人的資源マネジメント:セルフコントロールはレジリエンスを高める「やらない力」(その1)

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 前回は ABCモデルによって、自分の思考スタイルを知り、自己認識レベルを高める方法を紹介しました。これまで2回にわたって、レジリエンスを高める方法として、楽観性と自己認識について解説してきましたが、今回は3つ目となる「セルフコントロール」について解説します。
 

1. レジリエンス

 
 今これまで、レジリエンス (resillience) を逆境力、回復力、復元力などとして紹介していますが、ペンシルベニア大学による米陸軍兵士を対象にしたレジリエンス向上の取り組みである Master Resilience Program (MRT) では、次のように定義しています。
 

(1) レジリエンスとは成長し、またさらに力強く成長する能力であり苦境にあっては耐え抜く力である。

 

(2) レジリエントな人には次のような特徴がある。

 
・ リスクを予測し、リスクを引き受ける力を備えて、与えられたチャンスを活かす力を備えている。
・ リスクをチャンスととらえるが、やみくもな楽観主義ではない。
・ 問題解決を見据え、自分の感情を把握し、コントロールする術に長けている。
 

(3) レジリエンスは次のような能力の向上に寄与する。

 
・ メンタル・タフネス
・ 最高のパフォーマンス
・ 柔軟性の高いリーダーシップ
・ 目標達成
 
 この定義を読むと、レジリエンスは単に逆境から這い上がるときに必要な特別な力というのではなく、社会生活を送る上で重要となるものだということがわかると思います。
 

2. セルフコントロール力

 
 「セルフコントロール (self-control)」は、そのまま訳せば自己制御と表現されますが、自律心、自己調整、自己鍛錬などとも同じ概念です。また、「意志力 (Willpower)」といわれているものとも同じです。ベストセラーとなった「スタンフォードの自分を変える教室」(ケリー・マグゴニガル)の中では、意志力とは「やる力」「やらない力」「望む力」という3つの力だと紹介されているのですが、レジリエンスを高めるための能力という観点からは、セルフコントロール力とは「やらない力」ということができます。
 
 もう少し詳細にいうと、セルフコントロールとは、自分がやりたいと思っている目の前の具体的欲求(一次的欲求)よりも、自分の大局的な目標や価値観(二次的欲求)にしたがって行動することです。すなわち、ありたい自分やなりたい自分のために、目の前の誘惑に打ち勝つ力といっていいでしょう。
 
 また、いくつかの研究によれば、中期的な成績に関係するのは知能よりもセルフコントロールであることや、年収との正相関があるということもわかっています。セルフコントロールは、レジリエンスという観点からだけでなく、何かを達成するための重要な力であるともいえます。
 

3. セルフコントロールの厄介な面

 
 このように、人にとって重要なセルフコントロールですが、インターネット上にいくつかの診断テストがありますので、自分のセルフコントロール力を知りたい方はやってみるとよいでしょう。「自分の『徳』」を知って成果を出す」で紹介した VIA アセスメントでは自己調整(self-regulation)がセルフコントロールに相当しますから、それが自分の何番目の強みなのかを知ることができますし、「ビッグ・ファイブ パーソナリティ」理論にもとづいた性格診断では、勤勉性がセルフコントロールに相当しますから、その点数で強さの程度を知ることができます。
 
 ただし、これらの診断テストで自分のセルフコントロール力を評価したとしても、あまり当てにならない面があることに注意してください。個人差があるものの、セルフコントロール力には個人の中において対象や領域によってその強さが大きく変わるのです。図にすると次のような関係になります。個人内のバラツキ(分散)が非常に大きいのです。
 
人的資源マネジメント図130. セルフコントロールの個人差
 
 つまり、人にはセルフコントロールを発揮できる領域と発揮しづらい領域があり、発揮しづらい領域では誘惑に負けてしまう可能性が高いのです。誰もが誘惑に負けてしまう面を持っているということです。たとえば、一流のアスリートは、その誰もが厳しく苦しい練習を何年も続けることによって、技術面だけでなく精神面も高めた人たちです。高いセルフコントロール力を持っているのは間違いありません。
 
 そんな一流のアスリートのひとりに、馴染みがない人が多いかもしれませんが、ツール・ド・フランスを7連覇したランス・アームストロングという人がいます。彼は、高潔な人柄やガンに犯され一時期競技を離れながらも再度...
 前回は ABCモデルによって、自分の思考スタイルを知り、自己認識レベルを高める方法を紹介しました。これまで2回にわたって、レジリエンスを高める方法として、楽観性と自己認識について解説してきましたが、今回は3つ目となる「セルフコントロール」について解説します。
 

