若いエンジニアと狩野モデルとは

 
 若いエンジニアは経験に縛られない新しいアイデアを次々と生み出すことができるので、まったく羨ましい限りです。先日もこんな会話がありました。「こんな古臭い操作パネルなんかなくして、安いスマートフォンのようなものに置き換えたほうが、機能的にも、コスト的にも優れているんじゃないですか」。
 
 しかし操作パネルがついているその製品は一旦納入されると 10 年も 15 年も使われるし、その長い製品ライフサイクルに渡って信頼性や安全性が要求されるため、スマートフォンは適さないと思ったのですが、「これは狩野モデルを試してみるのに面白い例題かもしれない」と思い、若いエンジニアと一緒に狩野モデルを使ってみました。
 
  
狩野モデル
 
 狩野モデルは、ビジネスやマーケティング、技術のテキスト本で必ずと言っても良いほど紹介されているツールです。実際、僕が持っているリーンシックスシグマや品質管理、ソフトウェア開発のほとんどの本の最初の部分で、狩野モデルが紹介されています。
 
 しかし、リーンシックスシグマや品質管理の実際の現場では、ほとんど狩野モデルがツールとして使われていません。狩野モデルはテキスト本上でただの”概念”の説明だけで終わってしまい、実際に VOC(Voice Of Customer)の一つのツールとして使われることは稀のようです。
 
 でもそれでは折角のツールがもったいないので、この若いエンジニアと一緒に狩野モデル使って、彼のアイデアが魅力的なものかどうか、検討してみました。
 
 狩野モデルについては他にも多くの優れた説明がインターネット上にあるので、いつもの様にここでは省略しますが、一言で言うと、狩野モデルは、顧客にとってその機能や品質が重要かどうかを理解するためのツールです。
 
 使い方はとても簡単で、ある内容(機能や品質)について、肯定的な質問(充足質問)と否定的な質問(不充足質問)の二つを用意し、その相反する二つの質問を顧客に尋ね、その答えから、顧客にとってその機能や品質が重要かどうかを判断します
 
 
狩野モデル
 
 判断には以下のテーブルを用います。さて、若いエンジニアは次の3つのアイデアを持っていました。
 
  • 要求仕様 1: 操作パネルにスマートフォンを使う
  • 要求仕様 2: スマートフォンの QR コードリーダー(カメラ)を使って、装置のパラメータを自動設定する
  • 要求仕様 3: スマートフォンの顔認識システム(カメラ)を使って、装置のパスワード機能とする
 
 要求仕様 1 の対(ペア)になる質問内容は、
 
  • もし装置が操作パネルとしてスマートフォンを使っていたら、あなたはどう思いますか?
  • もし装置が操作パネルとしてスマートフォンを使っていなかったら、あなたはどう思いますか?
 
 そしてもし顧客が、スマートフォンを使っていたら”気に入って”、使っていなくても”仕方がない”と答えたら、上の表から、顧客にとってその機能は”魅力的”であると評価できるわけです。
 
 若いエンジニアは 3 つの要求仕様それぞれに対(ペア)の質問を用意して(合計 6 つの質問)、22 人に質問しました。以下がその結果です。
 
 
狩野モデル
 
 なんと、スマートフォンと QR コードリーダーは魅力的評価となりました。(顔認証システムは予想通り逆評価でした)
 
 結果に満足しなかった僕は、その若いエンジニアに「誰に質問したのか」と聞いてみたところ、社内の若い同僚達に質問したそうです。なるほど、それなら納得できます。
 
 狩野モデルを使う際は、対象(ターゲット)となる顧客を明確にする必要があります。特にビジネスで使う場合は、商品のターゲットとなるマーケットや顧客層をしっかり定めておくことが必要です。そうでないと、この「狩野モデル遊び」のように折角の結果がピント外れになってしまうからです。
 

この記事の著者

津吉 政広

リーンやシックスシグマ、DFSSなど、問題解決のためのフレームワークを使った新製品の開発や品質の向上、プロセスの改善を得意としています。「ものづくり」に関する問題を一緒に解決してみませんか?

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