られる情報です。
一次情報で、得られる情報は膨大です。背景は何か、何が起こっているのか、何が課題なのか、課題は顧客特有の課題なのか一般的な課題なのか、顧客はどうやって解決しているのか、問題の根本的な課題はなんなのか、等々です。
 
 商品開発プロセスのマネージャーは、営業と同行したり、直接顧客にアポイントをとって行くことによって一次情報を得るようにする必要があります。顧客の現地、現物、現場が大事です。一次情報を得るために必要なのは、実は行動力です。また、複数人で解決する場合には、顧客の困り事を文章化する必要があります。顧客の困り事が商品開発につながる例について、こちらでも書いてあります。
 

6.【商品開発の準備】〜解決手段と代替手段を調査する〜

 
 困り事に関する一次情報を得た場合、顧客の解決手段(やりかた)がよく分かります。顧客の解決手段とは、例えば、自動車で言えば、「馬に乗って移動している」ということです。フライパンで言えば、「(ひきたくもない油を)大量に使用して焦げ付かないようにしている」ということです。
 
 顧客は顧客のやり方で解決しているわけです。その解決策はベストでしょうか?世の中にある技術を使って課題解決できないでしょうか?課題を定義出来た場合、解決手段をあらゆる情報を駆使して考えるのです。
 

7.【商品開発の要】〜商品コンセプトを考える〜

 
 技術開発を伴う商品開発プロセスの場合、コンセプトを文章化することが大切です。コンセプトは、技術的には相反するキーワードで構成されます。商品コンセプト例「焦げ付かないけどよく焼ける」 → フライパンは、テフロン加工がされています。よく焼けるためには、熱伝導率がある程度高い必要がありますが、熱伝導率が高い金属を使えば容易に焦げ付いてしまうという課題がありました。「よく焼ける」と「焦げ付かない」というのは技術的には矛盾する要求だったのです。「よく焼けるのに焦げ付かない」というのは、料理をする人には一般的な要求だったとしても、技術的には難しい課題と言えます。テフロンはデュポンの技術ですが、デュポンはテフロンによって焦げ付きという課題を克服しようとしました。他にもあります。
 
  ・商品コンセプト例  「丈夫で長持ち」 → 物干し竿は、ステンレスでできています。
  ・商品コンセプト例 「錆びないし軽い」 → 釣り竿はカーボンでできています。
 

8.商品コンセプトを実現するための技術を開発する

 
 商品コンセプトができたら、 商品コンセプトを実現するための技術を開発する必要があります。商品コンセプトを具現化した商品は顧客課題が解決することができます。技術開発の方向性には2つあります。
 

9.ソーシングすること(オープン・イノベーション)

 
 自ら開発すること調達する(ソーシング)手段を考えることです。オープン・イノベーションを選択する場合に難しいのは、共同で研究開発する相手の発掘です。また、自らと異なる領域の技術をマネジメントすることが必要となりますので、既存の人材では難しい場合も多く、採用活動が重要な業務プロセスとなります。
 

10.コア技術を深堀りすること

 
 自らの持っている技術にこだわる場合、コア技術を深化させることが出来ます。コア技術を深化させる場合に難しいのは、技術にあった課題の発見です。コア技術深堀り型を選択する場合、課題発見のプロセスがより重要になります。
 

11.商品開発による高収益化〜販売価格設定〜

 
 販売価格は、顧客課題の解決価値で付けることが出来ます。原価にこだわる必要性はありません。10倍でも20倍でもOKです。解決するために何が必要かを考えて、実行することが必要です。
 

12.営業トレーニングプログラム

 
 複数の営業で商品を扱う場合には、営業トレーニングプログラムも重要になります。いわゆる事業部移管です。商品開発のプロセスのマネージャーは、商品開発を考えますが、営業には初めての商品です。どんな商品で何を解決できるのか、どう売るべきなのかをトレーニングする必要があります。ここでも、肝要なのは商品コンセプトです。商品コンセプトが顧客課題をハッキリ定義させていれば、営業への展開も早くすることが出来ます。
 
 

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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