利益視点からのサプライチェーンマネジメント第3の提案

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1. サプライチェーンの目標

 本報ではサプライチェーンマネジメント(SCM)を利益の視点によって検討します。具体的には手法を大別し、利益をつくりやすくする方向性を提案します。検討のためにSCMの目標を資金増大とその状態の維持とします。資金は利益の蓄積なので、利益の増やし方をSCMの指標としてよいでしょう。

 支出額(材料の支払額+業務費用)をすべてその月の回収額でまかない続けていれば、資金はショートすることなく単純に増え続けていくことになります。また、ある月は損失となりある月は大きく利益を得ることもあるでしょう。損失や利益の頻度や金額はSCMの手法に大きく依存することとなります。だからこそSCMが存在するのです。

 

2. 手法の分類

 1940年代からはじめられたトヨタ生産システム(TPS)を皮きりに、在庫=資金の考え方が広まりました。単純な需要予測の利用や調達・生産を需要と同期させるものなども含め、在庫低減により資金を増やすことをねらった手法をTPS型と名づけることとします。

 1974年のソフトウェア開発(OPT)1984年の小説発表(The Goal)によって広まった制約条件の理論(TOC)は、制約となる個所の速度に調達量を合わせる考え方です。工程内に制約があるときにDBRとよばれる手法を用いることで、過剰在庫を未然に防ぎ資金を不要に減らしません。この手法をTOC型と名づけることとします。なお制約を市場にみとめるときTOCの分野ではS-DBRという手法を使います。この手法も需要との同期ですので上記のTPS型に分類することとします。よって、DBRのみがこの型にはいります。

 SCMの手法は大別して上記2手法に分類されるとします。通常はTPS型を実践ないしは指向し、工程内に制約のあるときTOC型にシフトさせることが最良とされてきたわけです。

 

3. キャッシュのJIT

 販売にみあったモノの移動をジャストインタイム(JIT)と呼称することにならい、回収が支払を上回ることをキャッシュのJITと表すこととします。月別にキャッシュのインとアウトをみるだけの単純な考えです。モノのJITでは川下の要求する量に対し川上の仕掛品の在庫量は超過も低下も許されません。一方、生産システムの目的は資金増大ですのでキャッシュのJITは超過(回収>支払)を際限なく許し、低下(回収<支払)を許さないとします。キャッシュのJITは損失の発生頻度と発生額をともに減少させ資金を増やし続けるための考え方なのです。

 TPS型で利益を計上し資金を最大にさせ続けるには、モノもキャッシュもJITさせていなければなりません。そもそもキャッシュがJITされていれば利益は生じやすくなっています。なお需要変動が安定していれば、回収が支払を上回りやすいのでキャッシュのJITを達成しやすくなっていることでしょう。

 

4. 調達量の方針

 調達量は生産システム側で決定でき、支払に直接かかわるため利益に影響し、キャッシュのJITの成否を決定します。ですからキャッシュのJITを達成できていない場合、回収や支払の契約条件を変えるか、調達量の方針をTPS型から戦略的に変更するかが適当でしょう(TPS型で利益をつくり続けていれ...

1. サプライチェーンの目標

 本報ではサプライチェーンマネジメント(SCM)を利益の視点によって検討します。具体的には手法を大別し、利益をつくりやすくする方向性を提案します。検討のためにSCMの目標を資金増大とその状態の維持とします。資金は利益の蓄積なので、利益の増やし方をSCMの指標としてよいでしょう。

 支出額(材料の支払額+業務費用)をすべてその月の回収額でまかない続けていれば、資金はショートすることなく単純に増え続けていくことになります。また、ある月は損失となりある月は大きく利益を得ることもあるでしょう。損失や利益の頻度や金額はSCMの手法に大きく依存することとなります。だからこそSCMが存在するのです。

 

2. 手法の分類

 1940年代からはじめられたトヨタ生産システム(TPS)を皮きりに、在庫=資金の考え方が広まりました。単純な需要予測の利用や調達・生産を需要と同期させるものなども含め、在庫低減により資金を増やすことをねらった手法をTPS型と名づけることとします。

 1974年のソフトウェア開発(OPT)1984年の小説発表(The Goal)によって広まった制約条件の理論(TOC)は、制約となる個所の速度に調達量を合わせる考え方です。工程内に制約があるときにDBRとよばれる手法を用いることで、過剰在庫を未然に防ぎ資金を不要に減らしません。この手法をTOC型と名づけることとします。なお制約を市場にみとめるときTOCの分野ではS-DBRという手法を使います。この手法も需要との同期ですので上記のTPS型に分類することとします。よって、DBRのみがこの型にはいります。

 SCMの手法は大別して上記2手法に分類されるとします。通常はTPS型を実践ないしは指向し、工程内に制約のあるときTOC型にシフトさせることが最良とされてきたわけです。

 

3. キャッシュのJIT

 販売にみあったモノの移動をジャストインタイム(JIT)と呼称することにならい、回収が支払を上回ることをキャッシュのJITと表すこととします。月別にキャッシュのインとアウトをみるだけの単純な考えです。モノのJITでは川下の要求する量に対し川上の仕掛品の在庫量は超過も低下も許されません。一方、生産システムの目的は資金増大ですのでキャッシュのJITは超過(回収>支払)を際限なく許し、低下(回収<支払)を許さないとします。キャッシュのJITは損失の発生頻度と発生額をともに減少させ資金を増やし続けるための考え方なのです。

 TPS型で利益を計上し資金を最大にさせ続けるには、モノもキャッシュもJITさせていなければなりません。そもそもキャッシュがJITされていれば利益は生じやすくなっています。なお需要変動が安定していれば、回収が支払を上回りやすいのでキャッシュのJITを達成しやすくなっていることでしょう。

 

4. 調達量の方針

 調達量は生産システム側で決定でき、支払に直接かかわるため利益に影響し、キャッシュのJITの成否を決定します。ですからキャッシュのJITを達成できていない場合、回収や支払の契約条件を変えるか、調達量の方針をTPS型から戦略的に変更するかが適当でしょう(TPS型で利益をつくり続けていれば、もちろん変更の必要はありません!)

 さて調達量の方針をTPS型から変更するために、大別したもうひとつのTOC型をみると、調達に関しての制約には一切言及がありません。ですから調達量の方針はあらたに提案されなければなりません。

 販売による回収は制御できないので、支払の最大値を低減させることで月々の利益がプラスになるようにさせる方針はいかがでしょうか。この方針を毎月採用するならば、支払額をつねに安定させることになります。すなわち、調達量を安定化させることになるわけです。このとき、安定化と並行してサプライチェーン内の在庫と利益を考慮すれば「在庫が多ければ少なく、利益が多ければ多く」なるように調達量を調整できます。この考え方を第3の型(トライデント)として提案しています。

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この記事の著者

青柳 修平

ものづくりの調達費を低減し、毎月の利益を増やします。

ものづくりの調達費を低減し、毎月の利益を増やします。


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