ミルクラン、調達物流改善とは

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ミルクラン
 

 皆さんの会社ではジャストインタイム生産に取り組まれていることでしょう。必要なものだけを必要なだけ必要なタイミングで生産する。これはものづくりの基本中の基本です。では生産に必要な部品や資材(部品等)はジャストインタイムで調達できていますでしょうか。

 最近はトラックドライバー不足で輸送価格が上がり気味です。トラック積載効率低下につながるジャストインタイム輸送は敬遠されがちかもしれません。この傾向を鑑みてジャストインタイム調達をあきらめてしまっている会社も少なくないと思われます。

 ジャストインタイム調達をあきらめれば部品等の在庫が増えてしまいます。一方で積載効率を落としたジャストインタイム輸送は輸送コストを上昇させてしまいます。このジレンマに皆さんはどのように対応されていますでしょうか。実はこの両方を同時に可決する手法があるのです。

 それが「調達物流改善」です。私たちに課されたタスクは「ジャストインタイム調達と物流コスト削減を両立する」ことです。

 

 調達物流や販売物流では一定の荷量があれば調達先や販売先との間を直送できますが、荷量が少なければ複数の調達先や販売先の荷の混載を行って輸送効率を高める必要があります。この混載の方法として、輸送経路の中間に倉庫を設けてそこで方面別の荷を混載するクロスドック方式、複数の調達先や販売先を一台のトラックで巡回しながら集荷・配送を行うミルクラン方式、その組み合わせなどが考えられます。

 

 今回は上記のミルクラン方式に焦点を当てて調達物流を解説します。ミルクランを物流用語集で調べてみると、「自動車会社の調達物流」の一環として行われているという書き方をしているケースを見かけることがあります。

 
 ミルクランは何も自動車部品の物流に限って当てはまるものではないのですが、強力なリーダーシップを発揮してコストダウンや高度なサプライチェーンを構築するニーズが特に強いのが自動車業界だったのでしょう。他業種ではそこまでの要請がなかったからかどうか分かりませんが、ほとんど進んでいない影響からこう書かれているのでしょう。
 

1. ミルクラン:異なる荷主どうしの共同輸送

 
 ミルクランとはかつてアメリカの農場を巡回してミルクを回収してきたことに端を発しています。日本には調達物流がないと言われています。なぜなら商習慣が欧米とは異なるからなのです。ご存じのとおり日本では商品はお届け方式だからなのです。出荷側が顧客にものを届けることが一般的なため、受け取り側が自ら取りに行くという発想がないのです。要は販売物流になっているわけです。そのため売値に物流費が含まれているということです。もし買い側が買値を下げるように交渉してくれば販売物流の改善に着手することになるかもしれません。しかしこの販売物流についての改善はあまり聞いたことがありません。以前にこういったことがありました。
 
 自動車会社が調達物流(実質は部品会社の販売物流)を改善したいと思っていました。ちょうどジャストインタイム生産方式が始まった頃のことです。自動車会社側としては多頻度少量調達を希望します。構内在庫を減らし、効率的な生産を実施するためです。一方で部品会社側としては少しでも物流費を減らしたい、そのためにとりあえず「荷をまとめて」運びたいと思うのです。これはジャストインタイムとは逆行する取り組みです。単純にトラックが満載になるだけの荷まとめを顧客に要求したわけですから、これは物流改善としてはあまりレベルの高いものではありませんでした。顧客である自動車会社も単純に多数回納入をせよ、と要求していたわけではありません。部品メーカーどうしで混載を行うことで納入回数を増やしてくれるように依頼をしたのです。しかしながらこれは遅々として進みませんでした。実際に異なる荷主どうしの共同輸送にはいくつかのネックが存在するのです
 

2. ミルクラン:真の調達物流の始まり

 
 環境問題までを視野に入れれば競合他社とでも共同輸送に取り組む方がいいに決まっています。しかしそれを簡単にさせないネックとは何だったのでしょうか。その一つが輸送指示を出す情報システムです。A社とB社が共同で輸送を行いたくても、お互い違う情報システムを保有しているため、簡単には変更がきかないのです。もう一つのネックが輸送会社です。A社とB社とでそれぞれ別の輸送会社と契約をしているのです。場合によってはそれぞれの子会社であることもあるのです。したがっておいそれと別の会社に変更するという訳にはいかなかったのです。何とか折り合いをつけて共同輸送ができればよかったのですが、結果としてなかなか進まなかったのです。
 
