人的資源マネジメント: アドラー心理学 (その2)

更新日

投稿日

心理学
 前回のアドラー心理学、その1に続いて解説します。
 

2. 他者信頼(他人が信頼できる)

 
 自分を好きだったらそれで十分というわけではありません。自己中心的で思い上がった人間は幸せにはなれません。幸せと感じるには他者との関係が重要になります。それは、他者を信頼する、この世界を信頼するということです。
 
 他人とつき合うのは簡単ではありません。価値観や性格が違うことで自分の不利益になることもあります。それでも、そういう人たちと協力して、力を合わせて生きていくことが、人間が生きていく上で必要なこと、避けることはできないことだとアドラーは言っています。そのためには、信頼に基づいて不必要な競争はしないということが大切になります。他の人を蹴落とすことで自分の立場を良くするような競争は、心の不健康をもたらすだけだでしょう。
 
 競争は自分と他人とを比較することにもなります。「あの人に較べて私は劣っている/優れている」というのは、他人への不信感から生まれる競争心だと考えられます。そして、自分に対する自信のなさの裏返しとも言えるでしょう。
 
 他者信頼とは、信頼している他人によって作られているこの世界は、とても安全なところで、決して、勝つか負けるか、食うか食われるかという戦場のような場所ではない、と考えるということです。みんなが協力して、ひとつの理想を実現していく場として、この世界をとらえることです。ここまで言ってしまうと、私自身、理想的すぎて、とてもそこまでの考え方はできないと思ってしまいます。子どものときから競争を前提とした生き方だったからもしれませんが、少しずつでも考え方を変えていくことができればいいのだと思っています。
 
 これは、別の言い方をすれば、「私は集団の一員であり、この世界の中にはちゃんと自分の場所がある」と感じられるということです。みんなは私を傷つけようとしているのではなく、助けてくれようとしていると信じられるということです。この言い方の方が理解しやすいかもしれません。
 
 これは「所属感」と言い換えることができます。「この世界の中」というのは、家族の中でも、職場の中でもかまいません。自分の居場所がある、私の役割がある、ということです。自分が他人を信頼することで、他人も自分を信頼しているという感覚が生まれ、所属感を持つという感覚になるというわけです。ところで、「信頼」と「信用」では何か変わるでしょうか。何かしらの根拠が前提となるのが信用です。たとえば、銀行がおカネを貸すのは、その人が土地を持っているとか、安定した仕事をしているとか、何かしらの信用がある場合だけです。まさに、信用です。つまり、取引という概念が入っています。
 
 一方、信頼というのは根拠がないのに信用するということです。人に対して白紙の小切手を切るということです。白紙の小切手を渡して「あなたは悪いようには使わないだろうから、自分が良いように使いなさい」と言えることが人を信頼するということです。「あれだけしてやったのに信頼を裏切られた」ということがありますが、これは信用。裏切られると思っているのは「あなたがちゃんとやれば」という条件がついていて、これは取引なのです。他者信頼とは、信用ではなく信頼するということです。
 

3. 貢献感(社会に貢献できる)

 
 では、この世界に所属していればいいのか、受動的に、みんなに助けられて生きていけばいいのかというと、それだけでは不十分です。自分もまた、他の人たちを助けたいと思うことが幸せには必要なことです。
 
 これは「自分は役に立つ」「他の人たちの役に立っている」と感じる貢献感を持つということです。たとえば、老人ホームで、ヘルパーの人が必要なことは全部やってくれて楽なんだけど、生きている気がしないという話をしばしば耳にします。これは、不自由なことがなくても、何かの役に立っている気がしないと不幸に感じるということです。実際に役立っているかどうかは関係ありません。役立っていると感じられるかどうかが大切です。
 
 この貢献感について、アドラーの弟子のひとりのドライカースはこういっています。「ある出来事が起きたときに、心が健康な人はこれはみんなにとっていったいどういうことだろうかと、まず考える。心が不健康な人は、これは自分にとってどういうことだろうかとまず考える」。つまり、貢献感というのは、ある状況をみんなのものとしてとらえ、みんなにとって良いことか悪いことかを最初に考え、その中で自分のできる役割を考えるということです。私も発展途上なのですが、確かにこういう考え方ができる人っています。
 