1. レジリエンス

 
 今これまで、レジリエンス (resillience) を逆境力、回復力、復元力などとして紹介していますが、ペンシルベニア大学による米陸軍兵士を対象にしたレジリエンス向上の取り組みである Master Resilience Program (MRT) では、次のように定義しています。
 

(1) レジリエンスとは成長し、またさらに力強く成長する能力であり苦境にあっては耐え抜く力である。

 

(2) レジリエントな人には次のような特徴がある。

 
・ リスクを予測し、リスクを引き受ける力を備えて、与えられたチャンスを活かす力を備えている。
・ リスクをチャンスととらえるが、やみくもな楽観主義ではない。
・ 問題解決を見据え、自分の感情を把握し、コントロールする術に長けている。
 

(3) レジリエンスは次のような能力の向上に寄与する。

 
・ メンタル・タフネス
・ 最高のパフォーマンス
・ 柔軟性の高いリーダーシップ
・ 目標達成
 
 この定義を読むと、レジリエンスは単に逆境から這い上がるときに必要な特別な力というのではなく、社会生活を送る上で重要となるものだということがわかると思います。
 

2. セルフコントロール力

 
 「セルフコントロール (self-control)」は、そのまま訳せば自己制御と表現されますが、自律心、自己調整、自己鍛錬などとも同じ概念です。また、「意志力 (Willpower)」といわれているものとも同じです。ベストセラーとなった「スタンフォードの自分を変える教室」(ケリー・マグゴニガル)の中では、意志力とは「やる力」「やらない力」「望む力」という3つの力だと紹介されているのですが、レジリエンスを高めるための能力という観点からは、セルフコントロール力とは「やらない力」ということができます。
 
 もう少し詳細にいうと、セルフコントロールとは、自分がやりたいと思っている目の前の具体的欲求(一次的欲求)よりも、自分の大局的な目標や価値観(二次的欲求)にしたがって行動することです。すなわち、ありたい自分やなりたい自分のために、目の前の誘惑に打ち勝つ力といっていいでしょう。
 
 また、いくつかの研究によれば、中期的な成績に関係するのは知能よりもセルフコントロールであることや、年収との正相関があるということもわかっています。セルフコントロールは、レジリエンスという観点からだけでなく、何かを達成するための重要な力であるともいえます。
 

3. セルフコントロールの厄介な面

 
 このように、人にとって重要なセルフコントロールですが、インターネット上にいくつかの診断テストがありますので、自分のセルフコントロール力を知りたい方はやってみるとよいでしょう。「自分の『徳』」を知って成果を出す」で紹介した VIA アセスメントでは自己調整(self-regulation)がセルフコントロールに相当しますから、それが自分の何番目の強みなのかを知ることができますし、「ビッグ・ファイブ パーソナリティ」理論にもとづいた性格診断では、勤勉性がセルフコントロールに相当しますから、その点数で強さの程度を知ることができます。
 
 ただし、これらの診断テストで自分のセルフコントロール力を評価したとしても、あまり当てにならない面があることに注意してください。個人差があるものの、セルフコントロール力には個人の中において対象や領域によってその強さが大きく変わるのです。図にすると次のような関係になります。個人内のバラツキ(分散)が非常に大きいのです。
 
人的資源マネジメント図130. セルフコントロールの個人差
 
 つまり、人にはセルフコントロールを発揮できる領域と発揮しづらい領域があり、発揮しづらい領域では誘惑に負けてしまう可能性が高いのです。誰もが誘惑に負けてしまう面を持っているということです。たとえば、一流のアスリートは、その誰もが厳しく苦しい練習を何年も続けることによって、技術面だけでなく精神面も高めた人たちです。高いセルフコントロール力を持っているのは間違いありません。
 
 そんな一流のアスリートのひとりに、馴染みがない人が多いかもしれませんが、ツール・ド・フランスを7連覇したランス・アームストロングという人がいます。彼は、高潔な人柄やガンに犯され一時期競技を離れながらも再度復活したこともあって、自転車ロードレース界の英雄だったのですが、薬物使用の疑惑によりすべてのタイトルを剥奪されて永久追放になり、最後には本人もドーピングを告白した人物です。ランス・アームストロングのような多くの人から尊敬されるような存在であっても、優勝というタイトルのために薬物使用の欲求を抑えることができなかったのです。
 
 スポーツに限らず、一流とよばれる人は皆、地道で苦しい練習や訓練を続けてきた人たちであり、高いセルフコントロール力を持っているのは間違いありません。しかし、そんな一流の人であってもセルフコントロールが十分には効かない弱い面を持つのです。誰もが、自分のセルフコントロールが機能しない弱い領域のことを意識しておくことが大切です。
 
 次回も、セルフコントロールはレジリエンスを高める「やらない力」の解説を続けます。
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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