【SDGs取り組み事例】脱炭素に向けたエコマテリアル、竹の集成材で住宅を 株式会社日建ハウジングシステム(東京都文京区)

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古くから籠(かご)やザルといった日用品のほか、建築資材などとして利用されていた竹ですが、プラスチック普及に伴い利用も減り、竹林が放置された結果、日照不足による立ち枯れや土砂災害の原因となるなど、今では「竹害」として問題視されています。今回は鹿児島県薩摩川内市と共同で、増えすぎた竹を集成材として利用するための取り組みを進める株式会社日建ハウジングシステム(代表取締役社長 宇佐見 博之氏)を紹介。同社大阪代表で理事設計部長、lid研究所I3デザイン室室長の古山明義さんにお話をうかがいました。

【目次】

    国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る

     

    1.竹集成材や竹由来のCNFを活用した新素材を開発

    株式会社日建ハウジングシステムは、東京スカイツリーなどを手掛けた株式会社日建設計(東京都千代田区・代表取締役社長 大松 敦史氏)から、集合住宅施設に特化した設計事務所として1970(昭和45)年に独立。都心部を中心に集合住宅の企画から設計、コンサルタント事業などを展開しています。2016(平成28)年には様々な社会課題がもたらす『暮らし』の変化にも柔軟に対応するためにlid(life innovative design)研究所を立ち上げ、これまで培われた『住まい』の仕組み創(づく)りの専門家としてノウハウを活かし木造集合住宅の研究やマンションなどの戦略的な商品企画開発を進めるほか、近年は竹集成材や竹セルロースナノファイバー(以下CNF)を活用した新素材の研究・開発を行っています。

     

    2.竹林放置は獣害や土砂災害の一因に

    林野庁などによると戦後、竹は籠などの日用品から玩具をはじめ、壁材(土壁)の下地やタケノコ生産に利用されてきましたが、昭和40~50年代にかけ、中国産の廉価品輸入やプラスチック製品の普及に伴い、需要が減ると同時に竹林の管理も放置されてきた影響から、里山林に対する侵食が生じるなど、生態系に悪影響を及ぼしています。竹は成長と拡大が早いため侵食の結果、日照不足による森林の荒廃に加え、放置竹林のタケノコがイノシシやサルなどの餌(えさ)となることから、竹林が獣(けもの)の住処(すみか)となり、管理の行き届いたタケノコや農作物に被害をもたらしています。さらに根(地下茎)が浅いため、大雨による土砂災害を引き起こす可能性も指摘されています。

    全国に広がりをみせ、問題となっている「放置竹林」

    写真説明】全国に広がりをみせ、問題となっている「放置竹林」(同社提供)

     

    3.竹を有効活用、地方創生と課題解決に取り組む

    現在、同社では全国で最も竹林面積が広い鹿児島県の中でも一番の竹林面積を有する薩摩川内市と2015(平成27)年から共同で同市の地域課題であり、地域資源でもある竹を活用した地方創生と課題解決を目的とした取り組みを進めています。

     竹集成材を使った建築構造材の開発

    竹集成材は従来からある材料ですが、同社ではこれを「柱や梁(はり)として利用する」ことに着目。竹集成材はスギやヒノキに比べ、曲げ強度が高いため、構造材として利用することで、強度のメリットが十分に発揮できる脱炭素社会に向けた“エコマテリアル”なのです。
    薩摩川内市竹バイオマス産業都市協議会に所属している同社は2016(同28)年、同社大阪オフィスのエントランス空間のデザインに同市の竹を採用しています。また、同年には「竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト」を発足。竹を加工し、強度を高めた集成材で建物を建てようという取り組みで、今年5月には、プロジェクト応援隊長の落語家・月亭方正さんを招き、2回目となる発表会も開かれました。これまでも上方落語の小道具である見台やひざ隠しの製作のほか、パーテーションテーブルやイベント出展用のブースを開発するなど、竹構造体の実現に向けた活動が進められています。

    竹集成材の構造研究結果㊧と同社大阪オフィスのエントランス

    写真説明】竹集成材の構造研究結果㊧と同社大阪オフィスのエントランス(同社提供)