 そして、この貢献感というのは、子どもでも部下でも、人の育成にとても大切な要素です。「あなたはなくてはならない存在で、あなたがいるからとても助かる」という機会を、絶えず作り出していくことが、大きく成長させるためにとても大切なことです。反対にいうと、何もかもしてあげるのはよくないということですね。これも気をつけなければいけないところです。
 

4. 日常生活での心がけ

 
 日常生活において、幸せに過ごすためは自己肯定、他者信頼、貢献感の3つの要素を意識することが効果的です。それには、それぞれについて今が何点なのかと点数付...
心理学
 前回のアドラー心理学、その1に続いて解説します。
 

2. 他者信頼(他人が信頼できる)

 
 自分を好きだったらそれで十分というわけではありません。自己中心的で思い上がった人間は幸せにはなれません。幸せと感じるには他者との関係が重要になります。それは、他者を信頼する、この世界を信頼するということです。
 
 他人とつき合うのは簡単ではありません。価値観や性格が違うことで自分の不利益になることもあります。それでも、そういう人たちと協力して、力を合わせて生きていくことが、人間が生きていく上で必要なこと、避けることはできないことだとアドラーは言っています。そのためには、信頼に基づいて不必要な競争はしないということが大切になります。他の人を蹴落とすことで自分の立場を良くするような競争は、心の不健康をもたらすだけだでしょう。
 
 競争は自分と他人とを比較することにもなります。「あの人に較べて私は劣っている/優れている」というのは、他人への不信感から生まれる競争心だと考えられます。そして、自分に対する自信のなさの裏返しとも言えるでしょう。
 
 他者信頼とは、信頼している他人によって作られているこの世界は、とても安全なところで、決して、勝つか負けるか、食うか食われるかという戦場のような場所ではない、と考えるということです。みんなが協力して、ひとつの理想を実現していく場として、この世界をとらえることです。ここまで言ってしまうと、私自身、理想的すぎて、とてもそこまでの考え方はできないと思ってしまいます。子どものときから競争を前提とした生き方だったからもしれませんが、少しずつでも考え方を変えていくことができればいいのだと思っています。
 
 これは、別の言い方をすれば、「私は集団の一員であり、この世界の中にはちゃんと自分の場所がある」と感じられるということです。みんなは私を傷つけようとしているのではなく、助けてくれようとしていると信じられるということです。この言い方の方が理解しやすいかもしれません。
 
 これは「所属感」と言い換えることができます。「この世界の中」というのは、家族の中でも、職場の中でもかまいません。自分の居場所がある、私の役割がある、ということです。自分が他人を信頼することで、他人も自分を信頼しているという感覚が生まれ、所属感を持つという感覚になるというわけです。ところで、「信頼」と「信用」では何か変わるでしょうか。何かしらの根拠が前提となるのが信用です。たとえば、銀行がおカネを貸すのは、その人が土地を持っているとか、安定した仕事をしているとか、何かしらの信用がある場合だけです。まさに、信用です。つまり、取引という概念が入っています。
 
 一方、信頼というのは根拠がないのに信用するということです。人に対して白紙の小切手を切るということです。白紙の小切手を渡して「あなたは悪いようには使わないだろうから、自分が良いように使いなさい」と言えることが人を信頼するということです。「あれだけしてやったのに信頼を裏切られた」ということがありますが、これは信用。裏切られると思っているのは「あなたがちゃんとやれば」という条件がついていて、これは取引なのです。他者信頼とは、信用ではなく信頼するということです。
 

3. 貢献感(社会に貢献できる)

 
 では、この世界に所属していればいいのか、受動的に、みんなに助けられて生きていけばいいのかというと、それだけでは不十分です。自分もまた、他の人たちを助けたいと思うことが幸せには必要なことです。
 
 これは「自分は役に立つ」「他の人たちの役に立っている」と感じる貢献感を持つということです。たとえば、老人ホームで、ヘルパーの人が必要なことは全部やってくれて楽なんだけど、生きている気がしないという話をしばしば耳にします。これは、不自由なことがなくても、何かの役に立っている気がしないと不幸に感じるということです。実際に役立っているかどうかは関係ありません。役立っていると感じられるかどうかが大切です。
 
