鉄錆とは?発生のメカニズムを詳しく解説

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錆とは

 

金属の破損・不具合の原因として腐食があります。腐食は大気中の酸素や水分、また各種化学物質などによって電気化学的に発生し、腐食によって金属は薄肉化や割れなどの問題を引き起こします。腐食反応は材料や環境によって様々に変化します。

 

腐食の様子は見た目で分かる時と分かりにくい時があります。そして腐食は少しずつ進行していき、やがて大きな部分損傷が発生します。また腐食を防ぐめっきや塗装などの防食技術も大きな役割を果たしています。

 

金属腐食は身近な問題ですが、材料と環境、設計などの要因が複雑に関連しているため、腐食原因を調べ、適切な対策をとることは容易ではありません。

 

金属製品が時間の経過とともに腐食して元の安定な化合物に戻るのは全く自然な現象です。しかし、突発的な損傷を避けて高い信頼性を発揮させるためには、設計、製造およびメンテナンスにおいて、腐食予防策を確立しなければなりません。

 

今回は、このような背景を踏まえて、鉄錆の概要を解説します。

 ◆関連解説記事『腐食とは?錆との関係を知る』

1.鉄錆とは

 

鉄錆と言ってまず思い浮かぶのが赤さびですが、これを考えるには、イオンの存在が重要になってきます。鉄原子が手を取り合って並んでいるところに水がやってきて、鉄原子のもっている電子が水に奪われてしまうのです。こうして鉄原子が電子を失うと鉄イオン(プラスイオン)になります。

 

鉄から電子を奪った水も変化します。水は鉄から電子を奪ったせいで、マイナスを持つ水酸化物イオンができます。この後さらに鉄は電子を失い、Fe(OH)₃となり、最終的にここからH₂Oが抜けて赤錆び(Fe₂O₃)になります。つまり、鉄に水は厳禁ということです。

 

鉄のイオン化は空気中の水蒸気によっても引き起こされます。酸素が他のものにくっ付くことは酸化と呼ばれています。鉄(Fe)は酸化されて錆(Fe₂O₃)に、姿を変えたのです。

 

鉄はFe₂O₃になるとボロボロになってしまいますが、錆びは錆びでも錆び違い、『黒錆び』という赤錆とは異なる性質をもつ錆があります。

 

鉄の黒さびも錆なのですが、赤錆とはできる作用、条件が異なります。鉄を高温で熱すると空気中の酸素と激しく反応し、その結果、赤錆ではなく、黒錆(Fe₃O₄)ができます。この黒錆は鉄の表面にできると内部には進行せず、コーティングのように表面を覆う形になり、これが下の鉄を守ることになります。この錆びはフライパンなどにも使われて、赤錆びによる腐食を防ぎます。

 

2.鉄錆の発生メカニズム

 

前述のように錆とは金属が腐食することで発生する金属酸化物のことを指しますが、錆は身の回りで様々なかたちで目にします。自転車・自動車・機械設備などを外に放置しておくと金属の表面に錆がついたりします。

 

錆びることは金属が大気にさらされていれば起こる現象ですが、交通機関や工業設備の腐食対策などには多大なコストがかかっています。ものづくりにおいても錆への対策は避けて通れません。

 

鉄の酸化物が錆です。鉄の酸化は表面に酸素と水があると起きます。表面が水で覆われることで鉄分子が一部イオン化し、酸素と水と反応することで錆になります。その成分は水和酸化鉄です。

 

もともと鉄は鉄鉱石を製鉄の工程で還元して作るため、水分と酸素が豊富にある大気中では鉄は酸化されていきますが、これが真空中なら錆は発生しません。

 

電子を放出しにくい金属は錆びにくいのですが、ほとんどの金属は電子を放出しやすいため錆びやすのです。電子の放出のしやすさの指標として標準酸化還元電位があります。イオン化傾向と似ていますが、水中に限らずに電子放出のしやすさを規定したものが標準酸化還元電位です。

 

3. 錆と化学式、酸化鉄への変化

鉄の表面で水酸化第一鉄と呼ばれる腐食が始まりますが、これは酸化されやすいため、水酸化第二鉄に変わります。この水酸化第二鉄が結晶化してオキシ水酸化鉄となり、さらに酸化第二鉄になります。

 

  • 水酸化第一鉄:水酸化鉄(II):Fe(OH)2
  • 水酸化第二鉄:水酸化鉄(III):Fe(OH)3
  • オキシ水酸化鉄:水和酸化第二鉄:Fe2O3・H2O
  • α-酸化第二鉄:α-酸化鉄(III):α-Fe2O3

 

4.鉄錆の防止策

 

防錆は防食と同じ意味でも使われます。錆は腐食による生成物なので、防錆対策として防食処理を進めることにもなるわけです。防錆技術は、錆の発生メカニズムの解明や新しい耐食材料や耐候性材料の開発と共に進...