 自動車会社からの多頻度納入の要請には、その会社の近くにデポを設けてそこから多頻度納入するという道をとることになりました。ということは、在庫を持って一時的にデポに部品を先送りしていたということになります。ここまではまとめ輸送が可能なので良いのですが、デポ費は明らかにコストとして発生することになりました。納入先のジャストインタイム納入の要望、出荷側の事情による共同輸送のネック、これは平行線をたどるばかりです。
 
 これを解消する良い方法はないか。ということで考え出された解決策が「受け側」で荷を取りに行くという方法です。ミルクランを活用した真の調達物流の始まりです。今度は荷主が変更になりますから、原則として輸送会社とのしがらみも無くなることになります。輸送指示のための情報システムも受け荷主側のシステムで一本化されます。何とかこういった大胆な変更なしでやることを試みてきたのですが、それが遅々として進まず、業を煮やした自動車会社側が新たな手を打つことになったのです。
 

3. ミルクラン:ジャストインタイム調達と物流コストダウン

 

 今まで出荷側が個々に荷主となって輸送会社と契約し輸送していたものを、すべて受け側が荷主に変わるという大胆な発想で改善を進めることになったのです。よく共同配送とか共同輸送がなかなか成功しないという話を耳にします。この背景には前回お話したようなネックがあるとともに、最大の障害は強力なリーダーシップの欠如であると考えられます。この荷主の変更で、受け側である自動車会社が強力なリーダーシップを発揮することにより調達物流改革を実行したわけです。

 

 実際のところ、このような試みはいくつもの会社で行われてきましたが、その過程で挫折してしまった会社があることも事実です。その会社の中にあっても、強い動機づけがないと前に進まないのでしょう。その強い動機づけとは、その仕事を貫徹することが人事評価や給与に影響を与えるということです。大きな難しい仕事を実行するにあたっては、こういったしかけを社内で設けることは大切なことではないでしょうか。成功した会社は少なからずこのようなしかけを設けていたのだと思います。

 

 さて真の調達物流を実現することで、どのような効果を享受できたのでしょうか。その最大のメリットとしてジャストインタイム調達と物流コストダウンの両立が挙げられます。そもそもこれが成り立たなかったために業を煮やした受け荷主が取り組み始めたわけですから、この結果は当然の帰結ということができそうです。

 

4. ミルクラン: 引き取り物流がきっかけとして発生問題

 

 ミルクラン方式で引き取り物流が行われるに際し、出荷側は出荷場にトラック到着までに荷を揃えておくことが求められます。今までは自分たちの物流で届けていたので、荷揃えもせずにトラックドライバーにピッキングをさせていたことがあったかもしれません。しかし今度は顧客が引き取りにくるわけですから、顧客に売り渡す商品はきちんと揃えておかなければなりません。当たり前の話です。こういった一種の煩わしさはあったものの、始めてみると出荷側は一様に今までに比べて楽になったという意見を述べています。出荷トラックの手配や物流会社管理などの手間が省けることになったからでしょう。従来物流管理を行っていたスタッフも不要になります。そのスタッフはもっと別の創造性の高い仕事に就くことができるようになりました。ただすべてが良い話ばかりとは限りません。引き取り物流が始まり数年たったところで一つの問題が明らかになりました。

 

 その問題とは、出荷側の「物流スキルの減退」です。何も言わずとも顧客が荷物を引き取りに来てくれるので、物流への関心は薄れていってしまったのです。彼らにとってその顧客向けの販売物流だけが物流だったわけではありません。他の顧客もいるし、自社内物流も存在するのです。その物流を効率化しようにも、スタッフはいなくなり物流スキルも薄れてしまい、思うように改善が進まなくなってしまったのです。これが引き取り物流がきっかけとして発生した唯一の問題だったわけです。一方で顧客側の物流スキルはますます高まっていきました。その結果、調達物流以外でもどんどん改善が進む結果となりました。

 

5. ミルクラン: 引き取り物流の二つの目標

 

 引き取り側は自らの予算でトラックを配車し、サプライチェーン全体のリードタイム短縮に寄与しながら輸送の効率化を図っていくことになったわけです。物流コストの削減と、ジャストインタイムの両立といった簡単ではない課題に直面することになります。担当スタッフは知恵を振り絞って仕事に取り組まなければなりません。会社としてはリードタイム短縮目標と、物流コスト削減目標を物流スタッフに課すことになりました。片方だけの達成では評価されません。あくまでもミルクラン方式による引き取り物流はこれらの両立が前提となった物流システムです。常に荷量の変動をにらみながらルートの変更や積み合せ荷物の変更を行っていきます。こうしたことを繰り返すうちに物流スタッフの実力は向上していきます。

