人的資源マネジメント:自分が変われば組織が変わる(その1)

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 日本では組織開発の重要性はあまり認識されていませんが、欧米での組織開発は、人が最高のパフォーマンスを発揮し人生を豊かにするための科学であるポジティブ心理学を取り入れた「ポジティブ組織開発」へと進化しています。今回からこの「ポジティブ組織開発」について解説します。
 
・日頃からスキルアップに取り組んでいるのに、上司や同僚との関係が変わらないので成果を出せない
 
・自分自身の意識や考え方は変えることができるかもしれないけど、周りの人たちを変えるにはどうしたらいいのかわからない
 
・失敗を恐れ、事なかれ主義の人たちばかりで、自分ひとりでは何もできない
 
 上記のような不満や愚痴を言って、自分は頑張っているのに周囲が変わらないから成果や結果が出ないと現状を嘆いている人は少なくありません。マネジャーやリーダーになると、それまでのようにプレイヤーとして自分だけががんばっても評価されず、チームや組織を変えることを要求されます。
 
 個人のやる気を引き出しパフォーマンスを上げることは大切ですが、組織として成果を出すためには、人と人との関係性や相互作用に注目し改善することで、組織のパフォーマンスを向上させることが大切になります。そのため、欧米企業では、社員教育を通じた人材育成や様々な働きかけによって、社員一人ひとりのやる気を引き出す「人材開発」に加え、組織を活性化し、組織の総合的なパフォーマンスを向上する「組織開発」に力を入れています。
 
 残念なことに、日本では社内に人材開発部という部署はあっても組織開発部という部署はほとんどないことからもわかるように、組織開発の重要性はあまり認識されていません。そんな日本の状況を尻目に、欧米での組織開発は、人が最高のパフォーマンスを発揮し人生を豊かにするための科学であるポジティブ心理学を取り入れた「ポジティブ組織開発」へと大きく進化しています。
 
 私は、組織の仕組みと人の意識の両方に対して働きかけ、組織というシステムを変革することをミッションとしているのですが、ポジティブ組織開発という新しい潮流は、まさに私が取り組んでいるテーマそのものです。これから数回に分けてポジティブ組織開発の理論や考え方を紹介していきたいと思います。
 
人的資源マネジメント
 

1. 組織開発(Organisation Development)

 
 日本ではそもそも組織開発が馴染みのない単語であり領域ですので、まずは組織開発について簡単に説明しておきましょう。組織はいくつかの階層(レベル)で構成されます。一番の大元は個人ですが、個人が集まったグループがあり、グループが集まった組織があります。組織が大きくなるとグループがいくつかのサブグループに分かれますし、組織はさらに外部の様々な組織と関係します。組織を構成する様々なレベルに働きかけるのが組織開発です。人材開発も最終的には組織をよくすることが目標ですが、働きかける対象は個人レベルであることが大きな違いです。
 
 したがって、組織開発とは、メンバーの潜在的な力を引き出し、環境の変化に順応しながら組織目標を達成する「有効性」と、ワークライフバランスやワークエンゲージメント(仕事に対するやる気)などの「健全性」、そして、組織そのものが学習し続けて自らを発展させ変革する「自己革新力」を高めることを目指しているのです。
 
 さらに、特徴的なのが「ヒューマンプロセス」に注目していることです。組織の中で話されていること、取り組んでいることなどの話題や課題、実施内容などの裏には、個々のメンバーがどのような気持ちでいるのか、どのようなコミュニケーションを行っているのか、お互いにどのような影響を及ぼし合っているのか、どのようなリーダーシップが発揮されているのかというような表には出てこない要素が存在します。これを「ヒューマンプロセス」とよびます。組織の中にどのようなヒューマンプロセスが存在するのかを把握し、良い方向に変えることが組織の発展につながると考えるのです。
 
 このようなことから、組織開発の要諦は組織と個人の同時最適を目指すことだと考えることができるでしょう。仕組みというハード的な側面と個人の意識というソフト的な側面の同時最適、業績と個人の幸せとの同時最適、表に現れている事象と裏に隠れているヒューマンプロセスの同時最適というような、一見相反するものを同時に最適化することを目指しているのです。
 

2. ポジティブ組織開発

 
 組織開発の進め方には大きく2つの方法があります。ひとつは「診断型組織開発」とよばれている方法で、組織の現状を調査してデータ収集を行い、分析結果をフィードバックして改善の取り組みを行うというものです。課題や問題にフォーカスしてそれを改善するというよくある方法です。
  
 もう一つは「対話型組織開発」とよばれているもので、組織の課題や問題にはフォーカスしない方法です。メンバー同士の対話を通して、組織や個人の強みや潜在力にフォーカスし、その潜在力を発揮できる将来を探求した上で、行動計画を立てて実行するというものです。
 
 この対話型組織開発が「ポジティブ組織開発」と呼ばれているものであり、人が最高のパフォーマンスを発揮し人生を豊かにする「ポジティブ心理学」にもとづいて、人と人との関係性や相互作用に働きかけ組織のパフォーマンスを最大化する「組織開発」だと言えます。ポジティブ心理学も組織開発も実験によるデータにもとづいた科学的...
 日本では組織開発の重要性はあまり認識されていませんが、欧米での組織開発は、人が最高のパフォーマンスを発揮し人生を豊かにするための科学であるポジティブ心理学を取り入れた「ポジティブ組織開発」へと進化しています。今回からこの「ポジティブ組織開発」について解説します。
 