錆とは

 

金属の破損・不具合の原因として腐食があります。腐食は大気中の酸素や水分、また各種化学物質などによって電気化学的に発生し、腐食によって金属は薄肉化や割れなどの問題を引き起こします。腐食反応は材料や環境によって様々に変化します。

 

腐食の様子は見た目で分かる時と分かりにくい時があります。そして腐食は少しずつ進行していき、やがて大きな部分損傷が発生します。また腐食を防ぐめっきや塗装などの防食技術も大きな役割を果たしています。

 

金属腐食は身近な問題ですが、材料と環境、設計などの要因が複雑に関連しているため、腐食原因を調べ、適切な対策をとることは容易ではありません。

 

金属製品が時間の経過とともに腐食して元の安定な化合物に戻るのは全く自然な現象です。しかし、突発的な損傷を避けて高い信頼性を発揮させるためには、設計、製造およびメンテナンスにおいて、腐食予防策を確立しなければなりません。

 

今回は、このような背景を踏まえて、鉄錆の概要を解説します。

 ◆関連解説記事『腐食とは?錆との関係を知る』

1.鉄錆とは

 

鉄錆と言ってまず思い浮かぶのが赤さびですが、これを考えるには、イオンの存在が重要になってきます。鉄原子が手を取り合って並んでいるところに水がやってきて、鉄原子のもっている電子が水に奪われてしまうのです。こうして鉄原子が電子を失うと鉄イオン(プラスイオン)になります。

 

鉄から電子を奪った水も変化します。水は鉄から電子を奪ったせいで、マイナスを持つ水酸化物イオンができます。この後さらに鉄は電子を失い、Fe(OH)₃となり、最終的にここからH₂Oが抜けて赤錆び(Fe₂O₃)になります。つまり、鉄に水は厳禁ということです。

 

鉄のイオン化は空気中の水蒸気によっても引き起こされます。酸素が他のものにくっ付くことは酸化と呼ばれています。鉄(Fe)は酸化されて錆(Fe₂O₃)に、姿を変えたのです。

 

鉄はFe₂O₃になるとボロボロになってしまいますが、錆びは錆びでも錆び違い、『黒錆び』という赤錆とは異なる性質をもつ錆があります。

 

鉄の黒さびも錆なのですが、赤錆とはできる作用、条件が異なります。鉄を高温で熱すると空気中の酸素と激しく反応し、その結果、赤錆ではなく、黒錆(Fe₃O₄)ができます。この黒錆は鉄の表面にできると内部には進行せず、コーティングのように表面を覆う形になり、これが下の鉄を守ることになります。この錆びはフライパンなどにも使われて、赤錆びによる腐食を防ぎます。

 

2.鉄錆の発生メカニズム

 

前述のように錆とは金属が腐食することで発生する金属酸化物のことを指しますが、錆は身の回りで様々なかたちで目にします。自転車・自動車・機械設備などを外に放置しておくと金属の表面に錆がついたりします。

 

錆びることは金属が大気にさらされていれば起こる現象ですが、交通機関や工業設備の腐食対策などには多大なコストがかかっています。ものづくりにおいても錆への対策は避けて通れません。

 

鉄の酸化物が錆です。鉄の酸化は表面に酸素と水があると起きます。表面が水で覆われることで鉄分子が一部イオン化し、酸素と水と反応することで錆になります。その成分は水和酸化鉄です。

 

もともと鉄は鉄鉱石を製鉄の工程で還元して作るため、水分と酸素が豊富にある大気中では鉄は酸化されていきますが、これが真空中なら錆は発生しません。

 

電子を放出しにくい金属は錆びにくいのですが、ほとんどの金属は電子を放出しやすいため錆びやすのです。電子の放出のしやすさの指標として標準酸化還元電位があります。イオン化傾向と似ていますが、水中に限らずに電子放出のしやすさを規定したものが標準酸化還元電位です。

 

3. 錆と化学式、酸化鉄への変化

鉄の表面で水酸化第一鉄と呼ばれる腐食が始まりますが、これは酸化されやすいため、水酸化第二鉄に変わります。この水酸化第二鉄が結晶化してオキシ水酸化鉄となり、さらに酸化第二鉄になります。

 

  • 水酸化第一鉄:水酸化鉄(II):Fe(OH)2
  • 水酸化第二鉄:水酸化鉄(III):Fe(OH)3
  • オキシ水酸化鉄:水和酸化第二鉄:Fe2O3・H2O
  • α-酸化第二鉄:α-酸化鉄(III):α-Fe2O3

 

4.鉄錆の防止策

 

防錆は防食と同じ意味でも使われます。錆は腐食による生成物なので、防錆対策として防食処理を進めることにもなるわけです。防錆技術は、錆の発生メカニズムの解明や新しい耐食材料や耐候性材料の開発と共に進歩してきています。主要な考え方は環境制御、電気防食、耐食材料、被覆防食です。いずれも広範な技術分野で、幅広い技術が関わってきます。

 

【湿度と酸素を除去し腐食を抑える】

 

防食の方法として、腐食反応物質の除去または腐食抑制物質の添加があります。

 

腐食反応物質はたくさんありますが、この抑制物質は、防錆剤、防食剤などと呼ばれます。防錆油などがその例です。これは完全に腐食を無くすことはできませんが、安価で容易に使用できるうえ、腐食速度を下げる効果があります。

 

密閉した容器などで比較的簡単に湿度を下げる方法として、乾燥剤やシリカゲルなどがあります。これらは空気中の水分を吸収するため、湿度を下げることができます。

 

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この記事の著者

嶋村 良太

商品企画・デザインとエンジニアリングの両方の視点を統合し、顧客満足度の高い商品開発を実現していきます。

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