製造業に求められるDXの取り組みとそのポイント―生成AIやデータ活用の現在地と課題

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合同会社アルファコンパス代表 CEO 福本 勲氏

 

積極的な推進が求められる生成AIの導入 ー 海外の最新事例も紹介

合同会社アルファコンパス 代表CEO 福本 勲 氏

【目次】

    製造業におけるDXの必要性取り組みのポイント

    いま、なぜ製造業にDXが必要とされるのか。以下に4つのポイントをまとめた。

    1)製造現場のノウハウ継承が困難に:日本は世界に先駆け、少子高齢化進んでいるが、長年に渡る実地経験の中で熟練技能者のノウハウを継承することが困難になっていることから、人からデジタルへの継承が必要となっている。

    2)モノづくり大国日本の競争力維持に対するプレッシャー:たとえば、日本では20年~30年もの間、使用されている古い機械が利用される一方、最新設備を備えた海外メーカーとの競争に勝たなければならないといったプレッシャーにさらされている。

    3)製品の変化への対応:製品が複雑化、ソフトウェア・ディファインド化するとともに、納入後の顧客の使い方や環境への適合までをも含めたモノづくりやサービスが求められている。

    4)業務のリモート化ニーズの拡大:新型コロナウィルスへの対応で、リモートによる作業支援やメンテナンスサービスの仕組み作りが求められるようになったが、これはアフターコロナ、ビヨンドコロナにおいても継続すると考えている。

    IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が日米におけるDXへの取り組み情報(2023年度)を調べたところ「全社戦略に基づき、全社的に取り組んでいる」と回答した企業は2022年度から10ポイント以上増加の37.5%となり、同年度に調査したアメリカの値を超えた。また「全社戦略に基づき、一部部門においてDXに取り組んでいる」、「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」と回答した企業数も年々増加している。ただ、これは、デジタイゼーションやデジタライゼーションが含まれており、さらに調査を進めると、日本ではデジタイゼーション、デジタライゼーションの取り組みは、多少進んでいるものの、本来のDXの取り組みがなかなか進んでいないことから課題となっている。
    企業は、既存ビジネスの延長線上での効率化(業務改善)、つまり、自社や自部門でコントロールできるテーマを対象としたデジタイゼーション・デジタライゼーションだけではなく、顧客起点で顧客やパートナーのほか、場合によっては既存の競合とともに価値づくりを行うといったテーマを対象とした本来のDXに取り組む必要がある。また、これらの取り組みで蓄積した収益を本来のDXに投資する姿勢が求められているのではないだろうか。

    日米におけるDXの取り組み状況(合同会社アルファコンパス提供)

    】日米におけるDXの取り組み状況(合同会社アルファコンパス提供)

    本来のDXへの変化の必要性(同社提供)

    】本来のDXへの変化の必要性(同社提供)

    ものづくり現場DX DAY 2025記事一覧へ戻る

    ハノーバーメッセ2025:製造業の生成AI活用やデータ活用のショーケース

    ■シーメンス社

    シーメンス社(独)では、教育トレーニングやマニュアル作成のほか、生産情報統合、PLCのコントロールソフトウェアの開発、効果的な学習支援などにおいてCopilotが使われるようになってきている。
    右下の画像は、エージェンティックAIを使い、ユニバーサルロボットがロボットを作る取り組みだが、この取り組みにおいては生成AIのエージェントのマスタースレーブの関係が定義されている。生成AIの中にもAGV(物流ロボット)などを動かす下位の...


    合同会社アルファコンパス代表 CEO 福本 勲氏

     

    積極的な推進が求められる生成AIの導入 ー 海外の最新事例も紹介

    合同会社アルファコンパス 代表CEO 福本 勲 氏

    【目次】

      製造業におけるDXの必要性取り組みのポイント

      いま、なぜ製造業にDXが必要とされるのか。以下に4つのポイントをまとめた。

      1)製造現場のノウハウ継承が困難に:日本は世界に先駆け、少子高齢化進んでいるが、長年に渡る実地経験の中で熟練技能者のノウハウを継承することが困難になっていることから、人からデジタルへの継承が必要となっている。

      2)モノづくり大国日本の競争力維持に対するプレッシャー:たとえば、日本では20年~30年もの間、使用されている古い機械が利用される一方、最新設備を備えた海外メーカーとの競争に勝たなければならないといったプレッシャーにさらされている。

      3)製品の変化への対応:製品が複雑化、ソフトウェア・ディファインド化するとともに、納入後の顧客の使い方や環境への適合までをも含めたモノづくりやサービスが求められている。

      4)業務のリモート化ニーズの拡大:新型コロナウィルスへの対応で、リモートによる作業支援やメンテナンスサービスの仕組み作りが求められるようになったが、これはアフターコロナ、ビヨンドコロナにおいても継続すると考えている。

      IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が日米におけるDXへの取り組み情報(2023年度)を調べたところ「全社戦略に基づき、全社的に取り組んでいる」と回答した企業は2022年度から10ポイント以上増加の37.5%となり、同年度に調査したアメリカの値を超えた。また「全社戦略に基づき、一部部門においてDXに取り組んでいる」、「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」と回答した企業数も年々増加している。ただ、これは、デジタイゼーションやデジタライゼーションが含まれており、さらに調査を進めると、日本ではデジタイゼーション、デジタライゼーションの取り組みは、多少進んでいるものの、本来のDXの取り組みがなかなか進んでいないことから課題となっている。
      企業は、既存ビジネスの延長線上での効率化(業務改善)、つまり、自社や自部門でコントロールできるテーマを対象としたデジタイゼーション・デジタライゼーションだけではなく、顧客起点で顧客やパートナーのほか、場合によっては既存の競合とともに価値づくりを行うといったテーマを対象とした本来のDXに取り組む必要がある。また、これらの取り組みで蓄積した収益を本来のDXに投資する姿勢が求められているのではないだろうか。

      日米におけるDXの取り組み状況(合同会社アルファコンパス提供)

      】日米におけるDXの取り組み状況(合同会社アルファコンパス提供)

      本来のDXへの変化の必要性(同社提供)

      】本来のDXへの変化の必要性(同社提供)

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      ハノーバーメッセ2025:製造業の生成AI活用やデータ活用のショーケース

      ■シーメンス社

      シーメンス社(独)では、教育トレーニングやマニュアル作成のほか、生産情報統合、PLCのコントロールソフトウェアの開発、効果的な学習支援などにおいてCopilotが使われるようになってきている。
      右下の画像は、エージェンティックAIを使い、ユニバーサルロボットがロボットを作る取り組みだが、この取り組みにおいては生成AIのエージェントのマスタースレーブの関係が定義されている。生成AIの中にもAGV(物流ロボット)などを動かす下位のエージェントと、それをマネジメントする上位のエージェントが設けられている。
      上位のエージェントが「どのようなロボットを作るのか」といったレシピやオーダーをひも解き、下位のエージェントに材料ピッキングや製造などの指示を出すと、下位のエージェントを経由し、設備やロボットに指示が出される仕組みとなっている。

      シーメンス社のショーケース(同社提供)

      写真】シーメンス社のショーケース(同社提供)


      人が上位エージェントに自然言語で「このようなロボットを作ってほしい」と指示を出すと、上位エージェントが物流ロボットや水、材料を管理するロボットなどを動かす下位エージェントに指示を出し、必要な材料をピッキングする、あるいはピッキングさせるなどをすることで、完成するまでのマネジメントを担う。つまり、マネジメントをする側もされる側も生成AIエージェントでプロジェクトが進んでいくのだが、このような世界が近未来に実現されるようなショーケースだった。

      ■EPLAN社・Rittal社

      同じく、ドイツ・LohグループのEPLAN社は、自社のソリューションと同グループのRittal社の標準筐体(きょうたい)や工作機械を連携したショーケースを展開していた。AIがいかに、インダストリアルオートメーションの未来を実現するのかについて、シーメンス、Microsoft両社と連携したプロジェクト事例を紹介した。
      Lohグループは、特に配線あるいは制御盤の領域で長年に渡り、エンジニアの日々の業務の効率化・簡素化のためのソリューション手法などを提供している。さらにこのような手法を一歩進めながら手作業を減らすために、反復的なプロセスは自動化を進め、エンジニアリングについてはフローの効率化を目指している。たとえば、AIによるエンジニアリングの革新を目指すために、Microsoft社のCopilotと連携したEPLAN Copilotを使い、部品配置の間隔などの条件を入れると、生成AIが制御盤の中に部品配置の情報を自動生成してくれる。そしてそれを基に、Rittalがどのサイズの筐体を提供すればよいのかをレコメンドしてくれる。あるいは、盤設計において、EPLANプロジェクトで生成した部品表に基づき、制御盤の3Dモデルの中の、中板への部品配置の提案なども行ってくれる。その前提には、EPLANのデータポータルに部品データがその形状や定格情報などを含め、標準化されたフォーマットがきちんとひも付いていることがあり、それらの情報を基にAIが3Dで盤配置をレコメンドすることが可能となっている。生成AIであるため、ソフトウェアの操作方法の提供をはじめ、EPLANを使った制御盤設計や製造に対する質問への回答もAIがサポートしてくれる。

      EPLAN社のショーケース(同社提供)

      写真】EPLAN社のショーケース(同社提供)


