狩野モデルとは、若いエンジニアへのツール紹介!

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若いエンジニアの特徴は経験に縛られない新しいアイデアや意識を次々と生み出すことができることで、まったく羨ましい限りです。先日もこんな会話がありました。「こんな古臭い操作パネルなんかなくして、安いスマートフォンのようなものに置き換えたほうが、機能的にも、コスト的にも優れて満足度が上がるんじゃないですか」。
 
しかし操作パネルがついているその製品は一旦納入されると 10 年も 15 年も使われるし、その長い製品ライフサイクルに渡って信頼性や安全性が品質要素として要求されるため、スマートフォンは適さないと思ったのですが、「これは狩野モデルを試してみるのに面白い例題かもしれない」と思い、若いエンジニアと一緒に狩野モデルを使ってみました。
 
  狩野モデル
 

1.狩野モデルとは

 
狩野モデルは、ビジネスやマーケティング、技術のテキスト本で当たり前に紹介されているツールです。実際、僕が持っているリーンシックスシグマや品質管理、ソフトウェア開発のほとんどの本の最初の部分で、狩野モデルが紹介されています。
 
しかし、リーンシックスシグマや品質管理の実際の現場では、ほとんど狩野モデルがフレームワークとして使われていません。狩野モデルはテキスト本上でただの”概念”の説明だけで終わってしまい、実際に VOC(Voice Of Customer)の一つのツールとして使われることは稀のようです。
 
でもそれでは折角のツールがもったいないので、この若いエンジニアと一緒に狩野モデル使って、彼のアイデアが魅力的なものかどうか、考え方を検討してみました。
 
狩野モデルについては他にも多くの優れた説明がインターネット上にあるので、いつもの様にここでは省略しますが、一言で言うと、狩野モデルは、顧客にとってその機能や品質が重要かどうかを理解するためのツールです。
 

2. 狩野モデルと品質属性のライフサイクルステージ

 

簡易版の狩野モデルを使って品質ギャップ分析ができます。各品質属性の重み付けについて、品質属性のライフサイクルステージを整理しておきます。品質属性のライフサイクルステージ(段階)ライフサイクルステージには次の7段階があります。

 

(1) 潜在的な品質段階:

 潜在的な品質属性は隠れていて顧客はまだその品質属性を知覚していません。企業は潜在的な品質属性を試みで顧客に提供することで、顧客がそのアイデアを欲するかどうかを試すことができます。潜在的な品質属性には重み付けは必要ないかもしれません。

 

(2) 欲求的な品質段階:

 欲求的な品質属性は顧客には知られているものの、まだどの企業も提供していない品質属性です。企業がその品質属性を提供し始め、顧客がその品質属性に満足し始めると、欲求的な品質属性はユニークな品質属性に変わります。欲求的な品質属性の重み付けはそれほど多くは必要ないかもしれません。

 

(3) ユニークな品質段階:

 ユニークな品質属性は、一つの企業だけが提供している品質属性です。もし顧客がこのユニークな品質属性に満足しているのであれば、この品質属性には大きな重み付けをします。

 

(4) 品質と満足度の同調段階:

 品質と満足度が同調する品質属性は、もし一つの企業だけが抜き出ている場合には大きな重み付けをします。多くの企業がこの品質属性を十分満たしてくると、重要な品質属性に変わります。

 

(5) 重要な品質段階:

 重要な品質属性は、競争力を表します。一つの市場セグメントだけで重要な品質属性はニッチな品質属性です。多くの市場セグメントで重要な品質属性はパワーのある品質属性です。

 

(6) 色あせる品質段階:

 色あせる品質属性は市場での競争力に影響を与えなくなりつつある品質属性です。この品質属性には重み付けを減らしていくべきでしょう。

 

(7) 基本的な品質段階:

 基本的な品質属性はすべての企業が提供しており、顧客満足度も同じである様な品質属性です。この品質属性の重みは少なくするべきでしょう。それぞれの品質属性ごとに評価したライフサイクルステージ(段階)と重み付けは、品質ギャップ分析のテーブルに記述します。

