研究開発部門が注意すべき広義の市場

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 研究開発テーマを設定する際には、既存の顧客や非顧客だけでなく、広義の市場としてそれらに直接・間接に影響を与えるプレーヤーも含めて考える必要があります。B2B製品の場合には、顧客の顧客、言い換えれば顧客の先の市場がありますし、B2Cの場合には、実際のユーザー以外に購買の意志決定をする人がいることがあります。今回は直接顧客以外に注意すべき対象をいくつか挙げてみます。

 

1.顧客の顧客(B2B製品の場合)

 自社が自社の市場を十分理解しきれていないのと同様に、顧客も彼らの市場について分捉えきれてはいません。従って、直接の顧客だけの要求や情報を集めても、市場の全体像を把握することはできません。顧客のその先の市場についての理解を深めることが重要です。
 例えば、日本触媒は吸水性ポリマーの大きなシェアを国際的に持っていますが、その背景には、直接の顧客であるP&Gやユニチャームといったおむつ・生理用品メーカーだけでなく、その先の顧客すなわち赤ん坊やその母親や女性に目を向けて研究開発活動を行っています。
 顧客の先の市場を見ながら研究開発を行うことによって、顧客にも良い提案ができますし、顧客の潜在ニーズに対応しているために、その時点での競合企業はありませんので、追加価値分を上乗せした価格で売ることができます。また、直接顧客からの要求で開発したわけではありませんから、その顧客以外にも自由に自社製品を販売が可能で、より大きな売上ならびに利益を獲得することができます。

 

2.自社以外から顧客が購入する製品と供給者

 自社の直接顧客は、自社の製品以外にも購入している関連製品があるのが普通です。例えば自動車業界は、大手の部品メーカーが部品をモジュール化して納入する方向にあります。例えば、エアバッグはハンドルに組み込まれていますので、ハンドルメーカーはエアバックを自社の製品に組み込んで顧客に納入することができます。それにより、顧客である自動車メーカーは、生産や購買に関わる工数を削減します。つまり、従来は他社が納入していた部品の機能を、自社部品に組み込んで販売する機会があるということです。
 従って自社は、顧客が購入している他の製品やその提供者にも目を向ける必要があります。前記の自動車部品モジュールの他にも、顧客企業が全体のコストを低減することができれば大きなメリットがあるわけで、まさに以前から世の中で言われているソリューションを提案する事になります。
 製品はハードウェアに限りません。例えば顧客が自社製品を購入するに際し、別の業者と設置作業を契約しているならば、自社がその設置までのサービスを行う、更には設置を不要にする、もしくは設置作業が容易な製品を提供するという機会があります。両者の機能のことを同時に考え、全体コストの低減や追加メリットの提案をすることができれば、売上を増やすことが可能です。

 

3.購買意志決定者または決定影響者

 仮に顧客がその製品の使用者であるならば、その製品の購買意志決定をする人は別にいる場合があります。冒頭の日本触媒の吸水性ポリマーの場合は、赤ちゃんがスーパーで、自分の財布からお金を出してオムツを買うわけではありません。お母さんが購買意志決定者になります。
 更には直接の使用者や購買意思決定者以外にも、購買意思決定に影響を与える人達がいる場合もあるでしょう。B2B製品の場合には、購買部門はもちろんのことその他の関連する部門、また予算を握っている部門の上司等、影響を与える人は複数います。
 通常営業担当者はこれらの点には極めて敏感で、それぞれの関係者のことを考えながら受注戦略を考えますが、研究開発段階でこのようなことを考えることは一般的ではありません。特にB2B製品の場合には、顧客の部署間コミュニケーションはあまり良くないのが一般的です。したがって、様々な関係者のニーズを捉えた製品開発は、顧客企業のコミュニケーション上の問題を解決することとなり、価値を発揮する可能性は高いものです。

 

4.顧客製品の代替製品

 皆さんも自社の代替製品には、関心は高いことでしょう。しかし、顧客製品の代替製品にまではなかなか関心が及ばないのではないでしょうか。例えば自動車部品の例で言えば、自社が内燃機関向けの製品、例えば、ピストンリングを作っているとしましょう。今後、内燃機関がモーターに置換されれば、自社の製品の市場は消滅してしまいます。そのため、...

