ソフトウェア特許とは(その1)

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 色々と定義はありますが、ソフトウェア特許とは、よく言うビジネスモデル特許であり、情報システムの特許です。言葉に差はあると思いますが、我々実務家は、ソフトウェア特許、ビジネスモデル特許、IT特許などの言葉に振り回されずに本質をうまくつかんでおきたいと思います。
 
 誤解のないように指摘しておきたいのですが、ソフトウェア特許には、ビジネスモデル特許にはならないものも含まれます。本ページでは、ソフトウェア特許のうち、ビジネスモデル特許にも該当するものについて取り扱います。
 
 定義について、Wikipediaの定義が参考になるので、引用します。《 ビジネスモデル特許(ビジネスモデルとっきょ)は、広義では、ビジネス方法(ビジネスモデル)に係る発明に与えられる特許全般を指すが、一般にはより狭義の、コンピュータ・ソフトウエアを使ったビジネス方法に係る発明に与えられる特許という意味で用いられる。》
 
 この定義に、加えるならば、狭義の定義で覚えておいた方が良いでしょう。つまり、ビジネスモデル特許 =「コンピュータ・ソフトウェアを使った特許のうち、ビジネス方法に関するもの」という定義です。単純化すれば、以下でしょうか。
 
          ソフトウェア特許 = ビジネスモデル特許 = 情報システム関連特許 
 

1.ソフトウェア特許のトレンド

 ソフトウェア特許の出願については、2000年をピークにして下げ続けています。とはいっても、全体がなくなるわけでありません。下げ止まりつつあるというのが実感です。特許庁も同じように解釈しているようです。以下、特許庁サイトからの引用文です。
 
 ビジネス関連発明の出願件数は、1999年が約4,000件でしたが、2000年に急増し、約19,200件(対前年比約4.8倍)となりました。その後、2000年をピークに出願件数は減少傾向にありましたが、近年は下げ止まりの傾向を示しています。2011年の出願件数(暫定値)は約5,400件(対2000年比約0.3倍)です。ビジネスモデル特許出願の状況(出典:特許庁)
 
 次に、登録率を見て行きましょう。登録率は最新の値は37%となっており、ビジネスモデル特許バブル終焉後、 8%を記録した年から見れば、上がってきています。ビジネスモデル特許の審査状況(出典:特許庁)
 

2.ソフトウェア特許の事例

(1)アマゾンのワンクリック特許

 アマゾンのワンクリック特許とは、文字通り、ワンクリックで物が買える情報システムの特許です。楽天やアマゾンでも、一般的な購入ルートは、①買い物カゴにいれる、②レジに行く、③決済方法や送付先を入力、④確認で晴れて注文できます。しかし、これらを一発(ワンクリック)で決済までするというものです。参考までに、Wikiを引用すると、Amazonの特許の意義は次のようなものであるようです。
 
 アマゾン社が本ビジネスメソッド登録を申請した当時は、インターネット画面を通じた電子情報だけで購入申込みと支払い手続きを済ませる手法に、多くの企業が信頼性に不安を持っていました。また、顧客に対して必要な情報を毎回繰り返し入力を求めることで、顧客も安心すると考えていました。 アマゾン社は書籍などの比較的安価な物品を顧客に何度も継続して購入してもらうことが良いと考え、必要な登録手続きを最初の1度だけで済ませることにしました。インターネットを用いた購買が普及すると、このような簡便な方法が標準となりました。
 
 この記述の真偽は置いておくとして、「ビジネスモデル特許とはこんなに簡単なものなのか」と多くの人に思わせたのは間違いなさそうです。
 

(2)住友銀行(三井住友銀行)のパーフェクト口座

 日本で認められたビジネスモデル特許で初期のものとして位置づけられるのがパーフェクト口座に関する特許です。消込処理(請求書発行一覧と振込入金一覧を照合して入金漏れをなくす業務)に非常に大きな力を発揮します。
 
             ソフトウエア  
 
 パーフェクト口座の仕組みは、簡単に言えば、内容は本口座とは別に振込人別の仮想的な口座を用意して、仮想的口座に振り込まれることで簡単に消込が完了するというものです。消込担当者からすれば、このシステムがないと業務が成立しないほど効率的なシステムです。みずほ銀行でも、三菱東京UFJ銀行でも同様のサービスを行っているようです。
 

3.どのようにソフトウェア特許を創造するか

 語弊はあるものの、ソフトウェア特許は、通常の特許とは異なり、創造や妄想、空想だけで産まれると、あえて言いたいです。というのは、ソフトウェア特許は情報システムの特許だから、技術の裏づけは、後々プログラムを書けば済むからです。
 
 特許取得前に実験等を繰り返して確認しなければならないわけではありません。この点は、どんな技術でも(理論的には)同じです。しかし、ソフトウェア特許...
 色々と定義はありますが、ソフトウェア特許とは、よく言うビジネスモデル特許であり、情報システムの特許です。言葉に差はあると思いますが、我々実務家は、ソフトウェア特許、ビジネスモデル特許、IT特許などの言葉に振り回されずに本質をうまくつかんでおきたいと思います。
 
 誤解のないように指摘しておきたいのですが、ソフトウェア特許には、ビジネスモデル特許にはならないものも含まれます。本ページでは、ソフトウェア特許のうち、ビジネスモデル特許にも該当するものについて取り扱います。
 
