伝えることの難しさ

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1. 自分では当たり前でも、相手にとっては当たり前ではないことだらけ

 人前で話をする機会が増えましたが、その都度、話すこと、伝えることの難しさを感じます。古い話ですが、もう40年以上前に札幌に赴任した時のこと、水晶腕時計が発売され5年ほど過ぎた頃で、ちょうど機械式腕時計からの過渡期、小売店での修理が必要になる頃でした。
 
 2年間の赴任期間中、隔週で修理技能講習会を開催。その間に既に受講いただいた小売店を訪問し、フォローを繰り返していました。また、その合間を縫って、デパートの売り場に立たせてもらい、水晶腕時計の評判を把握するという市場調査も試みました。
 
 当時、私は時計会社の人間であり、自分も組立作業に携わっていた時期もあるので、水晶時計はもう当たり前になっていました。店頭でのお客様対応時の経験ですが、こんな経験をしました。
 
 人的資源マネジメント
 
 水晶時計は正確だということを動作原理を含め分かり易く、しかも一生懸命に説明したのですが、お客様からは、「君の説明は良く分かった。ところでネジ(ゼンマイ)はいつ巻けばいいの」と質問され、がっかりしたのを覚えています。
 
 結局何も伝わっていなかったのです。一体どこから説明をやり直せばよいのか・・・。水晶腕時計、自分では当たり前でも、相手にとっては当たり前ではないことだらけだったわけです。この時は、伝えることの難しさを痛感しました。
 
 在社中、自分で立ち上げたクリーン化教育は、やはり多くの人に知って貰いたい。伝えたい。そして品質向上に役立ててもらいたいという思いからでした。
 
 しかし、時計の苦い思い出があるので、本当に伝えるべきことを伝えられたのか、伝わったのか。その中に自分の思いも含めることが出来たのか自問や反省の連続でした。
 
 伝えるべきことが伝わったのか、このことの確認のため、教育終了時は必ずアンケートをお願いしていました。自分の進め方、内容、事例などについて様々な意見や感想を聞き、軌道修正し完成度を高めて来ました。
 
 また、クリーン化担当として現場を這い回る時間も長かったので、そこから得られた事例や写真なども取り込み理論、理屈よりも実際の現場の姿、問題点を示して説明しました。印象に残るだろうと、疑似体験をイメージした教育にしてきました。今でもその進め方は変わりません。
 

2. 伝えることの難しさ:クリーン化以外の事例

 この“伝える”についてクリーン化以外の例も幾つかを紹介します。
 

【少年野球の例】

 ランナーが3塁に達し、監督からタッチアップのサインが出た。ランナーはヘルメットのひさしに手を当て、わかったと反応した。ところが、外野に打球が上がってもタッチアップはしなかった。後で監督がなぜタッチアップをしなかったのかと聞くと、タッチアップのサインは分かったが、タッチアップとはどういうことかわからなかったというのです。基本が指導されていなかったのです。私の時計時代のお客様への説明と同じで、わかっていて当たり前だと思っていたのです。
 

【役所で書類を貰う】

 会社がやってくれた各種手続きは、退職後は自分でしなければいけません。役所に行って、どんな手続きをすればよいか。どんな書類が必要なのかについて聞いても、その説明が直ぐに理解できないことがあります。何度も聞くと、説明者は段々声が大きくなり、事務所の人達もこちらを見ます。声はどんどん大きくなるのですが、言っている内容は最初から同じことを繰り返しているだけなので、理解が進まないのです。伝えるためにどうすれば良いのか考えてもらいたいものだと思います。私の理解力がないのかと思うと、役所に行くのはどうも苦手です。
 
 このような経験が幾つかあるので、話をする時、本当に伝わったか、伝えることが出来たのかをいつも気にします。
 
 セミナーを始める時は声がきちんと届いているのか、声の大きさは良いのかをまず確認します。それから分かり易い言葉か、標準語かなどです。セミナーでは、国内の広範囲から受講していただくことが多いです。稀に海外からの受講者もありますから注意したい項目です。その上で思いを伝える努力です。どんなに一生懸命説明しても、声が届かない、理解できない言葉があるようでは理解が進まず、単に自己満足に過ぎません。自分がわかっていれば、必ずしも相手が理解してくれているだろうとは思わないことです。
 

【中国の通訳さんの努力】

 クリーン化の指導で中国、とりわけ蘇州、無錫にはよく通っていました。クリーン化担当も現場の人も皆非常に熱心でした。特に感心したのは通訳さんの一生懸命さでした。
 
 どうしてそんなに一生懸命勉強するのか聞いたところ、「通訳の使命が何かをいつも考えています。例えば単に日本語を中国語に変換するような機械的な通訳ではなく、私の話の背景にある思いや意図も汲み取り、そしてクリーン化の専門用語を自分でも理解し、正...