 

 ミルクランは何もサプライヤーへの引き取りだけに限る必要はありません。自社の出荷貨物を混載しても一向に構わないのです。荷主は自社なわけですから好きなように物流をデザインすることができるのです。こうして今まで実現しなかった、自社貨物とサプライヤー貨物の混載、所謂「内外混載」が可能となりました。自社の重量貨物とサプライヤーの嵩の張る貨物との混載である、「鉄綿混載」もできるようになったのです。

 

 このように非常に改善のオポチュニティが広がることがミルクラン方式の特徴だといえると思います。今まで個々のサプライヤーの荷物だったものを自社の荷とすることでボリュームを増やすとともに、物流会社を集約することで1社当たりの荷量が大幅に拡大します。ここに自社貨物も載ってきますので、さらに荷量が増大します。

 

 これだけでも輸送単価が大幅に下がることになります。しかしミルクラン方式では...

ミルクラン
 

 皆さんの会社ではジャストインタイム生産に取り組まれていることでしょう。必要なものだけを必要なだけ必要なタイミングで生産する。これはものづくりの基本中の基本です。では生産に必要な部品や資材(部品等)はジャストインタイムで調達できていますでしょうか。

 最近はトラックドライバー不足で輸送価格が上がり気味です。トラック積載効率低下につながるジャストインタイム輸送は敬遠されがちかもしれません。この傾向を鑑みてジャストインタイム調達をあきらめてしまっている会社も少なくないと思われます。

 ジャストインタイム調達をあきらめれば部品等の在庫が増えてしまいます。一方で積載効率を落としたジャストインタイム輸送は輸送コストを上昇させてしまいます。このジレンマに皆さんはどのように対応されていますでしょうか。実はこの両方を同時に可決する手法があるのです。

 それが「調達物流改善」です。私たちに課されたタスクは「ジャストインタイム調達と物流コスト削減を両立する」ことです。

 

 調達物流や販売物流では一定の荷量があれば調達先や販売先との間を直送できますが、荷量が少なければ複数の調達先や販売先の荷の混載を行って輸送効率を高める必要があります。この混載の方法として、輸送経路の中間に倉庫を設けてそこで方面別の荷を混載するクロスドック方式、複数の調達先や販売先を一台のトラックで巡回しながら集荷・配送を行うミルクラン方式、その組み合わせなどが考えられます。

 

 今回は上記のミルクラン方式に焦点を当てて調達物流を解説します。ミルクランを物流用語集で調べてみると、「自動車会社の調達物流」の一環として行われているという書き方をしているケースを見かけることがあります。

 
 ミルクランは何も自動車部品の物流に限って当てはまるものではないのですが、強力なリーダーシップを発揮してコストダウンや高度なサプライチェーンを構築するニーズが特に強いのが自動車業界だったのでしょう。他業種ではそこまでの要請がなかったからかどうか分かりませんが、ほとんど進んでいない影響からこう書かれているのでしょう。
 

1. ミルクラン:異なる荷主どうしの共同輸送

 
 ミルクランとはかつてアメリカの農場を巡回してミルクを回収してきたことに端を発しています。日本には調達物流がないと言われています。なぜなら商習慣が欧米とは異なるからなのです。ご存じのとおり日本では商品はお届け方式だからなのです。出荷側が顧客にものを届けることが一般的なため、受け取り側が自ら取りに行くという発想がないのです。要は販売物流になっているわけです。そのため売値に物流費が含まれているということです。もし買い側が買値を下げるように交渉してくれば販売物流の改善に着手することになるかもしれません。しかしこの販売物流についての改善はあまり聞いたことがありません。以前にこういったことがありました。
 
 自動車会社が調達物流(実質は部品会社の販売物流)を改善したいと思っていました。ちょうどジャストインタイム生産方式が始まった頃のことです。自動車会社側としては多頻度少量調達を希望します。構内在庫を減らし、効率的な生産を実施するためです。一方で部品会社側としては少しでも物流費を減らしたい、そのためにとりあえず「荷をまとめて」運びたいと思うのです。これはジャストインタイムとは逆行する取り組みです。単純にトラックが満載になるだけの荷まとめを顧客に要求したわけですから、これは物流改善としてはあまりレベルの高いものではありませんでした。顧客である自動車会社も単純に多数回納入をせよ、と要求していたわけではありません。部品メーカーどうしで混載を行うことで納入回数を増やしてくれるように依頼をしたのです。しかしながらこれは遅々として進みませんでした。実際に異なる荷主どうしの共同輸送にはいくつかのネックが存在するのです
 

