第4次産業革命とデザイン:二つのシンポジウムから

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 2017年3月9日、11日と連続して、「第4次産業革命とデザイン」をテーマにしたシンポジウムが東大と早稲田で開催されました。二つのシンポジウムの概要を解説します。
 
 知的財産マネジメント
 

1. 3月9日「第4次産業革命クリエイティブ研究会」調査報告会(経産省)

 

(1) 研究会の趣旨説明・成果報告:西垣淳子 氏(経産省 クリエイティブ産業課 課長)

 
 研究会では「デザイン」を広義に捉えて「経営手法」までも含むものとして研究した、として研究会のまとめが報告されました。興味深い言葉が「アンラーニング」でした。「アンラーニング」とは、イノベーションを阻害する、時代遅れになった知識や価値観を捨てることであり、これの必要性が語られていました。なお、研究会の報告書が以下のサイトに掲載されています。
 

(2) クリエイティビティを担う産業人材育成の取り組み ①:山中俊治 東大教授

 
 資料がないので、山中教授のサイトからエッセンスを探してみました。「プロトタイピングは、技術がもたらすものへの予感を形にするための思考プロセスであり、その有効性を検証するための実験試作でもありますが、一方で広く社会に対して技術の価値を表明するショーピースの役割も果たします。よくデザインされたプロトタイプは、技術者の夢を生活者の幸福へとつなぐフィジカルコンテンツなのです。
 
 この研究室では、ロボティクスや宇宙機などの先端技術故にデザインの手法が確立していない領域、先端製造技術がもたらす新しいものづくり、あるいは人の身体と人工物がこれまでになく密接に関わっている医療分野へのデザインの導入を試み、プロトタイプを制作し、未来の人工物のありかたを研究しています。同時にこうしたプロジェクトを通じて、技術知識と美的感覚を併せ持つ新しいタイプのデザインエンジニアを育てたいと考えています。
 
 私たちが目指すものは、深い基礎研究領域でのプロトタイピングと、先端技術を社会化へと導くデザインを実践し、多くの研究者や企業と連携して未来を開く研究拠点です。」(出典:中山教授のサイト http://www.design-lab.iis.u-tokyo.ac.jp/about.php )
 

(3) クリエイティビティを担う産業人材育成の取り組み②:白坂成功 慶大准教授

 
 同じく、慶大のサイトからエッセンスを探してみました。「マネジメントデザインセンターは、昨年10月に発足したばかりのSDM研究所で最も新しい研究センターです。慶應SDMのコア科目となっている「プロジェクトマネジメント」の考え方をベースとして、企 業経営や技術開発、社会、環境、政策等の様々なシステムのマネジメントに関する教育・研究を行う拠点として設立されました。
 
 システムデザインメソドロジーラボは、適用分野にかかわらず、広くシステムデザインマネジメントにかかわる方法論を研究するラボです。対象を俯瞰的に見て、システムとして捉えるためにシステムエンジニアリングにもとづくシステム思考の方法論や手法を研究する人、デザイン思考に代表されるイノベーティブデザインに関する方法論や手法を研究する人及びプログラム・ポートフォリオマネジメントに代表されるマネジメントの方法論や手法を研究する人達が集まっています。
 
 システム思考の方法論では、人 工衛星やITシステム、スマートグリッドなどのシステム開発方法論やシステムのアシュアランス方法論など、適用分野によらない研究から、適用分野に固有の開発論まで専門家をまじえておこなわれています。これには、Systems of SystemsやEnterprise Systems Engineeringなど、システムエンジニアリング分野における最新の研 究も含まれており、アーキテクチャフレームワークや、メタ思考を活用したメタプロセス研究などもこの分野に含まれる研 究となります。また、イノベーティブなデザインをおこなうために“システムxデザイン”思考に基づく方法論や手法などの研究をおこなっており、サービス開発、地域活性化や街づくりなどに広く適用をおこなっています。
 
 そして、マネジメントの方法論では、組 織のポートフォリオからプログラムのマネジメントを効率的におこなうための方法論の研究など、PMBOKをこえたマネジメントの研究や、知財・技術マネジメントとしての標準化戦略についての研究も含まれています。」(出典: http://www.sdm.keio.ac.jp/pdf/labs/SDM_News_201304_p4.pdf)
 

(4) パネルディスカッション:「製造業企業でのクリエイティブに関する取組」

 
・柴田尚希 氏(三菱重工業(株) 先進デザイングループ長)
・浜野廣一 氏((株)浜野製作所 社長)墨田区の企業
・山内文子 氏(ソニー(株)クリエイティブセンター 統括部長)
・鷲田祐二 一橋大教授(モデレーター)
 
