新しいプロセス導入の進め方

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 新しいプロセスの有効性は分かるものの、なかなか現場に浸透しない、というお話をよく耳にします。これは多くの組織が共通で抱える問題であり、一筋縄ではいきません。課題に気づいていることが第一歩であると前向きに捉え、少しずつ進んでいきましょう。

 この類の課題は品質工学会で昔から議論されていますので、過去の発表を参考に、比較的うまくいく方法をご紹介します。これは品質工学に限らず、あらゆる新しいプロセスの導入時に参考となります。

1.部門トップの方針表明と関与

  担当者が新しい手法を折角勉強して成果を出しても、上司の一言でやる気を喪失させるのは簡単です。「よく分からないから普通のやり方でやってくれ」  悪気はないのでしょうが、これでは現場のイノベーションが進みません。  部門長があまりにも強制すると反作用もあるものの、全くプレッシャーがないとやはり技術者はやろうとしません。弱いプレッシャーを継続的に掛ける事が有効です。 社長や担当役員の支援が受けられれば理想的です。

2.推進担当の明確化と組織化

  全社的な推進担当が最低限必要です。必ずしも始めから技法を熟知している必要はありませんが、1年もするとこの担当者が一番物知りになるのが一般です。  できれば各部または各課に1人委員を置き、定期的に委員会を開くと、活動が継続します。もちろん専任の必要はありません。

3.教育の仕組みをつくる

  研修すれば使える、分かるというものでもないのですが、やはり基本的な知識は教育する必要があります。社内に指導できる人がいなければ、当初は外部から講師を迎え、次第に内部講師を育成していくのが良いでしょう。  私の経験では、座学よりも演習、さらに組織の実践テーマを使ったワークショップ形式が最も学習成果があがります。というより、効率と即効性を求められる昨今の情勢下で、業務に直接関係しないテーマで時間をかけての学習は、難しくなってきています。

4.成果を明確化する

  適切に実践すれば必ず何らかの成果が出ますので、その中でも分かりやすい事例をいくつか選択し、実践者本人にまとめてもらい、発表会で他の技術者や管理職に報告してもらいます。これによって成功者以外の関係者が実践する動機付けとなります。  大掛かりな発表会が難しい場合は、技術会議、部長会などで1,2例発表するという手もあります。

5.情報を定期的に配信する

  講習や発表会直後はやる気になっても、日常業務に忙殺されてあっという間に忘れ去られてしまいます。社内外の関連する成果や教育日程などのトピックスを定期的にメール、紙媒体などで配信し続ける事で、本当に必要になった時に思い出してもらう事が出来ます。  例え反応が芳しくなくとも、配信し続ける事が重要です。

6.社内専門家の育成とコンサルタントの活用

  技術者全員があらゆる手法の専門家になる事は非現実的で、非効率でもあります。例えば30~50人に一人程度、その部門内で困っている人をサポートできるレベルのエキスパートが育成できると理想的です。  導入当初は社外コンサルタントや研修会を利用して、短時間で効果的に立ち上げます。推進担当者が経営者や受講者に言いにくい厳しい事を、社外コンサルタントに代弁してもらうという利用法もあります。

7.内外の研究会、勉強会に参加する

 実践にせよ、学習にせよ一人の力は限られますので、第2項で設定した委員や比較的意識の高い人の能力を高め...

 新しいプロセスの有効性は分かるものの、なかなか現場に浸透しない、というお話をよく耳にします。これは多くの組織が共通で抱える問題であり、一筋縄ではいきません。課題に気づいていることが第一歩であると前向きに捉え、少しずつ進んでいきましょう。

 この類の課題は品質工学会で昔から議論されていますので、過去の発表を参考に、比較的うまくいく方法をご紹介します。これは品質工学に限らず、あらゆる新しいプロセスの導入時に参考となります。

1.部門トップの方針表明と関与

  担当者が新しい手法を折角勉強して成果を出しても、上司の一言でやる気を喪失させるのは簡単です。「よく分からないから普通のやり方でやってくれ」  悪気はないのでしょうが、これでは現場のイノベーションが進みません。  部門長があまりにも強制すると反作用もあるものの、全くプレッシャーがないとやはり技術者はやろうとしません。弱いプレッシャーを継続的に掛ける事が有効です。 社長や担当役員の支援が受けられれば理想的です。

2.推進担当の明確化と組織化

  全社的な推進担当が最低限必要です。必ずしも始めから技法を熟知している必要はありませんが、1年もするとこの担当者が一番物知りになるのが一般です。  できれば各部または各課に1人委員を置き、定期的に委員会を開くと、活動が継続します。もちろん専任の必要はありません。

3.教育の仕組みをつくる

  研修すれば使える、分かるというものでもないのですが、やはり基本的な知識は教育する必要があります。社内に指導できる人がいなければ、当初は外部から講師を迎え、次第に内部講師を育成していくのが良いでしょう。  私の経験では、座学よりも演習、さらに組織の実践テーマを使ったワークショップ形式が最も学習成果があがります。というより、効率と即効性を求められる昨今の情勢下で、業務に直接関係しないテーマで時間をかけての学習は、難しくなってきています。

4.成果を明確化する

  適切に実践すれば必ず何らかの成果が出ますので、その中でも分かりやすい事例をいくつか選択し、実践者本人にまとめてもらい、発表会で他の技術者や管理職に報告してもらいます。これによって成功者以外の関係者が実践する動機付けとなります。  大掛かりな発表会が難しい場合は、技術会議、部長会などで1,2例発表するという手もあります。

5.情報を定期的に配信する

  講習や発表会直後はやる気になっても、日常業務に忙殺されてあっという間に忘れ去られてしまいます。社内外の関連する成果や教育日程などのトピックスを定期的にメール、紙媒体などで配信し続ける事で、本当に必要になった時に思い出してもらう事が出来ます。  例え反応が芳しくなくとも、配信し続ける事が重要です。

6.社内専門家の育成とコンサルタントの活用

  技術者全員があらゆる手法の専門家になる事は非現実的で、非効率でもあります。例えば30~50人に一人程度、その部門内で困っている人をサポートできるレベルのエキスパートが育成できると理想的です。  導入当初は社外コンサルタントや研修会を利用して、短時間で効果的に立ち上げます。推進担当者が経営者や受講者に言いにくい厳しい事を、社外コンサルタントに代弁してもらうという利用法もあります。

7.内外の研究会、勉強会に参加する

 実践にせよ、学習にせよ一人の力は限られますので、第2項で設定した委員や比較的意識の高い人の能力を高めるために、社内勉強会を月1回ペースで開催します。さらに近辺に社外の研究会や勉強会があるなら、推進者や有志が参加する事で有用な情報収集、モチベーションの維持に役立ちます。

8.まとめ

  新しい事を始める時に、これさえやればうまくいくという黄金律はありません。また上記の活動をすべて一気に実行することも不可能でしょう。自分の組織に有効と思われるものから優先度を定めて、やればやるほど成功の可能性が拡がります。

参考文献

 白幡洋一,「経営課題への品質工学の活用(1)―会社の技術活動に品質工学の考え方、手法をビルトインする方法論の検討-」,品質工学会誌,Vol.15,No.2,P123-141,(2007)

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この記事の著者

熊坂 治

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。

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