 

関連解説:顧客の声から顧客の価値へ(その9) 品質ギャップ分析とは

 

3.狩野モデルの使い方

 
使い方はとても簡単で、ある内容(機能や品質)について、肯定的な質問(充足質問)と否定的な質問(不充足質問)の二つを用意し、その相反する二つの質問を顧客に尋ね、その答えから、顧客にとってその機能が当たり前品質なのか、魅力的品質なのか、無関心品質なのかなど、その品質が重要かどうかを判断します。
 
 狩野モデル
 
判断には以下のテーブルを用います。さて、若いエンジニアは次の3つのアイデアを持っていました。
 
  • 要求仕様 1: 操作パネルにスマートフォンを使う
  • 要求仕様 2: スマートフォンの QR コードリーダー(カメラ)を使って、装置のパラメータを自動設定する
  • 要求仕様 3: スマートフォンの顔認識システム(カメラ)を使って、装置のパスワード機能とする
 
要求仕様 1 の対(ペア)になる質問内容は、
 
  • もし装置が操作パネルとしてスマートフォンを使っていたら、あなたはどう思いますか?
  • もし装置が操作パネルとしてスマートフォンを使っていなかったら、あなたはどう思いますか?
 
そしてもし顧客が、スマートフォンを使っていたら”気に入って”、使っていなくても”仕方がない”と答えたら、上の表から、顧客にとってその機能は&rdquo...
 
若いエンジニアの特徴は経験に縛られない新しいアイデアや意識を次々と生み出すことができることで、まったく羨ましい限りです。先日もこんな会話がありました。「こんな古臭い操作パネルなんかなくして、安いスマートフォンのようなものに置き換えたほうが、機能的にも、コスト的にも優れて満足度が上がるんじゃないですか」。
 
しかし操作パネルがついているその製品は一旦納入されると 10 年も 15 年も使われるし、その長い製品ライフサイクルに渡って信頼性や安全性が品質要素として要求されるため、スマートフォンは適さないと思ったのですが、「これは狩野モデルを試してみるのに面白い例題かもしれない」と思い、若いエンジニアと一緒に狩野モデルを使ってみました。
 
  狩野モデル
 

1.狩野モデルとは

 
狩野モデルは、ビジネスやマーケティング、技術のテキスト本で当たり前に紹介されているツールです。実際、僕が持っているリーンシックスシグマや品質管理、ソフトウェア開発のほとんどの本の最初の部分で、狩野モデルが紹介されています。
 
しかし、リーンシックスシグマや品質管理の実際の現場では、ほとんど狩野モデルがフレームワークとして使われていません。狩野モデルはテキスト本上でただの”概念”の説明だけで終わってしまい、実際に VOC(Voice Of Customer)の一つのツールとして使われることは稀のようです。
 
でもそれでは折角のツールがもったいないので、この若いエンジニアと一緒に狩野モデル使って、彼のアイデアが魅力的なものかどうか、考え方を検討してみました。
 
狩野モデルについては他にも多くの優れた説明がインターネット上にあるので、いつもの様にここでは省略しますが、一言で言うと、狩野モデルは、顧客にとってその機能や品質が重要かどうかを理解するためのツールです。
 

2. 狩野モデルと品質属性のライフサイクルステージ

 

簡易版の狩野モデルを使って品質ギャップ分析ができます。各品質属性の重み付けについて、品質属性のライフサイクルステージを整理しておきます。品質属性のライフサイクルステージ(段階)ライフサイクルステージには次の7段階があります。

 

(1) 潜在的な品質段階:

 潜在的な品質属性は隠れていて顧客はまだその品質属性を知覚していません。企業は潜在的な品質属性を試みで顧客に提供することで、顧客がそのアイデアを欲するかどうかを試すことができます。潜在的な品質属性には重み付けは必要ないかもしれません。