 この貢献感について、アドラーの弟子のひとりのドライカースはこういっています。「ある出来事が起きたときに、心が健康な人はこれはみんなにとっていったいどういうことだろうかと、まず考える。心が不健康な人は、これは自分にとってどういうことだろうかとまず考える」。つまり、貢献感というのは、ある状況をみんなのものとしてとらえ、みんなにとって良いことか悪いことかを最初に考え、その中で自分のできる役割を考えるということです。私も発展途上なのですが、確かにこういう考え方ができる人っています。
 
 そして、この貢献感というのは、子どもでも部下でも、人の育成にとても大切な要素です。「あなたはなくてはならない存在で、あなたがいるからとても助かる」という機会を、絶えず作り出していくことが、大きく成長させるためにとても大切なことです。反対にいうと、何もかもしてあげるのはよくないということですね。これも気をつけなければいけないところです。
 

4. 日常生活での心がけ

 
 日常生活において、幸せに過ごすためは自己肯定、他者信頼、貢献感の3つの要素を意識することが効果的です。それには、それぞれについて今が何点なのかと点数付けするのが良いと思います。たとえば、それぞれを 10 点満点として今日は何点だったのかを考える。毎日寝る前に考えるとか、何かしらの習慣化ができるといいでしょう。何が良かったとか、何が悪かったとかの分析はしてもしなくてもかまいませんが、どういうときに点数が上がるのかがわかると、それはすごい発見です。点数が低いと気を揉むことは絶対にありません。自分の心の状態を知ることが大切なのです。10点じゃないことを嘆いたり、人と比較して点数が低いことに落ち込んだりするのは、まさに自己肯定感が低いということになります。
 
 それでは今、自己肯定、他者信頼、貢献度。それぞれ何点ですか。点数をつけてみてください。そして、それぞれ高い点数のときはどんな生活をしていると思いますか。また、このうちのどれかを1点上げるには、何をすればいいと思いますか。
 
 今回の解説はいかがだったでしょうか。普段はあまり口にしないかもしれない幸せについて、深く考えるきっかけになれば幸いです。
 
  

   続きを読むには・・・


この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!


「人的資源マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
現場が意識することで見えるお客様の変化 人材育成・組織・マネジメント(その10)

  【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】 1. 間接部門のプロセス改善とは 2. 現場は全てを物語る 3. 明日の仕...

  【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】 1. 間接部門のプロセス改善とは 2. 現場は全てを物語る 3. 明日の仕...


中間管理職に改善推進者になってもらうためには    人材育成・組織・マネジメント(その11)

  【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】 1. 間接部門のプロセス改善とは 2. 現場は全てを物語る 3. 明日の仕...

  【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】 1. 間接部門のプロセス改善とは 2. 現場は全てを物語る 3. 明日の仕...


技術士第二次試験対策:解答を事前に考える(その3)

    前回の記事の中で、「『解答の主旨と解答の主旨の説明』を考える」について書きました。今回は、これを深堀した内容です。 ...

    前回の記事の中で、「『解答の主旨と解答の主旨の説明』を考える」について書きました。今回は、これを深堀した内容です。 ...


「人的資源マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
多品種少ロット生産現場の人材育成と納期管理

1. 多能工化    多能工化、進めないといけないのはわかているけど、なかなかうまく進まないな、という企業は多いと思います。私自身、金型設計...

1. 多能工化    多能工化、進めないといけないのはわかているけど、なかなかうまく進まないな、という企業は多いと思います。私自身、金型設計...


‐能力開発のシステム創り 製品・技術開発力強化策の事例(その45)

◆能力開発のシステム化に必要不可欠の条件。   前回の事例その44に続いて解説します。    (1) 情報伝達の仕組み創り   (2) 目標を明確にす...

◆能力開発のシステム化に必要不可欠の条件。   前回の事例その44に続いて解説します。    (1) 情報伝達の仕組み創り   (2) 目標を明確にす...


『坂の上の雲』に学ぶ全体観(その4)

   『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場...

   『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場...