 たっぷり1時間半の時間があったのですが、書くような発言はありません。人工知能が活用されるときに「デザイン」はどうなるのか、デザイナーは何をしたらいいのかを考える場であったはずですが、柴田氏、山内氏、共にこのテーマに沿った発言はありません。すごく寂しく感じました。浜野氏は、墨田区の中小企業の社長。この方だけが、人工知能までは行きませんが、「色や形」だけでなく「経営とデザイン」を考えた発言をされていました。
 

2. 3月11日「デザイン保護制度の現状と第4次産業革命の影響」(早稲田大学)

 
 前半で、Sarsh Buratein オクラホマ大准教授による米国でのデザイン保護の枠組みの解説がありましたが割愛し、パネルディスカッションでのプレゼンから解説します。
 

(1) 森山明子 武蔵美教授

 
 審査官から「日経デザイン」「武蔵美教授」となった経歴に沿って、日本のデザインの流れ、問題点を概括的に指摘された。印象に残った話は、デザインコンペのあり方への苦言。「応募作品の著作権はすべて主催者に帰属する」ということや、採用作品の極安な対価など。そして、オリンピックのエンブレム問題以降増加している、「著作権・商標権を侵害しないことを保証せよ」という要求。このようなことが、デザイン環境を悪化させていると解説された。
 

(2) 藤ヶ谷友輔 氏(三菱電機デザイナー。個人でも活動・「加湿器」の開発者)

 
・インハウスとフリーランスの違い
・開発の仕方
  インハウスは、過去の流れの中での開発
  フリーランスは、「新しい提案」「独...
 2017年3月9日、11日と連続して、「第4次産業革命とデザイン」をテーマにしたシンポジウムが東大と早稲田で開催されました。二つのシンポジウムの概要を解説します。
 
 知的財産マネジメント
 

1. 3月9日「第4次産業革命クリエイティブ研究会」調査報告会(経産省)

 

(1) 研究会の趣旨説明・成果報告:西垣淳子 氏(経産省 クリエイティブ産業課 課長)

 
 研究会では「デザイン」を広義に捉えて「経営手法」までも含むものとして研究した、として研究会のまとめが報告されました。興味深い言葉が「アンラーニング」でした。「アンラーニング」とは、イノベーションを阻害する、時代遅れになった知識や価値観を捨てることであり、これの必要性が語られていました。なお、研究会の報告書が以下のサイトに掲載されています。
 

(2) クリエイティビティを担う産業人材育成の取り組み ①:山中俊治 東大教授

 
 資料がないので、山中教授のサイトからエッセンスを探してみました。「プロトタイピングは、技術がもたらすものへの予感を形にするための思考プロセスであり、その有効性を検証するための実験試作でもありますが、一方で広く社会に対して技術の価値を表明するショーピースの役割も果たします。よくデザインされたプロトタイプは、技術者の夢を生活者の幸福へとつなぐフィジカルコンテンツなのです。
 
 この研究室では、ロボティクスや宇宙機などの先端技術故にデザインの手法が確立していない領域、先端製造技術がもたらす新しいものづくり、あるいは人の身体と人工物がこれまでになく密接に関わっている医療分野へのデザインの導入を試み、プロトタイプを制作し、未来の人工物のありかたを研究しています。同時にこうしたプロジェクトを通じて、技術知識と美的感覚を併せ持つ新しいタイプのデザインエンジニアを育てたいと考えています。
 
 私たちが目指すものは、深い基礎研究領域でのプロトタイピングと、先端技術を社会化へと導くデザインを実践し、多くの研究者や企業と連携して未来を開く研究拠点です。」(出典:中山教授のサイト http://www.design-lab.iis.u-tokyo.ac.jp/about.php )
 

(3) クリエイティビティを担う産業人材育成の取り組み②:白坂成功 慶大准教授

 
 同じく、慶大のサイトからエッセンスを探してみました。「マネジメントデザインセンターは、昨年10月に発足したばかりのSDM研究所で最も新しい研究センターです。慶應SDMのコア科目となっている「プロジェクトマネジメント」の考え方をベースとして、企 業経営や技術開発、社会、環境、政策等の様々なシステムのマネジメントに関する教育・研究を行う拠点として設立されました。
 