 研究開発テーマを設定する際には、既存の顧客や非顧客だけでなく、広義の市場としてそれらに直接・間接に影響を与えるプレーヤーも含めて考える必要があります。B2B製品の場合には、顧客の顧客、言い換えれば顧客の先の市場がありますし、B2Cの場合には、実際のユーザー以外に購買の意志決定をする人がいることがあります。今回は直接顧客以外に注意すべき対象をいくつか挙げてみます。

 

1.顧客の顧客(B2B製品の場合)

 自社が自社の市場を十分理解しきれていないのと同様に、顧客も彼らの市場について分捉えきれてはいません。従って、直接の顧客だけの要求や情報を集めても、市場の全体像を把握することはできません。顧客のその先の市場についての理解を深めることが重要です。
 例えば、日本触媒は吸水性ポリマーの大きなシェアを国際的に持っていますが、その背景には、直接の顧客であるP&Gやユニチャームといったおむつ・生理用品メーカーだけでなく、その先の顧客すなわち赤ん坊やその母親や女性に目を向けて研究開発活動を行っています。
 顧客の先の市場を見ながら研究開発を行うことによって、顧客にも良い提案ができますし、顧客の潜在ニーズに対応しているために、その時点での競合企業はありませんので、追加価値分を上乗せした価格で売ることができます。また、直接顧客からの要求で開発したわけではありませんから、その顧客以外にも自由に自社製品を販売が可能で、より大きな売上ならびに利益を獲得することができます。

 

2.自社以外から顧客が購入する製品と供給者

 自社の直接顧客は、自社の製品以外にも購入している関連製品があるのが普通です。例えば自動車業界は、大手の部品メーカーが部品をモジュール化して納入する方向にあります。例えば、エアバッグはハンドルに組み込まれていますので、ハンドルメーカーはエアバックを自社の製品に組み込んで顧客に納入することができます。それにより、顧客である自動車メーカーは、生産や購買に関わる工数を削減します。つまり、従来は他社が納入していた部品の機能を、自社部品に組み込んで販売する機会があるということです。
 従って自社は、顧客が購入している他の製品やその提供者にも目を向ける必要があります。前記の自動車部品モジュールの他にも、顧客企業が全体のコストを低減することができれば大きなメリットがあるわけで、まさに以前から世の中で言われているソリューションを提案する事になります。
 製品はハードウェアに限りません。例えば顧客が自社製品を購入するに際し、別の業者と設置作業を契約しているならば、自社がその設置までのサービスを行う、更には設置を不要にする、もしくは設置作業が容易な製品を提供するという機会があります。両者の機能のことを同時に考え、全体コストの低減や追加メリットの提案をすることができれば、売上を増やすことが可能です。

 

3.購買意志決定者または決定影響者

 仮に顧客がその製品の使用者であるならば、その製品の購買意志決定をする人は別にいる場合があります。冒頭の日本触媒の吸水性ポリマーの場合は、赤ちゃんがスーパーで、自分の財布からお金を出してオムツを買うわけではありません。お母さんが購買意志決定者になります。
 更には直接の使用者や購買意思決定者以外にも、購買意思決定に影響を与える人達がいる場合もあるでしょう。B2B製品の場合には、購買部門はもちろんのことその他の関連する部門、また予算を握っている部門の上司等、影響を与える人は複数います。
 通常営業担当者はこれらの点には極めて敏感で、それぞれの関係者のことを考えながら受注戦略を考えますが、研究開発段階でこのようなことを考えることは一般的ではありません。特にB2B製品の場合には、顧客の部署間コミュニケーションはあまり良くないのが一般的です。したがって、様々な関係者のニーズを捉えた製品開発は、顧客企業のコミュニケーション上の問題を解決することとなり、価値を発揮する可能性は高いものです。

 

4.顧客製品の代替製品

 皆さんも自社の代替製品には、関心は高いことでしょう。しかし、顧客製品の代替製品にまではなかなか関心が及ばないのではないでしょうか。例えば自動車部品の例で言えば、自社が内燃機関向けの製品、例えば、ピストンリングを作っているとしましょう。今後、内燃機関がモーターに置換されれば、自社の製品の市場は消滅してしまいます。そのため、顧客の製品の代替製品であるモーターやそのサプライヤーに十分目を向け、顧客にはモーターに対する優位性を実現できるような部品の提案を行ったり、モーターメーカーには自社の技術を活用した新製品の提案を行うなどの活動が求められます。

 

5.その他の影響者

 その他、自社製品に関係のある法律や所轄の官公庁、その前提となる研究などを行う公的研究所や大学、更には社会全体やその社会活動を主導するNPOなどの団体へも関心を持っておくと良いでしょう。

 以上のように研究開発の視点から見ると、必ずしも「お客様は神様」でないことが分かります。目先の収益源である既存顧客にだけ目を向けていると、新しい研究開発の機会を逸するリスクがあります。事業部門の視野は短期に傾いてしまいがちであり、一方で研究開発部門は本来長期的な視点でテーマに取り組むのがミッションで、そのためにも市場を広く定義し、それらの状況を主体的に把握する活動を行うことが求められています。

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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