FMEA運用システムと全体俯瞰型FTA

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【目次】

     

    1. FMEAを効率的に運用するためのシステム

     
     FMEAは製品の故障モードの影響解析を行う上で、顧客(ユーザー・次工程)にとって有効な手法であります。一方、作成に多大な負荷が作成者・組織にかかることから、効率的な運用を配慮することが重要になります。ここでは、FMEAを効率的に運用するためのシステムを提案します。さらに、故障モードを解析するツールとしてFTAが有効ですが、トップ事象から展開した各事象、さらに対策までを一目で鳥瞰できる「全体俯瞰型FTA」を提案します。
     

    2. FMEA運用システム

     
     電子デバイスのような複雑かつ多くの工程で構成される場合、新設計品のFMEA作成は既存のFMEAを変更・追加して作成する場合が多いと考えます。このとき大事なのは、各プロセスの要素工程で変更・追加された内容が更新され、最新版として設計者間で共有化できることです。提案システムでは「要素工程」「DFMEA」「PFMEA」までの作成プロセスを体系化しました。図1参照を願います。
     
     FMEA図1.FMEA運用システムの概念図
     

    (1) FMEAのDB化

     
     各要素工程は自工程完結であることが必要条件となります。まず、DFMEAの要素工程をDB化します。新設計では、これら「要素工程」を組み合わせたDFMEAを作成します。概ね、新設計では一部の「要素工程」を変更・追加する作業でDFMEAは作成することができます。インプット情報は「潜在的故障モード」「設計変更情報」「過去のトラブル事例」等になります。新規DFMEAに「各プロセスの潜在故障モード」「工程変更情報」「QCパトロール情報」「作業者の五感による気づき」等を織り込みPFMEAを新規作成します。客先提出用PFMEAは影響度評価に注力し、さらに高度の製造ノウハウ開示については客先と議論しながら、フィルタリングガイドに基づき作成します。
     
     「工程要素ごとのDFMEA」「製品ごとのDFMEA」「製品ごとのPFMEA」は常に最新版で維持管理することと、関係者と情報を共有化することが重要になります。
     

    (2) 全体俯瞰型FTAの特徴

     
     通常FTAはトップ事象から基本事象まで展開し、改善対策は別の資料でまとめる方法が一般的です。しかし、不具合が再発したときには、今までの対策の妥当性評価、新たな原因と対策の追加が必要となります。特に複雑なFTAでは全体の原因・対策が一枚の資料で俯瞰できれば、対策の「弱み・強み」が一望でき、効率的に再発防止策をはかることができます。提案の「全体俯瞰型FTA」は各基本事象に「対策」「対策の評価」「評価の根拠」欄を設け新規不具合が発生したとき、新たな「中間事象」の検証に併せ、既存の「対策抜け」「不十分な対策」を○、十分な対策に×、疑われる対策に△の三段階評価し、それぞれの評価に対し追加対策欄を設...
    【目次】

       

      1. FMEAを効率的に運用するためのシステム

       
       FMEAは製品の故障モードの影響解析を行う上で、顧客(ユーザー・次工程)にとって有効な手法であります。一方、作成に多大な負荷が作成者・組織にかかることから、効率的な運用を配慮することが重要になります。ここでは、FMEAを効率的に運用するためのシステムを提案します。さらに、故障モードを解析するツールとしてFTAが有効ですが、トップ事象から展開した各事象、さらに対策までを一目で鳥瞰できる「全体俯瞰型FTA」を提案します。
       

      2. FMEA運用システム

       
       電子デバイスのような複雑かつ多くの工程で構成される場合、新設計品のFMEA作成は既存のFMEAを変更・追加して作成する場合が多いと考えます。このとき大事なのは、各プロセスの要素工程で変更・追加された内容が更新され、最新版として設計者間で共有化できることです。提案システムでは「要素工程」「DFMEA」「PFMEA」までの作成プロセスを体系化しました。図1参照を願います。
       
       FMEA図1.FMEA運用システムの概念図
       

      (1) FMEAのDB化

       
       各要素工程は自工程完結であることが必要条件となります。まず、DFMEAの要素工程をDB化します。新設計では、これら「要素工程」を組み合わせたDFMEAを作成します。概ね、新設計では一部の「要素工程」を変更・追加する作業でDFMEAは作成することができます。インプット情報は「潜在的故障モード」「設計変更情報」「過去のトラブル事例」等になります。新規DFMEAに「各プロセスの潜在故障モード」「工程変更情報」「QCパトロール情報」「作業者の五感による気づき」等を織り込みPFMEAを新規作成します。客先提出用PFMEAは影響度評価に注力し、さらに高度の製造ノウハウ開示については客先と議論しながら、フィルタリングガイドに基づき作成します。
       
       「工程要素ごとのDFMEA」「製品ごとのDFMEA」「製品ごとのPFMEA」は常に最新版で維持管理することと、関係者と情報を共有化することが重要になります。
       

      (2) 全体俯瞰型FTAの特徴

       
       通常FTAはトップ事象から基本事象まで展開し、改善対策は別の資料でまとめる方法が一般的です。しかし、不具合が再発したときには、今までの対策の妥当性評価、新たな原因と対策の追加が必要となります。特に複雑なFTAでは全体の原因・対策が一枚の資料で俯瞰できれば、対策の「弱み・強み」が一望でき、効率的に再発防止策をはかることができます。提案の「全体俯瞰型FTA」は各基本事象に「対策」「対策の評価」「評価の根拠」欄を設け新規不具合が発生したとき、新たな「中間事象」の検証に併せ、既存の「対策抜け」「不十分な対策」を○、十分な対策に×、疑われる対策に△の三段階評価し、それぞれの評価に対し追加対策欄を設けた様式としました。
       
       不具合発生から「全体俯瞰型FTA」データベースに保管されるまでのプロセスを図2に示します。「全体俯瞰型FTA」の参考事例の一部を図3に示しました。
       
      FMEA図2.FTA作成プロセス
       
      FMEA図3. 全体俯瞰型FTA
       
       図3のピンクでハイライトしたチェックリスト欄を通常のFTAに追加しました。
       
       「判定欄」「判定根拠」「現状対策」そして「追加の対策」欄を設けました。参考図では薄い黄色のハイライトが△、濃い黄色のハイライトが○の評価で追加の対策を記述しています。その他は評価×で対策が機能していることを表しています。これはトラブル事例集として形式知化し、関連部門と共有化することが目的の一つです。さらに、「全体俯瞰型FTA」は顧客に不具合の原因と対策を説得力のある資料として提供できるメリットがあります。
       

      3. データベース構築の主体は「使う人」

       
       信頼性設計データベース「FMEA」「FTA」のデータベース化の方法論について次の2つの目標を提案しました。
       
      (1) 「データベースの共有化」
      (2) 「設計業務の効率化」
       
       「FMEA」「FTA」は顧客から要求されるから作成するという受動的な場面が見受けられます。最終目的は、設計のQualityとEfficiencyを向上させロバストな設計を実現することにあります。最後にこれらのデータベース構築の主体は「使う人」です。第三者に任せると「死んだシステム」になり易いものです。使い勝手の良いシステムを指向してください。 
                                             

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      この記事の著者

      森本 幹夫

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