2分でわかるイオン交換樹脂の基礎

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イオン交換樹脂

 

地下水のようなイオンを含んだ水を陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂に通すと、水の中の両イオンは、イオン交換樹脂によって除去され、イオン交換によって生じたH+とOH-は直ちに中和します。これが、純水になると言うことで、正しくは脱イオン水であって、非電解質の有機物を完全に除去出来たわけではありません。

 

イオン交換樹脂は前述の水処理のみならず、金属や有価物の回収精製、触媒、高純度薬品や電子材料の高品質化、食品・飲料の分離精製プロセスに幅広く応用されています。

 

このような背景を踏まえて、今回はイオン交換樹脂の概要を解説します。

◆関連解説記事『プラスチックの強度設計とは、曲げ弾性率・ヤング率』

 

1.イオン交換の仕組み

 

イオン交換作用を持つ物質(イオン交換体)のうち合成樹脂をイオン交換樹脂と呼び、分子構造の一部にイオン交換基として電離する構造を持っています。イオン交換樹脂は、主に直径約0.5mm程度の球状の外観をしたビーズで利用されますが、他に繊維状や液状、膜状(イオン交換膜)の形でも利用されています。イオン交換樹脂には、陽イオンを交換する陽イオン交換樹脂と、陰イオンを交換する陰イオン交換樹脂があります。この2種類の樹脂を単独または混合して利用します。

 

【陰イオン交換樹脂】

ポリスチレン分子中に強塩基性を示すトリメチルアンモニウム基などをつけて、アルカリ処理しておくと、樹脂中に水酸化物イオンをもつようになります。このイオンは水溶液中の他の陰イオンと交換するはたらきをもちます。これが陰イオン交換樹脂です。

 

【陽イオン交換樹脂】

酸性を示す官能基として分子中にスルホ基やカルボキシ基などを含む水に溶けにくい合成樹脂は、水溶液中の他の陽イオンと官能基から電離した水素イオンを交換することができます。陽イオン交換樹脂はこのような樹脂です。この樹脂の例として、ポリスチレンスルホン酸があります。

 

2.イオン交換樹脂の再生

 

イオン交換樹脂の反応は可逆反応で、これらは容易に起こる反応です。陽イオン交換樹脂は、使用済みの樹脂に希塩酸や希硫酸を通すともとに状態に戻ります。陰イオン交換樹脂は、使用済みの樹脂に濃い水酸化ナトリウム水溶液を通すともとの状態に戻ります。イオン交換樹脂の再生とは、この可逆反応を利用し使用済みのイオン交換樹脂をもとの状態に戻すことをいいます。

 

3.イオン交換樹脂による水処理

 

自らのイオンを水中に出し、代わりに水中に存在するイオンと交換するイオン交換樹脂の性質を利用して、水中に溶けてプラスやマイナスに帯電している塩類成分(カルシウム、ナトリウム、塩化物)など水中のイオンを取り除くことができます。

【水道水の純水化】

陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂を混ぜて詰めた状態に上から水道水を少しずつ流し込むと、陽イオンは陽イオン交換樹脂、陰イオンは陰イオン交換樹脂に吸着されます。

 

かわりに水素イオンと水酸化物イオンが交換されて出てきますので、中和されてタダの水が下から出てきます。これが純水ということになります。この純水は脱イオン水と呼ばれます。

 

また、この現象は純水を取り出すだけでなく、工業排水に含まれる有害金属イオンの処理などにも利用できます。ただしイオン交換樹脂では非イオン性の物質は除去できませんので、非電解質除去には蒸留を行うことが必要です。

 

【イオン交換水】

イオン交換水は、水道水をイオン交換樹脂に通して精製する水です。水道水に含まれるイオン成分を取り除いて純度の高い水に精製するので、一般家庭用の浄水機として普及しています。

 

4. イオン交換樹脂の市場規模

 

イオン交換樹脂の市場は、アジア太平洋地域の都市化と原子力需要の増加が市場を牽引する要因です。市場規模は、2025年には22億米ドルへと拡大が予測されています。

 

 (1)水需要でイオン交換樹脂の市場が急成長 

世界中の様々な国が、原子力発電に代表されるより持続可能な電力源を求めており、そ...