      制御盤製造においては、中の機器も含め、一社で完結をするということはないため、シーメンスと連携し、企業をまたいだエンドツーエンドでエンジニアリングプロセス全体のデジタル化と自働化を行う取り組みも推進しており、将来的に設計変更などが起きた際も、大きな効果を得ることが可能になるとみている。
      一方、ARとデジタルツインを使ったショーケースでは、タブレット端末などに搭載されたEPLAN eVIEW(AR)を操作し、EPLAN Pro Panelのデジタルツインと実機の制御盤を重ね合わせることで、コンポーネントに関する重要な情報や回路図のようなドキュメントが確認できるため、サービスメンテナンス対応の効率化などが実現可能となる。このようにデジタル技術を使い、効率化を進めるといった取り組みは今後も増えてくると考えている。

      ■AWS社

      AWS社(米)のAmazon Novaを使った、事前学習なしで製品検査を行うショーケースでは、正常品の映像のみ学習し、検査対象の画像と比較、どこが学習した製造品と異なるのかを判定する取り組みが紹介されていた。プロンプトで指示を出し、傷などの差を正常品と比較して判定を出す仕組みとなっているが、処理時間が数秒掛かるケースもあるため、高速で流れるラインの全数検査を行うといった用途ではなく、製品ロットの中から一部をサンプルとして抜き取って検査し、その結果に基づいてロット全体の品質を判断するような取り組みへの活用が想定される。

      AWS社のショーケース(同社提供)

      写真】AWS社のショーケース(同社提供)

      ■Beckhoff Automation社

      Beckhoff Automation社(独)では、Twin Cat CoAgentと呼ばれるMCP(Model Context Protocol)をベースとしたAIソリューションが紹介されていた。MCPベースなどで、様々なクラウドAIやDeepseekのようなAIとも接続が可能である。
      たとえば、搬送機の動作中にエラーが発生した場合、生成AIにエラー内容を問い合わせることで生成AIが問題を絞り込み、センサーなどの動作状況をAIが取得し、どのような状況かを示す取り組みなどが紹介されていた。生成AI活用においては、過去のトラブル情報などを事前に学習することが必要となるため、最終的には、設備メーカーが自社の設計図を学習させるか、エラーログやサービスマニュアルを学習させるなど、自分たちでAIを育てていくことが重要だ。

      Beckhoff Automation社のショーケース(同社提供)

      写真】Beckhoff Automation社のショーケース(同社提供)

      ■Schneider Electric社

      Schneider Electric社(仏)では、生成AIを使った制御プログラムの開発を行うショーケースを紹介していた。Microsoftとの協力による「Automation Copilot」という名称のソリューションが仕様書を読み、I/Oを理解し、生成するためのプロンプトを提供、最終的にはアプリケーションやドキュメントなどをセットで生成することが可能で、生成後にテストシナリオに合わせたプロセス制御と自働化のサポートも行ってくれる。また、既存アプリケーションのコメントがなく、分かりづらい場合でも意味を説明してくれるため、制御プログラムにあまり関わったことのないユーザーに対するハードルも下がり、プログラミングの学習ツールとしてもすぐに活用できると考えている。
      このようなことから、プログラミングの時間が短縮できるようになれば、機械メーカーは本業に時間を掛けることができ、製品を早くリリースできるようになるため、圧倒的な短時間で高クオリティの製品を生産できるようになる。

      Schneider Electric社のショーケース(同社提供)

      写真】Schneider Electric社のショーケース(同社提供)

      新たなテクノロジーの活用により、人のやるべき仕事はどこまで変化するか

      欧米では、すでにルーティン業務のデジタル化や無駄なプロセスの削減に長く取り組んできているが、生成AIなど新たなテクノロジーの活用によって、その対象がノールーティン業務の一部にもシフトしてきている。一方、少子高齢化が進む日本では、ルーティン業務の継続や無駄なプロセスもそのままデジタル化してしまうといった取り組みにとどまっており、欧米のような動きはなかなか進んでいないと感じているが、生成AIの登場で、この壁を越えられるかが今後の課題になるとみている。
      「人がやるべき仕事が変わっていく」という変化が継続的に進む中「人は何をやるべきか」ということを考え続けなければならない。しかし、日本の産業界からは「生成AIにはまだできないことも多く、業務には使えない」といった意見も聞かれる。
      欧米や中国は「できることがあるなら、できることから積極的に使っていこう」といった考えで取り組みを進めているため、日本との取り組みレベルの差がますます広がっていくのではと危惧している。
      いま、生成AIのような新しいテクノロジーの登場により、事業や組織、人材など、企業全体のあり方を見直す必要性が出てきている。世界から遅れないため、あるいは日本の方向性を考える意味でも、これら技術は積極的に推進していかなければならない。

       

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