    写真説明】竹ステージに登壇した月亭方正さん(左・写真中央)とイベント出展用ブース(吉本興業株式会社・日建ハウジングシステム提供)

     竹由来の竹CNFを活用した建材の開発

    竹を再生可能な資源として有効活用することを検討していた薩摩川内市は、国産竹100%の紙製造と販売を行う中越パルプ工業株式会社(富山県)の川内工場内にCNFの商業用プラントを新たに誘致しています。一方、CNFに関連した事業アプローチを模索していた日建ハウジングシステムでは、樹脂サッシ(断熱サッシ)の課題に着目しました。既存品は塩ビ製(ポリ塩化ビニル)で強度が弱いことから、内部に鉄やアルミなどを補強材として利用しているのが一般的です。そこで、同社では「重量が重くなるなど、使い勝手が悪いのではないか」との仮説から、強度を高めるためCNFを混錬した製品開発を株式会社LIXIL(東京都)と共同で進めています。
    このほか、合わせガラスを接着する膜に遮熱性のあるCNF塗料を塗布した「CNF遮熱合わせガラス」の共同開発もフィグラ株式会社(東京都)と進められており、既存のアンチモン(金属酸化物)の有害性(準有害金属)や枯渇リスクを避けるため、自然由来の材料を使うことで遮熱効果の向上を図る狙いがあります。

     遮熱塗料にCNFを混ぜ合わせた「CNF遮断熱コーティング材」

    既存の遮熱塗料の耐用年数延長を目的に、遮熱塗料にCNFを混ぜ合わせ、耐久性と対候性を上げる「CNF遮断熱コーティング材」を開発。同コーティング材は、株式会社アマケンテック(熊本県)で製造されているものですが、遮熱性や断熱性能を損なうことなく、無配合の製品と比べ強度を1.5倍に伸ばすことに成功しています。これらを薩摩川内市営住宅の外皮(外壁、屋根、ガラスなど)に設置し、効果を測定したところ、1日当たりのエアコンの積算電力量は既存住戸に比べ、夏期(2019年6~10月)で6.5%(0.17kWh)、冬期(同12月~2020年2月)で2.4%(0.30kWh)が削減されています。

    2022年11月、国内で初めて薩摩川内市内の複合商業施設の屋根と外壁に竹CNF遮熱塗料が施工された

    写真説明】2022年11月、国内で初めて薩摩川内市内の複合商業施設「SOKO KAKAKA」の屋根と外壁に竹CNF遮熱塗料が施工された(同社提供)

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    4.竹の特性を生かし、サスティナブルに解決

    同社では、竹集成材を構造材として使用可能とするためモデルプロジェクトにおける性能評価を取得しています。竹はイネ科の植物で木材ではなく、JISやJASにも規定されていないうえ、建築基準法にもうたわれていないためですが、同社では社内プロジェクトを立ち上げ、幾多の審査会や委員会などの審査を経て、この問題を解決しています。また、形状に変更があったとしてもその都度、性能評価を受ければ、構造材として利用できることは既に実証済みのため、同社も「全国の竹で困っている地方自治体にぜひ、活用してほしい」と呼び掛けています。
    これまで、竹由来の構造材や竹CNF活用建材の開発を進めてきましたが、多くのメリットがある一方、コスト高といったデメリットもあります。国内で竹自体が使...

    古くから籠(かご)やザルといった日用品のほか、建築資材などとして利用されていた竹ですが、プラスチック普及に伴い利用も減り、竹林が放置された結果、日照不足による立ち枯れや土砂災害の原因となるなど、今では「竹害」として問題視されています。今回は鹿児島県薩摩川内市と共同で、増えすぎた竹を集成材として利用するための取り組みを進める株式会社日建ハウジングシステム(代表取締役社長 宇佐見 博之氏)を紹介。同社大阪代表で理事設計部長、lid研究所I3デザイン室室長の古山明義さんにお話をうかがいました。

    【目次】

      国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る

       