 

(2) 欲求的な品質段階:

 欲求的な品質属性は顧客には知られているものの、まだどの企業も提供していない品質属性です。企業がその品質属性を提供し始め、顧客がその品質属性に満足し始めると、欲求的な品質属性はユニークな品質属性に変わります。欲求的な品質属性の重み付けはそれほど多くは必要ないかもしれません。

 

(3) ユニークな品質段階:

 ユニークな品質属性は、一つの企業だけが提供している品質属性です。もし顧客がこのユニークな品質属性に満足しているのであれば、この品質属性には大きな重み付けをします。

 

(4) 品質と満足度の同調段階:

 品質と満足度が同調する品質属性は、もし一つの企業だけが抜き出ている場合には大きな重み付けをします。多くの企業がこの品質属性を十分満たしてくると、重要な品質属性に変わります。

 

(5) 重要な品質段階:

 重要な品質属性は、競争力を表します。一つの市場セグメントだけで重要な品質属性はニッチな品質属性です。多くの市場セグメントで重要な品質属性はパワーのある品質属性です。

 

(6) 色あせる品質段階:

 色あせる品質属性は市場での競争力に影響を与えなくなりつつある品質属性です。この品質属性には重み付けを減らしていくべきでしょう。

 

(7) 基本的な品質段階:

 基本的な品質属性はすべての企業が提供しており、顧客満足度も同じである様な品質属性です。この品質属性の重みは少なくするべきでしょう。それぞれの品質属性ごとに評価したライフサイクルステージ(段階)と重み付けは、品質ギャップ分析のテーブルに記述します。

 

関連解説:顧客の声から顧客の価値へ(その9) 品質ギャップ分析とは

 

3.狩野モデルの使い方

 
使い方はとても簡単で、ある内容(機能や品質)について、肯定的な質問(充足質問)と否定的な質問(不充足質問)の二つを用意し、その相反する二つの質問を顧客に尋ね、その答えから、顧客にとってその機能が当たり前品質なのか、魅力的品質なのか、無関心品質なのかなど、その品質が重要かどうかを判断します。
 
 狩野モデル
 
判断には以下のテーブルを用います。さて、若いエンジニアは次の3つのアイデアを持っていました。
 
  • 要求仕様 1: 操作パネルにスマートフォンを使う
  • 要求仕様 2: スマートフォンの QR コードリーダー(カメラ)を使って、装置のパラメータを自動設定する
  • 要求仕様 3: スマートフォンの顔認識システム(カメラ)を使って、装置のパスワード機能とする
 
要求仕様 1 の対(ペア)になる質問内容は、
 
  • もし装置が操作パネルとしてスマートフォンを使っていたら、あなたはどう思いますか?
  • もし装置が操作パネルとしてスマートフォンを使っていなかったら、あなたはどう思いますか?
 
そしてもし顧客が、スマートフォンを使っていたら”気に入って”、使っていなくても”仕方がない”と答えたら、上の表から、顧客にとってその機能は”魅力的”であると評価できるわけです。
 
若いエンジニアは 3 つの要求仕様それぞれに対(ペア)の質問を用意して(合計 6 つの質問)、22 人に質問しました。以下がその結果です。
 
 狩野モデル
 
なんと、スマートフォンと QR コードリーダーは魅力的評価となりました。(顔認証システムは予想通り逆評価でした)
 
結果に満足しなかった僕は、その若いエンジニアに「誰に質問したのか」と聞いてみたところ、社内の若い同僚達に質問したそうです。なるほど、それなら納得できます。
 
狩野モデルを使う際は、対象(ターゲット)となる該当顧客を明確にする必要があります。特にビジネスで使う場合は、商品のターゲットとなるマーケットや顧客層をしっかり定めて差別化しておくことが必要です。そうでないと、この「狩野モデル遊び」のように折角の結果がピント外れになってしまうからです。
 

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この記事の著者

津吉 政広

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