2. ミルクラン:真の調達物流の始まり

 
 環境問題までを視野に入れれば競合他社とでも共同輸送に取り組む方がいいに決まっています。しかしそれを簡単にさせないネックとは何だったのでしょうか。その一つが輸送指示を出す情報システムです。A社とB社が共同で輸送を行いたくても、お互い違う情報システムを保有しているため、簡単には変更がきかないのです。もう一つのネックが輸送会社です。A社とB社とでそれぞれ別の輸送会社と契約をしているのです。場合によってはそれぞれの子会社であることもあるのです。したがっておいそれと別の会社に変更するという訳にはいかなかったのです。何とか折り合いをつけて共同輸送ができればよかったのですが、結果としてなかなか進まなかったのです。
 
 自動車会社からの多頻度納入の要請には、その会社の近くにデポを設けてそこから多頻度納入するという道をとることになりました。ということは、在庫を持って一時的にデポに部品を先送りしていたということになります。ここまではまとめ輸送が可能なので良いのですが、デポ費は明らかにコストとして発生することになりました。納入先のジャストインタイム納入の要望、出荷側の事情による共同輸送のネック、これは平行線をたどるばかりです。
 
 これを解消する良い方法はないか。ということで考え出された解決策が「受け側」で荷を取りに行くという方法です。ミルクランを活用した真の調達物流の始まりです。今度は荷主が変更になりますから、原則として輸送会社とのしがらみも無くなることになります。輸送指示のための情報システムも受け荷主側のシステムで一本化されます。何とかこういった大胆な変更なしでやることを試みてきたのですが、それが遅々として進まず、業を煮やした自動車会社側が新たな手を打つことになったのです。
 

3. ミルクラン:ジャストインタイム調達と物流コストダウン

 

 今まで出荷側が個々に荷主となって輸送会社と契約し輸送していたものを、すべて受け側が荷主に変わるという大胆な発想で改善を進めることになったのです。よく共同配送とか共同輸送がなかなか成功しないという話を耳にします。この背景には前回お話したようなネックがあるとともに、最大の障害は強力なリーダーシップの欠如であると考えられます。この荷主の変更で、受け側である自動車会社が強力なリーダーシップを発揮することにより調達物流改革を実行したわけです。

 

 実際のところ、このような試みはいくつもの会社で行われてきましたが、その過程で挫折してしまった会社があることも事実です。その会社の中にあっても、強い動機づけがないと前に進まないのでしょう。その強い動機づけとは、その仕事を貫徹することが人事評価や給与に影響を与えるということです。大きな難しい仕事を実行するにあたっては、こういったしかけを社内で設けることは大切なことではないでしょうか。成功した会社は少なからずこのようなしかけを設けていたのだと思います。

 

 さて真の調達物流を実現することで、どのような効果を享受できたのでしょうか。その最大のメリットとしてジャストインタイム調達と物流コストダウンの両立が挙げられます。そもそもこれが成り立たなかったために業を煮やした受け荷主が取り組み始めたわけですから、この結果は当然の帰結ということができそうです。

 

4. ミルクラン: 引き取り物流がきっかけとして発生問題

 

 ミルクラン方式で引き取り物流が行われるに際し、出荷側は出荷場にトラック到着までに荷を揃えておくことが求められます。今までは自分たちの物流で届けていたので、荷揃えもせずにトラックドライバーにピッキングをさせていたことがあったかもしれません。しかし今度は顧客が引き取りにくるわけですから、顧客に売り渡す商品はきちんと揃えておかなければなりません。当たり前の話です。こういった一種の煩わしさはあったものの、始めてみると出荷側は一様に今までに比べて楽になったという意見を述べています。出荷トラックの手配や物流会社管理などの手間が省けることになったからでしょう。従来物流管理を行っていたスタッフも不要になります。そのスタッフはもっと別の創造性の高い仕事に就くことができるようになりました。ただすべてが良い話ばかりとは限りません。引き取り物流が始まり数年たったところで一つの問題が明らかになりました。

 