      1.竹集成材や竹由来のCNFを活用した新素材を開発

      株式会社日建ハウジングシステムは、東京スカイツリーなどを手掛けた株式会社日建設計(東京都千代田区・代表取締役社長 大松 敦史氏)から、集合住宅施設に特化した設計事務所として1970(昭和45)年に独立。都心部を中心に集合住宅の企画から設計、コンサルタント事業などを展開しています。2016(平成28)年には様々な社会課題がもたらす『暮らし』の変化にも柔軟に対応するためにlid(life innovative design)研究所を立ち上げ、これまで培われた『住まい』の仕組み創(づく)りの専門家としてノウハウを活かし木造集合住宅の研究やマンションなどの戦略的な商品企画開発を進めるほか、近年は竹集成材や竹セルロースナノファイバー(以下CNF)を活用した新素材の研究・開発を行っています。

       

      2.竹林放置は獣害や土砂災害の一因に

      林野庁などによると戦後、竹は籠などの日用品から玩具をはじめ、壁材(土壁)の下地やタケノコ生産に利用されてきましたが、昭和40~50年代にかけ、中国産の廉価品輸入やプラスチック製品の普及に伴い、需要が減ると同時に竹林の管理も放置されてきた影響から、里山林に対する侵食が生じるなど、生態系に悪影響を及ぼしています。竹は成長と拡大が早いため侵食の結果、日照不足による森林の荒廃に加え、放置竹林のタケノコがイノシシやサルなどの餌(えさ)となることから、竹林が獣(けもの)の住処(すみか)となり、管理の行き届いたタケノコや農作物に被害をもたらしています。さらに根(地下茎)が浅いため、大雨による土砂災害を引き起こす可能性も指摘されています。

      全国に広がりをみせ、問題となっている「放置竹林」

      写真説明】全国に広がりをみせ、問題となっている「放置竹林」(同社提供)

       

      3.竹を有効活用、地方創生と課題解決に取り組む

      現在、同社では全国で最も竹林面積が広い鹿児島県の中でも一番の竹林面積を有する薩摩川内市と2015(平成27)年から共同で同市の地域課題であり、地域資源でもある竹を活用した地方創生と課題解決を目的とした取り組みを進めています。

       竹集成材を使った建築構造材の開発

      竹集成材は従来からある材料ですが、同社ではこれを「柱や梁(はり)として利用する」ことに着目。竹集成材はスギやヒノキに比べ、曲げ強度が高いため、構造材として利用することで、強度のメリットが十分に発揮できる脱炭素社会に向けた“エコマテリアル”なのです。
      薩摩川内市竹バイオマス産業都市協議会に所属している同社は2016(同28)年、同社大阪オフィスのエントランス空間のデザインに同市の竹を採用しています。また、同年には「竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト」を発足。竹を加工し、強度を高めた集成材で建物を建てようという取り組みで、今年5月には、プロジェクト応援隊長の落語家・月亭方正さんを招き、2回目となる発表会も開かれました。これまでも上方落語の小道具である見台やひざ隠しの製作のほか、パーテーションテーブルやイベント出展用のブースを開発するなど、竹構造体の実現に向けた活動が進められています。

      竹集成材の構造研究結果㊧と同社大阪オフィスのエントランス

      写真説明】竹集成材の構造研究結果㊧と同社大阪オフィスのエントランス(同社提供)

      写真説明】竹ステージに登壇した月亭方正さん(左・写真中央)とイベント出展用ブース(吉本興業株式会社・日建ハウジングシステム提供)

       竹由来の竹CNFを活用した建材の開発

      竹を再生可能な資源として有効活用することを検討していた薩摩川内市は、国産竹100%の紙製造と販売を行う中越パルプ工業株式会社(富山県)の川内工場内にCNFの商業用プラントを新たに誘致しています。一方、CNFに関連した事業アプローチを模索していた日建ハウジングシステムでは、樹脂サッシ(断熱サッシ)の課題に着目しました。既存品は塩ビ製(ポリ塩化ビニル)で強度が弱いことから、内部に鉄やアルミなどを補強材として利用しているのが一般的です。そこで、同社では「重量が重くなるなど、使い勝手が悪いのではないか」との仮説から、強度を高めるためCNFを混錬した製品開発を株式会社LIXIL(東京都)と共同で進めています。
      このほか、合わせガラスを接着する膜に遮熱性のあるCNF塗料を塗布した「CNF遮熱合わせガラス」の共同開発もフィグラ株式会社(東京都)と進められており、既存のアンチモン(金属酸化物)の有害性(準有害金属)や枯渇リスクを避けるため、自然由来の材料を使うことで遮熱効果の向上を図る狙いがあります。

