キャッシュを、ジャスト・イン・タイムさせるSCMのオペレーション

1. 過剰在庫を抱えていたサプライチェーン

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 SCM
の1番の問題はブルウィップ効果でした。1950年代に指摘されたこの現象により、需要変動は対策を施さないと、サプライチェーンの川上ほど増幅・歪形し、それらが長期化します。これらの影響は、過大な在庫・在庫能力・生産能力を川上に常備させます。すなわち、本来キャッシュ(現金)として使える資金相当が在庫としてサプライチェーンに存在し、在庫能力・生産能力を維持するための資金が流れていきます。
 

2. 認識に残る過剰在庫

 指摘から半世紀ほどを経て、今世紀に入る頃にはオペレーション(業務)レベルや計算過程レベルの双方でブルウィップ効果を軽減できるようになりました。しかし過剰在庫による資金圧迫は主要な認識として残り、在庫低減がいまだSCMの主要な方針とされています。すなわち在庫低減の方針(戦略)、方針の実行可能性を高めるために採用される手法(戦術)、そして手法の実行(オペレーション)にあたり参照される情報資源の、どのステージを取り上げてもモノのみが対象です。具体的には調達速度を販売速度か制約速度にさせるのみです。
 

3. キャッシュのJIT

 ここでSCMのポイントから手法・情報資源の多角化・多様化を探索します。SCMの最重要ポイントはQCD(品質・経費・納期)のバランスです。これらをモノ・カネ・タイミングに読み替えると、モノのタイミングに関しては必要なとき必要な量というジャスト・イン・タイム(JIT)の考え方があります。しかしカネのタイミングは見当たりません。そこでキャッシュのJITを提案しています。必要なとき必要以上あるキャッシュを意味します。
 

4. 調達安定化

 モノのJITとキャッシュのJITを成立させれば、過剰在庫は資金に転換され、利益が追加され続けることで資金を増大させ続けます。ただしキャッシュのJITを成立させるために在庫不足が生ずると販売機会喪失が生じます。キャッシュのJITの成立は、モノのJITよりも事前に調達することで在庫不足と資金不足を並行して回避させます。この手順から、モノのJITだけよりも調達を安定化させることになります。
 

5. 資金増大のオペレーション

 実務は以下の3点です。どれか1つの採用だけでも利益創出の効果があります。
 

(1)キャッシュのJIT

 販売による回収額の見込と、調達の支払見込と業務費用の合計としての支出額の見込を月別に用意します。これらの差から月別の利益計画を取得します。利益計画の中でマイナス、すなわち損失状態の月について事前調達を行います。
 

(2)調達範囲

 調達に上限と下限の範囲をもうけ、損失状態が見込まれるよりも早く事前調達実行が行われるようにします。各工程もしくは生産システムにおける調達範囲が需要変動の振幅と同程度か狭ければ、1番単純なブルウィップ効果対策となります。
 

(3)調達安定化

 キャッシュのJIT(①)の利益計画と在庫の評価額を用意し、利益と在庫に関
する変数を取得します。このような変数(例えばROI: 利益/在庫)と基準になる値で調達の数式を作ることができます。また調達範囲(②)の上限・下限とともにS字曲線を作ると効果的です。安定化できればよいので、ほかにも方法はあります。
 

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6. シミュレーション分析

 国内のコンビナートのシミュレーションモデルを構築し、実績値の中から緩やかな需要変動の半年間をとりあげ、数か月先まで注文がわかっている完全な受注生産体制の場合と、調達範囲もセットしたS字曲線による調達安定化を採用する場合を、数値実験しました(表-1)。その結果、受注生産体制は半分の期間が合計額740万円を超える損失でした。調達安定化では1月のみ160万円程度の損失です。これらの損失が1年続き、年利5%の借入金により賄うとします。現行の手法を理想的に実現できても74万円/年を金利で払います。調達安定化では16万円/年を金利で払います。
 
                     
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  表-1 シミュレーション結果 (利益、万円)
  
 ここからのキャッシュのJITすなわち事前調達による利益創出を考えます。現行手法では期間の半分が損失となり、その合計金額は高額です。事前調達によって利益を創る際に工数を伴うでしょうし損失となるリスクが高いです。一方、調達安定化は損失の回数も金額も現行手法より少なく済むので事前調達による利益をはるかに創りやすいといえます。
 

この記事の著者

青柳 修平

ものづくりの調達費を低減し、毎月の利益を増やします。

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