デザインによる知的資産経営:「知的資産」の保護(その2)

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 知的資産今回は、特許権等の「産業財産権」としては保護されない「知的資産」をどのように守ったらいいのかについて、不正競争防止法による保護を中心として、連載で具体的に解説します。
 

3.不正競争防止法による「知的資産」の保護

 
 不正競争防止法では、「営業秘密」を保護しています。自社の営業秘密を不正に取得されることにより「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」と規定しています(不正競争防止法3条1項)
 
 これを分かりやすくいうと、不正競争防止法で保護される他人の営業秘密を盗んではいけない、他人の営業秘密を使った製品を製造してはいけないということです。不正競争防止法2条6項では、法律で保護する「営業秘密」を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。そして、法律で保護されるための要点は3つです。
 
   ① 秘密管理性  :秘密として管理されていること
   ② 有用性        :事業活動に有用な情報であること
   ③ 非公知性     :公然と知られていないこと
 
 ただしその前に、「何が秘密なのか」ということが明確でない限り保護はされません。この点について、裁判所では「秘密管理性」に含めて捉えています。なお、前記①~③のうち、企業で管理できるのは①です。企業で「役に立つ」と考えているから秘密にしているのですから、その企業にとっては「有用性」があるのであり、公然と知られているかどうかについて、いちいち企業が調べる必要はありません。企業は、秘密としてしっかり管理する。あとの要件は裁判所の判断に委ねるしかありません。
 
 以下、裁判所で秘密管理性が認められるための方策を示します。一つ目は秘密情報が特定されていること、二つ目は秘密情報として管理されていることです。
 

(1)秘密情報の特定

 
 「他人が自分の秘密を使った商品を販売している、やめさせたい」というとき、まずは「自分の秘密が何なのか」ということを裁判所に示さなければなりません。そうでなければ、裁判所は「自分の秘密」が使われているかどうかを判断できないからです。ですから、「自分の秘密はこういうものなのだ」ということを文字や図で記し、裁判所に提出できるようにしておかなければなりません。「秘密は自分の頭にある」ということではダメです。必要なのは「書面」です。先日、沖縄のガラス工房で、知財の保護についてアドバイスする機会がありました。そこでは、秘密にしたい作業を行っている部屋は出入り禁止としていました。そうすることで、本人は「秘密として管理している」と考えていたようです。
 
 しかし、秘密は頭の中にあるのみで、書面はありません。書面がないということは、何が秘密なのかは特定されていないということです。裁判所に「これが私の秘密です」と示すことができないからです。
 
 出入り禁止の部屋での作業でも、「普通の作業」と「秘密の作業」があるでしょう。どの作業が「秘密」なのか、その作業はどういうものなのかをはっきりさせないと裁判所は保護してくれません。だから...
 知的資産今回は、特許権等の「産業財産権」としては保護されない「知的資産」をどのように守ったらいいのかについて、不正競争防止法による保護を中心として、連載で具体的に解説します。
 

3.不正競争防止法による「知的資産」の保護

 
 不正競争防止法では、「営業秘密」を保護しています。自社の営業秘密を不正に取得されることにより「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」と規定しています(不正競争防止法3条1項)
 
 これを分かりやすくいうと、不正競争防止法で保護される他人の営業秘密を盗んではいけない、他人の営業秘密を使った製品を製造してはいけないということです。不正競争防止法2条6項では、法律で保護する「営業秘密」を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。そして、法律で保護されるための要点は3つです。
 
   ① 秘密管理性  :秘密として管理されていること
   ② 有用性        :事業活動に有用な情報であること
   ③ 非公知性     :公然と知られていないこと
 
 ただしその前に、「何が秘密なのか」ということが明確でない限り保護はされません。この点について、裁判所では「秘密管理性」に含めて捉えています。なお、前記①~③のうち、企業で管理できるのは①です。企業で「役に立つ」と考えているから秘密にしているのですから、その企業にとっては「有用性」があるのであり、公然と知られているかどうかについて、いちいち企業が調べる必要はありません。企業は、秘密としてしっかり管理する。あとの要件は裁判所の判断に委ねるしかありません。
 
 以下、裁判所で秘密管理性が認められるための方策を示します。一つ目は秘密情報が特定されていること、二つ目は秘密情報として管理されていることです。
 

(1)秘密情報の特定

 
 「他人が自分の秘密を使った商品を販売している、やめさせたい」というとき、まずは「自分の秘密が何なのか」ということを裁判所に示さなければなりません。そうでなければ、裁判所は「自分の秘密」が使われているかどうかを判断できないからです。ですから、「自分の秘密はこういうものなのだ」ということを文字や図で記し、裁判所に提出できるようにしておかなければなりません。「秘密は自分の頭にある」ということではダメです。必要なのは「書面」です。先日、沖縄のガラス工房で、知財の保護についてアドバイスする機会がありました。そこでは、秘密にしたい作業を行っている部屋は出入り禁止としていました。そうすることで、本人は「秘密として管理している」と考えていたようです。
 
 しかし、秘密は頭の中にあるのみで、書面はありません。書面がないということは、何が秘密なのかは特定されていないということです。裁判所に「これが私の秘密です」と示すことができないからです。
 
 出入り禁止の部屋での作業でも、「普通の作業」と「秘密の作業」があるでしょう。どの作業が「秘密」なのか、その作業はどういうものなのかをはっきりさせないと裁判所は保護してくれません。だからこそ、「秘密」の中身を文字や図で示しておく必要があるのです。もちろん秘密を記した書面は「秘密」として管理しなければいけません。
 
 また、どの情報が秘密なのかが明確でなければなりません。情報が記載された書面を見た人が、「近寄ってはいけない情報だ」ということを理解できることが必要です。一般には「?」「秘密」「機密」などと表示します。
 
 次回、その3は、(2)秘密として管理から解説します。
 
 

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この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

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