市場を俯瞰してみる:半導体産業の失敗事例

 「失敗の本質」(野中郁次郎他著・中公文庫)という戦略論の本があり、その中で太平洋戦争における日本軍のガダルカナルでの敗北の分析が著されています。同書によると、日本軍は太平洋における戦略の要衝と考えたガダルカナルを攻撃するに当り、戦闘の基本である敵の陣容の把握を怠り、投入総兵力3万人の7割を死亡もしくは行方不明の形で失うと大敗北となりました。

 産業界でも、このようなことは珍しくありません。例えば、東芝の半導体事業の総帥として同社の半導体の全盛期に指揮をとった川西剛氏(元東芝副社長)は、日本の半導体産業の衰退について「やはり世界を見ないで、国内を向いて競争していた。それが今日の事態を招いた。」(日本経済新聞2010年10月10日朝刊)と語っています。上の日本軍と日本の半導体産業の失敗の共通する原因は、戦場・市場を俯瞰するという作業を怠ったことにあります。

 それでは、市場を俯瞰してみるにはどのようにしたら良いのでしょうか?元米国連邦準備銀行(FRB)議長のアラン・グリーンスパンは、日本経済新聞の私の履歴書の中で、FRBの議長になる前に経営していた民間の経済金融調査会社時代の活動に関し、次のように語っています。
「われわれの調査分析の売り物は、経済の動向がどう顧客の事業に影響するかをわかりやすく伝えることにあった。・・・国の統計だけでなく、業界からの聞き取り調査や歴史的なデータの分析にエネルギーをさいた。五七年の暮れ、オハイオ州クリーブランドで、リパブリック・スチールの首脳陣に警告した。「鉄鋼の在庫が急増しており、今の生産計画だと、生産量は需要をはるかに上回ってしまうだろう。問題は鉄鋼在庫だけでなく、五八年はひどい年になる」。しかしそのトップは、「受注は堅調」と反論し、計画を変えなかった。結局、五八年は戦後で最も急速な景気の落ち込みとなった」(日本経済新聞2008年1月10日朝刊)

 
 一般に米国のCIA(中央情報部)はスパイ活動を行う組織であると思われていますが、実はその情報源の9割が公開情報だそうです。彼らは公開情報を集め、そこから敵の動きを想定するということを主要な活動としているのです。

 上の東芝の例で言えば、その当時でも半導体事業は数千億円の売上規模がありましたので、その日々の活動の中から海外についての情報を含め膨大な情報が社内に流れてきていたと思われます。東芝は、せっかく市場を俯瞰するために必要な情報を持ちながら、それらを集め分析する手間を惜しんだ、もしくはその必要性を認識していなかったということではないでしょうか。


この記事の著者

浪江 一公

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