・日頃からスキルアップに取り組んでいるのに、上司や同僚との関係が変わらないので成果を出せない
 
・自分自身の意識や考え方は変えることができるかもしれないけど、周りの人たちを変えるにはどうしたらいいのかわからない
 
・失敗を恐れ、事なかれ主義の人たちばかりで、自分ひとりでは何もできない
 
 上記のような不満や愚痴を言って、自分は頑張っているのに周囲が変わらないから成果や結果が出ないと現状を嘆いている人は少なくありません。マネジャーやリーダーになると、それまでのようにプレイヤーとして自分だけががんばっても評価されず、チームや組織を変えることを要求されます。
 
 個人のやる気を引き出しパフォーマンスを上げることは大切ですが、組織として成果を出すためには、人と人との関係性や相互作用に注目し改善することで、組織のパフォーマンスを向上させることが大切になります。そのため、欧米企業では、社員教育を通じた人材育成や様々な働きかけによって、社員一人ひとりのやる気を引き出す「人材開発」に加え、組織を活性化し、組織の総合的なパフォーマンスを向上する「組織開発」に力を入れています。
 
 残念なことに、日本では社内に人材開発部という部署はあっても組織開発部という部署はほとんどないことからもわかるように、組織開発の重要性はあまり認識されていません。そんな日本の状況を尻目に、欧米での組織開発は、人が最高のパフォーマンスを発揮し人生を豊かにするための科学であるポジティブ心理学を取り入れた「ポジティブ組織開発」へと大きく進化しています。
 
 私は、組織の仕組みと人の意識の両方に対して働きかけ、組織というシステムを変革することをミッションとしているのですが、ポジティブ組織開発という新しい潮流は、まさに私が取り組んでいるテーマそのものです。これから数回に分けてポジティブ組織開発の理論や考え方を紹介していきたいと思います。
 
人的資源マネジメント
 

1. 組織開発(Organisation Development)

 
 日本ではそもそも組織開発が馴染みのない単語であり領域ですので、まずは組織開発について簡単に説明しておきましょう。組織はいくつかの階層(レベル)で構成されます。一番の大元は個人ですが、個人が集まったグループがあり、グループが集まった組織があります。組織が大きくなるとグループがいくつかのサブグループに分かれますし、組織はさらに外部の様々な組織と関係します。組織を構成する様々なレベルに働きかけるのが組織開発です。人材開発も最終的には組織をよくすることが目標ですが、働きかける対象は個人レベルであることが大きな違いです。
 
 したがって、組織開発とは、メンバーの潜在的な力を引き出し、環境の変化に順応しながら組織目標を達成する「有効性」と、ワークライフバランスやワークエンゲージメント(仕事に対するやる気)などの「健全性」、そして、組織そのものが学習し続けて自らを発展させ変革する「自己革新力」を高めることを目指しているのです。
 
 さらに、特徴的なのが「ヒューマンプロセス」に注目していることです。組織の中で話されていること、取り組んでいることなどの話題や課題、実施内容などの裏には、個々のメンバーがどのような気持ちでいるのか、どのようなコミュニケーションを行っているのか、お互いにどのような影響を及ぼし合っているのか、どのようなリーダーシップが発揮されているのかというような表には出てこない要素が存在します。これを「ヒューマンプロセス」とよびます。組織の中にどのようなヒューマンプロセスが存在するのかを把握し、良い方向に変えることが組織の発展につながると考えるのです。
 
 このようなことから、組織開発の要諦は組織と個人の同時最適を目指すことだと考えることができるでしょう。仕組みというハード的な側面と個人の意識というソフト的な側面の同時最適、業績と個人の幸せとの同時最適、表に現れている事象と裏に隠れているヒューマンプロセスの同時最適というような、一見相反するものを同時に最適化することを目指しているのです。
 

2. ポジティブ組織開発

 
 組織開発の進め方には大きく2つの方法があります。ひとつは「診断型組織開発」とよばれている方法で、組織の現状を調査してデータ収集を行い、分析結果をフィードバックして改善の取り組みを行うというものです。課題や問題にフォーカスしてそれを改善するというよくある方法です。
  
 もう一つは「対話型組織開発」とよばれているもので、組織の課題や問題にはフォーカスしない方法です。メンバー同士の対話を通して、組織や個人の強みや潜在力にフォーカスし、その潜在力を発揮できる将来を探求した上で、行動計画を立てて実行するというものです。
 
 この対話型組織開発が「ポジティブ組織開発」と呼ばれているものであり、人が最高のパフォーマンスを発揮し人生を豊かにする「ポジティブ心理学」にもとづいて、人と人との関係性や相互作用に働きかけ組織のパフォーマンスを最大化する「組織開発」だと言えます。ポジティブ心理学も組織開発も実験によるデータにもとづいた科学的な根拠を重視していることが、両者の親和性を高いものにしています。
 
 ポジティブ組織開発は、職場の一人ひとりがやりがいを持ち、イキイキと充実した状態で仕事ができること、そして、そういう職場環境を通じて組織が最高のパフォーマンスを発揮できることを実現するための学問であり実践的な方法論なのです。
 
 私は組織開発には組織という集団に働きかける特別な方法論や手法があると思っていたのですが、ポジティブ組織開発を勉強してわかったのは、組織を変えるには、まず変えようと思っている自分が変わる必要があるということでした。自分が変わると自分の周りの人が変わる。そして、変わる人が増えていくことで組織が変わる。つまり、自分自身が組織を変える存在となることが、ポジティブ組織開発におけるリーダーシップであり、自分がそういうリーダーになることが大切なのです。
 
 次回は、自分が変われば組織が変わる(その2)として、組織を変えるリーダーシップとはどのようなものなのかを解説します。
 
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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