 システムデザインメソドロジーラボは、適用分野にかかわらず、広くシステムデザインマネジメントにかかわる方法論を研究するラボです。対象を俯瞰的に見て、システムとして捉えるためにシステムエンジニアリングにもとづくシステム思考の方法論や手法を研究する人、デザイン思考に代表されるイノベーティブデザインに関する方法論や手法を研究する人及びプログラム・ポートフォリオマネジメントに代表されるマネジメントの方法論や手法を研究する人達が集まっています。
 
 システム思考の方法論では、人 工衛星やITシステム、スマートグリッドなどのシステム開発方法論やシステムのアシュアランス方法論など、適用分野によらない研究から、適用分野に固有の開発論まで専門家をまじえておこなわれています。これには、Systems of SystemsやEnterprise Systems Engineeringなど、システムエンジニアリング分野における最新の研 究も含まれており、アーキテクチャフレームワークや、メタ思考を活用したメタプロセス研究などもこの分野に含まれる研 究となります。また、イノベーティブなデザインをおこなうために“システムxデザイン”思考に基づく方法論や手法などの研究をおこなっており、サービス開発、地域活性化や街づくりなどに広く適用をおこなっています。
 
 そして、マネジメントの方法論では、組 織のポートフォリオからプログラムのマネジメントを効率的におこなうための方法論の研究など、PMBOKをこえたマネジメントの研究や、知財・技術マネジメントとしての標準化戦略についての研究も含まれています。」(出典: http://www.sdm.keio.ac.jp/pdf/labs/SDM_News_201304_p4.pdf)
 

(4) パネルディスカッション:「製造業企業でのクリエイティブに関する取組」

 
・柴田尚希 氏(三菱重工業(株) 先進デザイングループ長)
・浜野廣一 氏((株)浜野製作所 社長)墨田区の企業
・山内文子 氏(ソニー(株)クリエイティブセンター 統括部長)
・鷲田祐二 一橋大教授(モデレーター)
 
 たっぷり1時間半の時間があったのですが、書くような発言はありません。人工知能が活用されるときに「デザイン」はどうなるのか、デザイナーは何をしたらいいのかを考える場であったはずですが、柴田氏、山内氏、共にこのテーマに沿った発言はありません。すごく寂しく感じました。浜野氏は、墨田区の中小企業の社長。この方だけが、人工知能までは行きませんが、「色や形」だけでなく「経営とデザイン」を考えた発言をされていました。
 

2. 3月11日「デザイン保護制度の現状と第4次産業革命の影響」(早稲田大学)

 
 前半で、Sarsh Buratein オクラホマ大准教授による米国でのデザイン保護の枠組みの解説がありましたが割愛し、パネルディスカッションでのプレゼンから解説します。
 

(1) 森山明子 武蔵美教授

 
 審査官から「日経デザイン」「武蔵美教授」となった経歴に沿って、日本のデザインの流れ、問題点を概括的に指摘された。印象に残った話は、デザインコンペのあり方への苦言。「応募作品の著作権はすべて主催者に帰属する」ということや、採用作品の極安な対価など。そして、オリンピックのエンブレム問題以降増加している、「著作権・商標権を侵害しないことを保証せよ」という要求。このようなことが、デザイン環境を悪化させていると解説された。
 

(2) 藤ヶ谷友輔 氏(三菱電機デザイナー。個人でも活動・「加湿器」の開発者)

 
・インハウスとフリーランスの違い
・開発の仕方
  インハウスは、過去の流れの中での開発
  フリーランスは、「新しい提案」「独創性」が命
・意匠登録の目的
  インハウス(企業)は他社権利との抵触がないことの確認
  フリーランスは、模倣排除
・フリーランスの場合
  試作にお金がかかり、意匠出願まで回らない
 

(3) 縣 康明 氏(ソニー(株)知的財産センター 課長)

 
 印象に残った話
 
・AIについて
・AIはそこそこのデザインをできるレベルになっているのではないか。
・既存の手法が新しい手法に取って代わられるのは「気づかないうち」。
 例えば、初期のデジタルカメラを皆が馬鹿にしていたが、気づかないうちにフィルムカメラの代替品になっていた。
・AIと競争するのではなく、異なる開発軸を見つけることが重要。
・デザインの場合は「モノ」軸から「コト」軸への転換であろう。「モノ」から「コト」へ
・モノのデザインからコトのデザインに移行したが、「コト」を直接保護することができない。
・コトをモノへ変換するプロセスに創作があり、これを保護する手法を探っている。
・コトが新しければ、そためのモノも新しい場合が多いが、モノが新しいことは必須ではないだろう。例えば、初代のウオークマンは既存のテープレコーダーの形を流用している。
 
 知財の方が、ここまでデザインを考えていることに感銘を受けました。
  

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この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

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