1. 自分では当たり前でも、相手にとっては当たり前ではないことだらけ

 人前で話をする機会が増えましたが、その都度、話すこと、伝えることの難しさを感じます。古い話ですが、もう40年以上前に札幌に赴任した時のこと、水晶腕時計が発売され5年ほど過ぎた頃で、ちょうど機械式腕時計からの過渡期、小売店での修理が必要になる頃でした。
 
 2年間の赴任期間中、隔週で修理技能講習会を開催。その間に既に受講いただいた小売店を訪問し、フォローを繰り返していました。また、その合間を縫って、デパートの売り場に立たせてもらい、水晶腕時計の評判を把握するという市場調査も試みました。
 
 当時、私は時計会社の人間であり、自分も組立作業に携わっていた時期もあるので、水晶時計はもう当たり前になっていました。店頭でのお客様対応時の経験ですが、こんな経験をしました。
 
 人的資源マネジメント
 
 水晶時計は正確だということを動作原理を含め分かり易く、しかも一生懸命に説明したのですが、お客様からは、「君の説明は良く分かった。ところでネジ(ゼンマイ)はいつ巻けばいいの」と質問され、がっかりしたのを覚えています。
 
 結局何も伝わっていなかったのです。一体どこから説明をやり直せばよいのか・・・。水晶腕時計、自分では当たり前でも、相手にとっては当たり前ではないことだらけだったわけです。この時は、伝えることの難しさを痛感しました。
 
 在社中、自分で立ち上げたクリーン化教育は、やはり多くの人に知って貰いたい。伝えたい。そして品質向上に役立ててもらいたいという思いからでした。
 
 しかし、時計の苦い思い出があるので、本当に伝えるべきことを伝えられたのか、伝わったのか。その中に自分の思いも含めることが出来たのか自問や反省の連続でした。
 
 伝えるべきことが伝わったのか、このことの確認のため、教育終了時は必ずアンケートをお願いしていました。自分の進め方、内容、事例などについて様々な意見や感想を聞き、軌道修正し完成度を高めて来ました。
 
 また、クリーン化担当として現場を這い回る時間も長かったので、そこから得られた事例や写真なども取り込み理論、理屈よりも実際の現場の姿、問題点を示して説明しました。印象に残るだろうと、疑似体験をイメージした教育にしてきました。今でもその進め方は変わりません。
 

2. 伝えることの難しさ:クリーン化以外の事例

 この“伝える”についてクリーン化以外の例も幾つかを紹介します。
 

【少年野球の例】

 ランナーが3塁に達し、監督からタッチアップのサインが出た。ランナーはヘルメットのひさしに手を当て、わかったと反応した。ところが、外野に打球が上がってもタッチアップはしなかった。後で監督がなぜタッチアップをしなかったのかと聞くと、タッチアップのサインは分かったが、タッチアップとはどういうことかわからなかったというのです。基本が指導されていなかったのです。私の時計時代のお客様への説明と同じで、わかっていて当たり前だと思っていたのです。
 

【役所で書類を貰う】

 会社がやってくれた各種手続きは、退職後は自分でしなければいけません。役所に行って、どんな手続きをすればよいか。どんな書類が必要なのかについて聞いても、その説明が直ぐに理解できないことがあります。何度も聞くと、説明者は段々声が大きくなり、事務所の人達もこちらを見ます。声はどんどん大きくなるのですが、言っている内容は最初から同じことを繰り返しているだけなので、理解が進まないのです。伝えるためにどうすれば良いのか考えてもらいたいものだと思います。私の理解力がないのかと思うと、役所に行くのはどうも苦手です。
 
 このような経験が幾つかあるので、話をする時、本当に伝わったか、伝えることが出来たのかをいつも気にします。
 
 セミナーを始める時は声がきちんと届いているのか、声の大きさは良いのかをまず確認します。それから分かり易い言葉か、標準語かなどです。セミナーでは、国内の広範囲から受講していただくことが多いです。稀に海外からの受講者もありますから注意したい項目です。その上で思いを伝える努力です。どんなに一生懸命説明しても、声が届かない、理解できない言葉があるようでは理解が進まず、単に自己満足に過ぎません。自分がわかっていれば、必ずしも相手が理解してくれているだろうとは思わないことです。
 

【中国の通訳さんの努力】

 クリーン化の指導で中国、とりわけ蘇州、無錫にはよく通っていました。クリーン化担当も現場の人も皆非常に熱心でした。特に感心したのは通訳さんの一生懸命さでした。
 
 どうしてそんなに一生懸命勉強するのか聞いたところ、「通訳の使命が何かをいつも考えています。例えば単に日本語を中国語に変換するような機械的な通訳ではなく、私の話の背景にある思いや意図も汲み取り、そしてクリーン化の専門用語を自分でも理解し、正しく自分の仲間に伝えたい。だって、折角日本から来て指導してくれるのですから」と言っていました。私の仕事がスムーズに進められるのは、こういう人たちのお陰だと、本当に頭が下がりました。
 
 中国だけでなく、インドネシア、シンガポール、タイなど、どこに行っても通訳の方がついてくれました。これは日本人が偉いのではなく、外国語が出来ないからなのです。ここを勘違いしてはいけないのです。先方では自国語だけでなく、日本語や、英語などができる人が多いです。
 
 海外から見ると日本人は英語くらいできるだろうと思って来日し、話が通じないのにがっかりするという話も聞きます。東南アジアを上から目線で見てはいけないことをきちんと認識しなければいけないです。そして学ぼうとする意欲も高いです。少し前の日本の姿です。
 
 自分の話し方は伝わっているのだろうか。上記のようなセミナーや講習会の場だけでなく、皆さんも職場で部下やメンバーに話をする時、意識していただきたいところです。仕事の場では、情報がきちんと伝わるか否かは大きな問題です。言っただけで済ましてはいけないのです。話をする機会には、“伝えることの難しさ”について、再認識して進めることが肝要です。
  

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この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

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