 定義について、Wikipediaの定義が参考になるので、引用します。《 ビジネスモデル特許(ビジネスモデルとっきょ)は、広義では、ビジネス方法(ビジネスモデル)に係る発明に与えられる特許全般を指すが、一般にはより狭義の、コンピュータ・ソフトウエアを使ったビジネス方法に係る発明に与えられる特許という意味で用いられる。》
 
 この定義に、加えるならば、狭義の定義で覚えておいた方が良いでしょう。つまり、ビジネスモデル特許 =「コンピュータ・ソフトウェアを使った特許のうち、ビジネス方法に関するもの」という定義です。単純化すれば、以下でしょうか。
 
          ソフトウェア特許 = ビジネスモデル特許 = 情報システム関連特許 
 

1.ソフトウェア特許のトレンド

 ソフトウェア特許の出願については、2000年をピークにして下げ続けています。とはいっても、全体がなくなるわけでありません。下げ止まりつつあるというのが実感です。特許庁も同じように解釈しているようです。以下、特許庁サイトからの引用文です。
 
 ビジネス関連発明の出願件数は、1999年が約4,000件でしたが、2000年に急増し、約19,200件(対前年比約4.8倍)となりました。その後、2000年をピークに出願件数は減少傾向にありましたが、近年は下げ止まりの傾向を示しています。2011年の出願件数(暫定値)は約5,400件(対2000年比約0.3倍)です。ビジネスモデル特許出願の状況(出典:特許庁)
 
 次に、登録率を見て行きましょう。登録率は最新の値は37%となっており、ビジネスモデル特許バブル終焉後、 8%を記録した年から見れば、上がってきています。ビジネスモデル特許の審査状況(出典:特許庁)
 

2.ソフトウェア特許の事例

(1)アマゾンのワンクリック特許

 アマゾンのワンクリック特許とは、文字通り、ワンクリックで物が買える情報システムの特許です。楽天やアマゾンでも、一般的な購入ルートは、①買い物カゴにいれる、②レジに行く、③決済方法や送付先を入力、④確認で晴れて注文できます。しかし、これらを一発(ワンクリック)で決済までするというものです。参考までに、Wikiを引用すると、Amazonの特許の意義は次のようなものであるようです。
 
 アマゾン社が本ビジネスメソッド登録を申請した当時は、インターネット画面を通じた電子情報だけで購入申込みと支払い手続きを済ませる手法に、多くの企業が信頼性に不安を持っていました。また、顧客に対して必要な情報を毎回繰り返し入力を求めることで、顧客も安心すると考えていました。 アマゾン社は書籍などの比較的安価な物品を顧客に何度も継続して購入してもらうことが良いと考え、必要な登録手続きを最初の1度だけで済ませることにしました。インターネットを用いた購買が普及すると、このような簡便な方法が標準となりました。
 
 この記述の真偽は置いておくとして、「ビジネスモデル特許とはこんなに簡単なものなのか」と多くの人に思わせたのは間違いなさそうです。
 

(2)住友銀行(三井住友銀行)のパーフェクト口座

 日本で認められたビジネスモデル特許で初期のものとして位置づけられるのがパーフェクト口座に関する特許です。消込処理(請求書発行一覧と振込入金一覧を照合して入金漏れをなくす業務)に非常に大きな力を発揮します。
 
             ソフトウエア  
 
 パーフェクト口座の仕組みは、簡単に言えば、内容は本口座とは別に振込人別の仮想的な口座を用意して、仮想的口座に振り込まれることで簡単に消込が完了するというものです。消込担当者からすれば、このシステムがないと業務が成立しないほど効率的なシステムです。みずほ銀行でも、三菱東京UFJ銀行でも同様のサービスを行っているようです。
 

3.どのようにソフトウェア特許を創造するか

 語弊はあるものの、ソフトウェア特許は、通常の特許とは異なり、創造や妄想、空想だけで産まれると、あえて言いたいです。というのは、ソフトウェア特許は情報システムの特許だから、技術の裏づけは、後々プログラムを書けば済むからです。
 
 特許取得前に実験等を繰り返して確認しなければならないわけではありません。この点は、どんな技術でも(理論的には)同じです。しかし、ソフトウェア特許以外の分野では、技術的な裏づけがない中で特許出願は、普通はしません。なぜなら、ある程度の再現性がないと特許にならないからです(特許法29条1項)
 
 ソフトウェア特許は、プログラムを書けば必ず再現でき、重要なのは、そのビジネスモデルが本当に役に立つかどうかです。ソフトウェア特許の空想を一般的に表現すると、研究開発のうち、「研究」にあたります。
 
 製造業では、PEST分析等をして業界や外部環境の将来を予測して、どんなビジネスが将来ありそうかという予測をする。そして、その予測に基づいた技術を開発するという一連の研究開発の流れを取ることが多いようです。しかし、IT業界では、研究はあまりなされず、開発(しばしば顧客の要望を受けたもので、受託したIT企業の開発とは言い難い)が行われます。研究とは、この前段階なのです。
 
 従って、研究をどのように行うかが非常に重要になるのですが、各社各様の取り組みがあります。それこそがIT企業の競争力の中核であることを忘れないようにしたいものです。そして、この研究の段階にこそ、強いソフトウェア特許が産まれてくるのです。
 
 次回、その2では、4.ソフトウェア特許のとり方から解説します。
 

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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