イオン交換樹脂

 

地下水のようなイオンを含んだ水を陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂に通すと、水の中の両イオンは、イオン交換樹脂によって除去され、イオン交換によって生じたH+とOH-は直ちに中和します。これが、純水になると言うことで、正しくは脱イオン水であって、非電解質の有機物を完全に除去出来たわけではありません。

 

イオン交換樹脂は前述の水処理のみならず、金属や有価物の回収精製、触媒、高純度薬品や電子材料の高品質化、食品・飲料の分離精製プロセスに幅広く応用されています。

 

このような背景を踏まえて、今回はイオン交換樹脂の概要を解説します。

◆関連解説記事『プラスチックの強度設計とは、曲げ弾性率・ヤング率』

 

1.イオン交換の仕組み

 

イオン交換作用を持つ物質(イオン交換体)のうち合成樹脂をイオン交換樹脂と呼び、分子構造の一部にイオン交換基として電離する構造を持っています。イオン交換樹脂は、主に直径約0.5mm程度の球状の外観をしたビーズで利用されますが、他に繊維状や液状、膜状(イオン交換膜)の形でも利用されています。イオン交換樹脂には、陽イオンを交換する陽イオン交換樹脂と、陰イオンを交換する陰イオン交換樹脂があります。この2種類の樹脂を単独または混合して利用します。

 

【陰イオン交換樹脂】

ポリスチレン分子中に強塩基性を示すトリメチルアンモニウム基などをつけて、アルカリ処理しておくと、樹脂中に水酸化物イオンをもつようになります。このイオンは水溶液中の他の陰イオンと交換するはたらきをもちます。これが陰イオン交換樹脂です。

 

【陽イオン交換樹脂】

酸性を示す官能基として分子中にスルホ基やカルボキシ基などを含む水に溶けにくい合成樹脂は、水溶液中の他の陽イオンと官能基から電離した水素イオンを交換することができます。陽イオン交換樹脂はこのような樹脂です。この樹脂の例として、ポリスチレンスルホン酸があります。

 

2.イオン交換樹脂の再生

 

イオン交換樹脂の反応は可逆反応で、これらは容易に起こる反応です。陽イオン交換樹脂は、使用済みの樹脂に希塩酸や希硫酸を通すともとに状態に戻ります。陰イオン交換樹脂は、使用済みの樹脂に濃い水酸化ナトリウム水溶液を通すともとの状態に戻ります。イオン交換樹脂の再生とは、この可逆反応を利用し使用済みのイオン交換樹脂をもとの状態に戻すことをいいます。

 

3.イオン交換樹脂による水処理

 

自らのイオンを水中に出し、代わりに水中に存在するイオンと交換するイオン交換樹脂の性質を利用して、水中に溶けてプラスやマイナスに帯電している塩類成分(カルシウム、ナトリウム、塩化物)など水中のイオンを取り除くことができます。

【水道水の純水化】

陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂を混ぜて詰めた状態に上から水道水を少しずつ流し込むと、陽イオンは陽イオン交換樹脂、陰イオンは陰イオン交換樹脂に吸着されます。

 

かわりに水素イオンと水酸化物イオンが交換されて出てきますので、中和されてタダの水が下から出てきます。これが純水ということになります。この純水は脱イオン水と呼ばれます。

 

また、この現象は純水を取り出すだけでなく、工業排水に含まれる有害金属イオンの処理などにも利用できます。ただしイオン交換樹脂では非イオン性の物質は除去できませんので、非電解質除去には蒸留を行うことが必要です。

 

【イオン交換水】

イオン交換水は、水道水をイオン交換樹脂に通して精製する水です。水道水に含まれるイオン成分を取り除いて純度の高い水に精製するので、一般家庭用の浄水機として普及しています。

 

4. イオン交換樹脂の市場規模

 

イオン交換樹脂の市場は、アジア太平洋地域の都市化と原子力需要の増加が市場を牽引する要因です。市場規模は、2025年には22億米ドルへと拡大が予測されています。

 

 (1)水需要でイオン交換樹脂の市場が急成長 

世界中の様々な国が、原子力発電に代表されるより持続可能な電力源を求めており、その容量を増やすための措置を講じています。イオン交換樹脂は、電力、化学・石油化学を含む様々な産業で重要な役割を果たしており、中でも電力産業で最も消費されています。こうした傾向は、イオン交換樹脂の市場の押し上げに貢献するでしょう。

 

(2)カチオン性樹脂が最大シェア

カチオン性樹脂は、脱アルカリ、高塩水処理、脱塩など幅広い最終用途産業で使用されています。カチオン性樹脂は、イオン交換樹脂の種類別セグメントで最大のシェアを占めており、その優位性が続くと予想されます。アジア太平洋 (APAC)、中東・アフリカ、南米などの発展に伴い、様々な産業分野でイオン交換樹脂の需要の増加が予想されています。

 

 

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この記事の著者

嶋村 良太

商品企画・デザインとエンジニアリングの両方の視点を統合し、顧客満足度の高い商品開発を実現していきます。

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