 その問題とは、出荷側の「物流スキルの減退」です。何も言わずとも顧客が荷物を引き取りに来てくれるので、物流への関心は薄れていってしまったのです。彼らにとってその顧客向けの販売物流だけが物流だったわけではありません。他の顧客もいるし、自社内物流も存在するのです。その物流を効率化しようにも、スタッフはいなくなり物流スキルも薄れてしまい、思うように改善が進まなくなってしまったのです。これが引き取り物流がきっかけとして発生した唯一の問題だったわけです。一方で顧客側の物流スキルはますます高まっていきました。その結果、調達物流以外でもどんどん改善が進む結果となりました。

 

5. ミルクラン: 引き取り物流の二つの目標

 

 引き取り側は自らの予算でトラックを配車し、サプライチェーン全体のリードタイム短縮に寄与しながら輸送の効率化を図っていくことになったわけです。物流コストの削減と、ジャストインタイムの両立といった簡単ではない課題に直面することになります。担当スタッフは知恵を振り絞って仕事に取り組まなければなりません。会社としてはリードタイム短縮目標と、物流コスト削減目標を物流スタッフに課すことになりました。片方だけの達成では評価されません。あくまでもミルクラン方式による引き取り物流はこれらの両立が前提となった物流システムです。常に荷量の変動をにらみながらルートの変更や積み合せ荷物の変更を行っていきます。こうしたことを繰り返すうちに物流スタッフの実力は向上していきます。

 

 ミルクランは何もサプライヤーへの引き取りだけに限る必要はありません。自社の出荷貨物を混載しても一向に構わないのです。荷主は自社なわけですから好きなように物流をデザインすることができるのです。こうして今まで実現しなかった、自社貨物とサプライヤー貨物の混載、所謂「内外混載」が可能となりました。自社の重量貨物とサプライヤーの嵩の張る貨物との混載である、「鉄綿混載」もできるようになったのです。

 

 このように非常に改善のオポチュニティが広がることがミルクラン方式の特徴だといえると思います。今まで個々のサプライヤーの荷物だったものを自社の荷とすることでボリュームを増やすとともに、物流会社を集約することで1社当たりの荷量が大幅に拡大します。ここに自社貨物も載ってきますので、さらに荷量が増大します。

 

 これだけでも輸送単価が大幅に下がることになります。しかしミルクラン方式ではこの単価削減だけにはとどまりません。いろいろな工夫でトラック積載率も向上させていくことができるのです。その最たるものが「荷姿改善」です。荷姿を改善することが最も輸送効率化につながるのです。

 

6. ミルクラン: 容器モジュールの統合

 

 引き取り側は複数のサプライヤーの荷や自社の荷を混載して初めて効率化が図られることになります。しかしここで注意しなければならないことがあります。それは「荷姿」です。いろいろな荷姿があると、混載時にその荷同士が積み重ならないことに気づきます。これでは混載の効果を存分に発揮することができません。どうせ自社ですべて引き取るわけですから、荷姿モジュールを統合することは自社にとってもメリットがあることです。そこで実施すべきは「容器モジュールの統合」です。容器の底面サイズを何種類か設定し、他の容器と積み重ねができるようにするのです。また、容器は圧縮可能タイプへと変更します。容器が空になった時に中身が入った時と同じ容積であることほどムダなことはありません。

 

 空になったら折り畳みができる、ネスティング(紙カップ同士が入れ子になるイメージ)ができるという状態にすることが必要です。こうすることで、空容器置場も縮小できますし、トラックの中もスペースを削減することが可能となります。この容器モジュールの統合のためにはコストがかかります。今まで使用していた容器を捨てて新たなタイプに切り替えるわけですから、容器購入コストが必要になるのです。ここでちょっと二の足を踏みそうになります。でもここは冷静にコスト計算を実施してみましょう。輸送には大きなコストがかかっているはずですから、輸送コスト削減で容器代は十分にカバーできる可能性が大きいのです。短期間で回収できれば、あとは儲かる期間が続くだけです。

 

 ここが他社との相乗りの共同輸送とは異なるところです。共同輸送では容器モジュールを統合するという行動まで行きつくことは稀です。しかしミルクラン方式による引き取り化では一荷主による管理になるので、後は判断あるのみです。ミルクラン方式による引き取り物流にはメリットが山のようにあります。一方で越えなければならない課題も多々あり、歯ごたえのある改善だと思います。徹底的に物流コストを改善したいのであれば、ぜひ取り組みをお勧めします。

 

 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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