1. 特許調査の目的
研究開発や技術開発を進めていく上で、情報を十分に「得て」開発していくのと、情報を十分に「得ない」で開発をするのとではどのような違いがあるでしょうか。いずれも同じ結果になるとは思えません。
情報を十分に得ている場合には、得ていない場合に対して以下の恩恵が享受されるものと考えます。
・第三者(他社)特許侵害などの知財リスクの低減
・開発および事業継続性の確保
・コンプライアンスの確保
・技術トレンド、競業者の把握、特許出願などの発明の創出を見据えた開発戦略や有効な知財戦略の策定と実行
これらの恩恵は、特許調査に加え、技術情報や市場調査も加味することでさらに有効かつ価値のある情報となると思います。
2. 特許調査はなぜ大切なのか
ここで、過去に発生した食品特許権侵害差止事件を振り返りますと、2009年から2015年にかけて大きな事案が発生しています。
例えば、有名な事案となった「サトウの切り餅事件」と呼ばれる特許侵害訴訟です。餅の切込み位置をめぐって、その特許侵害の有無が知財高裁(知的財産高等裁判所)で争われ、特許権者の特許権の侵害が認定されました。さらに判決では「計14億8500円の支払い」と、侵害品である「切り餅」の販売・製造禁止、さらには「在庫品の処分」と餅に切込みを入れる「製造装置の破棄」までもが命じられたのです。
そして、ストレート即席麺事件(大阪地裁で和解)、ノンアルコールビール事件(知財高裁で和解)と、大きな事案だけでもこのように発生してるという現実があります。発生してしまった特許を巡る訴訟での当事者に待ち受けている現実は、そう甘くはありません。
賠償金のほか、弁護士や弁理士などの代理人費用に加え、当事者企業の人件費、さらには証拠収集のための調査費用などが重くのしかかります。参考として、実際に発生した事案の情報を集め統計学的手法で算出された予測値として、その弁護士費用(原告側)は、約1,707万円というデータがあります。[1]
それだけではありません。これらのほかに、関係する技術者も膨大な書類作成、立証に必要な試験の実施、裁判所や法律事務所へ出向くなどの時間や労力が割かれ、研究開発が滞るという問題も発生し、すなわち、これらの係争対応は事業、経営上のリスクと成り得るのです。
これらのリスクを低減するためには、しっかりとした特許調査に基づく情報を得ておくことが大切であると思います。
3. 特許調査の開発ステージ別手法
特許調査には、大きく開発ステージに合わせた三つの手法があります。
初めに「開発前・初期段階での調査」、二つ目に「開発中期段階での特許調査」、最後に「開発終盤・最終段階での特許調査」で、以下に解説していきます。初めの「開発前・初期段階での調査」では、開発ステージとして具体的なレシピ、仕様等は決められていないので、その技術分野の俯瞰的な調査となり、「先行技術調査」と呼ばれています。
(1)「先行技術調査」の概要と目的
・テーマ設定時に開発方向分野の特許調査
・競業者(出願人)の把握と、その開発方向性やポジションを明確化
・自社開発の方向性を関係部門と議論してテーマの設定とスケジュール化
・特許出願時の先行技術文献
(2)「開発中期段階での特許調査」の概要と目的
「開発中期段階での特許調査」では、開発技術方向性が確立してきたステージです。
・初期段階の調査以降に新たな問題出願や問題競業者(出願人)を確認。
・検索式を定め、その検索条件に該当する出願・特許を定期的に監視。
・問題出願・特許の発見やフィードバック、他社の動向監視などを行う。
問題のある出願を発見し、その動きを監視していく調査は、SDI調査(Selected Dissemination Information)といい、ウォッチング調査とも呼ばれます。要対応出願・特許がある場合は、監視対象とし出願の場合は権利化阻止を、特許の場合は無効理由調査や回避などの対応策が必要となります。
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