       遮熱塗料にCNFを混ぜ合わせた「CNF遮断熱コーティング材」

      既存の遮熱塗料の耐用年数延長を目的に、遮熱塗料にCNFを混ぜ合わせ、耐久性と対候性を上げる「CNF遮断熱コーティング材」を開発。同コーティング材は、株式会社アマケンテック(熊本県)で製造されているものですが、遮熱性や断熱性能を損なうことなく、無配合の製品と比べ強度を1.5倍に伸ばすことに成功しています。これらを薩摩川内市営住宅の外皮(外壁、屋根、ガラスなど)に設置し、効果を測定したところ、1日当たりのエアコンの積算電力量は既存住戸に比べ、夏期(2019年6~10月)で6.5%(0.17kWh)、冬期(同12月~2020年2月)で2.4%(0.30kWh)が削減されています。

      2022年11月、国内で初めて薩摩川内市内の複合商業施設の屋根と外壁に竹CNF遮熱塗料が施工された

      写真説明】2022年11月、国内で初めて薩摩川内市内の複合商業施設「SOKO KAKAKA」の屋根と外壁に竹CNF遮熱塗料が施工された(同社提供)

      国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る

      4.竹の特性を生かし、サスティナブルに解決

      同社では、竹集成材を構造材として使用可能とするためモデルプロジェクトにおける性能評価を取得しています。竹はイネ科の植物で木材ではなく、JISやJASにも規定されていないうえ、建築基準法にもうたわれていないためですが、同社では社内プロジェクトを立ち上げ、幾多の審査会や委員会などの審査を経て、この問題を解決しています。また、形状に変更があったとしてもその都度、性能評価を受ければ、構造材として利用できることは既に実証済みのため、同社も「全国の竹で困っている地方自治体にぜひ、活用してほしい」と呼び掛けています。
      これまで、竹由来の構造材や竹CNF活用建材の開発を進めてきましたが、多くのメリットがある一方、コスト高といったデメリットもあります。国内で竹自体が使われなくなったことから、材料として使用するためには、伐採をはじめ輸送といった、それ相応の時間と費用が発生します。同社大阪オフィスをデザインした際も、約3メートルの竹を割るために必要な竹割機所有者が鹿児島県内に存在しなかったため、丸竹を高知へ輸送。今では薩摩川内市内での加工が可能となりましたが、古山さんも「空気を運んでいるようなものだった」と当時を振り返ります。また、一方では国内における竹林の駆除にも高額な費用が発生していることから「需要側と供給側共にコスト高になってしまっている」と、ミスマッチな現状に頭を悩ませています。

      竹集成材生産の工程㊧と小さな部材を組み合わせ、竹集成材の強度を生かした建築物を造りだすシステム「竹集成材構造モデルプロジェクト」

      写真説明】竹集成材生産の工程㊧と小さな部材を組み合わせ、竹集成材の強度を生かした建築物を造りだすシステム「竹集成材構造モデルプロジェクト」(同社提供)

       

      「竹の集成材やCNFを使った材料の実用化に向けた事業に目途が立ってきた今、集成材が木材と同等の素材として使用できるよう、行政への働き掛けを続け、世の中に広められるよう努めていきたい」と話す古山さん。また「竹は成長速度が早く、3~5年で建築材料として使用可能となるうえ、循環性も高い。使えば使うほど脱炭素に繋(つな)がる素材であるため、これらの特性を生かし、竹を多く使用できる仕組み作りを考えていきたい」と熱意を語ってくれました。

      次回は、同社で働く女性たちの「職場で着る服はあっても、着たい服がない」といった声から誕生したオーダーメード・ワークウェア「SWITCH WEAR」について紹介します。

      ※次回記事「【SDGs取り組み事例】働く女性の声から生まれたワークウェア「SWITCH WEAR」はこちらから

      記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂

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